魔界帰りの劣等能力者

たすろう

敵襲5

 

「急がないと! もし、この召喚士が膠着した戦場に放つ大物の妖魔となると、相当な奴が来る!」

 祐人はまさに疾風のごとく移動している。それは普通に考えて、この非常に深い山林の中を移動できるスピードではない。祐人は木から木へ右、左と蹴りながら、一度も地面を踏まずに進んでいた。
 祐人の予想が当たっているのならば、今、既に瑞穂たちのところへ敵召喚士が放った強力な妖魔、もしくは魔獣が向かっているはずだ。そう考えると祐人はすぐにでも瑞穂とマリオンのいるマットウ護衛部隊に合流して、そのフォローに入りたいと考える。

 だが、今、祐人に瑞穂たちの応援に行くという選択肢はない。ここで瑞穂たちのフォローに入り、敵の召喚妖魔を倒しても根本的には何も変わらない。マットウの国連演説までの護衛、という任務完了までの時間を稼げる程度だ。それでは、今回立てた作戦の意味がない。
 この敵は危険だ。
 暗殺者たちは常に先手をとりつつ、襲撃を仕掛けてくる。これ以上好きにやらせてはマットウのみならず護衛をしている瑞穂、マリオンの身の安全も保障できない。
 それに今回の作戦は内容から考えて二度目はない。

 祐人たちの立てた予想が正しいと仮定して、これを失敗すれば敵は必ず対応策を考えてくる。それでは、こちらの不利は覆せない。
 この戦闘で敵暗殺者に強力な一撃を加え、出来ればそのまま撃破し、今後の護衛の任務を大幅に楽なものにする。さらに副次的な効果として、こちら側のマットウの兵も含めて生存率を上げることが望める。それがこの作戦の目的だ。
 敵召喚士の本気の攻撃が来る可能性の高いという危ういタイミングになってしまっているが、こちらにとってもこの一度のチャンスを逃すことはできない。
 祐人は今、味方護衛部隊の北側をさらに北に向かい、走り抜けている。

(もうすぐのはずだ! 先ほどの2つのポイントの位置から考えて、もうすぐ!)

 祐人がそう考えたその時、祐人は急ブレーキをかけるように前方の木に両足で着地した。

「ここだ! 敵の霊力の霧はここまで!」

 祐人は急ぎ地図を広げて、3ポイント目になる現在地に印を付ける。そして、鉛筆と定規、そしてコンパスを取り出し、2点を定規で線を引いた。さらに、その2点を結ぶ線の中央に直角に線を入れる。

「よし、この直線に対して、他の2点で同じように線を引いて……」

 祐人は急ぎ、地図上に引く線の場所を探す。この間にも敵の大戦力がマットウ部隊に向かっているかもしれないのだ。とにかく、急いで敵の場所を割り出さなければならない。
 祐人は逸る心を落ち着かせて、慎重にその場所を割り出した。そして、地図上に見つけたそのポイントへ線を引くと、その二線が交わる点にコンパスを立てて円を描いた。

「予想が正しければ……」

 コンパスの描く円の線上に……この3点が重なる……。

「よし! この場所に敵はいる! 問題は高さだけど……そんなに上にはいないはずだ!」

 祐人は地面に降りて素早く無線機を取り出し、瑞穂に連絡を取る。

「瑞穂さん、瑞穂さん、聞こえる? 応答お願い!」

 この間に祐人は地図を広げて、部隊の場所から敵の想定位置の距離と方角を確認した。その場所は部隊から南東に約500メートルだった。
 祐人は無線機を見る。応答がない……。
 祐人の全身に不安が包み込む。

「瑞穂さん! 応答して! グエンさん! 誰か応答して下さい!」

(まさか、敵の攻撃で……)

 祐人は強張った顔で急ぎ立ち上がると、無線機を背負いマットウの護衛部隊のいる場所に走り出した。

(瑞穂さん、マリオンさん、無事でいて!)

 祐人は密林の中を南に位置するマットウの部隊に向かい、疾走するのだった。

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