魔界帰りの劣等能力者

たすろう

反撃

 
 祐人はマットウの部隊の直前まで迫ってきていた。

 祐人は敵能力者の場所を把握するための3ポイント目を確認した後、無線が通じず、すぐに移動をし、マットウの護衛部隊の本隊に向かった。ところが、その直後に凄まじい爆発の衝撃音を感じて、そちらに舵を切ろうとする。
 それは瑞穂とマリオンはその衝撃音の方向で戦っていると考えたからだった。
 だが、さらにその直後に、元々、向かっていた方向からマットウの部隊のものらしい信号弾が3発続けて撃たれたのが見えた。しかも、その信号弾は真上にではなく、明らかにこちらの方向に撃たれたのが分かる。

(あれは……もしかして、僕に?)

 祐人は一瞬だけ悩んだ。先程の衝撃音は明らかに能力者同士の大技がぶつかったものだった。であれば、そちらで瑞穂たちが戦闘をしているはずだ。
 だが、では信号弾の意味は? 普通、信号弾を立て続けに同じ場所から3発も撃ったりはしない。

 祐人は考える……。
 理由は分からないが無線が通じない。恐らく瑞穂たちに不測の事態が起きているのだろう。それは敵の大物の妖魔のせいの可能性が高い。だが、この作戦の目的は敵能力者の撃破だ。そして、作戦遂行のためには祐人の情報が必要である。無線が通じないために瑞穂たちも祐人との合流に頭を悩ませているはずだ。
 であれば……信号弾の意味は……。

(そっちに瑞穂さんがいる可能性が高い!)

 祐人はそう考えて、信号弾が上がった方向に走り続けた。そして、部隊に近づくにつれてこの考えは確信に変わる。信号弾の上がった方向から、強力な霊力が集束されているのを感じ取ったのだ。
 このため、瑞穂と祐人の合流という意味ではタイムロスはほとんどなかった。瑞穂のとっさの機転が功を奏した。

(この霊力は瑞穂さん! じゃあ、さっきの戦闘の衝撃音はマリオンさんか! 何で二手に分かれてるんだ? しかも、マリオンさんが前線? じゃあ、瑞穂さんのこの力の集束は?)

 祐人は一体何が起きているのか? と考える。

(さっきの信号弾は瑞穂さんが自分の場所を僕に教えたものだ。ということは……この力の集束は僕が来るのを信じて、大技の準備を始めたもの!? じゃあ、僕がしなくてはいけないことは……)

 祐人は走りながら鍔刀の倚白の持っていない手で地図を取り出した。そして、敵能力者がいるであろう予測地点と瑞穂のいるであろう場所を確認する。

(瑞穂さんのいるところから南南東に750メートル付近だ! 敵が移動しないとも限らない。もう僕が瑞穂さんを連れて行く!)

 祐人の前方に山林の壁が終わり、開けた道が見えてきた。
 祐人は一気に山林から飛び出して、マットウの部隊がいる山間の道に出てくるとすぐに瑞穂の力の感じる場所を確認する。
 瑞穂は祐人の飛び出してきたところのすぐ近くにいた。
 瑞穂と祐人はすぐに目が合う。

「祐人!」

「分かってる! 瑞穂さん! 移動しながら状況を教えて! 敵の場所は僕が連れて行く! それと大技の準備も!」

 祐人は走るスピードを緩めずに瑞穂に走り寄る。

「もう準備は終わったわ! 敵はどこなの? って! ちょっ! ひゃ!」

「ごめん! このまま、瑞穂さんを連れて行く! ちょっとだけ我慢して!」

 祐人は瑞穂のところまで猛スピードで来ると、瑞穂を拾うように瑞穂を両手で抱き上げたのだ。瑞穂はまさかお姫様抱っこをされながら敵の場所に連れて行かれるとは想像だにしてなかったため、慌ててしまう。

(これで移動するの!? ひ、祐人の顔が近い……)

「瑞穂さん! 急ぐから落ちないようにしてて! それで状況は? マリオンさんは?」

「ハッ! そう! 今は……」

 祐人は瑞穂を抱えながら南北に伸びた道に沿って部隊の間を走り抜けて行き、その間に状況を説明する。無線機がなくなったこと、敵の大物にマリオンが向かったこと等々を祐人に伝えた。

「……分かった! 瑞穂さん、じゃあ僕らは敵能力者に一撃を加えて、すぐにマリオンさんの援護に向かおう! 瑞穂さんの判断は正しいと思う! 後は僕らの予想が当たっていることを祈ろう。マリオンさんが作ったこの時間を無駄にはしない!」

 瑞穂は高速移動をしている祐人に抱えながら、落ちないように祐人の首に手を回しつつ祐人の顔を見上げた。その祐人の今の言葉はマリオンのことが心配であることを隠しつつ、覚悟を述べたようにしか見えない。だが、それが祐人も自分と同じ気持ちであることが瑞穂には分かった。

「ええ! 必ず倒すわ! 敵は予想通りなの?」

「うん! 移動をしていない限り、敵は9割以上の確率で部隊から南南東の位置にいる!」



 グエンはテインタンに瑞穂からの指示を伝えて、そのままマットウのいる装甲車の近くにいた。テインタンは瑞穂の指示通りに全部隊に撤退の命令を出して、マットウの周りに戦力を集中させると、マットウの装甲車の周りに続々と味方が集まり、敵からの攻撃に備えさせる。
 敵の妖魔は既に散発的な攻撃になっていたので、マットウの護衛戦力としては十分な数がそろっていた。テインタンは祈るように瑞穂のいた方向を見ているグエンに声をかけた。

「グエン、ご苦労だった」

「ハ! テインタン隊長!」

「これで、こちらはこのままなら何とかなりそうだ。それで四天寺様たちは?」

「はい……シュリアンさんが第6、7,8の部隊の撤退の援護に向かいました……私たちのために……。あの人たちの任務はマットウ閣下の護衛ですのに……」

「ふむ……。それで?」

「は?」

「それで四天寺様はどうしている? ここに来ないというのには理由があるのだろう?」

 随分と冷たい……一瞬、テインタンに対しグエンはそう思ったが、テインタンは護衛部隊全体の指揮官だ。戦況はできるだけ把握したいのだろうと考え直す。

「はい……どのような作戦かは分かりませんが、ドウモリさんが敵の能力者の位置を割り出そうとしているようです。シテンジさんはその報告を待っているようでした。無線機が無くなってしまって、合流することを最優先しているようです」

「敵の能力者の位置を割り出す……だと?」

 テインタンは片眉を上げた。

(やはり……昨日の話での辺りを走り回り、敵召喚士を探すというのは偽りか……あの小僧)

「……それで四天寺様と堂杜様は合流できそうなのか?」

「分かりません……が、シテンジ様は既に攻撃の準備をされていました。……シテンジさんは合流できると信じているようでした。だから私も……合流したドウモリさんとシテンジさんがこの敵の野郎を倒してくれると信じています!」

「……」

 グエンが拳を握り、ライフルを握りしめる。

「あの少年、少女たちは本当に……大したもんですよ……って、あ! ドウモリさん!」

 突然、グエンが喜びの混じった驚きの声を上げる。テインタンもすぐにグエンの見ている方向に視線を移すと、道に沿って止まっている部隊の車両の隊列の横を猛スピードでこちらに向かってくる少年が目に入る。祐人は瑞穂を両手で抱き上げているとは思えないスピードで走っていて、時には障害物をジャンプで飛び越える。

「あれは……」

 テインタンは瑞穂たちが合流を果たしたことを理解した。横でグエンが手を振りながら祐人たちに大声を上げる。

「ドウモリさーん!」

「うん? あれはグエンさんとテインタンさんだ!」

「え? あ……ううう!」

 瑞穂もグエンに気付いたが、それよりもこのお姫様抱っこの状態を見られのが、恥ずかしいと思わず顔を真っ赤にしてしまう。

「ドウモリさん! 敵をブッ飛ばしてやってください!」

 祐人は移動スピード落とさずに返事をする。

「グエンさん! 分かりました!」

 そのまま横を通り過ぎようとする祐人たちに、テインタンは大声を張り上げる。

「堂杜さま! 敵の場所は分かったんですか?!」

 祐人はテインタンの質問に返事をする。

「大体は!」

 祐人たちはそのままグエンたちの横を駆け抜ける。祐人の返事に目を見開いたテインタンはさらに声を張り上げる。

「どこです!?」

 祐人はテインタンの質問に答えず、瑞穂を抱えた祐人の背中はあっという間に小さいものになった。その背中をテインタンは鋭く睨み、グエンは応援するような目で見送る。
 だが……祐人は振り返らずに持っていた刀を……上に向け……チョンチョンと指すような仕草をした。
 その仕草にテインタンは気付き、目を大きく広げた。

(ハッ!? 今……上を……上を指した? 上……上空? まさか! あの小僧!)

 テインタンは突然、走り出し近くに置いてあった軍用バイクに跨るとエンジンを素早くかけて、祐人たちの後を追いかけて行った。

「隊長! どこへ!」

 グエンは全部隊の指揮をするはずのテインタンの行動に驚き、声を上げる。だが、それに返事をせず、テインタンは祐人の後を追いかけるのだった……。
 テインタンは祐人の向かった方向にバイクを走らせながら、一人声を張り上げる。

「ニーズベック様! ニーズベック様!」

“……何事か……テインタン……我が召喚中は念話を極力避けろと言っておいたはずだ……”

「は! 申し訳ありません! ですが! 機関から派遣された小僧がこちらの位置を把握したと向かっています!」

“馬鹿なことを……我の位置は特定など出来ん。この愚か者が……下らぬことで我を煩わせるな……今、ガルムを召喚しているのだ。エクソシストの小娘を屠ってからそちらに向かわせる。もう事態は最終局面だ。それを機関のランクDの劣等能力者に今更、何ができる”

「ニーズベック様! お、恐らく! ち、違います。あの小僧……堂杜という機関が送り込んできた小僧に騙されていました!」

“……。言ってみろ……”

「あの小僧に特定したという場所を問いましたところ、あの小僧は!」

“……”

「上に……上空にいると!」

“上空だと!?”

「はい! あの小僧は最初からニーズベック様を探してたんじゃありません! あの小僧は最初から、ミズガルド様に狙いを絞っていた可能性があります!」

 テインタンはニーズベックのみならず、ミズガルドの居場所も知らされたこともないため、どこにいるのかは知らない。だが、ニーズベックとミズガルドが何かしらの連携をしているのは知っていた。そして、ミズガルドが姿を消したり、宙に浮いているところも見たことがある。それで、祐人が上空を指した時にピンときたのだ。
 そこでニーズベックから念話を強制的に切られた。テインタンは伝えるべきことを伝えると、祐人たちの足取りを追った。



 テインタンはマットウの直属の麾下としては古株だ。マットウが頭角を現して出世を重ねるたびにテインタンもそれに合わせるように昇進していった。
 テインタンのマットウに対する忠誠は厚く、またその指揮能力の高さを買われてマットウの幕僚として扱われた。
 だが……ある日、テインタンの帰宅途中で異形の妖魔たちに襲われ、囚われてしまう。

 テインタンはニーズベックに囚われ、蝋燭のみで明かりを照らす薄暗い部屋に連れて行かれた。その時、テインタンは暴れ、相手を罵りながらも、なす術もなくロキアルムの前に引きずりだされた。
 テインタンはどのような拷問にも耐える精神力を備えていた。場合によっては死を選ぶことも考えた。
 だが、テインタンは、そこでロキアルムという老人に睨まれるや、体が全く動かなくなり、息も出来ず、意識だけが明瞭のままという異常な状態にされてしまう。

 ロキアルムはテインタンを見て笑うと、何かブツブツと言いながらテインタンに近づき、テインタンの額に人差し指を軽く当てた。
 テインタンは意識だけが明瞭なまま、それを見た。それはロキアルムの指がテインタンの額に音も立てずに沈んでいくのだ。テインタンは声を上げることも出来ず、ただ、ロキアルムの指が自分の脳をかき混ぜるのを見ているばかり。そして、テインタンの意識は暗転した。

 テインタンは目を覚ました。その時、テインタンは晴れ晴れとした気分だった。それはすべての煩わしさから解放されたような、何とも言えない高揚感。このような気持ちのいい気分は今まであったろうか? そして、このような気分にさせてくれた方々への感謝と愛おしさがこみ上げてくる。
 その時、テインタンの頭の中に……声が聞こえてくる。

「我々の忠実な僕、テインタン……」

 テインタンはその言葉だけで感動にむせび、平伏すのだった。
 翌日になり、テインタンは何事もないようにマットウの配下として出仕した。



 祐人たちは南北の道沿いを走っている。

「祐人! まだなの!? いい加減早く下して欲しい……かも?」

「もうすぐだよ! 今から山林に入るから! 瑞穂さんは大技ぶちかます準備だけお願い!」

「もう出来てるわよ! まったく……あなたも少しぐらい緊張しないさいよ」

「え? 僕も緊張してるよ? この作戦を立てたのは僕だし、責任を感じてるから……」

「……はあー、もういいわ。急ぎなさい」

「分かった!」

 そう言うと祐人は道から左側の山林に飛び込む。

「祐人……さっきから気になってたんだけど、その刀は何? そんなの持ってた?」

「ああ、これは僕の愛刀の倚白だよ。普段は隠してるんだけどね」

「どこに隠してるのよ! いえ、それよりあなたは……」

「うん……隠してたわけじゃないんだけど、僕はどちらかというと剣士という方が正しいのかな……」

「……まあ、いいわ、後できっちり説明してもらうから。あなたのこと……色々ね」

「あはは……。うん? よし! もう着くよ!」

「OKよ! 今までの鬱憤をここで晴らすわ!」

 そう言うと瑞穂は練り上げた霊力を掌握している精霊たちに供給する。

(精霊たち……力を貸してちょうだい)

 腕の中で瑞穂の体がボンヤリと光を放ち始めるのを見て、祐人は驚く。

(これは……。凄い! 魔界にいた精霊使いたちにも引けを取らない力を感じる!)

「ここだ!」

 祐人は山林の中のやや開けて草に覆われた場所の手前に飛び込むと着地をした。そして、ようやく瑞穂を下ろすと、瑞穂はちょっと名残惜し気に祐人の首につかまっていた手を解いた。
 そして祐人と瑞穂はその前の開けた空間の端にある木に身を隠す。
 瑞穂は顔を引き締める。

「祐人……敵は……?」

 祐人はその瑞穂の問いに、人差し指を上に向ける。

「その草の茂みの……真上にいる……」

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