魔界帰りの劣等能力者

たすろう

結ばれた丘(ニイナの丘)

 祐人は昼食を済ませると、予定通りにマットウと出掛けるため、屋敷の玄関の前にやって来た。すでに、車が用意されており、その車の後部座席にマットウと一緒に乗車した。
 乗車して祐人は運転手を何気なく見たところ、思わず驚いてしまう。そこには二日ぶりに見たマットウの護衛隊長であるテインタンがいた。

「テインタンさん! もうお身体は大丈夫なのですか?」

「はい、堂杜様。シュリアン様のお蔭で体もスッキリしています。元々、体に負担をかけていたわけではないので……この度は本当にご迷惑をおかけしました。それに、今は私も寝込んでいる場合ではありませんから」

 マットウは走り出した車の後部座席の背もたれに体を預ける

「テインタンには申し訳ないと思っているのだが、今日のこれにはテインタン以外に連れて行ける者がなくてね」

 祐人はマットウのその言いように、真剣な顔になる。
  暫くして祐人は意を決したように、マットウに話し掛けた。

「マットウ将軍……今日のこれは、ひょっとしてすごい重要な……」

「うむ……これから、ある人物に会いに行く。いや、迎えに行くと言った方が正解かな?」

 祐人はマットウの横顔を見た。実は祐人は、マットウの言うその人物に心当たりがあるが、何故、今? という考えが頭を巡る。そして、本当にこの辺りにまで来ているのか? とも思う。

「ふふふ、その顔は何か掴んでいるような顔だな、祐人君。君も……いや、機関の方かな? 中々、侮れない情報網だな。まあ、能力者たちというのは、我々の思いもよらない方法を持っているのかね?」

「え! いや、そういう訳では……」

 マットウのその見透かしたような、発言に祐人は驚くが、祐人にとって隠しておいて得になる話でもない。それに、間違っている可能性もある。

「マットウ将軍、ある人物とは……グアラン首相ですか?」

 祐人がそう言うと、運転席にいるテインタンの顔が強張り、肩がピクッと反応する。

「まさか、そこまでご存じとは……」

 テインタンが呟くと、マットウは静かに苦笑いを見せた。

「ああ、そうだ。私の生涯の親友であり、私の半身でもある男だ。よく、分かったものだ、こちらに来て一週間も経っていないというのにな。この数年来、誰にも感付かれたことがなかったというのに……」

 当然、祐人は知っていたわけではない。それはすべてガストンからもたらされた情報のおかげで推測できたものだ。

「テインタンさんはご存じだったので?」

「いや、テインタンには今朝、初めて伝えた。こいつの驚きようは、見ていられなかったぞ」

「か、閣下、それはそうです。敵のナンバー2と閣下が繋がっていたなんて、思いもよりませんでした。ですが、そう聞いて、いくつかは合点のいくことも今更ながらあります。それに、今となっては聞かされてなくて良かったです。それを知っていれば、今頃、私は敵にこの情報を漏洩していた可能性が高いですから……」

 最後の方は苦し気に話す、テインタンの肩をマットウは軽くポンポンと叩いた。

「済まないな、テインタン。私も苦しかった。だが、お前に言う、言わずに限らず、これがバレれば、危害が広範囲に及ぶものだった。許してくれ。ただ、これは信じてもらうしかないが、すべてはミレマーのためだった。私とグアランの誓いも、これから行く場所で始まった」

 祐人は居たたまれない空気に、マットウに告げる。

「マットウ将軍、私のさっきの情報は私独自の情報源から手に入れたものです。ですので、このことは機関はもちろん、瑞穂さんたちも知りません」

「そうか、それは良かったというのかな? まあ、今日の夕方にはすべてが明かされることになろう。ただ、ここまで知った二人には先に伝えて置く。今日、我が友を迎えに行くことは、本来の計画にズレが生じたのだよ。本来は我々が合流するのは本当はもっと後だった」

「それは……?」

 祐人はマットウの言葉に嫌な予感がする。

「この計画が軍事政権側に露見した可能性が高いという、グアランから十数年ぶりに連絡があったのだ。あいつが連絡してくるということは、相当、切羽詰まった状況だと思う。取りあえずテインタン、覚悟はしていてくれ、場合によってはカリグダと全面戦争になるかもしれん」

「何を言います、閣下! 我々はとうにその覚悟はできていました!」

「ふふふ、そうか……私とグアランはそれを避けるために、二つの組織に分かれたのだがな……。グアランが影で稼いだ莫大な金を、こちらに流してもらい、今までやってきた。我々の装備もそこから捻出しているのだよ。我々はミレマーの民の支持を得るために、過酷な徴収を民からしたくなかったのでな」

 テインタンはそれを聞くと、目を見開く。

「そうだったのですね……。マットウ将軍が私財を投げうっていたのは存じ上げていましたが……。また、それに感動した有力者たちが、資金援助を申し出てきたお蔭で今があると思っていました」

「いや、それも事実だよ。それで装備品や食料、兵たちの給料も何とかなった。だが、戦争となればそうもいかん。戦争は一大消耗戦だ。それだけの資金力では数か月と持たんのだ。一応、この最悪の事態に備えて、資金はグアランのお蔭で潤沢にはある。だが、本来の私とグアランの計画は、この金を新政権発足時生じるだろう混乱時に民へ提供する生活必需品を用意するためのものだったのだよ。西側諸国にも協力を仰いでな……」

「…………」

「まあ、そんなに心配するな。カリグダの足元も相当揺らいできている。国連での演説がうまく行けば、やり方次第で利に聡い連中がこちら側へ相当数寝返るだろう。まあ、その兆候はすでにあった。実際、グアランに操れているとは知らずに、こちらと通じている上層部も多いのだよ。聞いたら驚く名前も相当数、混じっているぞ、テインタン! はっはっはー!」

 最後は陽気に笑うマットウだが、祐人はマットウが親友の身を案じているに違いないと、考える。

「それで、マットウ将軍、行き場所は?」

「ああ、そんなに遠くではない。このミンラとグアランの故郷であるジーゴンの中間にある、名もない丘だよ。そこでよく幼少のころからグアランと……ニイナの母であるソーナインと遊んだところだ。私たちは三人でそこをニイナの丘と呼んでいた」

「ニイナの丘……。それじゃあ、ニイナさんの名前は……」

「ああ、そこからとった。ニイナという言葉はこの地方の古い言葉で、[結ばれる、結ばれた]という意味があるのだよ」

 祐人は目を瞑った。
 人と人が結ばれた丘……。
 祐人は人と人の繋がりの素晴らしさと嬉しさをよく知っている……。
 そして、この人たちはそこで結ばれたが故に、このミレマーという祖国を良きものに変えようという目的が生まれた。
 また、その後のマットウとグアランの悲壮とも思える覚悟と決心。
 マットウはここで多くは語らなかったが、それは想像するに、ソーナインという女性との別れが、その時のミレマーの二人の男の今後を決定づけたのだろうと想像する。

 今、祐人の心の中に敵の組織、スルトの剣がよぎった。スルトの剣はこれらの人の思いとは別の論理で動いている。そして、この組織の行く先の途上にミレマーの幸せはない。
 今、祐人の心は大きく揺らいでいた。


 この数刻前、マットウの屋敷の3階から、マットウたちが乗った車をニイナは見つめていた。そして、その車が屋敷の敷地過ぎ去るのを見ると、ニイナの護衛のためにニイナの自室に訪れていた瑞穂とマリオンに振り返る。

「瑞穂さん、マリオンさん、お願いがあるの!」

 突然のニイナの申し出に、瑞穂とマリオンは驚いた。

「一体、どうしたの? ニイナさん」

「私を連れて行って欲しいの!」

「今からお出かけですか? 何処に行くんです?」

「名も知れない、大きな木のある丘です。車も用意してありますから、急ぎましょう!」

 ニイナの切実な表情に、瑞穂とマリオンは顔をお互いに見合わせた。


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