魔界帰りの劣等能力者

たすろう

敵襲4


(2ポイント目を見つけた? あの術? 一体、何のやり取りをしている? あの小僧はニーズベック様を探して、当てもなく走り回っているのではないのか?)

 テインタンは眉を顰めて瑞穂と祐人との無線のやり取りに聞き耳を立てている。テインタンは自身の無線機の周波数を祐人たちが使っている周波数にさりげなく合わせる。
 マットウの護衛部隊が使用する無線の周波数はメインを含めて3つと決められている。毎回、作戦の度に周波数は変更しているが、それは事前に全部隊に共有させている。テインタンは祐人たちが使っている周波数を探すが、その3つの周波数の中に祐人たちの会話は入ってこない。

(クッ! こいつら……周波数を変えている)

 テインタンは舌打ちをした。
 そして、あの愛想の良い話口調はなしくちょうの少年に疑念が沸いてきて、嫌な予感がしてくる。

(これが狙ったものなら、あの少年の話した作戦も本当かどうか……もし、そうだとすれば、中々、食えない小僧だ!)

 テインタンはそこまで考えが回ると、周りにはばからず不愉快そうに顔を歪めた。

「テインタンさん!」

「は、はい! な、何でしょうか? 四天寺様」

 テインタンは突然、瑞穂に話しかけられ、背筋を伸ばし驚く。
 その普段冷静な護衛隊長の狼狽うろたえ様に、瑞穂は一瞬、怪訝そうな顔をするが、先ほどの祐人の警告をテインタンに伝える。

「テインタンさん! 敵が強力な妖魔を召喚する可能性があります! 全部隊に警告を出して下さい!」

「え!? 敵が? それは……?」

「はい! 敵の召喚数が遠距離攻撃型を減らしているようです! それは大物を召喚する予兆の可能性があります!」

「……」

「テインタンさん?」

「あ! いえ! 分かりました。すぐに全部隊に警戒を呼びかけます!」

「よろしくお願いします! もし、それらしい妖魔を確認できたら、すぐに連絡を! そして、そちらの部隊を下がらせてください! そいつは私たちが相手をします!」

 テインタンは頷き、既に手にしていた無線機で、その旨を全部隊に指示した。

(何故……それが分かった? この鋭さは……この娘のものではないな……)

 テインタンは何度も瑞穂たちと共同戦線を組んでいる。これまでの瑞穂たちの様子から、戦場の僅かな動きで、敵の次手の予測をこのように素早くしてくることはなかった。
 だが今は、強い目的意識と状況把握から来る、粘り強い戦い方をこの少女たちに感じる。戦いで最も重要なことは、確かな目的と優先順位、そして、それらをどのような時にも確保する臨機応変さ、である。

 テインタンは、この少女たちと戦いを共にした時、その臨機応変さが欠けていることをすぐに理解した。それは主に経験不足からくる状況把握の未熟さだということも分かった。いくら個々の能力が高くとも、全体が連動しなければ、その個々の強さが発揮されないのが戦場だ。
 これが分かった時、テインタンは静かにほくそ笑んでいたのだ。
 みしやすい連中だと……。

 だが今は違う。この二人に足らなかった状況把握と次手の決定が速い。
 では、何が前回と違うのか? 

(まさか……あの小僧なのか? たかがランクDの若輩が?)

「四天寺様、今、指示しました。しかし、よくお分かりになりましたね。流石でございます。これで部隊の余計な損耗は避けられます」

「いえ、まだ憶測です。ただ、最大限の警戒をお願いします。あいつの勘は良く当たりますから」

 あいつ、という言葉にテインタンは一瞬、目を細めるが、すぐにいつもの表情に戻す。

「分かりました! そういえば堂杜様は? 敵の居場所は見つかりそうなのでしょうか?」

「いえ、まだだそうですが、もうすぐ割り出せると言ってました。あいつがそう言っているなら、私たちもここが正念場です! 何とか戦線の維持をお願いします!」

「了解です! 私どもも全力で敵を食い止めます」

「お願いします!」

 瑞穂はそう言うと、ガーゴイル8体が迫る部隊の南側へ走り出した。それをテインタンは、眉間みけんに皺を寄せて睨みつけている。

「割り出せる、だと? あの小僧……一体、何を考えている……」

 昨日、祐人はテインタンに召喚士を走り回り、探し当てると言っていた。テインタンは今の瑞穂との会話で、祐人には何か狙いがあって行動していると考えを改めた。だが、その狙いが分からない。

(一応、ニーズベック様に連絡するか?)

 だが、ニーズベックからの指示では、作戦中、テインタンからのコンタクトは必要最小限にと厳命げんめいされている。それにニーズベックの話では決して自分の居場所は見つからないと豪語されていた。祐人たちの狙いも分からない今の状況では、連絡もしづらい。

忌々いまいましい小僧め! 一体、何を考えている!」

 テインタンは周りに部下がいることを忘れて、吐き捨てるように言い放ち、部下たちに驚きの目を向けられた。それに気付いたテインタンは慌てて、体裁ていさいを整えて部隊の指揮を始めるのだった

(まだ、怪しまれるのは避けねば……。全力で部隊を指揮しろ、とはニーズベック様の命令でもある……)

 実際、今までのテインタンの指揮は理に適うものだった。それ故に部下からの信任も厚い。
 ただ、まさかそれが敵の召喚士の指示だとは、誰も知る由もないことだった……。



 瑞穂は味方部隊の矢面やおもてに立ち、敵のガーゴイルを真空の風で薙ぎ払う。その活躍に背後にいる味方の士気はさらに上がった。
 だが、今、瑞穂の心中は不思議な感覚に支配されていた。

(何故……? 何故、さっきの私は……あいつの、祐人の勘は良く当たる、と言ったのかしら?)

 何かが、今にも思い出されそうなもどかしい感覚に、瑞穂は味方の歓声を背後に受けつつ、自分の二の腕を強く握りしめた……。


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