魔界帰りの劣等能力者

たすろう

敵の在処②

 ようやく落ち着いた感じになった瑞穂たちも祐人のところに集まった。
 祐人はこの能力者たちの衣服を丹念に調べている。

「祐人、こいつらは何? もしかして呪詛と関係があるの?」

「いや、分からない。ただ、もし、そうだとして、それで僕らを襲う理由には……」

 マリオンも真剣な顔で考え込む。

「もしかして、呪いに気付いた私たちが、邪魔をするのを恐れたとか」

「うん……それはあり得るけど、それだと僕らはだいぶ前からずっと監視されていたことになる。さすがにそれはないんじゃないかな? 呪詛は分かったところでその場で解除は出来ないし、術者を特定されたとしても、僕らが動いたその時に有利な状況で迎え撃てばいいはずだし……。うーん、こいつらを特定するような所持品はないね。お金を持ってたけど、財布はないや」

 瑞穂もこんな襲撃は生まれて初めての経験だ。正直、祐人がいなかったらと思うと冷たい汗が拭えない。
 あの最初の投げナイフのような攻撃……自分に向かっているのなら、普段から風精霊に命じているので直撃はなかった。
 だが、仲間への攻撃にはそうではない。それと分かっていなければ、今の瑞穂には対処は難しい。実際、奇襲とも言える初撃は祐人とマリオンの方に飛んでいた。
 祐人がそれを事前に感じ、叩き落としてくれたおかげで、全員無傷でいられたと言える。
 瑞穂はまたしても祐人に守られたと知り、唇を噛んだ。
 だが、その前にこいつらの襲撃の目的が分からない。

「私たちの誰かに恨み……のある連中とか?」

「恨みかどうかは分からないけど、確かに僕らを襲ってきたのは事実。何かしらの理由があるのは間違いないと思う。僕ら全員が標的か、それとも特定の誰かか……」

 祐人は先程の攻撃の一部始終を思いだす。

「そういえば、あの時の最後の攻撃だけど……いや、最初のもそうか……」

「祐人さん、何か気になることがあるんですか?」

 祐人はハッと振り返りマリオンに顔を向ける。
 それは、敵の行動の中にある種の偏りを感じたのだ。
 それは、まだ確信をもつほどではないのだが、敵の攻撃の際に強引さというか、意図的でしかあり得ないような行動と思えるものは、すべてマリオンが絡んでいたようにも思える。
 マリオンは祐人の視線に対し首を傾げるが、その視線の含んだ意味が分かり、涙に目になって大きな声を上げる。

「私は誰かに恨みを買うようなことはしてないです!」

「あ、いや、そんなことは言ってないよ? マリオンさんがそんな人じゃないのは分かってるから。ただ、ちょっと……マリオンさんに敵の意識がいっていたような……」

「そんなことが……」

「いや、ごめん。考えすぎかもしれない」

 数秒、瑞穂たちはこの意味不明な襲撃者を見つめる。
 祐人は立ち上がり、真面目な顔で瑞穂に提案をする。

「瑞穂さん。こいつらは機関に通報した方がいいんじゃないかな? ひょっとしたら機関の方で調べてくれるかもしれないし」

「そうね、そのつもりよ。連絡してすぐに回収してもらうわ。本当にこいつらは何なのかしら? それにこの学院に侵入したのが問題よ。他に誰もいなかったからいいけど、生徒たちが巻き込まれたら大ごとだわ」

「確かに……それは笑えないね。大峰さんに学院の護衛、警護の能力者を回してもらえないか、聞いてもらえるかな? 一般の人たちを巻き込むかもしれない連中だし、それなら機関も動いてくれるはず」

 祐人たちにとってこれは深刻な問題だ。
 それは瑞穂の言う通りで、この聖清女学院の中で白昼堂々と襲ってくる連中は異常と言っていいのだ。先のような襲撃が授業中にあったと考えれば、尚更なのである。
 瑞穂は携帯を取り出し、機関に連絡をとった。

「今、連絡したわ。すぐに来てくれるそうよ。あと、護衛警護の件はちょっと待って欲しいって」

 祐人は頷き、頭を掻く。

「うーん、今のままでは答えは出ないね。こいつらは取りあえず縛り上げてそこの屋上の出入り口の上に置いておこうか。念のため目が覚めないように氣を当てておくよ」

 祐人の何気ないセリフに一悟は苦笑いする。

「なんか、お前、普通に怖い話をしてるよな」

 祐人は襲撃者たちをヒョイっと持ち上げて、本人たちの衣服で動けないように縛り上げて、屋上の出入り口の上に隠した。

「これでよし。瑞穂さん、マリオンさん、まだこいつらの仲間がいるかもしれない。油断しないでいよう。正直、今のところこいつらが何なのか皆目見当もつかないし。呪詛の件との関係も可能性としては残すけど、別件のようにも感じるし」

 瑞穂とマリオンは頷く。

「念のために敷地内に探査風を常時飛ばしておくわ」

「私も学院の敷地は広すぎて、結界を張るのには時間がかかりますが、生徒がいる校舎には、何とかしておこうと思います。それと、この襲撃してきた人たちにも結界を張っておきます。仲間がいるとしたら、助けにくるかもしれないので」

「うん、お願い。それと一悟とニイナさんだけど、一応そちらも気を付けていてね。特に一悟はクラスが違うから、どうしてもこちらのフォローが遅れてしまうし。あ、後で寮に返ったら僕が霊剣師のお札を渡すよ。時間稼ぎぐらいにはなると思うし……」

「分かりました」

「お札か? 分かった。しかし……とんでもないことになったのかな、これは」

 その一悟の何気ない言葉に祐人は一悟とニイナに対し、申し訳ない気持ちが沸き上がる。それは瑞穂もマリオンも同様だった。

「ごめん……二人は絶対、守るから」

「ま、気にすんな、祐人。それよりも、知らないところでお前たちが苦しんでいるよりマシだわ。大したことは出来ねーと思うが何でも言ってくれ」

「私もです。私は瑞穂さんたちに恩がありますし!」

 二人の思わぬ申し出に祐人たちは目を広げた。たった今、これだけの危険な目に会ったにもかかわらず、一般人である二人がこのように言ってくれるとは思わなかった。
 二人にしてみればそれは恐怖の何ものでもなかったはずなのに……。
 そこに一悟は祐人に話しかける。

「なあ、祐人」

「何? 一悟」

「こいつらあっさりやられちまったけど、大した実力じゃなかったってことか? いや、俺からしてみると人間離れしていてるんだが」

「いや、結構強いよ。さっきの動きから考えて手練れと評価してもいいんじゃないかな」

「……そうなのか? じゃあ、祐人たちって強いんだな、さっきもすごい連携だったし、ああいうのも練習とかしてんのか?」

 少し安堵の色を見せた一悟の問いに祐人は瑞穂、マリオンの方を見上げてお互いに目を合わせる。

「い、いや、練習はしてないけど」

「え、それであの動きか! 漫画みてーだったけど、能力者っていう連中はああいうのが普通なのか……」

「いや、そんなことはないんだけど……何となく瑞穂さんとマリオンさんなら、分かってると思ったんだよね」

「そ、そうね、何となく祐人ならって感じかしら」

「私もそんな感じです」

 首を傾げる3人。
 ニイナはその3人をしばらく見つめると……何となく眉間に皺を寄せた。
 そこに突然、屋上の出入り口の扉が開いた。

「どなたです? ここで暴れているというのは!」

 現れたのは生徒会の風紀委員をしている2年生の先輩である鳥羽愛子とばあいこであった。
 上級生のしかも生徒会幹部がご立腹で登場したことから、祐人や瑞穂たちもばつの悪そうな、まずい顔をする。

「あなたたち! ここで何をして……キャッ!」

 パリンッと、愛子が声を上げた瞬間に、愛子の上空でまるでガラスが割れたような音がして、愛子は驚く。
 祐人たちも、その愛子の上の空間が一瞬だけひびのような亀裂がはいるという不思議な光景を確かに見た。

「な、なに? これもあなたたちの悪戯なの!? これは学院長に報告しますからね!」

「「「「えぇぇーー!!」」」」

「違います、誤解です! 鳥羽先輩」

「し、四天寺さん、あなたがいらっしゃって、この騒ぎはなんなのですか?」

「これは……その……」

 言い訳が苦手な瑞穂は、咄嗟に良い言い訳が浮かばない。

「あのすみません、鳥羽先輩……」

「あら、ニイナさんまでこんなところに」

「実は私がここにいる方々に頼んでここに来てもらったんです」

「それは……?」

「実はここにいる方々に私の友人として、来週にあるミレマーの式典に出てもらおうと思いまして。そ、その時に、その、あの……あ! 友好の証としてミレマーのダンスを踊ってもらおうとしてるんです。それで練習をしていまして……」

((((えぇぇーー!! どんな言い訳!? それ!))))

 4人の視線が華奢なニイナの横顔に集中。
 特にダンスなど大して知らない祐人と一悟は、ニイナを見つめてしまう。しかも、そんな言い訳が通じるわけがない。

「まあ! そうだったのですね! そうでしたか……そういうことでしたら……」

 考え込む愛子。

(え!? 悩むの?)

 どれだけ素直なんだ、と一悟はお嬢様がたの生態の一端に触れたような気がした。
 一悟は気付かれないように息を吐いて、はやく帰りたいと考えると、出入り口の方に視線を移した。

(うん?)

 その出入り口の横の影に軟体動物が通ったような影が見えた。
 一悟は、何だ? と思い、もう一度、確認するが……何もない。

(気のせいか……)

「分かりました! そういう目的があるのなら素晴らしいと思います! ここはわたくしの胸に納めておきましょう」

「ありがとうございます! 鳥羽先輩」

「ですが……あまり騒ぐのは感心しません、淑女としての心はどんな時も忘れてはいけませんよ?」

「はい、心に刻み込んでおきます!」

 ニイナが頭を下げると、慌てて他の4人も頭を下げる。

「ふふふ。もうお昼休みも終わりますので、皆さんも教室の方にお帰りなさい。それと……もう一人のあのお綺麗な試験生の方もそのミレマーのダンスにご参加されるのかしら?」

「……え? いえ? 違いますが……」

「あら、そうでしたか……ここに来る途中にすれ違ったのですが、違うのですね。いえ、なんでもありません。では……これから気を付けてください」

 そう言うと愛子は淑女然とした態度で体を翻し、帰って行った。
 祐人たちはお互いに顔を合わせて、もしや……という顔をする。
 だが、それ以外にも気になる点はあった。

「祐人さん、先ほどの空間の亀裂は……? まるで結界に攻撃が当たったような感じでした。あれは私が張ったものではないですし、何よりも……鳥羽先輩を守っているようにも感じました」

「あ、うん。僕もそのように感じたよ。あれは何だったんだろう。ちょっと、調べた方がいいかもしれない……それと」

「ええ」

 瑞穂が頷く。

「さっきの戦闘をもしかしたら見られていたかもしれないわ……あの白澤さんに」

 祐人は顔を暗くした。

「参ったなぁ、もう……どうしようか。ちょっと色々、あり過ぎて頭が回らないよ」

「悩んでても仕方ないわ。もし、彼女……白澤さんが私たちのことに気付いたのなら、口止めは最低限しないと……」

「うん、そうだね……それは僕からしておくよ」

 一悟も横で頭を掻くが、これはもうぶつかって行くしかないように感じる。

「祐人……それを話すときは俺も参加させてくれ。いや、途中まででいいから」

 一悟は真剣な顔で祐人の肩に手をかける。
 祐人は自分一人で話そうと思っているが、一悟の顔を見て了承した。

「分かった……」

「あ、それとさっきな……そこに」

「うん?」

「いや……何でもない。後で話すわ」

 一悟は先ほど見た妙な影を伝えておくべきと考えたが、祐人の表情をみて思いとどまった。

(今は詰め込み過ぎるのも良くないな……。後で四天寺さんかシュリアンさんに伝えておくか……)

 瑞穂たちもその祐人たちの様子を心配そうに見ていた。
 特に同じ能力者の瑞穂とマリオンには祐人の気持ちは分かるのだ。これは能力者たちの共通した悩みと言っていいのだから。
 たとえ仲の良い友人でも、これだけは中々言えない。それをした途端に、お互いの関係を崩してしまいかねないほどのことなのだ。



 祐人たちが戦闘を終えた直後の、聖清女学院の敷地の東端。

「ば、馬鹿な! 何ですか、あの戦い方は! まるで闇夜之豹が赤子のようではないですか。あのような若い能力者が……」

 普段からあまり、感情を高ぶらせることのない百眼は驚きのあまり電子双眼鏡をもった両手を硬直させてしまう。

「……ふん」

「燕止水……あなたはこうなることを分かっていたのですか?」

「……」

「では、何故、行かせたのです! あれではただ相手を警戒をさせて、これから奇襲がもう出来ません!」

「勘違いするな……俺は貴様らの仲間ではない。それと俺は好きでここに来ているのではないことを知っておくのだな」

「クッ……。フ、フフフ……そんなことを言ってよろしいんですか? 燕止水。あまり、我々を舐めない方がいい」

 ピクッと止水は片眉を動かす。

「今、あなたの大事な子供たち……あの身寄りのない子たちは、我々の手中にあるのですよ?」

「下衆が……」

「何と言われても結構。我々は伯爵の手足。命令を遂行してこそ、今の地位にあるのですから」

「言われたことはやる。それに……お前は何も分かっていない。さっき、奴らを行かせたのは敵の実力を見るものだった。その役目は別に誰だっていい。それをやりたそうにしていた、あのやる気だけは十人前のうるさい男に任せただけだ」

「では……あなたは毒腕たちを相手の実力を測るための当て馬にしたと……」

「その役割すら果たしていなかったがな……」

「クッ……」

「それともう一つ……」

 突然、止水の握る手から薄い金属が何層にも束ねられたような、棒が伸び、百眼の喉元の直前数ミリのところで止まる。

「……!」

「俺が受けた依頼の中にお前らの命を守れというものはない。よく覚えておくのだな」

 そう言うと止水は木々の風の騒めきに紛れ、スーとその姿を消した。
 ゴクリと唾を飲み込んだ百眼は額からの冷たい汗を拭う。

「伯爵も何という男を……。まあいい。この仕事さえ終われば……ククク」

 そして、百眼もその姿を消した。



 中国の北京の郊外。
 水滸の暗城と呼ばれる湖の横に建てられた最高のセキュリティーで守られた建物の5階の奥の部屋。

「あら」

「どうしたのかね? ロレンツァ」

「いえ、何でもないわ、あなた」

(今、私の飛ばした呪詛が弾かれた? フフフ、面白いことをするわね……)

 そして、ロレンツァはお気に入りの紅茶を入れて、アレッサンドロの座るデスクに差し出した。
 その紅茶に手を伸ばすアレッサンドロのデスクの上には図面のようなものが広がっている。そこに描かれている祭壇のような設計図の中心には五体がバラバラにされた人間のような絵が見えた。



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