魔界帰りの劣等能力者

たすろう

一悟の受難

 

「準備はできて? マリオン、堂杜祐人」

「はい」

「あ、うん。大丈夫だよ」

 夜が明けて間もない時間に、マットウ准将は自身の故郷であり、政治的な基盤でもあるミンラへ出発する。祐人たちはテインタンの指揮する護衛部隊が用意してくれた軍用のジープに乗り込んだ。後部座席に瑞穂とマリオンが、助手席に祐人が座る。

「ドウモリさん、私がしっかりミンラまでお連れしますよ!」

「あ、グエンさん! よろしくお願いします」

 運転手は、空港からヤングラまで連れてきてもらったグエンだった。グエンは笑いながら祐人たちに挨拶をし、ミンラに向けて車のエンジンをかけた。

 祐人たちを乗せたジープが動き出すと、瑞穂とマリオンは顔を僅かに強張らしている。今までと違い、今度の戦闘は自分たちにとっても大きな意味を持つ。作戦がうまくいけば、マットウ准将の護衛は大分、楽になるのだ。

 瑞穂とマリオンにとっては、事前にこれだけ考え抜いて相手と対峙する戦闘は初めてだった。そのため、二人は少なからず緊張していた。

 瑞穂は緊張していたが、自分はこの能力者チームのリーダーという自覚がある。そのため、戦闘までは自分自身でしっかり心を落ち着かせなくては、と考えていた。

 そのように瑞穂が考えていると、横に座るマリオンは自身の緊張を隠すことなく、祐人に声をかける。

「祐人さん……」

「うん? 何?」

 祐人は助手席から振り向いて、マリオンに顔を向けた。すると、そのマリオンの不安そうな表情を見て、今のマリオンの心持ちに気付いたのか、祐人はマリオンに笑いかける。

「あはは、大丈夫だよ。もし、僕らの予想が外れても、マットウ将軍が守れれば失敗じゃないんだから。その時は、僕は二人の近くで、四天寺さんの当初の目的通り、四天寺さんの術の発動の時間を稼ぐことに終始するよ」

「は、はい! そうですね。私も頑張ります!」

 マリオンは、祐人のその言葉を聞き、緊張が解けるように笑うと、祐人は笑顔で頷いた。

 その二人の様子を瑞穂はジト目で見つめている。瑞穂は他人に頼るのは苦手なので、こういうことが中々できない。そして、上機嫌で背もたれに背中を預けたマリオンを見ながら小声で唸る。

「……マリオン。ずるい……」

「え? 何がですか!? 瑞穂さん!」

「ふん」

 マリオンはアタフタしながら、瑞穂に話しかけるが、瑞穂は顔を窓の外の方に向けてしまう。マリオンは涙目で瑞穂の肩に手をやるが、瑞穂は相手にしてくれない。

「瑞穂さん、何でこっちを見てくれないんですか! 瑞穂さん!」

 マリオンは瑞穂をユッサユッサと肩を揺らすが、一向にこちらを向いてくれない。すると、マリオンも少しだけ口を尖らす。

「瑞穂さんだって……今日の服装ちょっと可愛くしてる。私なんかいつもエクソシストの法衣なのに……」

「な!」

 瑞穂が目を広げて、マリオンに向いた。

「スカートもちょっと短くしてるし……いつもロングなのに……」

「そ、そんなことないわよ! あなた、そんなこと考えて……」

「ふん」

 今度はマリオンがそっぽを向く。

「マ、マリオン! ちょっと、今日はたまたま! マリオンってば、こっち向きなさいよ!」

 後ろが騒がしいので、祐人は何だ? と顔を向けるが、後ろの二人が戦いを前に緊張している風でもないので、放っておくことにした。緊張しているよりはずっといい。

 すると、グエンは笑っている。

「いやー、任務中に不謹慎ですが、若い子を乗せて走ると運転も楽しいですよ~」

 と機嫌よく鼻歌を歌いだした。






 ……一悟は今、この上なく冷や汗を流している。

 それは、今、目の前にいる祐人が原因だ。

 ここは、蓬莱院吉林高校の1年D組の教室の前の廊下。

 一悟はその祐人に強く言い含める。

「いいですか? 絶対に目立たないで下さいよ?」

「うむ、承知した」

「だから! そのしゃべり方はダメだって!」

「おお、申し訳ない、一悟殿。では、ああ……うん、分かった」

 一悟は、腹の底からため息を着くと、肩を落とした。

「ちょっと、袴田君、堂杜君。何やってるの? 早く席につかないと、美麗先生が来ちゃうよ?」

 静香が教室から顔をヒョイと出して、二人に呼びかける。

 すると、その祐人は、

「これはご丁寧に、水戸殿、承知致しま……」

「こら!」

「ゴホン! ではなく、水戸さん、ありがとう」

「うん? うん、急ぎなね」

 静香は、祐人の様子に軽く首を傾げるが、頷くと教室に戻った。

 一方、一悟は、今日一日をどう切り抜けるかで頭が一杯だ。どうしたらいいのか、と頭をフル回転させるが……ロクな予想絵図しか沸いてこない。

「一悟殿、今日一日、よろしく頼みます」

 と、祐人の姿をした傲光ごうこうが素晴らしいお辞儀で頭を下げる。

「あああ……何で俺がこんなことに巻き込まれるんだ……」

 頭を抱える一悟は異常な緊張状態で、三分後には必ず時間通りに来る担任の高野美麗を待つはめになったのだった。

 こうして一悟の受難の学校生活が幕を開けた……。



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