魔界帰りの劣等能力者

たすろう

偽善と酔狂の劣等能力者⑨

「マットウ将軍! 各都市から援軍の感謝とマットウ将軍に帰順するとの連絡が入って来ています!」

 ミンラの防衛本部が置かれたマットウ邸の庭では、通信兵からの報告がひっきりなしに入って来ている。

「これは……どうしたことか。援軍とは……」

 マットウは横に控えるテインタンに顔を向ける。
 テインタンもマットウの視線を受けるが、首を傾げた。

「分かりません。一体、何が起こっているのでしょうか。現在、情報収集のために各都市に報告を指示していますが……援軍とは……? 確かに、襲撃された都市以外に駐留している我が同胞には近くの都市の応援に行くようには指示しておりましたが、これらの報告はミレマー全土からのものです。中にはまだ応援が到着していないところもあるはずですし、ミレマー南部は我々の勢力下にはありませんので、応援などは……」

 ミンラの防衛は瑞穂とマリオンの活躍で現在、敵妖魔の大群を駆逐しつつあり、また敵妖魔の増殖が現在、無くなっており、大群ではあるが倒しただけ敵の数は減り、完全に瑞穂を中心とした攻撃部隊は敵妖魔に対し圧倒的優位に戦線を維持している。

「パサウンから連絡! マットウ将軍の応援に感謝! マットウ将軍に帰順を申し出ています。また、ヒロト? へ報告、援軍はとてつもない活躍で敵を駆逐しているとのことです! この……ヒロトとは、暗号か何かでしょうか?」

 その首を傾げた通信兵の報告にマットウもテインタンも大きく目を見開き、ハッとお互いの顔を見合わせた。



 グルワ山中腹にある洞窟から繋がる広大な空洞では、スルトの剣首領ロキアルムが防戦一方になっていた。
 ロキアルムは今、怒り、焦り、疑問、そして、憎しみを増幅させつつ、間断なく自分に攻撃を仕掛けてくる、世界能力者機関のたかがランクDに明らかに苦しめられていた。

(ぬう、忌々しい、小僧が! クッ、こいつは何者なんだ! こいつには幻覚、同化による幻惑が通じん! チッ、召喚の時間を与えないつもりか!)

 祐人はまさに、ロキアルムを徹底的な連撃で召喚士の攻撃方法である召喚を許さない。その戦い方は対召喚士の戦闘を熟知したかのような戦い方だった。
 祐人はステップを踏み、ロキアルムに迫る。それに対しロキアルムは障壁を展開しながら逃げ回るだけの状況を強いられていた。
 そして、徐々に祐人の間断ない攻撃がロキアルムの魔障壁の展開スピードを上回り始めた。
 祐人の愛剣である倚白が一瞬だけ早く、ロキアルムの展開する魔障壁を掻い潜る。

「ハッ……グウ!」

 祐人の倚白がロキアルムの左頬から左耳に至るところまでを浅く切り裂き、その鋭い痛みが走ったのかロキアルムは唸った。無表情に鋭い視線をひたすらロキアルムに送るランクDの少年は、すぐにロキアルムの展開した新たな魔障壁を一刀両断する。

「お前、その程度の痛みに慣れてないのか?」

 祐人はロキアルムを追い詰めながら、見下すように呟く。

「何だと!?」

「その程度の痛みで、足が鈍るんじゃ、お前はどこにも通用しない。偉そうに後方から指示だけしてたんだろ。お前のような下衆にありがちなんだよ、自分が痛まないから、人の痛みも想像できない」

「調子に乗るな、この経験も浅い小僧が! 分かったようなことを!」

 ロキアルムは相変わらず魔障壁を展開しつつ、素早く視線を周りに動かす。
 とにかく、召喚の僅かな時間が欲しい。
 ロキアルムはここでリスクを背負う行動をとることを決心した。本来、ロキアルムは完全に優位で、安全な場所から攻撃をすることが召喚士の戦い方と承知している。だが、今は召喚士にとって分の悪い近接戦闘に持ち込まれた。これでは召喚士の利点を生かしづらい。
 もちろん、円熟した召喚士であるロキアルムは、このような時のための、術はいくつか持っている。しかし、それすらも見越したように祐人は常にロキアルムから半径5メートル以内にピッタリついて来るのだ。
 さすがにこの状況では術の発動は難しい。
 さらに加えて、ロキアルムにはまだ慢心と呼べるものが、心のうちにあった。それは、相手がランクDという下位ランクの少年を相対しているという事実が頭から離れないのだ。
 その僅かに残った慢心がこの状況を招いている理由の一つになっていることは否めない。
 だが、ようやくここに来てロキアルムはその慢心を捨てねば切り抜けられないことを悟り出す。
 それはこのたかがランクDの小僧が放つ、気迫と凄みに自身の命の危険を感じたことが大きい。
 ロキアルムは迫る祐人に魔障壁を展開する同じ仕草で、左腕を前面に出す。祐人もそれに応じてスピードのギアを上げた。
 だが、突如、ロキアルムはその左手から障壁ではなくウィルオウィスプを撃ちだす。祐人はその攻撃にハッとした顔になった。
 ロキアルムは、今、自分が出来る全開のウィルオウィスプの速射で祐人に叩き込みつつ後退し、生意気な劣等能力者に撃ち続けた。

(この小僧が……経験の違いを教えてやる。力押しだけで勝てると思うなよ)

 ロキアルムの不意打ちに見えた攻撃だったが、祐人はウィルオウィスプを倚白で切り裂きつつ躱し、その表情には焦りはない。
 祐人にはロキアルムの行動パターンが魔障壁から魔霊に変わっただけ言うように、ロキアルムを中心に横に走り、ロキアルムの懐に飛びこむタイミングを計っているようだった。

(小憎らしいほど冷静な奴……だが! ククク。未熟よ! 未熟未熟!)

 ロキアルムは移動をしつつ祐人を睨みつつ、僅かに頬を歪めた。
 ロキアルムは待っているのだ。
 この未熟で、生意気な小僧が、顔を歪め、対能力者戦闘の無知をさらし、悔し涙を流しながら、ロキアルムの靴の裏に顔を踏まれつつ絶命するという、その姿を見せる時を。
 ロキアルムは祐人の動きを精密に見極めつつ、祐人から自然に離脱するようにウィルオウィスプを放ち続ける。

(ハッハー! よし! 我が策は成る!)

 ロキアルムが仕掛けようとしたその時……突然、祐人は移動を止める。

(ハッ、何?)

 祐人は迫るウィルオウィスプを目にも止まらぬ動きをする倚白を握った右手だけで切り裂き、そのまま足を振り上げ、地面をけり飛ばした。
 祐人が蹴り飛ばしたところにある、石と泥が礫になってロキアルムの左手と体を打ちつけ、ロキアルムは仰け反ってしまう。

「下らないな、お前は」

「何!?」

「そこ! そこ! それと、そこ!」

 祐人は正面を向きながら倚白で、自身の右斜め後方、左斜め後方上部、そして、正面上部を指す。
 ロキアルムは、一瞬、何を言っているのかと思うが、その祐人の指した方向を見て驚愕の相を見せる。

「何か仕掛けてるんだろう? お前は、僕をそれらが死角になるような地点に誘導してたね。あのね……それをするなら、そんな分かりやすく、視線と表情を見せないでよ。戦ってる、こっちが恥ずかしくなる」

「な!」

「もういい……終わらす。お前に教えてやる! お前がこのミレマーでやったように、お前の計画に興味もなく、何の関係もない僕に、ただ、倒される無念さを! それを知ってこのミレマーの地で果てろ!」

 祐人から仙闘気が吹き上がる。祐人が倚白を構え、ロキアルムですら、悪寒の走る鋭い眼光で睨む。
 ロキアルムは無意識に後退る。

「き、貴様の目的は何だ!? 何故、ここまで私に刃を向ける! 私を倒して、お前に何の得があるというのだ!」

「馬鹿なのか? あんたは。さっき言っただろうが……僕がここに来たのに僕自身の目的なんかない。僕は偽善と酔狂でお前を倒しに来たんだ!」

 祐人の闘気が爆発する。
 ロキアルムの視界を覆い尽さんばかりの、闘気。

(こ、これは!? まさか! 仙氣か! こいつは道士だったのか! まずい! まずいまずいまずい!)

 祐人はロキアルムと自身を含む、一帯を仙闘気の爆風のような気風を放ち、気付けば、ロキアルムの眼前に現れた。

「な! 見えな……!」

「仙氣闘斬!」

 祐人の気迫の咆哮を耳にし、ロキアルムは視界の上下がひっくり返ったことに、認識が追いつかない。
 今、何故か下方に祐人の顎が見える。
 ロキアルムはその場に立つ下半身だけを残し、上半身を地面に落とした。
 ロキアルムは洞窟内の冷たい地面を後頭部に感じ、ようやく自分の状態を理解する。

「……か!」

 ロキアルムは気道から込みあがる大量の血を吐いた。
 今、自分を冷たい表情で見下ろす少年の視線と交差する。
 このような状態でもロキアルムは、中々、その命は絶えない。戦闘の時から祐人は感じていたが、やはり、そのロキアルムの体は半分、妖魔のものであることが分かった。
 祐人はつまらないものを見るような顔をし、未だ各都市の状況を映しだしているミズガルドに目を移した。

「ヒ! ヒヒ? ヤラレタ? ロキアルムザマ、ヤラレタ? ヒヒ!」

 祐人はミズガルドに向かい、倚白を構える。
 ロキアルムは薄れゆく視界にミズガルドに迫る祐人が入った。
 祐人はあらぬ方向を見続けるミズガルドの背後に立つ。
 ロキアルムはこの時、弱弱しい動きの左手で、自分の胸の辺りをまさぐる。
 そして、そのローブの切れ目から羊皮紙を握りしめた。
 祐人はゆったりとした構えで、倚白を自身の仙氣で包み込む。
 ロキアルムはもう目を開けど視界は暗くなり始め、何も感じられなくなっていった。
 そのミズガルドを間合いに入れた祐人は気迫を放つ。

「はああ!」



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