魔界帰りの劣等能力者

たすろう

女学院と調査と③

「はい、はい。皆さん、お静かに。では、次の方、お願いしますね」

 担任の先生が手を叩きながらそう言うと、茉莉は祐人から目を放し、前を向いて頷いた。
 茉莉はお嬢様たちを見渡すとニコッと笑う。

「皆さん、初めまして。白澤茉莉です。短い間ですが、友達になってもらえると嬉しいです。試験生としての立場も理解していますので、何でも聞いてくださいね。私は共学の学校から来ましたので、個人的な意見になってしまうところもありますけど、分かることはお伝えしたいと思います。よろしくお願いします」

 茉莉は微笑を浮かべながらそう言うと頭を下げた。
 お嬢様たちから感嘆の声が漏れ、ウットリとしたように茉莉を見つめる。

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
「なんてお優しそうな……」
「ええ、それでいて、とても、しっかりされておられますわ」
「今日、ご昼食後にお茶会を催しましょう!」
「まあ! 素晴らしいですわ」

 お嬢様たちは、喜びで浮足立ったように、其処彼処から茉莉に声をかける。あまりの反応に茉莉はにこやかにしながらも、額から汗を流していた。
 試験生たちが挨拶を終えたところで担任の先生はおっとりとした口調でまとめる。

「はい、3人ともありがとうございました。ふふふ、皆さん、仲良くしてくださいね」

「先生! 試験生の方々に質問をしてもよろしいでしょうか?」

 クラスの中から、皆の意見を代表するように一番前に座っているお嬢様が手を上げてワクワクした表情をしている。

「そうですね~、まだちょっとだけ時間がありますし、皆さんともお話ししやすい環境も大事ですから……3人ともよろしいですか?」

「あ、はい、大丈夫です」

 祐人たちは頷き、承諾した。

「じゃあ、皆さん、どうぞ」

 先生がそう言うと、一斉に手が上がる。
 質問の内容は多岐にわたり、数々の質問がでた。
 共学校では女子生徒と男子生徒は仲が良いのか? 一緒に行動を共にすることはあるのか? から、男子生徒は怖くないか? 部活動は参加されているか? とたくさんの質問が出された。
 そして、それらの質問はすべて茉莉と花蓮に出されている。
 茉莉は丁寧に花蓮はちょっと上から目線で質問に答えていた。
 祐人には全く質問がこない。
 どうやら、お嬢様たちは男子である祐人に話しかけるのを、避けているようだった。というのも、祐人が目を向けるとどのお嬢様も皆、緊張したように視線を外すのだ。
 だが、祐人に興味がないわけではなさそうで、祐人の視線が来ないところのお嬢様は祐人をジッと観察しているのが分かる。

(なんか、やりづらいなあ……。でも、最初はこんなもんかな? だって女子高だし、あまり男子に免疫のないお嬢様ばっかりだもんね)

 すると、先生がそれに気づいたのか、ニコッと笑い、学院生徒たちに助け舟を出した。

「はいはい、堂杜さんにも何か質問はありませんか? 堂杜さんは男性の試験生です。もし、共学になると堂杜さんのような男性が何人も入学してくるのですよ? 今回は試験生ですので、穏やかな人ばかり来てもらいましたから、心配しなくても大丈夫です」

 そう先生に言われて、お嬢様たちはザワザワとしだした。すると……おずおずと手を上げるお嬢様がいる。

「ふふふ、はい、三条さん」

 その三条さんというお嬢様は耳を赤くしながら、声を絞り出すようにしていた。
 その姿を見ていると祐人にも緊張がうつってきてしまいそうになる。

「白澤さんと……その……堂杜さんは制服が似ていますけど、やはり同じ学校から来られたのですか? あ、すみません、男性の制服姿をあまり知らないもので」

 意外と普通の質問だ。確かにそこは目につくところだろうとも思う。
 とは言ってもなんてことない質問でもある。先生に促されてとにかく勇気を出して質問したのだろう。見てみればとても真面目そうなお嬢様だ。
 だが、この質問が出された途端に後ろでつまらなそうにしていた瑞穂とマリオンの目に生気が籠った。

「あ、はい、そうです」

「はい、同じ学校ですよ」

 茉莉も横で質問をしたお嬢様に頷いた。

「まあ、私も似ていると思っていましたの」
「殿方の学生服姿なんて、実際に見たことがありませんでしたわ」
「では、学院が共学化されましたら、殿方はどんな制服になるのかしら? ちょっと楽しみですわ」
「ああ、本当ですわね」

 三条さんは納得したような顔をすると、続けて祐人と茉莉に質問をしてきた。

「では、お二人は、学校でもお話をしておられましたのでしょうか?」

「ああ、はい。僕たちは小学校から知り合いでしたので、よく話しをしますよ」

 ピクッと眉が上がる瑞穂とマリオン。

「まあ、そうだったんですね。普段、学校ではどのような会話をされるんでしょうか? 男子生徒と女子生徒で、お話してはならないこととかあるんでしょうか?」

 随分と浮世離れした質問に感じるが、茉莉がにこやかに答える。

「そうですね、なんでも話しますよ。勉強のことから、日常のことまで。別に相手が不愉快にならなければなんでも話して大丈夫です。普段、女の子同士で話すのとあまり変わりませんよ?」

「私は、男の方には意識して厳しめに話す。男は良い顔を見せるとすぐに調子に乗るから」

 突然、前に出てきて質問に勝手に応えて、花蓮がニマ~と笑っていた。しかも胸をそらし、ちょっと偉そうにしている。

(この子は……読めない)

「そうなんですか! では、なんでも話しても、聞いてもよろしいんですね」

 すると、火がついたように他のお嬢様がたからも手が上がった。
 なるほど、どうやら男性と話すのにどんなルールがあるのかを気にしていたようだ。

「他の異性の方ともたくさんお話しするのですよね?」
「お互いに何て呼び合うんでしょうか? 殿方には、様は必ず必要ではないのでしょうか?」
「どれぐらいの距離でお話しするのでしょう?」
「二人きりにならないように、常に複数でお話しするのがよろしいのですよね?」
「もし、手が触れ合ってしまったら、責任は取ってもらえるのでしょうか?」

 質問が出るわ出るわで収拾がつかない。
 先生も「あらあら」と、ちょっと困ったような顔をしている。
 ただ、質問の内容が共通するところがあるので、祐人と茉莉は掻い摘んで返答する。

「別に普通でいいんですよ。普通に話せば」

「仲が良ければ色々、話しますよ。そうでなければそれなりです。皆さんと同じですので、相手が男性でも特別なことはないですから。お互いを呼ぶときも、仲が良くなってくると名前で読んだり、親しみを込めてあだ名で呼んだりします」

「まあまあ、そうなんですね!」
「わたくしたちと同じなのですね」
「わたくし、自信が湧いてきましたわ」
「殿方と名前で呼び合うなんて……ちょっとドキドキしますわ」

 お嬢様がたの疑問が少しずつ解けたのか、先ほどまであった緊張感も無くなって来たように感じられた。

「では、堂杜さんと白澤さんはなんと呼び合っているのですか?」

「ああ、僕たちは……その……幼馴染なので、茉莉ちゃん、と呼んでます」

「私は祐人……と呼んでます。小さい時からそうなので、そのまま、という感じです」

 お互いの呼び方を、そう改めて聞かれると、なんか恥ずかしく、祐人も茉莉も困ってしまう。
 すると、お嬢様がたは大盛り上がりで、まるで自分のことのように喜んでいる。

 ……一部を除いて。

 突然、祐人は今までに感じたことのない凄まじいプレッシャーを受けて、体ごと驚き、思わず肩が跳ねた。

(な、何? これは)

 祐人はすぐさま、そのプレッシャーの発生源と思しき方向に視線をやると……そこには3人の少女が瞬きもせずこちらを見ている。
 瑞穂、マリオン、そして、何故かニイナまで、その瞳孔が……開いている。

「ヒ!」

 クラスでは乙女たちがにこやかに盛り上がっている中、その最後尾から、暗黒のオーラを背に目が赤く光っている瑞穂、筋肉だけで笑い、目に光がないマリオン、無表情でゴミを見るような視線を送ってくるニイナ。
 祐人は体が震えだし、生き物としての生存本能が無意識にこの場から離脱しようとする。

「ふふふ……黒い意志を4つ感じる。……あなた逃げた方が良い」

 気づくと横ではニマ~と花蓮が祐人を見上げている。目は隠れて見えないが。

「うわ、花蓮さん。え、4つ? 3つじゃなくて? ハッ!」

 祐人はこの時、すぐ近くから大気が歪むような強力な気を感じた。自然と祐人の全筋肉が退避行動の準備を始める。こ、これは一体……と祐人はそ〜っと横に顔を向けた。
 そこには腕を組み、真の敵を見つけた最強の勇者のような少女がいる。
 その暗黒勇者……茉莉は教室の後方を睨みつけていた。
 茉莉は視線を後方に向けたまま、口を開く。

「祐人……」

「はい!」

「あそこにいる子たちが、仕事の仲間?」

「う、うん……一人は違うけど、な、何で分かるの?」

「随分と良い目をしてるわね……。何かしら? この感覚は。これはとても危険な感じがするのよ……ね」

「いや、茉莉ちゃんの方も十分、危険な感じがす……のわ!」

 茉莉の目が一瞬だけ祐人を射貫き、祐人が仰け反った。
 茉莉は、瑞穂たちを見つめ、そのそれぞれと目を合わせる。
 お互いにまったく視線を逸らさずに見つめ合う少女たち。

(この子たちは……ただの祐人の仕事仲間のはず。あと、あの外国の子は……?)

 だが今、茉莉の女としての超感覚が瑞穂、マリオンを明確に、危険人物だと伝えてくるのだ。そして、瑞穂とマリオンも同じような感覚を自分に感じていることが何となく分かる。横にいる異国の少女からはそこまで危険なものは感じないのだが、何故か気にはなる。

(怖い怖い怖い! 何? 何なの? 何でそんなオーラが出せるの? 4人とも)

 祐人が肩を震わしているとチョンチョンと背中をつつかれた。後ろを振り向くと花蓮がニマ~と笑い……親指を立てた。

「グッドラック!」

「……」



 瑞穂とマリオンは祐人を見つめていたところ、その横から自分たちを測るような目を向けてきた茉莉に気付いた。
 そして、瑞穂とマリオンも瞬時に茉莉が感じているものと同じものを感じる。
 ただ、瑞穂とマリオンは茉莉と違い、祐人から聞いた幼馴染という危険な存在は知っていた。それが茉莉なのかは、当然、最初は分からなかったが。
 そして、幼馴染と知り、しかも自分たちに対して向けてきた茉莉の視線と雰囲気でこの少女が何者なのかを完全に理解した。

 それにしても、今回は……と瑞穂は思う。
 何でこんなにややこしいことになったのか、と。
 元々はクラスメイトの呪いに気付き、それを解除するために祐人を共学化を考えていた学院にかこつけて呼び込んだ。それが茉莉のような人間まで呼び込み、横にいるニイナもまだ祐人のことを思い出してはいないようだが、何かを感じているようだ。
 瑞穂はマリオンに目を向けると、マリオンも若干、頬を膨らませている。どうやら、マリオンもややこしさを感じているのだろう。

 マリオンが瑞穂の視線に気づき、目が合うと……お互いにため息を吐いた。

 すると、横からニイナが呟くというには大きな声を漏らした。

「何故かしら……あの堂杜さんっていう人を見ていると……」

 ニイナの声に反応し、瑞穂とマリオンがニイナに注目する。

「ものすごく……イライラする!」

 そのニイナの言葉を聞いて瑞穂とマリオンは……

「ああ……」

 と、納得の声を出し……

 深い、深い、ため息を吐くのだった。



 この後、先生から祐人、茉莉、花蓮に最後尾の席に座るように言われる。
 その席順は……、

 窓側から、茉莉、マリオン、花蓮、瑞穂、ニイナ、そして、祐人となった。



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