魔界帰りの劣等能力者

たすろう

機関の決断


「ま、まさか、そんなことが……アレッサンドロ・ディ・カリオストロ伯爵、本当に同一人物なの……?」

 日紗枝は祐人の発した思いもよらぬ人物の名前に愕然としながらも、まだその情報の真偽を疑っている。

「はい……これが事実ならば、スルトの剣に並ぶほどの危険な人物です。ですがまさか、生存しているとは考えづらいです」

 志摩も今はまだ完全には信じられない、といった様子で日紗枝の言葉に応じた。瑞穂とマリオンは日紗枝たちが見せている深刻さに、まだピンと来ていないところがあったが、スルトの剣の名前を聞いて表情を引き締めた。
 特にマリオンはその人物に狙われている当事者として、色々と聞きたい衝動が起きる。

「あの……大峰様。そのカリオストロ伯爵は……まさか近世フランスでの“首飾り事件”の人物ですか? あのマリー・アントワネット王妃を巻き込んだ詐欺事件の」

 マリオンの問いに日紗枝と志摩は一瞬だけ目を合わせ、日紗枝が頷くと志摩は神妙な顔で前を向いた。

「……そうです。本物かは別にして、その人物のことで間違いありません」

「そんな! 200年以上前の人物が!?」

 そのやりとりに瑞穂も明良も目を大きく開け、祐人は左肩を撫でた。
 志摩はマリオンたちを見回し……口を開く。

「これは、機関の持つ機密情報です。機関の直属となったものだけに開示される情報……というより教育と知識といったものですね。スルトの剣を知っているマリオンさんたちは機関にも色々と敵が多いのは知っていると思います。その中には無視できない力と思想を持った機関未所属の能力者がいることも……」

「……」

「カリオストロなる人物はその危険な思想を持った能力者のリストの中に入っている人物です。とはいえ、既に死んでいるものとして、その情報の重要度はだいぶ下がってはいましたが」

「能力者……ですか!? 歴史ではただの山師として伝えられていますが……」

「機関にある情報だと、このカリオストロなる人物は降霊術と称して、かなり危険な術を開発していたと言われているの。それで数多くの人たちを巻き込んだと言われている」

 マリオンたちはその志摩の話に耳を傾ける。
 その横で危険な術と聞き、祐人の目が鋭くなった。

「危険な術とはどういったものだったんですか?」

 瑞穂が質問すると、日紗枝が答える。

「実は厳密には分かっていないんだけど……どうやら降霊ではなくて、人ならざるものを呼び込んでいたとされているわ」

「それは……召喚術の類ということですか? しかも、数多くの人たちを巻き込んだというのは……」

「どうやらそれとも違うらしいの。記述によると人外の存在を公にするものだった……一般生活に人外をなじませて、人外との共存を目的とした術だったとされているわ。数多くの人たちを巻き込んだというのは、その術の一端を見せて、そうね、当時の人たちを驚かせて宗教のようなものに発展していきそうな勢いになったらしいのよ」

「……共存? それはどういう……意味なのでしょうか? 一体、どんな種類の能力者なのか……」

 マリオンが形の良い眉を寄せた。

「分からないわ。召喚術なら常に霊力、魔力といった代償が必要となる。その意味で永久的に人外を存在させることはできないし……契約を結んだ人外を見せたということも考えられるけど、それでも契約者から離れて一般市民との生活になじませるというのは……無理がありすぎて、どちらも、共存とは結びつかない」

「……」

 終始、祐人は目を細めながら黙って聞いている。

(共存……)

「ただ、どんな能力者か? といえば記述はあったわ。どうやらカリオストロは錬金術師だったみたいね。そして、その愛人のロレンツァと呼ばれる女性は呪術師と……言われているわ」

「呪術師!? それじゃあ……今回の呪詛も」

「繋がってきそうなところだけど、断定するには情報が足らないわ。先ほどマリオンさんも触れたけど、この話は200年以上も前の話よ、普通に考えて生きているわけがないわ。そういうことから、この情報の秘匿性も落ちてきたのよ。ただ……」

 日紗枝は志摩と視線を交わして、瑞穂、マリオン、そして祐人に目をやる。

「……スルトの剣のこともある。どういうわけかスルトの剣の首領だったロキアルム、その弟子だったニーズベックは100年以上、その能力を保持したまま存在していた」

「……!」

 瑞穂とマリオンが顔を強張らせる。ミレマーでの大敵、スルトの剣の実力は自分たちを苦戦に追い込んだ連中なのだ。祐人が応援に来てから事態は変わったが、もし祐人が派遣されず、それ以外の能力者が派遣されてきたとすれば、今、自分たちはここにいなかったかもしれない。

「それは機関でも知らない秘術が存在する可能性があるわ。もし、それをこのカリオストロという男も身につけているのならば……」

 祐人は無言でその話を聞いていた。そして、ミレマーで撃退したロキアルム、ミズガルドのことをその脳裏に浮かべた。

(あれは……体に妖魔の血肉を取り込んでいた。あの術は……魔界で何度か見たことがある。各地に存在した魔神たちが人間を使役するときに使っていた術だ。仕組みは分からないけど、魔界で数度経験していたから、あのロキアルムとの戦いでは疑問に思わなかった。でもスルトの剣は誰かに使役されているようではなかった。いや、問題はそこじゃない。それを……大峰さんほどの機関の幹部が秘術と呼ぶ。ということは、その術の存在をこちらの世界ではあまり知られていない?)

 祐人はそこまで考えると……ある可能性が頭を過ぎり、危険な予感が全身を覆いだした。

(……その術を伝授された能力者がいるのか? こちらで解明されていないその術を。だとすれば、一体、何者に? まさか! 魔界と通じる者が……)

 祐人の目が険しくなる。
 その祐人の変化を瑞穂とマリオンは気づいた。そして、二人は不安げな表情をみせるが瑞穂はすぐに引っ込め、マリオンは不安そうな顔を隠せないまま祐人を見つめている。
 その二人の反応から日紗枝も志摩も祐人に目を移した。
 祐人はその視線に気づき、慌てて険しい目を解く。

「あ、大峰さん、それでカリオストロはその後、どうなったのですか?」

「機関に伝わる話では殺されたわ」

「……」

「表に伝わっているものでは獄中で死んだことになっているけど……事実はフランス王室に従う能力者にね。それが……」

 日紗枝はマリオンを見ると、マリオンはその日紗枝に視線を訝しげに見つめ返した。

「王家の暗部を支えた能力者家系……オルレアン家にね。表と区別するために裏オルレアンとも呼ばれているわ」

 マリオンは思いがけない自分の血筋にも関係する家の名前が出て驚く。

「この情報もすべて裏オルレアン家からのものよ。当時、カリオストロを危険視した裏オルレアンからの提案で、フランス王室はカリオストロが何も関係のない首飾り事件に巻き込み、その名声をまず失墜させた。そうすることで、カリオストロの術がすべて嘘っぱちと広めたのよ。その上で裏オルレアンの能力者が彼を……」

「抹殺したと……」

 祐人がそう言うと、日紗枝は首を振った。

「実はこの話には続きがあってね。殺したと言うのなら、カリオストロを裏オルレアン家からの情報提供で機関の危険人物指定の秘匿情報に入れないはずよ。そう考えると……追い込んだのは事実だろうけど、カリオストロの死は完全に確認されなかったのだろうと想定されているわ。実際、現在の裏オルレアンも同じことを言っている。ただ、既にそれは200年以上前の話。だから、その名前が堂杜君の口から出て、私たちも驚いたのよ」

「……」

「しかも……オルレアンの血に連なるマリオンさんを狙うことといい、呪詛といい、状況は確かに繋がってきている。そして、スルトの剣の例から考えて、正直、否定しきれないのが気味の悪い話だわ」

 日紗枝は事態の整理をするように顎に手を添える。

「ただ、何度も言うようだけど、スルトの剣が100年もの間、生きのびたとしても、今回はその2倍以上の年月よ。今は偽情報か……またはカリオストロを騙る何者か、そう考える方が現実的でしょう」

「……」

 祐人はむしろ日紗枝のこの話でこの敵がカリオストロ本人であると考えた。いや、本人を見たことがあるガストンが言ってきたのだ、間違いはない。
 そして……ガストンの推論したその狙いも、今の話で確実性が増した。マリオンを拉致しなければならないということについてはまだ分からないが。

「こちらでもできるだけ調査はするわ。何はともあれ、闇夜之豹が無茶苦茶してきたのは揺るぎのない事実……闇夜之豹へのきついお灸をすえなければ、気が済まないわ。だからマリオンさん、安心して、あなたには何もさせないから」

「……はい、ありがとうございます」

「もちろんよ! マリオンに手を出そうなんて絶対に許さないわ!」

 瑞穂の力強い言葉にマリオンは微笑を見せた。その様子を見て日紗枝も頬を緩める。

「あ、大事なことを聞くのを忘れていたわ。瑞穂ちゃん」

「何ですか?」

「今回の襲撃メンバーに特殊な能力者はいなかった?」

 日紗枝の質問に明良も含め、瑞穂とマリオンが真剣な表情になった。何故なら、そのメンバーに特殊どころか、超級の能力者がいたのだ。
 死鳥と呼ばれ、能力者の家系でも名門の黄家の前当主に土をつけ、若き日の【天衣無縫】、現在の機関の定める最高ランクであるランクSSの王俊豪に手傷を負わせたほどの能力者が。

「と、特殊とは?」

 嘘が下手な瑞穂はちょっとだけ引き攣った声で応じる。

「前にも言ったけど、仙道使い……と思しき能力者よ」

「え!? ど、どうだったかしら……マリオン!」

「はい!? ちょっと、分からないです。私も仙道使いは見たことがないので。でも、何故ですか? 大峰様」

「今回、捕らえた闇夜之豹の能力者たちからも、認識票が出てきたのよ。しかも、今回は死にはしなかったわ。突然、口から吐き出したとの報告を受けたのよ。まだ、意識が完全にははっきりしていないようだから、尋問は後でするけど」

 それは、祐人が戦意喪失している闇夜之豹の能力者たちに仙氣を当てて気絶させたのだ。しかも以前に瑞穂から聞いた話で、仙氣によって認識票に込められた術式が壊れ、体外に出てきたのではないか、ということから、体中に伝わるように強烈な氣をお見舞いしている。
 祐人は考えるような顔をすると、口を開いた。

「仙道使いか分かりませんが、敵の中に近接戦闘に特化された能力者がいました。そいつが僕と戦った奴です。僕も体術には自信があったのですが、かなり手ごわいやつで……倒しきることはできませんでした」

「「!」」

 必死に祐人のために隠そうとしていたことを、祐人本人が語りだしたことに、瑞穂とマリオンは驚く。
 明良は一瞬だけ目を大きくしたが冷静に祐人の言うことに耳を傾けた。

「堂杜君……その話を詳しく教えてくれる?」

 日紗枝と志摩は祐人に注目する。

「はい、そいつの身のこなしはただものではなかったです。そういえば……霊力や魔力を感じませんでした。もし、仙道使いがいるのだとするなら、そいつではないかと」

 志摩は日紗枝の横から目立たぬようにしながらも、祐人の表情を値踏みするように観察している。

「ふむ……あり得るわね。確か、堂杜君の体術はA判定。単純な近接戦闘型の能力者相手だったら相当な奴とも渡り合っていけるわ……」

 そこに明良が口をはさんだ。

「私も見ていましたが、ほぼ堂杜君と互角といったように見受けられました。なるほど、堂杜君は体術がA判定でしたか。道理でランクDとは思えない戦いぶりでした。いやー、堂杜君がいてくれて本当に助かった。恐らくですが、マリオンさんを拉致するのに精霊使いである私たちがいては、難しいと敵も考えたのでしょう。それで、精霊使いの苦手な近接戦闘型の能力者を連れてきたのではないでしょうか?」

 日紗枝と志摩も明良の言うことは理にかなっていると考え、頷く。

「今、思えば、テレポーターを配置してきたこともそれが理由でしょう。堂杜君が相手をしてくれたその能力者を、タイミングを見計らいながら、私たちの至近にテレポートさせるための……。そう考えれば、精霊使いの懐に入るための作戦として悪くない発想です」

 明良の推測を含めたこの分析は当たらずとも遠からずのものだった。事実、百眼はそのテレポーター同士、呼気使いの能力者とテレポーターとの連携を作戦として組み込んでいた。だが、この話には決定的かつ意図的な見逃しがある。
 それは、死鳥の二つ名を持つ仙道使い燕止水の実力……ひいては堂杜祐人の実力だ。
 祐人は明良の方向を見ると僅かに頬を緩め、すぐに戻した。

「そこに近接戦闘特化と言っていい能力の僕と正面からかち合ったことで、その作戦は偶然、封じられてしまったということですか……。僕はランクDなので、その場にいたところでたいした影響はないと思われていたんでしょうね。そういえば敵はとても焦っていたようにも見えました。それが原因かもしれません」

 日紗枝は納得するように大きく頷いた。

「霊力、魔力もない……そいつが仙道使いの可能性が高いわね」

 日紗枝は志摩に視線を移すと、再び祐人に視線を戻した。

「でもそうなると、何故、仙道使いが敵と一緒に戦っているのかが疑問なのよ。何故なら、あの闇夜之豹の認識票は仙氣によってその効力を乱されて、その姿を現した可能性が高い。ということは、もしそれを狙って仙氣を闇夜之豹所属の能力者に与えたということはやっていることと矛盾する。これは明らかに闇夜之豹への背信行為よ。証拠を残させて機関とのいらぬ争いを招くことになるのは確実なのだから」

「それは日紗枝さんの言う通りだと思います。僕もそこが引っかかっていました。それで、あの時、僕はそいつに、何故、認識票を残すような真似をしたのか、とかまをかけました。ひょっとしたら、可能性は相当低いですが他に違う目的を持った仙道使い……つまり、今回の騒動を利用して機関と中国を敵対させる仙道使いがいるのかと思ったからです」

「それで……どうだったの?」

「あいつは……それを否定はせず笑みを見せ、ただマリオンさんの拉致を依頼されただけ、と言っていました。正直、何を考えて笑ったのかは分かりません。これは……僕の私見ですが、あいつが認識票をさらさせたのは間違いないと思います。そして、何か……この仙道使いには闇夜之豹とは違う独自の考えと目的……それと理由があるように思えます」

 このように言いつつも祐人は、止水の置かれている状況は知っている。ガストンからの報告では止水が身を寄せた家の子供たちが人質にされているということを。だが、その情報の出所は伝えることはできない。そのため、慎重に話を誘導していた。
 日紗枝は足を組み、志摩は思案するように顎に手を添える。

「志摩ちゃん、どう思う?」

「正直、これでは何とも……。ただ、仙人や道士は、浮世に興味のない連中と言われています。そして享楽的で、何ものにも囚われず、自由気ままな存在と……。そのような者たちが闇夜之豹の依頼に乗るというのは考えにくいです。その意味では堂杜君の話も分かります。といっても結局、何を考えているのかは分からないままですが……」

「ふむ……」

 日紗枝もこの祐人の話で何かを推論するのは難しい。だが、日紗枝は考えをまとめるように今の状況とそれぞれから出た話から、なんかしらの決断を出そうとしていた。

「大峰さん、ちょっと僕から提案してもいいですか?」

「うん? 何? いいわよ、堂杜君」

「今、機関としてしなくてはならないことは2つあると思います。まずはマリオンさんを狙ったと思われる襲撃犯を撃退すること。もう一つは呪詛の対処です。どちらも中国がこれを仕掛けてきていることも分かっていますから、これに対し機関が厳しい対応を見せることが必要です。この対応如何で他の組織や能力者たちの機関に対する見る目も変わります。甘い対応では機関の威信にかかわります」

 日紗枝は頷く。内容としては先ほど自分が言っていることと変わらない。元々、そうするつもりでいたのだ。

「そこでなんですが……偶然にもこの二つの事件に関わっている人たちがいます」

「……うん?」

 日紗枝と志摩は眉を顰める。
 祐人の言葉にハッとしたように瑞穂とマリオンは祐人に顔を向けた。

「それは……言わずと知れた僕たちです。そして、僕たち全員は機関に所属している能力者でもあり、しかも瑞穂さんとマリオンさんは若くしてランクAを取得している機関の将来のエースともいえます」

「堂杜君……何が言いたいの?」

「今回の件ですが、中国……いえ、闇夜之豹への報復については、僕たちに任せていただけないでしょうか?」

「え!」

「いえ、初手だけでも構いません。もし、僕らの手に余るようでしたらすぐに応援を頼みます」

「堂杜君、瑞穂ちゃんから話を聞いているし、あなたたちの気持ちは分かるけど、それは頷けないわ。確かに呪詛の件については依頼を出すつもりでいたわ。でも今回の襲撃の件で状況は変わったのよ。目的が定かではないのが不気味だけど、機関も全力で動くつもりなの。中途半端な対応では駄目だわ、徹底的にやったことを見せる必要があるのよ」

「はい、その通りです。徹底的にやるべきです。ですが外から見て、それが日本支部の全力をあげて報復したと思われるより、余力を残していると思わせながら報復できたとしたら……機関の底力を見せつけることができ、こちらの手札も晒さずに済みます。そして、何よりもこの方が、この事態を見ているだろう連中に対してインパクトが違います」

「……!」

 日紗枝は表情を強張らす。
 祐人の言うことはそうだろうが、瑞穂たちだけでそんなことが出来るとは思えない。それに、やるとなれば全力でいくべきである。戦力の逐次投入は愚策とも言えるのだ。

「それはその通りだけど、失敗したり、あなたたちに何かがあっては意味ないわ。堂杜君、闇夜之豹をそこまで甘く見ない方がいいわよ? 闇夜之豹は大国に所属する優秀な能力者部隊なの。瑞穂ちゃんたちの実力は知っているけど、若いあなたたちだけでどうにかなると思わない方がいいわ」

 日紗枝の話は当然のものと言える。闇夜之豹の全容は分かっていないが、知られている所属能力者だけでも機関におけるランクBクラスの者が何人もいるのだ。
 日紗枝はさすがにこの祐人の提案を打ち切ろうとするが、祐人は諦めずに話を続ける。

「いえ、大峰さん、僕に考えがあるんです」

 日紗枝は正直、これ以上の話し合いは無駄とも思ったが、最後だけ祐人の話を聞くことにした。

「言ってごらんなさい」

「今回、闇夜之豹は認識票という決定的な証拠を残すという大ポカをしました。そして、それは仙道使いの仕業の可能性が高いことも分かっています」

「……」

「さらに今回の襲撃者の中に闇夜之豹に雇われた仙道使いがいました。先ほども話しましたが仙道使いが滅多にいないことを考えれば、こいつがその証拠を残させたと考えるのが妥当だと考えます。で、その目的なのですが、一つだけ確実なことが言えます」

 ここまで聞き流すように聞いていた日紗枝は、祐人の話に興味を持ち、目に力を入れた。

「それは?」

「大峰さんも触れていましたが機関と闇夜之豹の戦争です。これは間違いないでしょう。では、何故か? ここが問題です」

「……あなたはどう考えているの?」

「僕の考えは、この仙道使いは意に反して無理やり闇夜之豹に雇われるのではないか? というものです。恐らくですが、この仙道使いは機関に闇夜之豹を潰してもらいたいと思っているのではないでしょうか。自分は闇夜之豹に従わざるを得ない、逆らうのも難しい。であるならば、強敵である機関を動かし、闇夜之豹にぶつける。そのための、機関が動かざるを得ない理由づくりをしていたんだと思えば、今回の認識票の件は説明がつきます」

「……」

「まだ、奴らは日本にいるはずです。僕はまずあの仙道使いを調べて、何故、闇夜之豹に従っているのかが分かれば、味方に引き込むことも可能です。いえ、それが無理でも敵の戦力を大幅に割くことが出来ます。これが上手くいけば、僕たちだけでも戦い方で闇夜之豹に対抗できるはずです」

 日紗枝は祐人の話を聞き終えると祐人の顔を見つめた。祐人の話は聞くべき点はある。だが、それで祐人たちが闇夜之豹を撃退できるとは限らない。
 さらに言えば、祐人の話はストーリーとしては上手くできている。だが、出来すぎているのだ。少々、断定気味に話をしているのが日紗枝には分かった。
 では、それは若い少年にありがちな思い込みから来るのか? それも日紗枝には違うように感じた。この少年はそんな自分の妄想に酔うタイプでもないだろう。
 日紗枝の中にある考えが浮かぶと莞爾と笑う。

(この子のその話の根拠……試してみましょうか)

「堂杜君……」

「はい」

「あなた、何か掴んでるわね? まあ、すべてではないでしょうけど、確かな情報も持っているのでしょう? それを隠そうとしていることについては、今は追及しないわ。ただ、確かな情報か、そこははっきりさせなさい。そうでなければ、あなたの提案を受け入れることはないわ」

 ギクッと祐人は日紗枝の目を見る。
 瑞穂とマリオン、そして明良も日紗枝の言うことに驚いているようだった。瑞穂たちも祐人がそのような情報を得ているとは知らない。
 祐人は必死に情報の出どころを知られないように誘導しながら話していたが、そこは経験豊かな日紗枝に見透かされ、内心、動揺しつつもどう返答しようか考える。
 ここで情報源があると無理をして話し、契約人外がいることまで勘繰られるよりも、しらを切る方がいいかと思い始めると……ある方向から凄まじいプレッシャーを感じ、慌ててそちらに目を向けた。
 するとそこには……、
 強烈な眼光を放つ瑞穂と笑顔という形を整えたマリオンがこちらに集中している。
 そして、その二人は表情だけで考えていることを祐人の脳裏に幻聴のように送り込んでくる。

“私たちにまで内緒にして何をしているの……かしら? フフフ、いい度胸ね”
“祐人さん……また、一人で何かしようとしてます……ね? フフフ”

「はう!」

 祐人は無意識に体を仰け反らした。
 二人の視線に晒された自分の体が小刻みに震えだして止まらない。

「堂杜君? どうしたの?」

「ハッ! はい! 実は僕の友人が調べてくれたんです! 燕止水は人質を取られてると!」

「は? 燕……止水? 人質?」

 数秒、時がたつと……日紗枝の横にいる志摩が、顔を強張らせ体を前のめりにする。

「止水!? 死鳥の止水ですか!? まさか!」

「あ……」

 こうして……事態は動きだした。



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