魔界帰りの劣等能力者

たすろう

敵襲

 
 祐人たちのいる車中が二人の少女の放つ闘気で不穏な状況になって10分程経つと、先行しているマットウの護衛部隊の前衛が急に止まった。

「敵襲! 敵襲!」

 顔色を変えたグエンの鼻歌が止まる。そして、同時にジープも急停止した。
 前方の護衛を運ぶトラックから、訓練された兵たちがAK―47を持ち、一糸乱れず飛び出してくる。

「ド、ドウモリさん! 敵です! 来ました! 皆さんも準備を!」

 グエンが前方の事態を見て、悲鳴のような声で叫ぶ。
 だが、祐人から返事はない。
 そして、後ろの少女たちも……。
 祐人は今の今まで、握りしめるように至近で見ていた地図から顔を離した。
 3人は無言で顔に影を作り……各々がジープの扉を開けて静かに大地に降り立った。

「ドウモリさん?」

 グエンはその3人の世界能力者機関から派遣された少年少女たちから、異様な雰囲気を感じ取った。
 グエンは、これが“能力者”の本性なのかもしれないと、自身も表情を硬くしライフルを片手にシープを飛び出した。どれだけ役に立てるか分からないが、自分もマットウを守る切り札であるこの三人を援護するつもりでいた。
 祐人がまるで感極まったようにゆっくりと敵襲のあった前方に向かって……顔を上げる。瑞穂とマリオンも祐人のやや後方に立った。

(ドウモリさん……何て気迫だ。それに……後ろの二人の少女も……)

 祐人が目をカッと広げる。

「こんのぉ敵ども! 遅いんだよ! 僕が! どんな気持ちで! お前らを待ってたか分かってんのかーーーーーー!」

 祐人は涙目で拳を振り上げる。

「いつまで! こんな車の中にいさせるつもりだったんだーー! 僕を殺す気か! もっと早く来いやーー! どんだけ怖かったか分かるか! この僕の気持ちが!」

「うわ! ド、ドウモリさん? どうしたんですか!?」

 グエンが祐人の心の叫びを聞き、言っている意味は分からないが取りあえず怒り狂っているのは分かる。

「フフフ……本当に……遅かったわね」

「フフフ……はい、とっても……」

「はう!」「ひ!」

 二人の微笑んでいる少女の言葉に祐人が無線のパックを、グエンはライフルを抱きしめる。

「フフフ、じゃあ……祐人」

「フフフ、では祐人さん……」

 ガタガタ震える祐人は二人の少女に振り返る。祐人は、何で二人がこうなったかは分からないが、さっきからずっとこの調子の二人から早く離れたい。
 だって、とっても怖いから。

「作戦開始よ!」「作戦開始です!」

「サー、イエッサー!」

 祐人はその言葉を待ってましたとばかりに、疾風のように駆け出した。あっという間に姿が山林の中に消える祐人。

「フフフ、じゃあマリオンも……」

「フフフ、はい……瑞穂さんも」

 瑞穂とマリオンもそう言うと、銃声が鳴り始めた前方に歩き出し、マットウのいる護衛車の方向に消えていった。
 グエンはその二人の少女を無言で見送ると、どこからか風に乗ってグエンの耳の中に瑞穂の声が聞こえてくる。

「フフフ、グエンさん……無線機のパックを持って来て下さるかしら……?」

「サー、イエッサー!」

 グエンは背筋を伸ばし、慌てて無線機のパックを抱えて、少女たちの後を追った。

「ドウモリさん……ありゃあ、顔は可愛いけど、うちのかあちゃんより怖いぞ。後でちゃんとアドバイスしなくちゃ、ドウモリさんが……」

「フフフ……何か、言ったかしら? グエンさん」

「ヒー! 何でもないです!」

 またしても、耳に届いた風の声にグエンも涙声で応答した。



 祐人は生い茂った山林の間を猛スピードで駆け抜ける。だが、顔はまだ涙目。

「よくも、こんな思いをさせたな! もっと早く出てきてくれれば良かったのに! この敵は……許さない!」

 敵にしてみれば、完全に八つ当たりだが祐人たちの任務からみて、これは正しいことでもあるので、とりあえず問題はない。
 祐人は木から木へ飛び移りながら移動をしていると、前方にある巨大な大木に右足で蹴り、その大木の上方に飛び上がった。他の木々から頭一つ抜けて大きいその大木の枝に静かに着地すると眼前に広がる山林を見渡した。

「なるほど……これが瑞穂さんたちが言っていたやつだね」

 それは瑞穂とマリオンから聞いていたものだ。
 感覚を研ぎ澄まさないと分からないぐらいの薄い霊力。今、それが辺りに漂い始めたのが祐人にも分かった。祐人は瑞穂に無線で連絡をする。

「瑞穂さん、聞こえる?」

「……。あ、待って下さい、ドウモリさん。シテンジさん! ドウモリさんからです」

 無線機から銃声と共にグエンの声が聞こえてくる。すでに戦闘は始まっていた。

「瑞穂よ! クッ、このぉ! 祐人! 今日のこいつら、いつもと違うわ! 恐らく本気よ!」

 瑞穂の言葉に祐人も表情を引き締めた。想定したことではあったが、敵の場所の特定を急がなくてはならない。

「瑞穂さん、たった今、こちらで霊気を確認したよ。そっちはいつから感じた?」

「そうね! 3分程前からかしら! ハアー! そこ! 火力を集中して!」

「こちらより漂うのが早いか……。分かった! また、連絡する!」

「分かったわ! こちらはまだ余裕があるけど、急ぎなさい!」

 祐人は無線を切ると、瑞穂たちの位置と自分の位置を確認する。瑞穂たちとは今回の作戦のために、なるべく戦いながらの移動はしないようにとしている。そのため、少し戦いづらくもあるだろう。

「急がないと……でも、思ったよりも広範囲だな……。本隊はここだから、こっちか!」

 祐人は本体のいる方向から背を向けて移動を開始した。


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