魔界帰りの劣等能力者

たすろう

偽善と酔狂の劣等能力者②

 瑞穂とマリオンに祐人の記憶が戻ったことを伝えられた後、祐人たち3人は兵たちが慌ただしい動きをしている中、マットウ邸の応接室に移動した。
 応接室に入り、祐人たちはソファーに対面で座ると、祐人が最初に口を開いた。

「瑞穂さん、マリオンさん、きっと僕に色々と聞きたい事があるとは思うんだけど……ごめん、すべては言えない。でも二人には僕のことで伝えられることを全部伝えるね。それと今から言うことは出来る限り内密にしてほしいんだ」

 祐人のその言葉に瑞穂とマリオンはただ頷いた。

「いいわ、私の家である四天寺家だってすべてを伝えられないところがあるわ。それはどこの能力者にもあることよ」

「そうですね……。ただ、今回の私たちの記憶から祐人さんの存在がすべて消えたことにも関係するんですよね?」

 祐人はマリオンの当然の疑問に頷くと……二人の顔を見た。

「僕は天然能力者じゃない。僕の家も能力者の家系なんだ。事情があってこのことは秘匿してるんだけど」

 瑞穂とマリオンは祐人の話に聞き入る。
 そして、このことに関して二人は驚かなかった。それは何となく瑞穂もマリオンも感じていたからだ。祐人の持つ人外や能力者に対する知識やその戦い方は天然能力者と言うにはあまりに洗練されているものだった。
 そして二人は、それは実戦から手に入れたものであろうことも、薄々感じている。
 どこでそれだけの経験を積んだのかはさすがに想像もつかなかったが。
 祐人は瑞穂とマリオンに伝えられる限りのことを伝えた。

 自分には霊力と魔力が両方とも内包されていること。
 また、魔力だけ封印が施されていること。
 そのためか霊力が、ただ漏れ出る特異体質になってしまったという経緯。
 そして、祐人は同じ能力者であるこの二人の少女を信じ、自分が仙道使い……道士であることも伝え、その霊力、魔力に反発しない仙氣の特性をヒントに霊力魔力の同時行使を覚えたことも話した。
 この霊力、魔力の同時行使で他人から忘却されるという反動も含め。
 堂杜家の管理物件や魔來窟の向こう側、魔界についてはどうしても言うことは出来なかったが、伝えられることは伝えた。
 瑞穂とマリオンは祐人の話を聞き、驚愕し、深刻な表情をした。

「ちょっともう、あなたの話……すべてがまともじゃなくて、言葉が出てこないわ……」

「こ、こんなことが……。しかも仙道……聞いたことはありますが本当に存在していたんですね……」

「いやまあ、とんだジジイたち……人たちで、一生、会わないに越したことはないよ? いや、本当に」

 瑞穂は祐人にどうしても確認したいがあった。

「さっきの話だけど……祐人は、霊力、魔力の同時行使……今までにあの力を数回使っているのね?」

「え? う、うん……」

「そう……じゃあ、その度にみんなに忘れられてきたの? 新人試験の時のように……」

 祐人は瑞穂の言葉に真剣な顔を作る。

「うん……」

「……」
「……」

 瑞穂とマリオンは祐人を気遣うように見つめてしまう。
 この少年はそんな犠牲を払ってまで、あの力を使うのは何故なのか?
 前回の新人試験の時だって、祐人にとって得なことは何もない。事実、直接的にその命を救われた自分たちにも忘れられていたのだ。
 祐人をそこまでさせる……祐人を突き動かすものは何なのか?
 だが、瑞穂とマリオンは今回の依頼での祐人の考えや行動、そして、思い出した新人試験の時の祐人を考えて……この少年の性格や性情が何となく分かってきている。
 瑞穂とマリオンは祐人を心配と一抹の不安を含めた視線で見つめる。
 今の瑞穂とマリオンには見えてしまうのだ。
 この少年は……祐人が必要と考えれば、きっと躊躇わずにあの力を使うだろうと、その代償に誰からも忘れられてしまうとしてもだ。

「祐人さん……」

「うん? 何? マリオンさん」

「あの力を使った時には、必ず全員忘れてしまうんですか? その……例外はないんでしょうか?」

 マリオンは静かだが、祐人に迫るように聞いてくる。
 祐人はマリオンにそれを言われると、心の中で掛け替えのなかった人たち……また、現在、掛け替えのない人たちを思い浮かべた。

「例外……うん、親族を除けば、少数だけど僕を思い出した人たちがいたよ……」

 それを聞き、瑞穂とマリオンは心なしか明るい表情になる。

「それと……二人だけ、一度も僕を忘れなかった人がいるかな……」

「え!? それは? どんな人たちなんですか?」

「うん……一人は、もういない……」

「……」「……」

 瑞穂とマリオンは口を閉ざす。なぜなら、それを言う祐人の目が一瞬、遠くを見つめたように見えたからだ。気のせいかもしれないが……一瞬、祐人の心がここに存在しないような不安を覚えた。
 そして、瑞穂とマリオンはその人物に心当たりがあった。それは、新人試験の時にサトリ能力を身につけた吸血鬼が言っていた……祐人が失った最愛の人……という言葉。
 2人は恐らく、その人のことだと確信してしまう。
 しばらくの沈黙の後、瑞穂はもう一人の存在が気になる。

「祐人、もう一人は? あなたの性格と家のことを想像すると親族か何か?」

「うん? いや、もう一人は同級生だよ。同じ学校に通う」

「は?」
「同級生?」

 瑞穂とマリオンが祐人から想像もできない日常を垣間見たのと同時に、この二人の少女にどうしても確認しなくてはならないことが、寸分たがわず同時に思い浮かんだ。

「それは女?」
「その人は女性ですか?」

 何故か、瑞穂とマリオンから表情が消えたように見えて、祐人は背中が冷たくなる。二人の目が影で消えているような……。

「え? あ、うん……そうだけど……あ、幼馴染みたいなもんだから、付き合いも長くて! それで覚えていたんじゃないかと」

 突然、瑞穂とマリオンから霊力が吹き上がる。

「ヒッ!」

「へー、幼馴染ね……」
「ふーん、そうですか……幼馴染」

 祐人は二人から吹き上がった闇オーラ(霊力)がバーストしたことで、どんな戦場でも臆したことのない体が自然と震えだした。

「祐人!」
「祐人さん!」

「はひ!」

「この依頼が終わったら、あなたの連絡先を必ず、私たちに教えなさい。あと、学校等の詳細な情報も……ね。フフフ……」

「え!? 何で? それは連絡先は分かるけど、学校のことまで?」

「フフフ……祐人さん? ……何か不都合でも?」

「のわ! ないです! この依頼終了後にレポートで詳細に報告します!」

 最近、普段優しいマリオンの微笑みに全く癒されない。

(時折だけど……僕はこの二人が怖いよ!)

 ガタガタ震えてソファーにしがみつく祐人。
 祐人は何とか心を落ち着けて、瑞穂とマリオンにどうしても言いたいことがあったので、まだ、腕を組み、目を閉じながら笑っている二人に勇気を振り絞って声をかけた。

「瑞穂さん、マリオンさん……」

 祐人に真剣な顔で話し掛けられ、瑞穂とマリオンは祐人に顔を向けた。

「なんて言っていいか分からないんだけど……僕の正直な気持ちを二人に伝えるね」

「え?」
「それは?」

 ちょっと、緊張したような顔になる瑞穂とマリオン。

「僕を思い出してくれて……ありがとう」

「あ……」
「……」

「瑞穂さんとマリオンさんが初めてなんだ……僕をこんな形で思い出してくれたのは」

 瑞穂とマリオンは頭を下げた祐人を複雑な心持で見つめる。
 二人はお礼をされることは何もしていないと強く思うのだが、この祐人を取り巻く状況を考えれば、これが祐人の本音でもあるのだろうと思う。
 でもそれでは、あまりに……と二人は目を細めた。
 そして、祐人の言っていることが分からない。
 こんな形で、というのは?

「今までも僕を忘れて、思い出してくれた人たちはいるんだ。でも、それは皆、僕を忘れなかった人たちと関わることで僕を思い出してくれたんだ。もちろん、僕にとって、それも含めてとても有難かった……」

 祐人は瑞穂とマリオンを交互に見つめる。

「でも、そういったこともなく自分から……瑞穂さんとマリオンさんのように、自然と僕を思い出してくれたのは……二人が初めてだった。だから、僕は今日、二人から勇気をもらったんだ! 僕は誰に頼らなくても人と繋がっていけるって! 僕はもっと努力をしていくよ、みんなに忘れられないように!」

 その祐人の真剣な眼差しを瑞穂とマリオンは暫く、見つめ……二人はフッと笑う。

「馬鹿ね……祐人は」
「馬鹿です、祐人さんは」

「え?」

「祐人、私も人との付き合いが苦手だから、偉そうなことは言えないけど……」

「祐人さん、私も人見知りをしてしまう方ですけど……」

 瑞穂とマリオンは優しく微笑した。祐人は二人のこの微笑に、鼓動が跳ねて無意識に頬を赤らめてしまう。

「それは当たり前のことなのよ? 祐人」

「祐人さんの言うそれは、当然のことだと私でも知っています」

 瑞穂とマリオンを驚くように見つめる祐人。

「だから、あなたはそのままでいなさい。さっき、言ったでしょう? 私たちは祐人がしたいことをしていいって。それは今までのあなたの行動が、私たちにそう思わせたのよ」

「そうです。祐人さんはもっと自信を持って下さい。誰だって会ったことがある人を忘れることだってあります。祐人さんのは、それがちょっと極端なだけです。会った時から覚えていたり、すぐに思い出して繋がるのは、それはその人との縁によるものです。私たちは祐人さんと縁があったんですよ、きっと。他の普通の人たちが新しい出会いでお互いに繋がるのと同じように……。だから、祐人さんは今まで通りでいいです」

 瑞穂とマリオンの言葉に祐人はハッとしたように、二人を見つめた。
 今、祐人の前に魔界で出会ったリーゼロッテの笑顔が……二人に重なる。
 だが、祐人は激しくかぶりを振った。

(瑞穂さんとマリオンさんは、瑞穂さんとマリオンさんだ。リーゼロッテとは違う。この二人は僕と、それぞれに繋がってくれた友人なんだ……そう、それは掛け替えのない)

「まったく……これぐらいで泣くんじゃないわよ、祐人」

「え!? あれ? ち、違うよ! これは目に……」

「ふふふ、はい、祐人さん。これで目のゴミを取ってください」

 瑞穂は呆れた感じで言い、マリオンが笑いながらハンカチを祐人に差し出した。

 そして、二人は祐人の話にまだ聞きたいこともあったろうが、それ以上のことを聞いてはこなかった。
 ただ、二人はこれからどうするか、答えが決まったら瑞穂とマリオンの部屋に来るようにとだけ言われた。
 交代するSSランクの能力者が到着次第で祐人たちの任務は終了してしまう。
 だが、それまでは祐人たちにはここにいる理由がある。
 その間に決めなさい、と瑞穂は祐人に言った。
 その瑞穂の表情は何かを見透かしたようにも見えるものでもあったが……。


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