魔界帰りの劣等能力者

たすろう

闇夜之豹③


 日も暮れ辺りは既に暗くなってきた。
 祐人は女学院にあてがわれた急造の男子寮の自室で常設されているコーヒーメーカーの前に立つ。

「コーヒーいる? ここすごいんだよ、試験生のために急いで建てたというわりに、ホテルみたいで」

「いや、もう行きますんでいいですよ、旦那」

 祐人はコーヒーをどうやって入れるのか、一瞬、分からず、ジーとコーヒーメーカーを睨み、今、ここに招いた友人に顔を向けた。

「また、ごめん、変な事を頼んで……」

 ガストンは嬉しそうにニイと笑うと部屋の中に設置されていたテーブルに肘をつく。

「いいんですよ、旦那。それに実は……商品の買い入れに中国には行こうと思ってたんで、旦那の頼みはやぶさかではなかったんです。私はヨーロッパの古美術には目利きが聞くんですが、中国のは分かりません。ちょっと、自分の力を試しに行きたかったんですよ~」

「おお、それなら良かったよ! ガストンの仕事の邪魔にならないならさ」

「なに、言ってるんですか。困ったらすぐに相談してください、旦那」

「まあ、ほら、ガストンにも自分の時間があるし……そう言えば、仕事の方はどうなの?」

 祐人の問いにガストンは腕を組み、鼻から息を出した。

「ぼちぼちっていうところですかね~。力を使えば、そりゃ売れますけど、私は実力でやってみたいんですよ~」

 祐人はようやく、コーヒーを入れてガストンの前に座り、結局、ガストンにもコーヒーをいれたのでガストンの前に差し出す。祐人は座りつつ、ガストンが自分の力だけで頑張ろうとしていることに笑顔が零れる。

「まあ、始めたばかりじゃない。焦らずにやってみなよ。あ、中国でもガストンの今、持っている古美術品は売れんじゃないの?」

「あ……そうですね、うん! どうせ行くんですから、ついでにこちらからも商品を持っていって売ってくるのもいいかもしれませんね! どうやって商売していいのか、調べてみます」

 祐人は頷き、真剣な顔になる。

「ガストン、今回の相手は国家お抱えの闇夜之豹という能力者集団だから、気を付けてね。相当に危険な連中かもしれない。頼んでいる僕が言うのはなんだけど……」

「あはは、大丈夫ですよ~、旦那。だって私は、いつか旦那の役に立つかもって、“SPIRIT”にも“HALLUCINATIONS”にも、潜入したことがありますから」

「は……? なにそれ? スピリット? ハルシネイションズ?」

「あ……何でもないです」

 祐人が怪しげな目でガストンを睨むが、ガストンはあらぬ方向に目をやり、コーヒーに手をつけた。

「ガストン……お前」

 祐人が何か言いかけると、祐人の携帯が鳴る。画面には四天寺瑞穂と表示されていた。

「あ、旦那、電話ですよ。早く出ないと、相手に失礼です、はい」

 むむう、と釈然としない顔で祐人は携帯に出る。

「もしもし、瑞穂さん? うん……うん……あ、本当? 正式に機関の? それなら大見得切って動けるね! うん……分かった、今から外に出るよ」

 祐人は瑞穂から日紗枝とのやりとりの説明を聞き、大きく頷いた。瑞穂の話を聞きながら、祐人は目の前のガストンを見ると、ガストンはホッとしたような表情。

「……瑞穂さん、ちょっと話が飛んでごめん。聞きたいことがあるんだけど……うん。うんとさ、スピリットとかハルシネイションズって聞いたことがる?」

 祐人のその質問に大きく目を広げるガストン。

「……うん、ごめん。うん……うん……え? えーー!?」

 今度は祐人が大きく目を開けて、飛び上がる。

「あ、いや! 何でもないよ! うん、ごめん、今すぐに校門のところに行く。うん、分かった」

 携帯を切る祐人。かすかに額に血管が浮き出ている。

「ガ、ガストン、お前ぇぇ……また、普段から無用に危ないことをぉぉ!! って、あれ……?」

 ガストンは既にいなかった。
 祐人は飲みかけのコーヒーが置いてあるだけのガストンの席を見る。

「まぁた、逃げやがったー! 馬鹿ガストン! アメリカとイギリスの能力者組織に潜入って、何やってんだ!! 危険すぎるでしょうがぁーー!」

 この叫びを独り言にさせられた祐人はテーブルをグーで叩くのだった。



 祐人は校門の前に顔を出すと、明良の運転する高級車が門の前で止まり、後部座席から瑞穂が顔を出した。

「明良はここで待ってて」

 そう言うと瑞穂は校門を通り、守衛に挨拶すると、後門から入ってすぐのところに設置してあるベンチに腰を掛ける。祐人はその横に座り、瑞穂から改めて機関でのやり取りを聞き、眉を顰めた。

「その認識票が仙道で狂わされた?」

「ええ、そう言ってたわ。まだ原因は特定できてないようだけど」

「まあ、あり得なくはないのかな……でも、おかしい。僕が仙氣で攻撃したのは、あの獣のような奴ら、2人だけだよ。もう一人は、僕の仙氣の影響は受けていないはず」

 祐人は顎に親指を当てて、考え込むような仕草をする。

「そうなのよ。私もそこがおかしいと思ってたのよ。それで、電話じゃ聞けないから、ここに寄ったのよ。明良がいるしね」

「ちょっと分からないね。その仮定が間違えているかもしれないし……」

「そうね……」

「まさか……その毒腕っていう能力者、どこかで僕以外の仙道使いに会っている……」

 祐人が呟くように言った言葉に瑞穂は驚くように祐人に顔を向けた。

「祐人、私にはどの程度の数の仙道使いがいるのか、知らないわ。また、どんな奴らなのかも」

「どれくらいの数……というのは、僕も知らないんだ。ただ本来は、こちらから何かしなければ、関わるような人種じゃないと思うよ。僕も師匠ぐらいしか知らないけど……まあ、何というか、変人……あ、周りに興味なく自分のことだけ気にしている感じだから」

「……まあ、日紗枝さんの言葉じゃないけど、考えても仕方なさそうね。取りあえず、襲撃してきた理由はいまだに分からないままだから、また仕掛けてくるかは分からないけど、お互いに警戒はしましょう」

「……そうだね。あ、それなら、瑞穂さんたちも一時的に学院の女子寮に来れないかな? 僕たちの中の誰かに標的がいるのなら、瑞穂さんかマリオンさんの可能性が高いと思うんだよ」

「それは出来なくもないだろうけど、すぐには難しいでしょうね。祐人が言っているのは……マリオンね?」

 瑞穂は祐人の言うことの、言外の意味を受け取る。

「うん……ただ、確証はないんだ。何となくでしかないんだけど、あの時の襲撃は何度、思い返しても、マリオンさんを意識しているように見えた」

「……」

「瑞穂さんがいるし、瑞穂さんの実家はここより安全だとも思うんだけど、学院までの移動時が一番危ない。敵に、まだ執着する理由があるのなら、この時を絶対狙うと思うんだ。街中でやるとは考えづらいけど、この学院の中では平気で仕掛けてきた連中だ。そうなるとあり得る、と思って行動した方がいい」

「……確かに。街中で複数の能力者に一斉に襲撃されるとなると……私の精霊術の攻撃範囲から考えて、力が半減する可能性があるわ。ましてや、一般人がいるとなると……。でも……やはり、すぐには寮に入れないわよ」

「うーん、そうなんだよね……あ! よし、分かった!」

「どうするの?」

「中国に潜入しに行くまでは、僕が瑞穂さんの家まで毎回、送り迎えするよ」

「え!? それって……」

「接近戦の乱戦なら僕は得意な方だよ。まあ、何もないに越したことはないんだけど」

(そ、それって、祐人が私の家に来るってこと!? あ、送り迎えだから門の前までだけど……でも、一度も家にあげないのは、失礼……そう! 失礼よね!)

「うん? あ……難しいかな? 瑞穂さん」

 瑞穂が顔を硬直させているのを見て、祐人は、能力者の名門家系である四天寺家に門の前まで行くのは嫌がられているのかもと考え、気を使う。

(あ! そうか! その前に女の子が家の場所を教えるのは嫌かもしれないんだ。でも、心配だし……)

「瑞穂さん、送り迎えは家の前じゃなくてもいいよ? すぐ近くのところでも構わないから……」

「え? あ、違うわよ! そ、そうね、お願いするわ。狙われた可能性の高いマリオンのためだし!」

「うわ! う、うん、分かった。じゃあ、明日の朝に迎えに行くよ!」

 瑞穂に突然、大きな声を出されて体を仰け反らせる祐人。
 その後、瑞穂から送り迎えの段取りは、メールで連絡するということになり、祐人と瑞穂は別れた。

 既に真っ暗になった学院敷地内で試験生の寮に戻ろうと歩きながら、祐人は先程の暗夜之豹の認識票の件を思い出していた。

(仙道使い……ちょっかいさえ出さなければ何もぶつかるはずはない人種のはず……)

 そこで祐人は歩みを止め、顔を強張らせる。

(あ! 確か……師匠に聞いたことがる。仙道使いの中には悪仙という混沌を尊ぶ連中がいるって! いや……さすがに考えすぎか……)

 数秒、祐人は真剣な顔でその場に立っていたが、祐人は再び、自室に向かい今後のこと……今回の呪詛を仕掛けた術者に考えを巡らせた。



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