魔界帰りの劣等能力者

たすろう

戦い前夜

 
 祐人と瑞穂、マリオンの三人は次回も来るであろう、敵暗殺者の襲撃に備え、作戦を練り終えた。

「次の移動の際に、敵は来るでしょうか?」

 マリオンは、作戦を練り終えた後、改めて皆にお茶を入れてテーブルに座った。瑞穂はマリオンの入れたお茶に口をつけ、落ち着いた様子で答える。

「今までのパターンなら必ず来るわ。それに……そろそろ、敵にも時間が無いでしょう」

「確かに……そうですね。でも、敵は一体、何を考えているのでしょう?」

 マリオンは、ティーカップを両手で包みながら深刻そうに俯く。

「瑞穂さんの言う通り、敵の暗殺者には時間が無い筈です。マットウ准将の国連でのスピーチは一週間を切りました。本来なら、移動時だけでなく、このホテルに襲撃してもおかしくないのに……。それに、前から話してましたけど、何か本気度を疑うような戦い方……」

 マリオンの言葉に瑞穂と祐人も考え込む。瑞穂も、敵と戦闘をした同じ経験者として、神妙な顔になる。

「あれは、まるで……安全第一の戦い方だわ。決して、自分たちに被害を被らないようにしているような……。暗殺の期限が迫っていて、何故、あれほど悠長なのかしら? 最初は、私たちが派遣されたのを知って、恐れて慎重になったのかと思ったけど、これだけの実力者で、しかも、こちらと同じく2人の能力者がいたと考えると……」

 祐人も二人からの話を聞いた時から、そのことは妙だと思っていた。顎に手を当てつつ考える。

「いくつか考えられる可能性としては、何かを待っている……という事かもしれない」

 瑞穂とマリオンは祐人の発言に眉を顰める。

「それは、一体、どういうこと? 堂杜祐人」

「いや、分からないけど、二人の話を聞く限り、それは時間を稼いでいるような戦い方だよね。多分、この考えは大方正しいと思う。となると、この手強い敵がそれをする理由は何点かに絞られる」

「それは……? 祐人さん」

「うん、一点目は戦術的な理由。二点目は当然、戦術的ではない理由。それと一番、低い可能性の三点目……」

「……あなたの考えを詳しく教えて、堂杜祐人」

 瑞穂とマリオンは祐人の考えが聞きたくなる。先程、初めて会った時には、ランクDの祐人の話を参考にすらしようとは思わなかっただろう。だが、今はこの少年の状況判断は自分たちを超えていると、既に二人は肌で感じていた。
 だから、今は祐人の話を真剣に聞く。というよりもう、瑞穂とマリオンはこの少年を頼りにしていた。プライドが高い瑞穂だが、この少年に対しては何故か素直に話を聞くことが出来る。実は内心、瑞穂はそんな自分に驚いていた。

 また、長い間、瑞穂と一緒にいるマリオンも、この瑞穂の態度は驚いていたのだ。瑞穂は余程、認めた相手でなければ受け入れたりしないのを知っている。
 または、数は少ないが、心を許した身近な人だけ……。
 だが、マリオンがもっと驚いていたのは、その祐人に対する瑞穂の態度に、自分自身が焦りのような、それでいて納得がいくような、祐人が認められて嬉しいような……不思議で複雑な心境になっていることだった。
 だからつい、マリオンは祐人を見つめてしまう。

「うん、まず一点目だけど、確実に標的を仕留める方法があり、その準備、もしくは状況を整えているということ。今回の状況で考えて、これを想定するのが普通だと思う」

 瑞穂とマリオンは頷き、続きを促すように黙って聞いている。

「二点目は、戦術以外ということから、今回の依頼内容に関わる問題の可能性があるんじゃないかな?」

 瑞穂とマリオンは首を傾げる。祐人の言う事の状況がうまく想像ができない。

「それは例えば、何でしょう? 祐人さん」

「うん。相手はフリーの能力者でしょう? つまり、傭兵みたいな人たちだと思う。そういった人たちは、大体、依頼の報酬に関することで、揉めることが多いんだよ。まあ、簡単に言えば報酬のつり上げを要求して依頼主と揉める、というのがほとんどだね。例えば、今回の依頼を受けたはいいが、ランクAという高ランクの能力者が、二人も標的の護衛に付いた。こんなのは聞いてない、話が違う、ってね。もし、このまま依頼を継続したいなら、報酬を上げろ、と……」

「なるほどね。それは分かるような気がするわ」

「もちろん、この場合、相当に名の通った傭兵か、誰しもが認める実力がないと、あまり通じないとは思うんだけど、今回は時間も限られている。それは依頼主にとっても時間が無いことと同じだから、雇われのフリーの能力者が依頼主の足元を見て、再交渉する可能性は高いよね。今から、証拠も残さない高い能力を持つ他の暗殺者を雇うのは厳しいから」

「まったく……そんな奴らが能力者の中にいるから、機関の目標の世間に認められるというのも、大分、先のことになるのよね」

「そうだね~、まあ、これは能力者に限った話ではないとは思うんだけどね」

「あの、祐人さん。それで三点目は?」

「ああ、これは可能性が低い部類だとは思うんだけど……。その依頼を受けた能力者たちに……そもそも、やる気がないって場合」

「え?」

「は? 何よ、それ」

「まあ、たまにあるんだよね。雇われた者にとって、ぶっちゃけ、依頼主の気持ちなんて興味ないんだよ。傭兵もそれぞれで、信義を重んじる者から、お金至上主義者、または、それ以外の目的を持つ者と千差万別。可能性は低いけど、今回の敵で言えば、自分たちの目的と依頼が合致しそうだから来た、という理由の持ち主だと、目的が依頼抜きで達成できそうだと、その場で姿を消す者だっている。取り敢えず、やって見せてはするけどね」

 瑞穂とマリオンは何とも言えない、苦い顔をする。何だか、真剣にやっている自分たちが、馬鹿馬鹿しくなる話だ。

「でも、今回は一点目に注意していこう。これが現実的で、最も注意しなければならない点だから。これに注意しておかないと僕たちだって、危ないから。僕も当然、全力で働くよ。だから、僕に出来ることは任せてね、四天寺さん、マリオンさん」

 祐人が笑いながら言う。

「はわ!」「あう!」

 瑞穂とマリオンはまるで不意打ちを食らったような表情で、背筋を伸ばす。二人にはこの祐人の言葉に、何か既視感のようなものを感じたのだ。そして、無意識に鼓動が跳ねた。

「あれ……? どうしたの? 二人とも……また、顔が赤くなって……」

「何でもないわよ!」「な、何でもないです!」

 突然、瑞穂とマリオンに大きな声を出されて、祐人はタジッとする。祐人は、さっきもこんなことがあったような気がしたが、二人の気迫に、これ以上は触れないでおこうと考えた。

(何だか分からないけど、茉莉ちゃんもこういう時あるよな……。こういう時は深入りすると、大体、怒られるんだよな。女の子は何か複雑なんだろうな~)



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