魔界帰りの劣等能力者

たすろう

それぞれの思惑

「もう、こんなところまで来てー! 瑞穂さんとマリオンさんもいるんだぞ! 分かってるだろう? バレたらどんなことになるかぐらいは」

「まあまあ、旦那。ちょっと落ち着いて下さいよ」

 今、祐人はアローカウネに案内された一人部屋でガストンに説教をしている。
 屋敷に到着後、祐人がこの八畳ほどの広さの部屋に案内されて、使用人の少女たちに祐人の唯一の荷物であるスポーツバッグを部屋内にある荷台に置いてもらい、祐人は念のため、お礼をやたら大げさに伝え、笑みを浮かべて使用人たちは出て行った。
ドアが閉められたのを確認し、祐人はやっと落ち着けると思ったところで、部屋中央に振り返ると、いつの間にかベッドにガストンが足を組み、にこやかに座っていたのだ。

「これが落ち着いてなんかいられないよ! まったく、ガストンはいつもいつも、危ないことばっかり! 少しはこっちの気持ちにもなってくれよ」

「旦那、そんなこと言わずに~。まあ、じゃあ話だけでも聞いて下さい。すごい情報を持って来たんですよ~」

「情報?」

「はい~」

「あ! やっぱり危ない橋を! もう……」

「祐人の旦那、このミレマーって国、もう駄目かもしれませんよ?」

 祐人の話の途中で、ガストンは声色のトーンを変え、深刻な顔で伝えてくる。

「え? ガ、ガストン、な、何を突然、それは飛躍しすぎじゃないの。そりゃあ内戦の危険は多少なりともあるだろうけど、それはマットウ将軍の国連でのスピーチ如何で……」

「違います、旦那。そんな話じゃありません」

 ガストンの真剣な顔に祐人は口を閉ざす。ガストンはいつも祐人のために世話を焼いてくれている。それで自分の身の危険まで冒すことがあるので、祐人はいつも注意してきた。
 だが、こんなに差し迫った顔で情報を伝えてくるガストンは初めてだった。

「……ガストン、教えて。一体、何の情報を手に入れてきたのか」

「はい。ちょっと長くなりますがいいですか?」

「うん……頼む」

「そうですね、まず、ミレマーを良い方向に変えようとしている2人の男たちの話からです」

「それは……もちろん、一人はマットウ将軍と……」

「はい、もう一人は軍事政権側のグアラン首相です」

「!」

  祐人はガストンが出した思いがけない人物の名前に、驚く。

「マットウさんとグアランさんは過去の生い立ちや所属をいくつか、ねつ造しています。先進国では中々できないことですが、ミレマーのような後進国で軍閥のようなものがいまだに存在している国ではよくあることです。さすがに生まれたところまではバレると思ったのか変えてませんが」

  ガストンの話に眉をひそめる祐人。

「それは……それじゃあ、マットウ将軍とグアラン首相は……」

「はい、無二の親友の間柄でした……幼少のころからの」

「な! じゃあ、まさか今のこのミレマー状態は!?」

   相対し合う組織の最高幹部にその親友の2人がいる。そこで、祐人は1つの可能性が見えた。

「さすが旦那、察しがいいですね。そうです、この二人で作り上げた可能性が高いです」

 ガストンは祐人に笑顔を見せる。

「この二人は幼少からの付き合いで、このミンラ方面を所轄していた第5師団に所属する軍人でもありました。若いころ同じ部隊にいた形跡もあります。また、その後にグアランさんが出世するにつれ、それとぶつかる相手として必ずマットウさんの名が挙がり、グアランさんが嫌われるとそれに比例してマットウさんの人気上がるような関係になっています」

「それは……」

「完全に二人が仕組んでいると考えていいと思います、旦那。二人がどうして、こんな大それたことを考えたのかまでは分かりません。ですが、この二人に深く関わる女性がいました。私が思うにその女性が何か関係があるのかもしれません」

   女性か……と祐人は考える。どんなかたちであれ、ミレマーの2人の英雄に影響を与える存在。まるで、陳腐な話のように聞こえるが、歴史上その女性という存在が今に至るまで名を残す英雄たちにどれだけの重い意味を持ったことか。

「その女性は?」

「ソーナインという名の女性で、このミンラ出身です」

「それで……今はどこに?」

「もう亡くなっています」

「……」

「十数年前にも何度かミレマーで民主化運動が起きています。まあ、その根底には貧しさからくる政権批判だったようですが、その時、鎮圧に来た軍に……」

   祐人は表情に影を落とす。

「その女性を殺した軍に二人は所属していた……のか、マットウ将軍もグアラン首相も」

 祐人は真剣な顔でガストンの話に耳を傾ける。ガストンは一拍置き、祐人を見た。

「それとこの情報を得た過程でおかしなことに私は気付きました~」

「それはどんな?」

「どう調べてもマットウさんは結婚した形跡がありません。逆に現在、独身と言われているグアランさんには若い頃、一人の女性の存在がちらつきます。そして、どうやら、その女性は出産もしているようでした」

   その話を聞いて、さすがに、と祐人は反論しようとするが、ガストンの言いように引っかかった。

「それはおかしいよ。マットウ将軍には娘さんがいるって言っていたもの……うん? まさか! ガストン、そのグアラン首相にちらつく女性って!?」

「そうです、ソーナインさんです。そして、生まれた子供は女児……グアランさんは表向き、子供はいないことになっています。ということは、つまり……」

   祐人の顔が驚愕に染まっていく。

「マットウ将軍がグアラン首相の娘を自分の娘として育てている!」

 ガストンは大きく頷いた。

「これだけの深い関係にあるマットウさんとグアランさん。そして、その二人にまたがる女性ソーナインさん。そのグアランさんとソーナインさんの娘さんと思われる女児をマットウさんが育てている……。このことから考えて、このミレマーを二分する大きな勢力に二人はわざと別れて、一つの目的のために向かっているんだと思います」

「この国を軍事政権の圧政から解放し、国民による国にしようと……」

   祐人は2人の考えを憶測する。

「いえ、ちょっと違います、旦那。実はマットウさんは民主化と言いながら、それはあくまで手段のようにとらえているようです」

「……というのは?」

「別に民主主義の国になれば良いというわけではありません。要は豊かにならなければ政治体制が変わっても国民にしてみれば大して意味はありませんから」

「確かに……それはそうだね。国自体が貧しいままでは、第二、第三のカリグダ元帥を生むだけかもしれないし。(それは魔界にあった国でも同じ事が言えたな……)」

「そうです。それもグアランさん、マットウさんは分かっているのでしょう。それで、民主化をすることで先進国の投資を大々的に呼び込むのが目的のようです。現にマットウさんに派遣された部下たちは、各国家にそのことを伝えているようです。閉鎖的だった軍事政権に取って代わった時は市場を開放すると……。まあ、それを主要国にちらつかせたおかげで国連のスピーチなんてものを手に入れたんですがね」

「確かに、軍事政権が国民を圧政支配しているうちはアメリカや日本をはじめとした先進国は建前上、投資を必ず控えるもんね。けど、民主化を約束して人権問題にも解決の糸口を示せば、どの国も大見得を切って投資が出来る」

「旦那の言う通りです。私の調べではミレマーは貧しくインフラも未発達ですが、人口は6千万人。インフラ投資をすればその安い労働力を各グローバル企業が目をつけないわけがありません。また、90%以上が仏教徒の真面目な国民性も評価が高い国です」

   ここまで解析しているガストンに祐人は驚きを隠せない顔になる。

「ガストン……お前なんかすごくなってない? でも、ここまで……考えて、この国を豊かにするために二人は命がけで戦っているのか……。じゃあ、暗殺者を雇ったのはカリグダ元帥に間違いないね。この情報でいくとグアラン首相がするわけがない」

「そうです。マットウさんを恐れたカリグダさんの独断でしょうね~、話によると気の小さいお人だとのことですよ? それと旦那、私も成長してるんですよ? いつまでも無関心にいるわけではないんですよ~」

   祐人はガストンの成長という言葉を聞いて、何故だか少し嬉しくなった。

「ははは、千五百年のぼっちの実績のあるやつのセリフじゃないね。あ、ガストン。そのマットウさんが育てている娘さんは?」

「はい、ニイナさんと言いまして、今、この屋敷にいますよ」

「……」

「それと旦那、もう一つあります。これが旦那に伝えようとした本命なんですよ?」

「まったくガストンはどこまで……」

「他に言うことはないんでかい? さっき説教をしようとした、だ・ん・な」

   祐人は苦笑いを隠さない。

「……ありがとう、ガストン。こんなに調べてくれて感謝するよ」

 その祐人の感謝の言葉でガストンは心から嬉しそうな顔する。

「ふふん」

「でも、友人として言うけど、危ないと思ったら自分を最優先してよ? 絶対だよ?」

「わ、分かってますよ、旦那」

「もう……。それで本命って?」

「このカリグダさんの雇った敵の能力者の正体と目的です」

「!」

   また思いがけない重要な情報をガストンは提示する。

「旦那……カリグダさんはとんでもないのを国の中に引き込んだんですよ」

「とんでもないもの?」

「こいつらは、下手をすればこの国を滅ぼしかねません」

「はあ? まさか……そんなこと」

   ガストンの情報収集能力がその持っている能力上、高いのは分かるが、話があまりに突拍子のないものに祐人には聞こえてしまう。

「いえ、事実です。こいつらの組織の名はスルトの剣。その首領のロキアルムという男は100年前に起きた能力者同士の戦争の生き残りです」

「え!? それはどういう……ごめん、ガストンの言っている意味が……」

「やっぱり旦那は知りませんか……まあ、当たり前でしょうが」

   ここにきて祐人は、ガストンの知るすべての情報を知りたくなった。これは今後の自分たちの身の振り方に関係しそうだと感じたのだ。

「ガストン教えて」

「ん?」

「教えてくれ」

「何ですって、だ・ん・な?」

「……なんか性格悪くなってない? ガストン。ああ、ガストンさん、すみませんが教えて下さらないでしょうか?」

「そこまで言うなら仕方ないですね~。まあ、いつも旦那に説教をされてる意趣返しです」

「ぬぬう。それでガストン、その能力者間の戦争って……それとスルトの剣ってのは?」

「まあ、順を追って話しますよ~。まあ、その百年前の能力者同士の大規模ないざこざ……と言うにはあまりに凄惨な戦いだったようですが、これが今、旦那が契約している世界能力者機関の前身である能力者ギルドが発足する理由にもなったものです」

  ガストンは淡々と手に入れた情報を説明をしていく。
   そのガストンの情報に、祐人は段々と顔を強張らせていくのだった。



 その祐人がガストンと部屋に籠っていたころ、瑞穂は今回の報告書をまとめ、世界能力者機関日本支部の支部長の秘書である垣楯志摩に報告を終えたところだった。

 マットウの屋敷に到着してからも休まず報告書をまとめていたせいで、疲れもとれていない。今、マットウのところにはマリオンが敵の間者がいないか調査も含めてマットウの会議に参加している。

 瑞穂はマリオンに申し訳ないと思いつつも、ベッドに横たわり仮眠をとることにした。

(ニーズベック……ロキアルム。一体、どんな連中なの? 機関の調査結果が早くでればいいけど……)

 瑞穂は今回の戦いを頭に再び思い浮かべつつ、その意識を手放した。



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