魔界帰りの劣等能力者

たすろう

女学院と調査と

 月曜日、早朝。聖清女学院の校門前の広いローターリーに四天寺家の車が止まった。そして、ドアが開き大きな荷物を持った二人の男子生徒が姿を現す。
 明良は運転席から、出てくると、二人の少年にこれからスケジュールとして学院長のところへ行くことを伝え、守衛の人に学院側の案内人を呼んでもらうようにお願いしている。
 守衛と話を終えた明良は少し緊張気味の少年と意気揚々の少年に声をかけた。

「堂杜君、袴田君、ここで待っててくれれば案内の人が来てくれますからね。あと、他の子もうちのものが迎えに行っていますので、もうすぐ来ると思いますよ」

「あ、はい、分かりました。ありがとうございます」

「ありがとうございます! 神前さん」

「じゃあ、私はここで。頑張ってください。特に堂杜君、うちの姫をよろしくお願いしますね」

「あはは、頑張ります」

 明良はそう言うと、車に乗って去っていく。まだ、学院の生徒の登校時間よりも、だいぶ早いので、周りには誰もいない。
 女子高に短期間とはいえ、当校するという状況に、現実味を感じられない祐人は誰もいないのにもかかわらず、緊張してしまう。

「おおー、スゲー門だよな。おいおい、ここから見ても校舎が見えねーよ。一体、どんな広さなんだよ。こんな学校に通うお嬢様ってのが現実にいるんだな!」

 祐人と違い、まったく緊張していないどころか、全身から喜びのオーラを出す一悟が驚きの声をあげた。
 その一悟の姿を横目で見つめる祐人。

「やっぱり、何で一悟まで……」

「うん? だから昨日、言っただろう? 美麗先生たってのお願いで、これは俺としても受けざるを負えなかったんだって。いや、仕方ないよ、うん、これは仕方ない」

 そう腕を組んで頷く、一悟はそう言いつつも、うつむきかげんに徐々に体を震わす。

「あれ? 一悟、どうしたの……」

 祐人の問いかけにも返事がない一悟は、いまだうつむいて震えている。
 その姿に祐人は、さすがに一悟もこの状況に緊張しているのだろうと思った。確かに普通ではない状況だ。一悟にもストレスがかかっているのは想像できる。
 その理由のひとつは、昨日、電話で一悟と話した内容だ。



「今回の件だが、祐人。何かあるんだろう? でなきゃ、いくら何でもこんなふざけた状況が起きるわけはないからな。この話を美麗先生から聞いた時にピンときたわ。美麗先生の話だと、まず、相手はお前をご指名だったそうじゃねーか」

 その一悟の鋭い勘に祐人も一瞬、どう言おうか迷ったが、一悟は唯一、祐人が能力者であることを知っている人間である。また、一悟は軽そうな態度から誤解を受けがちだが、重要な事に関しては口が堅いことを祐人は知っていた。

「うん……実は、今回、依頼を受けたんだよ……」

 祐人は事の発端をすべて一悟に説明した。
 一悟は祐人の話を聞き、その内容に驚き、そして真剣な声で応答する。

「そんなことが……いや、もう、驚かねーよ。でも、なるほど、分かった。そういうことなら俺もお前が動きやすいようにさり気なくフォローをいれるわ。特に白澤さん辺りは結構鋭いからな」

 一悟から、茉莉と静香も来ると聞いた時には、祐人も驚愕してひっくり返った。というよりも、一体、どうして、そんなことに? と、美麗の考えが分からなかったが、決まったことは仕方がない。
 正直、心配しかない。何故なら、瑞穂からの依頼の件に感づかれないようにしていかなくてはならないのだ。
 だが、そう考えると、このあり得ない状況に一悟が横にいてくれるのは、本当に有難いと思った。一般人の一悟にしてみれば、とんでもないことに巻き込まれたことでもあり、申し訳ないのだが。



「一悟……」

 祐人は申し訳なさそうに、まだうつむいている一悟の肩に手をかけた。
 すると、一悟の震えの大きさが増していく。

「ククク……ハハハ……ハッハハーー!! ヤッホイヤーーーーーーーー!! 来た来た来たぁ! 俺の絶頂期ぃぃ! ヒャッハー!」

「のわ!」

 祐人は一悟の奇声に体を仰け反らした。
 一悟は祐人など目に入らないかのように両手を広げ、空を睨む。

「こんな『虫取り網』と付き合ってて、良かった! 本ッ当に良かったぁ! 今まで付き合ってて何にも、良いことなんてなかった! そう! まったくなかった! だが、ようやく良いことがあった! 最初で最後! もう一生ないだろうが、あるにはあった! よくやった祐人! お前は親友だ!」

「お、おう……って! なんだとー!」

 一瞬、一悟の狂喜ぶりに呆気にとられた祐人だが、一悟の言葉の内容が頭に入ってきた。特に『虫取り網』のところ。

「この腐った苺が! 『巨乳好きBL』のくせに! 『巨乳好きBL』の友達でいる僕の苦しみを考えたことがあんのか! どんだけ僕が恥ずかしい思いをしているか!」

「ぐは! ふ、ふざけんなよ、それは全部、お前のせいだろうが!」

「僕の虫取り網もお前のせいだ!」

「あ、あのー、よろしいですか……?」

 名門聖清女学院の校門前で騒いでいる少年二人に声が掛かる。
 学院の案内をしてくれる人らしい女性が、困ったような顔で立っていた。そして、その後ろには仁王のような顔をした筋肉ムキムキの守衛の姿が……。
 一旦、止まった祐人と一悟は、顔をその女性に向け、さらに、その後ろから自分たちを見下ろしている金剛力士像のような守衛に目がいく。

「学院の近くで騒ぐのはご遠慮していただきたい……よろしいですかな?」

「「すみませんでしたーー!!」」

 祐人と一悟が90度のお辞儀をした。
 その姿を額から汗を流して心配そうに見つめている女性。

「あ、堂杜君と袴田君ですね。それでは学院内を案内しますので、こちらにどうぞ」

「は、はい、よろしくお願いします」

 祐人と一悟は荷物を持ち、まだ、ジーとこちらを見つめている守衛の前を体を小さくしながら、その案内人の女性についていく。
 2人は校内に入り、しばらく女性についていくと、校内の整備された敷地内に目がいきキョロキョロしてしまっていた。

「なんか……すごいね、一悟」

「ああ、どれだけお金がかかってんだろうな。しかも、都内にこれだけの敷地ってな」

 二人が感嘆しながら歩いていると、案内の女性が二人に話しかけた。

「先にお二人に過ごしてもらう寮に案内しますね。この時のために急遽、建てたものなので、少々手狭で申し訳ないのですが。そこで、荷物を置いてもらってから学院長室に案内いたします。全員、揃われましたら今後のことをお伝えしますので」

「あ、はい、ありがとうございます」

 実は、この短期編入に際して、学院の寮に泊まり込み通うことになっている。少数ではあるが全国から試験生を募るので、このようになったとのことだ。もちろんすべて無料である。
 やることのスケールが違うな、と一悟も驚いていたが、確かに実家から通うには少々、距離があったので有難いと思っていた。
 校舎と思われる建物の横を抜けて、敷地の奥に進む。一悟はその校舎の裏側の開放感のある芝生が敷きつめられた広場の反対方向に見える大きな洋館のような建物に気付いた。

「あの大きな建物は、何です?」

「ああ、あれは学院の生徒の寮になっています」

「うへー、すごいですね。まるで歴史のある高級ホテルみたいな感じだ」

「はい、そのような用途でも使うことが可能になっています。実際、お忍びで来た各国の要人の奥方やご息女がお泊りになることも珍しくありませんから。因みに試験生の女子生徒の方々にはあちらに泊まっていただきます」

「ええ!」

 祐人と一悟は互いの顔を見合わす。

「おい、祐人……なんか思ったより」

「うん、すごいところだね。ちょっと、あまりの場違いに緊張してきたよ。後で茉莉ちゃんたちに中がどうなってるのか聞きたいね」

「あ、こちらになります。どうぞ、お入りください」

 女性に案内され、行きついたそこには小奇麗な三階建てのレンガ造りの建物があった。レンガ造りではあるが、新築の雰囲気があり、立派な外装である。
 祐人たちが「おお!」と感嘆した声を上げると、そのまま中に通されて、それぞれの部屋に案内された。中も意外に広く立派なもので一人一人に部屋を用意されるとは思っていなかった二人は感動してしまう。

「では、荷物だけおいて下さい。普段は下にコンシェルジュがいますので、そちらに生活面のことはご相談ください」

 二人は自分の部屋に荷物を置くとすぐに出てきて、案内されるままに校舎に向かい、学院長室に向かった。



 学院長室に通された祐人と一悟だったが、中にはまだ誰もおらず、どうやら自分たちが一番のりのようだった。

「少々、お待ちください。他の方々も、もう到着されているようですので、すぐにお集まりになると思います」

「あ、分かりました」

 祐人がそう応えると、案内人の女性は丁寧にお辞儀をして出て行った。

「祐人、ここは別世界って感じだな」

「そうだね~、校内の廊下にもあんなに絵画が飾られてるとは思わなかったよ」

「こんなところに通うお嬢様ってのも、相当、浮世離れしているかもな。外界と違いすぎるわ。それで異性との交流もないってなると……この男子生徒を実験的に招くことを思いつくのも、分かるような気がしてきたわ。これは、お嬢様たちとの、キャッキャウフフの交流もファーストコンタクトが重要だな……」

 作戦を練るように考え込む一悟を、祐人は反目で見つめる。

「ちょっと、一悟。あんまり暴れないでよね。僕は面倒見切れないからね」

「心配すんな、祐人。俺を誰だと思ってんだ? ガツガツするなんざ、馬鹿な男がすることさ」

「まあ、何だかんだで一悟のことだから大丈夫だと思うけど……」

「それより祐人」

「何?」

「授業が始まってからでいいから、お前の同期だっけ? その子たちを紹介してくれ。それと俺が、能力者っていうのを知っている人間であることも伝えておいてくれよ? そうじゃないとお前のフォローもしにくいからな」

「あ、そうか、分かった。取りあえず、先に言っておくと……」

 祐人が一悟に瑞穂とマリオンのことを簡単に説明していると、院長室の扉が開いた。

「あ、袴田君、堂杜君! もう先にいたんだね」

「おお、水戸さん、白澤さん」

 そこには案内人に連れてこられた茉莉と静香が入って来た。
 この少女二人も、一悟と祐人のように驚きの連続だったのだろう。二人とも少々、興奮気味だった。

「いやー、ここはすごいね、私もさすがに緊張しちゃったよ! 案内された部屋もテレビで見るようなスイートルームみたいなんだもん」

「本当ね、その後、静香ったらその話ばっかりだもんね。私も驚いたけど」

「茉莉ちゃんたちは、いつ着いたの?」

「ついさっきよ。そのまま、流れるようにここに来た感じ。祐人たちは別に寮があるって聞いたけど?」

「うん、こっちも急遽建てたというわりには、すごかったよ。場所は茉莉ちゃんたちの寮から広場の反対側のところの場所だった」

「そうだったのね。そっちも見てみたいな~、あ、でも男子寮には行っては駄目よね、超お嬢様校なんだもんね」

「ああ、祐人んちのテントで過ごした時みたいなパーティーは駄目なのかな? またやりたいな!」

「そうね! あとで聞いてみようか? 私たちは学院の正式な生徒じゃないし」

 一悟の言葉に茉莉もその時のことを思い出したのか楽しそうに頷いた。思ったより茉莉もこの短期編入について、前向きにとらえ始めているようだった。

「勢いで来ちゃったけど、ちょっと私も緊張してきたわ。でも、こんな経験、よく考えたら中々できないし、楽しみにもなってきたわ。新しい友達が出来るかなって」

 茉莉がにこやかにして、静香も一悟も楽しそうにしているのを見て、祐人も緊張が少し解けてきた。やはり、仲間がいると余裕が生まれてくる。

「あ、そうだ……祐人、あなたに聞きたいことがあるんだけど」

「うん? なに?」

「美麗先生に聞いたんだけど、この学校にあなたのバイトの仕事仲間がいるって本当?」

「え!? 何故それを? しかも、美麗先生が?」

 祐人は驚き、何故そのことを美麗が知っているのか分からないが、茉莉にわざわざそのことを伝えたことに不思議がった。
 その茉莉の話に静香が前のめりに割り込んでくる。

「そうなの!? 堂杜君。へー、それは、それはすごい偶然だね~。それってガストンさんが言ってたすごい綺麗な子たちでしょう? しかも、お嬢様だったんだ。これは会えるのが超楽しみ!」

 静香の言う、すごい綺麗な子たち、というところにピクッと反応した茉莉だが、祐人の反応から、美麗の話が本当だったと理解した。

「ふーん、やっぱり、そうなのね。じゃあ、祐人……」

「な、何かな、茉莉ちゃん」

 この吉林高校で男子生徒から絶大な人気を誇る栗色の髪の少女の目が一瞬だけ光ったように感じ、身構える祐人。
 今回、吉林高校ではこの少女が短期間とはいえ他校に編入すると聞いただけで多数の男子が肩を落としていた。その吉林高校男子たちは一様に、茉莉のいない吉林高校は吉林高校ではない、と涙している。
 その男子生徒たちの中には夏休みを前に、何とかして茉莉とお近づきになろうと、何かと理由をつけて茉莉に話しかけようとしていた男子たちがいた。茉莉はそういった男子たちを邪険に扱うことは一切なく、それぞれに笑顔で丁寧に応対している。
 だが、そんな男子たちの下心を知ってか知らずか、その茉莉の対応にはまったく隙がなく、中々、プライベートまで切り込むことが出来ない。そのため、男子たちは、結局、悶えるように茉莉の笑顔にただ見送られるのだった。
 だが、それだけで茉莉の吉林高校の男子たちの評価はうなぎのぼりになっている。
 また、生来、世話好きの茉莉は女子クラスメイトの状況もよく見ていて、何かあると思うと言われる前に率先してフォローに入る。それでいて公平に意見を出すので、クラスでの茉莉への信頼は女子生徒からも大きなものだった。学級委員として、これほどの適任者はいないと言われ、最近は生徒会からも声がかかっている。
 優秀な成績、剣道部での実力、授業態度、他生徒からの信頼の厚さ、それでいて、その耳目を集める容姿は、言わば完璧超人とまで言われ、女子生徒たちからは、まだ一年生にもかかわらず、憧れの存在になりつつある。
 その茉莉が大きな目を細め、笑顔のような、というか笑顔に見える表情をした。

「その子たちを紹介してね……絶対」

(まあ、なんてことはないでしょうけど、祐人だし。ただ、携帯でも繋がりもあるのよね……。まさか、そのガストンさんに可愛いと言われているほどの子たち、ましてや、こんな学院に通う超お嬢様が、祐人をたぶらかすような悪い子なわけないわね。何の意味もメリットもないし)

 吉林高校で茉莉がこのような顔を見せることは滅多にない。いつだって自然体である。
この茉莉の側面を知っているのはごく少数だ。

「え!? 何で?」

「何で? こんなところに来て、知り合いがいるのに紹介をしないなんてある? それとも祐人、何か不都合でも……あるの? 私も祐人の友達と仲良くしたいだけよ」

「ふ、不都合なんて、ないよ! う、うん、分かった、紹介するよ!」

 祐人の反応に茉莉の目がさらに細くなるのを見て、慌てて応える。
 実際、茉莉はその祐人と繋がりのある女の子たちに興味があった。それは深い意味はなく、友人になれたらいいな、ということも本心としてあったのだ。このお嬢様校の凄さを目の当たりにして、祐人を悪い意味で相手にするわけがないという安心感を覚えたということも確かにあったが。
 だが、ここに来て茉莉はある疑問が沸いてくる。
 それは、そんなお嬢様がするバイトとは? と。
 しかも、超庶民の祐人と一緒にする仕事とは一体……。

(この件は頑なに祐人も言わないものね。ちょうどいいわ、どんな仕事なのか、今回、探ってみようかな)

 祐人は今回、依頼の件もある。なるべく、能力者である瑞穂たちのことは知られたくはないというのが本音だ。特に茉莉は鋭いところがあるので尚更だった。

(なんでこんなことに……美麗先生は何を考えて……)

 だが、茉莉の言う通り、この状況で瑞穂たちを知っていて、まったく紹介をしないというのも確かに不自然なので、この辺りは仕方ないと祐人も考える。

(それにしても、この茉莉ちゃんを、学校のみんなにも知って欲しいよ。そうすれば僕に対するやっかみも減るのに……どうせなら、みんなに見せる自然な優しい笑顔を僕にもして欲しいよな)

 実は今回、茉莉と一緒に、しかも夏休みまで他校に編入する祐人には主に男子生徒から非常に厳しい眼差しを浴びせられていたのだ。
 これには本当に面倒くさいと祐人も辟易していて、困っている。茉莉と幼馴染というポジションも相当、気に入らないらしいのだ。
 因みに一悟はというと、安全牌ということで、放置。

「……なんか言った? というより何を考えた? 一瞬、イラッとしたんだけど」

「なんにも言ってないよ! まったくもって! というか、考えた? って怖いよ!」

 この二人の掛け合いを可笑しそうに見ていた静香が、祐人に話しかける。

「くくく、でも、堂杜君、私にも是非、紹介してね! 私もこの機会にいい友達を作ろうと思ってるんだから」

 今回、一番この編入を楽しんでいるのは静香ではないか、と思わせる笑顔を見て、祐人も笑顔で頷いた。確かに、気をつけなくてはならないことはあるが、自分の知り合いたちが仲良くなってくれるのは、嬉しい。

「うん、後でみんなに紹介するから」

 横で一悟はやれやれという感じで苦笑いをする。
 すると、校長室のドアが開き、学院長と思われる白髪を束ねた女性を筆頭に、学院の先生たちや、祐人たち以外の今回の試験生が連なって入って来た。
 学院長はゆったりとした動きで席に着きと、落ち着いた感じで声を上げた。

「まずは、この聖清女学院にようこそ。そして、今回の試験生として来てくださって御礼を申し上げる。さて、既に説明は聞いていると思うが、この度は、この聖清女学院が将来の共学化を見据えてのもので、最初は皆もやりづらいところはあると思うが、積極的に学院生徒たちと関わっていって欲しい」

 祐人たち試験生たちは、緊張気味に頷く。
 その後、学院長の挨拶が終わると、副学院長から各試験生たちの編入するクラス分けが発表された。
 試験生の人数は17人。今回は一年生と二年生のクラスに編入される予定である。
 聖清女学院の一学年のクラス数は4クラスであるので、8クラスにそれぞれ2人から3人の試験生が振り分けられる計算だ。

「それでは一年生の方々から。お名前をお呼びしますので、返事をしてください。まず、1組には堂杜祐人さん、白澤茉莉さん、蛇喰花蓮じゃはみかれんさん」

 はい、と祐人と茉莉は返事をする。
 すると、どうやら同じクラスに編入されるらしい蛇喰花蓮という少女が小さな声で遅れて返事をした。声が小さくどこから聞こえてきたのか分からない祐人はキョロキョロしてその声の主を探す。茉莉も似たような状態だった。

「ふふふ……よろしく……堂杜さん……白澤さん……」

「のわ!」「きゃっ」

 突然、祐人と茉莉のすぐ真下から突然、声が聞こえてきて、二人は驚いて茉莉などは祐人にしがみついた。
 二人は目線を下に移すと、そこには前の毛で目が隠れている小柄な少女がニマ~と笑って見上げている。正直怖い。
 目が隠れているのもあるが、表情が口だけでしか判断がつかなかった。
 その花蓮が手を差し出している。恐らく、握手を求めているのだろうと思い、祐人は恐る恐るその手を握る。

「ふふふ……よろしく……」

「よ、よろしく」

 どうやら合っていたみたいだ。茉莉もその様子を見て、手を震わせながら花蓮の手を握った。改めてニマ~と笑われ、茉莉はビクッとするが、そこは優等生なのでしっかりと挨拶を返し、ニッコリと笑う。

「こ、こちらこそ、よろしくね、蛇喰さん」

「……あなたたち……いい人……」

「あ、ありがとう……」

 花蓮の影のかかり、口しか見えない笑顔に茉莉も祐人も引き攣った笑顔をした。

「はい、よろしいですか? 時間もないですので挨拶等は後でお願いします。2組には袴田一悟さん、水戸静香さんです」

 副学院長は表情を変えずに、続けて発表していく。
 祐人は発表を聞いていき、真剣な顔をした。

(それにしても、茉莉ちゃんと同じクラスか……ちょっと動きづらいな。一悟たちは隣のクラスね、できれば一悟とは同じクラスが良かったんだけど、それは仕方ないか。それにしても、この子……)

 祐人は自分の前に立っている小柄な蛇喰花蓮と呼ばれた少女を見つめる。

(この子……女の子は、茉莉ちゃんと水戸さんだけだと思ってたけど……)

 こうして全員の編入するクラスが言い渡されると、祐人たちはそれぞれのクラスの担任に付き添われ、自分のクラスに移動を開始した。




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