魔界帰りの劣等能力者

たすろう

瑞穂の報告書

 世界能力者機関日本支部支部長の秘書である垣楯志摩の一日は忙しい。
 今日は秘書である志摩にあてがわれたパソコンの前から一歩も離れず過ごしている。時間は23時をまわろうとしていた。
 現在、ようやく落ち着いては来ているが多数来ている依頼を精査し、依頼の緊急度を加味しながら、その案件に相応しい能力者の選定、派遣した先の各能力者の進捗状況、他の支部との情報共有と支部長の参加する会議日程の確保等々とやることは多岐に亘っている。

「札幌の案件は順調ね。北九州のは少し遅れているかしら。ランクFでは少し手こずるのかもしれないけど……今は申し訳ないけど踏ん張ってもらわないと。まだ依頼が残っているし」

 志摩は派遣先の各能力者の報告書に目を通す。一瞬、時計を見て志摩は息をついて温くなったコーヒーに口をつけた。

「ふう、今日はここまで……うん? こんな時間に緊急ホームのメール?」

 パソコンを閉じようとしたところに入って来た、派遣先の能力者から緊急時にのみ使用するホームでのメールに志摩は目を細めた。

「これは……あ、瑞穂さんからだわ。そうか、時差があるのを忘れてたわ。でも緊急って……」

 志摩はメールをクリックして内容の確認をする。
瑞穂たちが扱っている案件は他の支部がどうしても手を回せないと、日本支部に救援を求めてきたアジアの小国ミレマーでのいわゆる管轄外の依頼である。内容は簡単に言うとVIPの護衛であった。
 そこに日本支部所属の能力者たちの中で本来はこの程度の依頼では送らない高位のランクAである瑞穂とマリオンを派遣した案件である。

 その意図はランクAという将来、日本支部の屋台骨になるはずのこの新人2人に経験を積ませておきたいという支部の考えがそこにはあった。
 だが、舞い込んできた情報と齟齬があり、新人といえども高位のランクA2人を悩ます複数の手練れと思われる敵能力者の存在が明らかになった問題案件でもあった。
 そのため、ランクAを二人も派遣している中、瑞穂の要望通り近接戦の得意な能力者でランクDの祐人を派遣した。
 機関としてもランクA2人を派遣しておいて恥は掻けない。
 本来であればもっと高位のランカーを送りたかったが、どうしても都合が出来ず、ランクDとはいえ近接戦で文句のないデータのあった祐人に白羽の矢がたったものだった。

「これは……緊急の調査依頼ね。敵の能力者の名前らしき呼び名が……ニーズベックにロキアルム……? 聞いたことがないわね。でも、その連中がランクAの瑞穂さんとマリオンさんを苦しめた?」

 志摩はその瑞穂からのメールに目を通し、その聞き覚えのない敵能力者たちに何となく胸騒ぎを覚え、帰宅を一旦、諦め立ち上がる。志摩は同じ階にある外部のサーバーと完全に遮断されている機関の資料データが保管されている部屋に移動した。

 志摩は厳重にセキュリティー保護がされている部屋の前で網膜認証と指紋認証の際に霊力を軽く発するとその部屋のドアは開いた。

(ここに来るのは本当に久しぶりね……)

 日本支部では支部長と志摩しか入ることを許されていない世界能力者機関の秘匿情報がデータベース化されている資料室である。因みにここは認証した人数しか入れない。それ以上の人数が確認するとすべてのデータが自動的にダウンする仕組みになっている。

 志摩は部屋中央にあるモニターの前に座り、データベースにアクセスをする。そこには今まで世界能力者機関が収集した情報が入っている。機関の前身である能力者ギルドの時代からかき集められた情報がデータベース化しており、その情報の重要度レベルに応じて階層化されている。
 志摩が閲覧を許されているのは、5段階に分けられている重要度レベルの上から2番目からであり、最上位の情報を見ることはできない。


「ニーズベック……ロキアルム……」

 志摩は瑞穂からの情報から敵能力者の呼び名と思われるワードを入力し検索をかける。

「え……え!? まさか! 最上位情報の案件!? 組織はスルトの剣? それ以外は私では閲覧できない?!」

 志摩は今日、処理した膨大な仕事の疲れを忘れ、驚きに顔を硬くした。

「詳細情報が機関の本部案件に! こ、これは! この情報を手に入れた場合は速やかにローマ本部への連絡と指示を仰ぐことって! 一体、何なの!? いけない、こうしてはいられないわ!」

 志摩は顔色を変えて、支部長である大峰日紗枝への連絡と指示通りに世界能力者機関本部へのコンタクトのために立ち上がった。



 祐人はマットウ邸の2階にある、あてがわれた部屋のベッドの上で天井を眺めていた。先程までいたガストンは「また来ますね、旦那」と言って出て行ったが、祐人は念のためガストンにこれ以上危ないことはしないようにと念を押した。
 S級の能力を持ち不死者であるガストンは、祐人の言いように苦笑いをして頷くと、部屋から姿を消した。
 部屋を出たガストンは腕を組み、首を傾げる。

「まったく、旦那は心配性ですよ。私が吸血鬼なのを忘れてるんですかね~。ま、まあ嬉しくないわけじゃあ、ないんですがね」

 ガストンはそう言いながらマットウ邸の廊下を堂々と歩き、すれ違う使用人ににこやかに挨拶をした。

 部屋に1人になった祐人はしばらく考えに没頭した。

(この敵は……危険だ。その実力も思想も……そして、その目的も。瑞穂さんとマリオンさんになんて伝えるか? でも、どこからの情報源なのかは言えないし)

 祐人は自分が動ける範囲が狭いことに、頭を悩ます。

(でも、敵能力者の目的がガストンの情報通りなら、マットウ将軍の護衛についての依頼はほぼ完遂したことになる。もうあちらにマットウ将軍を襲う意味もない。それ以外のことを機関所属の僕らが考えることでもないか……)

 祐人は何か釈然としない気持ちで寝返りうった。

「喉が渇いたな。なにか飲み物を貰いに行こうかな」

 祐人はベッドから立ち上がると、部屋を出て飲み物を頼みに廊下を歩き出した。


「魔界帰りの劣等能力者」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く