魔界帰りの劣等能力者

たすろう

結ばれた丘(ニイナの丘)③

「グアラン閣下! ここは引いて下さい!」

「ガルバン! 私はいい! それよりも若い連中を先に下がらせるのだ!」

 グアランは敵の異形の化け物どもを前に、軍人時代からの信頼のおける老兵でもある、ガルバンに大声を張り上げた。グアラン自身もマシンガンを放ちつつ、部下とともに徐々に後退していく。

(ロキアルムめ……何のためにこのような真似を!)



 グアラン一行は首都ネーピーを深夜に脱出し、危機一髪でカリグダの派遣したグアランを捕らえるためのカリグダ直属のMPたちをやり過ごすことに成功した。
 その後は、カリグダからの命令が各所に回り、散発的に戦闘が行われたがグアランも以前から手をこまねいていた訳ではない。こういった事態に対処するために、自分の親派を各関所となるところに配属させていた。
 これは本来、最悪の場合を想定し、マットウとカリグダが全面的に衝突する際に工作が出来るよう放っていた者たちだった。その者たちが、今はグアランとグアランの直属の忠誠心の厚い配下たちをミンラに逃すよう各々が動いてくれたおかげで、ミンラ近くまで最小限の被害で来ることが出来た。

 そのミンラに十数キロという山道で、グアランとグアランに付き従う兵たちは、どこからか耳に響く、不愉快でゾッとするような得体の知れない声に慄く。

“ククク、グアラン閣下……何ともネズミと呼ぶに相応しい、ありさまですな”

「こ、これは!? 何だ?」

 グアランはこの不可思議な現象に驚き、軍用トラックから辺りを見回す。他の兵たちも同様で、一体何だ?  と、この耳障りな声に動揺が走った。

“あなたのお蔭で、マットウ暗殺も我々の新しい根拠地になるグルワ山の土地の入手も随分と手こずらせてもらった。今からそのお礼も含めての実験をさせて頂こう”

「グルワ山だと……貴様は、ロキアルムか!」

“閣下、ここは素晴らしいですよ! あなたがいなければもっと早く手に入れることが出来たんですが。さあ、受け取りなさい! 我が弟子の血肉を使って召喚した数多の妖魔、魔獣、異形の化け物どもがあの世まで閣下とお供するでしょう”

「弟子の血肉だと? 貴様は……」

“ハッハッハー! これで実験が成功すれば、私の忠義に厚い愛弟子を失った心の痛みも含め、ミレマーの各都市に数千の異形を送り込むことにしましょう! あのカリグダという豚にもお礼がしたいですしね! あの豚もミレマーと共に沈むのならば本望でしょう!”

「何だと!? 貴様、このミレマーをどうするつもりだ! 貴様のそれに何の意味がある! 弟子を殺してまで何を望む! 貴様は、それでも人の心を持っているのか!? 答えろ!」

“私も弟子の忠義の死には心を痛めていると申し上げましたでしょう。ククク、ミレマーの滅亡はただの足がかりですよ、特に我々にとってそれがミレマーである意味はありません。では、さらばです、閣下、ミレマーも国ごとあなたの後を追う。あの世でマットウのごとき、ごろつきと一緒に政治ごっこを続けるがよろしいでしょう!”

「待て! ロキアルム! 貴様は! ハッ! 来るぞ、ガルバン! 戦闘準備! ここを切り抜けるぞ、何としてもミンラに行かねばならん!」

「ハッ! 閣下! お前ら怯むなよ! これぐらいの化け物どもなんぞ何とでもなる! 聞けばマットウ将軍も何度もこんな危機を乗り切ったと言うではないか! それで我々が切り抜けられないわけがない!」

「「「おおー!!」」」

 歴戦の古豪であるガルバンが一喝すると、兵たちの士気は上がり、雄叫びを上げる。
 グアランの部隊の左右の木々から数えきれないほどの、魔獣や妖魔の目が光った。

「行け! ミンラに向けて走り抜けろ!」

 ガルバンの指揮に各軍用車はアクセルを踏み込んだ。その後、グアランの部隊はなんとかマットウと約束した丘の至近まで到達したのだった。



「グアラン閣下! 早く我らとお引き下さい!」

 グアランとガルバンの部隊が魔獣に向かい、火力を集中している背後からミレマーの若い男女の兵士たちが、大声を張り上げる。
 グアランはその兵士たちに振り向くと普段は冷静なグアランが烈火の怒りを込めた顔で怒鳴りつけた。

「この馬鹿者ども!! お前らは先にあの丘へ向かえと言ったはずだ! あそこにマットウが迎えに来る! あいつが来るまで密集体系で死角を作らず時間を稼いでマットウと合流するのだ! 急げ!」

 あまりのグアランの激高にその若い兵たちは肩を縮めるが、それでも涙目になり食い下がる。

「でも閣下が! このままでは閣下の御身が!」

「黙れ!」

 グアランは目をつり上げ、そして突然、その若い兵たちの一人の頬をその拳で張り倒した。

「よく聞け! ひよっこども! お前たちにはこのグアラン・セス・イェンが数年をかけて私のすべてを伝えた! お前らはこのミレマーの明日を担うんだ! お前らの戦いはここではない! それが何故、分からんのか! お前らにはもっと苦しい戦いを用意したのだ! その時に私に恨みごとを言いつつ働けるように!」

「グアラン閣下……」

「いいから行け! お前らはマットウの甘ちゃんが新政権を立ち上げたときに必ず起こる政治の混乱時を支える貴重な知識と知恵があるはずだ。ササン! コマデーン! エスリアイン! マウンサン! お前らは私の分身である! いや、私を超えるのだ! そして、ミレマーのために、決してその命を無駄にすること罷りならん!」

 この5人の男女の若者は、それぞれ貧しい出であったが、グアランに見いだされ常にグアランのそばに仕えたグアランの愛弟子とも言える者たちだった。そして中には既に親兄弟のいない身寄りのない者もいた。
 この若者たちにとってグアランは実の父親と並ぶ厳父とも言え、グアランの厳しい中にある優しさや愛情を肌で感じている者たちでもあった。

 グアランの厳しい眼差しを受けた5人のミレマーの若者は、涙を拭き敬礼をする。

「承知しました。我々は先に行きます、閣下も急がれますよう!」

「うむ、分かった。さあ行け!」

「「「「「はい!」」」」」

 その若者たちは、体を翻すと全力で走り、グアランの言った丘に向かい走り出す。
 そして、その若者たちは顔を涙で濡らし、この時のグアランの言葉をその心に刻みこんだ。
 その走り去る若者たちを見つめ、グアランは頷き、横で隊を指揮する戦友に声をかける。

「ガルバン!」

「はい、閣下!」

「あいつらに数名、護衛を!」

「ハッハッハー! ここが手薄になりますが! 閣下!」

「構わん! 先行投資だ! 十二分に価値がある!」

「ハッ! 甘いなあ! 閣下は! おい、お前!」

 ガルバンの前でサブマシンガンを乱射している兵に声をかけた。

「はい!」

「貴様は何歳だ!」

「今年で25歳になります!」

「そうか! お前とお前! 25歳以下の兵を連れてあの丘に向かえ!」

「は!? 今なんと?」

「ここは年齢制限を設けた! お前らでは荷が重い! とっとと行け!」

「は、はい!」

 ガルバンはそう言うと兵の前列に並び、古参の兵たちと銃を乱射する。
 そのガルバンを見てフッと笑ったグアランもそのガルバンの横に並び、前方から来る魔狼にマシンガンを叩きつけた。

「お前に言われる筋合いはないがな!」



 マットウたちを乗せた車は丘の麓にまで来ていた。
 マットウは丘を駆け上がるグアランの兵らしき人影を確認すると、テインタンに叫ぶ。

「テインタン! このまま、あの丘の上に駆け上がれ! この車であいつらの死角の防御壁にする!」

「はい!」

 テインタンはアクセルをベタ踏みして丘の頂上に車を走らした。

「祐人君!」

「はい!」

「ここはまだしばらくは大丈夫だ! 頼む! 申し訳ないが我が半身、グアランの援護を!」

 正直、祐人はマットウの傍を離れたくはない。だが、マットウのそのお願いを今は拒めなかった。周囲を確認し、マットウの状況判断も間違えてもいないとも考える。

「分かりました!」

 そう言うと、祐人は猛スピードで丘を駆け上がる車から、異常な跳躍で飛び出し、銃声の鳴り止まない山林へ飛び込み、その姿を消した。


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