魔界帰りの劣等能力者

たすろう

暗躍

 

 グアランは以前に、マットウの勢力拡大にシビレをきらせたカリグダからマットウ暗殺の可否を問われた時に反対をしている。
 理由として、現在、現実として現状に不満を持つ民衆、下級兵は大勢いる。これらの人間を力で抑えつけるのは得策ではない、ということを進言した。

 カリグダは一瞬、不愉快そうな顔をし、周りの重鎮たちは怯えるような顔をするが、それに構わず、グアランは話を続けた。
 不満分子は抑えつけてもきりがない。一旦、抑えつけても新たな不満分子を出現させて、最終的には大きな力をつけることがある。そうなれば、厄介なことこの上ない。

 であれば、マットウにその不満分子を糾合させて、それら不満分子のガス抜きを図り、まず暴発を防ぐ。その上で民衆に対し、ある程度の懐柔策を打ち出し、民衆の不満を散らしつつマットウの政治的な力を削いでいく。
 この方がリスクも低く、国力を低下させずに、カリグダ元帥の人気もとることができる。そのような方向性でコントロールしたらどうか、とグアランは提案した。
 カリグダは当初、自分の考えを否定したグアランを根暗な目で睨みつけたが、グアランの話の中の「人気が取れる」という部分に反応した。そして、大きく軍服を前に膨れ上がらせている腹を摩りながら、にやりと笑う。

「それも、私の考えていた案の一つであった」

 と言い、その際はグアランの提案を飲み、そのように進めろとグアランに命令を下した。まるで、それが自分の元々の考えであったように。
 しかし、2ヵ月ほど経つとカリグダは、この命令を翻した。やはり、マットウを暗殺するのが良いと言い出したのだ。それはマットウが国連に対し、ロビー活動を強化しているという情報が入ったのが発端である。その情報は重鎮達も掴んではおらず、カリグダの独自情報であったため、全員、それは本当かと訝しがった。

 だが、カリグダはその情報の出どころを言わず、強い口調で暗殺を決定した。これは確定情報であると。
 しかも、カリグダはこの暗殺計画を打ち出した際に、この計画はカリグダ自身が行うと言い出した。カリグダは今まで命令はするが、自分が実行の指揮を執ることはめったにない。
 グアランもその鼻息の荒いカリグダを静かに見つめていたが、このような決定を自らしたカリグダに反対することはもうできないと、一切の意見は言わずに、他の重鎮とともに了承した。

(今、思えば、その情報源はこいつなのだろう……)

 グアランは前方にいる怪しげなフードを被る男を見つめる。先程、近衛隊長が言ったカリグダの客人とはこの不気味な男であることもグアランは理解していた。
 カリグダはマットウ暗殺を決めた際に、国内にいる特殊部隊を使わず、“能力者”と言われる異能の力を持つ者たちを雇ったのだ。グアランも含め、他の重鎮達もこれには驚いたが、カリグダは配下の驚いた顔に満足するようにしただけだった。

 この時から、カリグダはこの怪しげな連中と頻繁に密談をするようになり、その雇われたという能力者について、如何様な連中なのかは重鎮達ですら誰も知らない。
 ただ分かっているのは、非常に気味の悪い、得体の知れない連中であることだけであった。このような者たちと国のトップが暗殺を目的に密に付き合うのはどうか、と誰しもが思ったが、それをカリグダに言えるものはいなかった。

(能力者とは……そういった者たちがいるというのは耳にしていたが、何とも薄気味の悪い奴らよ……)

 そのフードを被った男は、グアランの横まで来ると立ち止まり、フードを取った。そして、慇懃に頭を下げる。

「これはグアラン閣下。お加減は如何でございましょうか」

「ふむ……確かお前はロキアルムと言ったか」

 グアランは不愉快な気持ちを抑えつつ、ロキアルムの挨拶に応じる。

「左様でございます。名宰相と言われるグアラン様に名を覚えて頂き、光栄でございます」

「……それは本名か?」

「グアラン様。私どもの名前などに意味はございません。ただ、今はロキアルムと呼ばれているだけの者でございます」

「そうか……まあ良い。それでマットウ暗殺は遅々として進んでおらぬと聞いているが?」

「これは流石と言いましょうか、お耳が早い。ですが、ご心配なさらず。必ずやカリグダ様のご要望を叶える所存でございます」

「ふん、色々と報酬を吹っかけていると聞き及んでいるぞ。あまり、感心はせぬな……閣下に一体、何を望んだのだ?」

「これは恐縮でございます。ですが、私どもは根無し草でございます。依頼の難易度でそれに見合った報酬をお願いするのは致し方ないことでございます。どうぞ、ご理解ください。私どもは報酬を無意味に吊り上げるような真似は致しません。この世界は信用が第一でございますので……」

「よく言う……。で、金を吊り上げたのか……」

「いえ……」

「ほう……。では、何だ?」

「土地を所望しました」

「土地だと? それは……ミレマーの土地を望んだというのか?」

「私どもは長年、放浪生活を重ねて、些か疲れを感じておりました。それで安住の地を探していたところでもございました。もちろん、都市部の高級な土地を願うのは滅相もないこと。それにそのような場所は我々の肌には合いません。そこで、人里離れた辺境でも構わないので、カリグダ様に我らの土地をとお願い申し上げました」

「……。そこで何をするつもりだ?」

「そんな……何も考えておりません。この度の依頼を達成すれば、小金も入ってまいります。そこで仲間たちとひっそりと暮らしていこうと愚考しております」

「……まあ、分かった。閣下の期待を裏切らぬようにな」

「もちろんでございます。必ずや期待に添う働きを約束します。閣下も何かございましたら、我らにお声をお掛け下さい。辺境に引きこもる所存ではありますが、閣下のご要望あらば、すぐにはせ参じる所存です」

「ふむ……その時は、考えよう。では、もう良い、行け」

「はは!」

 ロキアルムはグアランに深々と頭を下げて、その場から離れていく。その姿をグアランは一瞥して、第二応接室に行くために歩き出した。

(何を……白々しい)

 グアランはこの数々の魑魅魍魎ちみもうりょうの住む軍事政権でのし上がってきた男だ。そのため、相対した人間の腹の内を常に憶測しながら、その人物を図ることに優れている。
 そのグアランが確信を持った。

(あのロキアルムという男……嘘も吐いていないが……。本当のことは何も語っていない……)

 グアランはロキアルムという男に対する警戒度を最大級に引き上げた。

(まだ分からん……分からんが、ロキアルム……俺たち・・・の計画の障害となるか……)

 グアランは近衛隊長の背後で目に力を籠め、唇を噛む。

(もう少しなのだ。もう少しで計画はなる。ここで……あのような者に邪魔立てはさせん)

 グアランは決意を固め、元帥府の第二応接室の扉を開けた。



 ロキアルムはフードを深々と被り、元帥府を出て、街中に消えていく。
 そして、その口は醜く歪んでいる。

「ククク……グアラン……小賢しい男よ」

 ロキアルムはそう呟くと、ミレマーの首都ネーピーの人気のないスラム街に入り、口を動かす。

「いや、良い。すでに道筋は出来た。話は単純だ。後はマットウを殺し……この薄汚い国を我らの橋頭保きょうとうほとする……」

「おい! テメー」

 突然、ロキアルムの前にスラムに住む男たちが、行く道を阻んだ。ニヤニヤしながらロキアルムを品定めするように見ている。だが、ロキアルムはそれを無視するように歩みを止めない。そのまま、その場を通り過ぎるように進んでいく。
 そのロキアルムの肩をそのリーダー格と思われる男が掴んだ。

「おら! テメーだよ! ジジイ! どこ見てんだ? ボケてんのか? 誰の許可でここを通ってんだ?」

 肩を掴まれたが、それでもロキアルムは歩き続けながら、独り言のように話をしている。

「ククク……そうか。グアランは……そういうことか……。ご苦労だったニーズベック……」

「こ、こいつ……何なんだ……気持ち悪いジジイだ。おら! 無視すんじゃねーよ! 金ぐらい持ってんだろ? あ、コラ! 待てってんだよ!」

 そのロキアルムの肩を掴んだ男が、歩みを止めないロキアルムが被るフードを後ろから力任せに引っ張り上げた。ロキアルムのフードは取れて、その一切の髪の生えていない頭部が露わになる。
 その頭部は明らかに人の肌の色というより、青白のくすんだ生気のない色で血管だけが大きく膨れ上がっていた。

「う!」

 その気味の悪い肌を露出した頭部を見て、男たちは一瞬、怯む。
 ロキアルムは立ち止まり、ゆっくりとその男たちに振り返った。

「あああ……な、何だ……てめーは……」

 男たちは、その瞳のない灰色の目をしたロキアルムを見て、無意識に膝を揺らし、中には腰の抜けた者もいる。
 その人気ひとけのないスラムの片隅から、数名の若者の絶叫が響く……。

「クックック……ニーズヘッグ、ミズガルド……マットウを殺せ。あの土地は我らの聖地となろうぞ!」

 高笑いするロキアルムの下には、数体の人間だったであろう肉塊が散らばっていた……。

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