魔界帰りの劣等能力者

たすろう

天衣無縫の出陣

「あんの、バルトロのジジイ! よりによって母ちゃんに話を通しやがって!」

「ははは……相手が一枚上手だったね、俊豪」

 王俊豪は空港の自身のプライベートジェットに向かうバスで、その足を大きく投げ出した。そのジーパンの外側からもその鍛えぬかれたと分かる両脚を組む。そしてその俊豪の横にはまだ、あどけなさが残る風貌の少年がタブレットPCを片手に苦笑いをしていた。

「こうなりゃ、すぐにミレマーに行くぞ! リャンシャオ弟弟ディディ!」

「小弟弟は止めてって言ってるでしょう! 俊豪、僕はもう12歳だよ!」

「わあったよ! 小さいんだから、いいじゃねーか」

「今……なんだって? 俊豪」

「あ……な、何でもねーって、亮」

 顔に小さな影を作った亮に、身長185センチを超え、半袖から太い腕をさらした巨躯の俊豪が慌てて手を振る。

(亮は気にしすぎなんだよ。俺といるから余計、可愛らしく見えちまうんだろうからな)

 亮の2倍以上の年上である俊豪が、このあどけない少年には頭の上がらないことがある。
 顔から影がすーと消えた亮は俊豪にタブレットPCの画面を見ながら現状を説明する。

「俊豪、まだ離陸の許可が下りてないよ。俊豪がいきなり飛び込んできたから管制も慌てているみたい」

「はあーん? ふざけんなよ! 何やってんだ、管制ども! 何のためにすぐに来たんだと思ってんだよ。バルトロのジジイがミレマーに先に来たら、獲物を横取りされんだろうが。見え見えなんだよ、あのジジイの考えることなんぞ」

「まあ、獲物のことより……俊豪は、おばさんが怖かったという方が正解だろうけどね。【天衣無縫】もおばさんの前では形無しだから」

「ば! んなわけあるか! この俺に出来高制を吹っかけてきたんだ! これだけ舐めたまねをしてきたことが許せねーんだよ、獲物はすべて俺がやる。一銭も返金しねーからな」

「ははは、確かにまだお金が振り込まれてないのに、俊豪が行動を起こすのは初めてだもんね?」

「いや、2度目だ。前はドルトムントの時だ」

「へえー、そんなこともあったんだ」

「まあ、今回は現地で振り込みを確認した途端に動くぞ!」

「だったら、もう動いちゃえばいいじゃない? 振り込み前に敵を倒しても報酬は無効ってこともないでしょう?」

「いや、そこは譲れねーな。機関を信用してねー訳じゃねーんだ。それを許しちまうのは俺のポリシーに反する」

「もう、こうして行動を起こしてんだから一緒だと思うけどね……」

「いいや、それは違えー。現地にすぐに向かっておくのは今回は出来高制対策だ!」

「まあ、そういうことにしておくよ……。あ、取りあえず、飛行機に乗り込もう。管制には僕から急かすから」

「頼むぜ、亮。それと敵の場所はすぐに分かんのか?」

「それは任せといて、スルトの剣の目的から考えて、あいつらがこんな辺境のミレマーに拘る理由とかは一つしかないもん。恐らく強力な霊地を見つけたんだよ。それに軍事政権側からも情報を取れば、場所の特定はすぐに出来ると思うよ。すでに機関もその辺は動いてるみたいだし、情報の出し渋りはいくらなんでも機関ならしないでしょ」

「はん!  ならいいけどな。まあ、あのバルトロもそこまでセコくねーか。でなきゃ、この【天衣無縫】に依頼なんぞしてこねーだろうからな」

「そりゃね、一応、上手くいった場合のお金は先に振り込むってのは言ってるんだから、払うつもりは間違いなくあるってことだよ。でも、俊豪は高すぎるからね〜、その辺りは機関も苦しいんでしょ?  ふところ的に」

「そこがムカつくんだよ!  俺は金さえ払って貰えれば手は抜かねー。今までもそうだったし、これからもそうだ。でなけりゃ、俺の価値が下がんだろうが!」

「てことは、俊豪を出し抜こうと、軽く本気でいるのかもね、あのバルトロさんは。そうすれば、返金だからね」

「そうはさせるか!  始まったらいきなり全開で行くぞ!  亮!  すぐにスルトの剣とか言う連中を強襲する!  亮はマットウとかいう奴を守ってろ!」

「ははは……これもあのバルトロさんの狙いなら、本当に食えない人だよ」

 俊豪のプライベートジェットはすでに格納庫を出て、エンジンには火を入れてあった。俊豪はぶつくさ言いながら、階段をのぼり、片手には俊豪の体よりも大きい布に覆われた偃月刀を携えている。
 その後ろを困った笑顔を浮かべた少年、王亮がそれに続いた。

 その約1時間後、ようやく管制のOKが出た俊豪を乗せたジェットはミレマーに向けて、中継地であるホーチミンに向け飛び立った。


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