魔界帰りの劣等能力者

たすろう

結ばれた丘(ニイナの丘)⑦

 丘の頂上でマットウたちが合流したマリオンと瑞穂と力を合わせ奮戦している。マリオンの敵妖魔の攻撃の無力化と瑞穂のガーゴイルに集中した攻撃とで何とか生き残る希望が増したところに、テインタンが大きな声で朗報を伝える。

「マットウ将軍、援軍です! 我が部隊の第一陣が到着しました!」

「おお! 来たか! 全員聞け! 援軍だ! グアランの部隊のものは交代の準備をしろ! でも、まだ気を抜くなよ!」

「おお!」

 そのマットウの言葉に疲れ切ったグアランの部隊は喜びに顔をほころばせる。
 そして、丘の頂上にその待ちわびた援軍が到着した。その到着した部隊の隊長は軍用ジープを降り、マットウに報告のため走って近寄ってくる。
 だが、その顔は必死な形相だ。マットウはその表情に嫌な予感を覚えたが、その報告は想像を絶するものだった。

「将軍、緊急事態です! 現在、ミンラに向かい多数の化け物どもが向かっております! 今すぐミンラへの帰還を! ここは私たちが受け持ちます!」

「な! 何だと!」

「そ、それだけではありません! 現在、詳細は分かりませんが、ミレマー国内の主要都市にこれと似たような情報が流れてきています! 今、首都ネーピーの軍部ではこの事態へ対処のために大混乱をきたしているようです!」

 悲鳴のような報告にマットウは驚愕する。

「ば、馬鹿な! 何故、カリグダのいるネーピーにまで! 何が起こっている! あいつらの狙いは私ではないのか!」

「わ、分かりません!! ですが、今はミンラに戻り迎撃の準備を!!」

 瑞穂とマリオンはその信じられない報告に驚き、さすがに一瞬、信じていいものなのか判断がつかなかった。瑞穂は正直、この報告に対し、どうしていいか分からない。取りあえずはマットウの護衛なのは変わらないが、もはや起きている事態のスケールが大きすぎる。そこにマリオンが瑞穂に声をかける。

「瑞穂さん! 祐人さんにこのことを伝えて下さい! 祐人さんなら何か!」

 そう言われると、瑞穂もその方が良いように感じられる。何故だかは分からない。でも、この時、自分たちよりも頼れるのはこの少年しかいないと思うのだ。

「分かったわ! 祐人! 大変よ! ……」

 マリオンも本当はどうしていいかなんて分かってはいなかった。それほどの信じられない報告なのだ。だが、マリオンがこのことに対し、考えを巡らそうとしたとき、すぐに頭に浮かんだのが、あの普段は優しい、そして頼りない印象の少年だったのだ……。
 今、瑞穂とマリオンの二人は、このミレマーを襲っている未曾有の事態にも、最後の段階で混乱をきたすことはなかった。
 それは、何故か分からない。
 だが、この二人の気持ちは一致していた。

(祐人なら!)(祐人さんなら!)

 何か道を示してくれる、と。

 祐人は瑞穂の風から、事実であればミレマーを襲う恐るべき事態を聞いた。
 祐人はまったく疲れを見せない舞で敵をなぎ倒していきながら、顔色を変えてとにかく対処を考える。
 陸地にいる敵妖魔の大多数を祐人の働きで倒した。あと厄介なのは僅かに残る上空のガーゴイルだと考える。

「瑞穂さん! 今からそっちに行く! みんなに全弾、撃ち尽くすつもりで火力を集中させて!」

「分かったわ!」

 そう言うと、祐人は目の前の妖魔を一刀両断し、味方からの銃撃の中を猛スピードで丘の上に戻ってきた。
 これを当たり前のようにこなす祐人に瑞穂とマリオンは驚きを隠せない。能力者といえど、この乱戦で銃撃を避けながら難なく戻って来られる能力者なんて一体、如何ほどいるのか? と思うからだ。
 瑞穂とマリオンは祐人を機関が認定したランクDという、評価で祐人を見ることを完全に放棄した。
 瑞穂でさえ、この少年を……一対一で相手すれば、ランクAの自分たちでも敵わないだろうことを素直に受け入れる。
 祐人は到着するとすぐに、瑞穂、マリオン、テインタンに意見を出す。

「提案だけど、このままの撤退にはあのガーゴイルが邪魔だよ。だから、まず二人はあのガーゴイルを先に殲滅して。殲滅後、すぐにマットウ将軍とミンラに戻るんだ。もちろん、援軍も含め、全員撤退をしてもらう。ミンラが危ないならもうここに留まる理由はない。現地に着いたら、マリオンさんはマットウさんの護衛に、瑞穂さんは機関に連絡。ひょっとしたら既に何か掴んでいるかもしれない、マットウさんの屋敷なら国際電話も出来るはずだから」

「分かったわ」

 そう言い、三人とも頷く。瑞穂とマリオンは祐人の話を提案とは捉えていない。まるで指示を受けたように素直に承諾した。

「祐人さんはどうするんですか?」

「僕は撤退の援護をする。ガーゴイルさえいなければ僕だけで何とでもなる!」

「そんな! 危険です! だいぶ減らしましたが、まだまだ、敵は多いですよ! 地上の妖魔もまだ山林から湧いて出てきています!」

「僕は大丈夫。そちらが安全圏にでたと思ったら、僕もミンラに戻るから。僕の足ならさほどタイムラグなくミンラで合流できる。それにもう考えている暇はないよ! ガーゴイルを早急にお願い!」

 こんな簡単な事ではないのだ。この少年だから出来る大雑把な作戦。
 だが、この少年が出来ると言えば出来るはずだ、と瑞穂とマリオンは思う。
 瑞穂とマリオンは残り十数体にまで撃ち減らしたガーゴイルに狙いを絞り、術を発動。
 この間にテインタンはマットウとグアランの兵たちに撤退準備を指示した。
 マットウは車に乗り込みながら、敵妖魔に睨みをきかせている少年を見つめる。

「祐人君は……」

「大丈夫です! 将軍! 彼はすぐに我々の後を追ってきます」

「……分かった」

 マットウは自分たちのために敵を引きつけ、いまだに最前線に身を置いている少年の背中を、心に刻むように見て車に乗り込んだ。

「祐人! ガーゴイルをやったわ!」

 敵妖魔の先陣をきる者から徹底的に潰している祐人は返事をする。

「分かった! じゃあ、皆さんも撤退してください!」

 祐人の合図で、全員が車両に乗り込み撤退が始まる。祐人は残り、この車両に近づくことを全く許さない。常に車両と妖魔との間に移動しつつ、愛剣を振り続ける。車両群は丘を下り、ミンラへの道へ出てきた。後はミンラに急ぐだけだ。
 だが、その最後のところで、ミンラへ続く道と丘の境目の山林から撤退部隊を逃さんとばかりに、多数の妖魔が出現する。

「まさか! こんなところにまで!?」

 瑞穂とマリオンがとっさに車から降り、敵に対処しようとしたその時、道上に現れた妖魔たちは細切れにされた。
 この状況を丘から把握していた祐人が援護に来たのだ。突然、その場に現れた祐人は振り向くと笑顔を見せる。

「早く行って、瑞穂さん、マリオンさん。ここは僕に任せればいい!」

「「え!?」」

 その祐人の姿に瑞穂とマリオンに衝撃が走った。
 己を盾にし、自分たちを逃そうとする、この頼もしい背中と安心感を与える笑顔……。
  この時……このような状況をどこかで絶対に見たことがあると、2人は確信させられたのだ。
  今までにもあったこのむず痒さ……。
  だが、今回は違う。
  瑞穂とマリオンにその明らかな実感が湧き上がった。

(これと同じようなことが、確かにあったわ……。ええ、間違いなくあった ……どこで私はこの場面を)

(あの笑顔に……私はあの背中に救われたことがある!  それはきっとあった……いつなの?  あ、新人……試験?)

 2人の少女の自分の中にある靄のかかった記憶の中の映像や心がクリアになっていく。そして、今までもあった既視感が、自分に対する祐人への不可思議な気持ちや疑問が……繋がる。

 祐人の横を軍の車両は通り抜け、兵たちは全員祐人に敬礼をした。中には涙を流している者もいる。
 瑞穂とマリオンはその祐人の横を通り抜ける時、衝動的に二人して大きな軍用車両の窓から上半身を出して祐人に大きな声で怒鳴る。

「祐人!」「祐人さん!」

 祐人はこんな時に何事かと瑞穂とマリオンの方を見る。すると、二人は声を合わせるように祐人に言う。

「ミンラで合流したら、話があるから!」
「そうです! 話しがあります!」

「え!  なんの話!?」

 大きな声で祐人が聞き返すと、既に祐人を通り過ぎた車両から相変わらず上半身を出している瑞穂とマリオンが大きな声で応える。

「主に説教よ!」
「主に説教です!」

「えーーーー! なんで!? 何かした? 僕!?」

「だから早く帰って来なさい!」
「早く帰って来なければ許しません!」

「わ、分かった! (よく分からないけど……これ以上怒られるのは嫌だし)」

 その祐人の返事に満足したように、瑞穂とマリオンはシートに腰を下ろした。
 瑞穂はこの苦難の前にも関わらず、こんなにも自分の心が躍っていることに驚く。そして、横にいるマリオンの顔を窺うように見た。

「マリオン、あなた思い出したんでしょう?」

「な、何のことですか?」

 マリオンは必死に冷静そうに嘯く。

「ふふん、隠しても無駄よ。だって、あなた……今、笑ってるじゃない」

「え!? でも、瑞穂さんだって!」

 瑞穂はマリオンの言葉を否定せずに、大人びた微笑を見せた。

「ねえ、マリオン覚えてる? 病室での話」

 この瑞穂の質問にマリオンも少女らしからぬ大人びた微笑を返す。

「……はい、もちろん」

 二人は目を合わせて、満足そうにうなずいた。

「マリオン、私ね、今はどんな敵が来ても負ける気がしないわ」

「奇遇ですね。私もです」

「ミンラに来る大群の妖魔? ふざけんるんじゃないわよ!」

「はい! 冗談じゃないです!」

「「今の私たちを邪魔する敵は……」」

「徹底的に潰す!」
「潰します!」

「「「ひ!」」」

 少女二人から上がる猛烈な闘志に、同乗する兵たちから軽い悲鳴が上がった。



 その頃、ミレマーの北部にある山々の一角の中にあるグルワ山の中腹にある洞窟の奥から、正気とは思えない狂喜した人間の声が響き渡っていた。

「おおおお! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 無尽蔵の魔力がこの体から湧き上がる! ハッハッハー! 想像以上だ! いくらでも召喚出来る! 見ていろ! この私が! このロキアルムがこの世界の常識を破壊するその瞬間を! もうすぐだ、待っていろ、機関の軟弱な者ども! ミレマーの惨状が、すぐに世界中に広がる様を!」

 洞窟の中で松明だけの薄暗い明かりの中で、狂喜で涙を流し、魔法陣の中央に仁王立ちしている老人の高笑いが洞窟中に反響している。
 そして……その足元には祐人たちを苦しめたニーズベックが瞳孔を開かせ、口から流れていたであろう血の跡は既に渇き、ロキアルムの笑い声の反響音の振動でポロポロと小さな瘡蓋かさぶたを地面に落としていた。



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