魔界帰りの劣等能力者

たすろう

召喚士

 

 三人は挨拶も終わり、落ち着くと、瑞穂は時計に目をやった。

「あ、早速で申し訳ないけど、時間が無いの、堂杜祐人。これまでの状況と今後の方針を聞いてもらって、これから作戦を練るわ。いい? それと両頬も……」

「あ、うん、大丈夫! 全然、気にしなくていいから! だから、僕が今回のことを気にしなかったことだけ覚えていてね!」

「?」

 祐人が何を言っているのか良く分からなかったが、祐人が怒っておらずに元気に応対したことから、瑞穂とマリオンは取り敢えずホッとしたような顔をしていた。

「じゃあ、瑞穂さん、話しを始めましょうか。お茶も入れますね」

 マリオンが立ち上がり、祐人はマリオンにお礼を言う。

「あ、ありがとうございます。何か手伝ましょうか?」

「あ、いいですよ。座ってて下さい、祐人さん。すぐにできますから」

 そう言ってお茶の準備をし始めた。何故だか先程と違ってマリオンは機嫌が良さそうだった。
 実はマリオンも自分の今の心持ちが不思議だった。最初、会った時、あんなに頭に来たのに、何故か、今、この少年と話していると、気分が良くなっていくのが分かったからだ。
 しかも、マリオンは自分を結構な人見知りと自認していたが、この少年には全くそういった緊張はない。それどころか、楽しいという気分まであった。

(どうしたのかしら……私……。祐人さんを見ていると……すごく……嬉しくなってる)

 マリオンはお茶を準備しながら、鼻歌が自然と出てくる。
 瑞穂は突然、お茶の準備をしながら鼻歌まで歌いだしたマリオンに驚く。

「マ、マリオン?」

「はい?」

「い、いえ、何でもないわ……」

 軽く浮かれているようにも見えるマリオンに瑞穂は、どうしたのか? と聞こうとしたが、あまりに良い笑顔を見て……良く分からないが放っておくことにした。
 瑞穂とマリオンは今回の依頼でミレマーに来てからは、気を抜く暇はなく、どちらかと言えば緊張の連続だったと言っていい。身の危険とまでは感じなかったが、瑞穂もマリオンも少なからずのストレスは溜まっていた。
 瑞穂はこちらに来てマリオンのこんな機嫌のいい姿は見ていないのだ。
 だが、何故か? 実は瑞穂も今、前に座っている祐人を見て、頼もしいというか安心感が湧いてきていた。

(何? 私、そんなに応援が派遣されてきたことが、嬉しかったのかしら……。来たのはたかがランクDなのに)

 瑞穂もマリオンと同じく不思議な感覚で祐人を見つめてしまう。
 祐人はというとマリオンの手際よく楽しそうにお茶を入れている姿を見て、何だか癒されていた。

(女の子のお茶を入れている姿って……いいなあ。マリオンさんが入れると絵になるし)

 などと考えていた。
 祐人をジーと見つめていた瑞穂は、目の前に座っているその祐人の表情の変化をみて、何だかイライラしてきた。

「ちょっと! 堂杜祐人!」

「え!? な、何?」

「何でもないわよ! 話を始めるわよ!」

「あ、うん、分かった」

 突然の機嫌の悪そうな瑞穂の呼びかけに驚いた祐人だったが、仕事の話とあって真剣な顔で前を向いた。
 瑞穂は取り敢えずこれまでの経緯を説明しだした。説明するに当たって瑞穂は少々不機嫌な様子だったが、淡々と事実を時系列に説明をしていく。
 軍事政権側がマットウ准将の暗殺のために雇った能力者に対し、瑞穂、マリオンが護衛の任に着いた当初は、さほど苦労はしない任務だと思っていたこと。
 相手の出方を見て、出来れば敵能力者の所在を突き止め、そのまま敵能力者を撃破、もしくは無力化を狙ったこと等々と語られていった。

「それで、敵の居場所は分からなかったの?」

「分からなかったわ。分かっていたら、今頃……ただでは済ましていないもの。あいつらは、巧妙で異常に戦い慣れた奴らよ!」

「あいつら? 敵は……」

 そこにお茶を入れたマリオンがトレイに3つのティーカップを乗せて、どうぞ、とそれぞれの前に置き自らも瑞穂の横の席に着いた。

「はい、相手の能力者は恐らく複数いると思います。あ、このお茶はラぺチョウって言いまして、この辺りだと高級茶なんだそうです。結構美味しんですよ?」

「ありがとう、マリオンさん。え? 敵は一人ではないんですか?」

 瑞穂は眉間に皺を寄せて、腕を組む。

「恐らくね。高い確率で複数いるわ。でなければ、私とマリオンがいて日紗枝さん……支部長に応援要請なんて出さないわよ!」

 瑞穂は大きな声を出す。先程から機嫌が悪そうだったのは、ランクAの能力者が二人もいて、機関に応援要請をだしたことにプライドが傷ついたからか……と祐人も合点がいった。それだけではなかったが。
 瑞穂は怒りっぽい性格だが、理由もなく不機嫌にはならない人だと祐人は何となくだが分かっていた。

「なるほど、それで四天寺さんの機嫌が悪いんだ……。四天寺さん、プライドが高いから……応援要請なんて嫌だもんね。マリオンさんはそういうことはないだろうけど……」

 つい、祐人が素直に思ったことを言うと、瑞穂とマリオンは驚いたような顔になる。それに気づかず、祐人は腕を組み、うんうんと頷きながら話を続けていく。

「でも、それで応援要請するなんて、四天寺さんはとても冷静に判断しているよ。四天寺さんの判断でしょう? マリオンさんは元々冷静だから、応援要請を考えたかもしれないけど、嫌がる四天寺さんを説き伏せるとか無理だもんね……」

 そこに、バン! とテーブルを両手で叩いて瑞穂が立ち上がる。

「のわ!」

 祐人は突然のその音に驚いて椅子から倒れそうになった。

「ちょっと! 私は、べ、別に機嫌は悪くないわよ! 今回のは、いつも通り現状を分析して判断しただけだわ! それにあなた、さっきから私の何を知っていると言うのよ! マリオンだって、意見があれば必ず私に言ってくるわ! ねえ、マリオン!」

 立ち上がりワナワナしながら、祐人に指をさす瑞穂。祐人はハッとして(まずい! 思ったこと言っちゃった)と狼狽する。そして、突然、話を振られたマリオンも同じくらい狼狽した。

「え!? えーと……はい……そ、そうですね?」

「何よー! マリオン! 何で疑問形なのよ!」

「ご、ごめんなさい! そんなつもりじゃ!」

 祐人とマリオンで何とか瑞穂を宥めて、話を続ける。

「でも、何で相手が複数と分かったの? 最初の機関からの情報だと相手は一人との話でしょう?」

 祐人の問いに、瑞穂とマリオンも真顔になり、マリオンがその問いに答えた。

「実は、何度か襲撃された際に……毎回、敵が召喚士した妖魔や下級悪魔と戦闘になったんです。もちろん、召喚されたのは妖魔ということですんで、当然、魔力系の召喚士だということはすぐに分かりました。ですが、何度かの戦闘中に……」

 そこまで話を聞いたところで、祐人は頷いた。

「なるほど……。マリオンさん、四天寺さんは、それ以外に敵と思われる霊力系の能力者の気配を感じたんですね?」

 祐人の即答に瑞穂とマリオンは少々、驚いた眼をする。祐人の言うところは、能力者は必ず、その内に霊力か魔力のどちらかをその身に宿している、という常識のことを言っている。
 霊力と魔力の関係は水と油、光と影とその力の根源が違うと言われている。そして、その特性として、霊力と魔力は触れ合うと、非常に反発しあうことが知られている。そのため、霊力、魔力の両方の力を一個体で扱えるものはいないのだ。
 ということから、魔力系能力者の召喚士が襲ってきて、瑞穂たちが複数の敵がいるという確信を持つということは、霊力系の能力者の存在を感じたと祐人は想像したのだ。

「……そうよ。微かではあったけど、霊力が感じられたわ。ザラリとしたものに撫でられるような気持ちの悪い霊力だったわ。ただ、その能力者の存在は確認していないわ。戦闘では一度も霊力系能力者が、姿を現したこともないの。だから、恐らく……複数という報告になったのだけど、ほぼ間違いないとは思うのよ」

 瑞穂が思い出しただけでも気分が悪いと不愉快そうに言う。

「……何だか妙ですね。複数の能力者がいて、暗殺対象のマットウ准将がそこにいるのに、全員で襲撃してこないっていうのは……」

 マリオンは祐人の問いに頷く。

「そうなんです。それと妙なのはそれだけではないんです。今までの襲撃でも、何というか……どこか本気ではないような……そういうところが見受けられるんです」

「それは……?」

「分からないわ。ただ、あいつらは常に私たちの先手を取ってきた。それは小憎らしいくらいに。こちらの状況を事細かに見張っているのは間違いないわ。そして、執拗に何度も襲ってきている」

 瑞穂はマリオンの入れたお茶に口をつける。

「にも拘らず……多少、手こずった、という風になると、あっさり引いてしまうのよ。まるでそれが、最初から決まっていたみたいに……」

 祐人も眉を顰めた。確かに違和感を覚える。敵の能力者にそんな悠長な時間はないはずだ。何故なら、一週間後のマットウ准将の国連での演説を阻止するのがその目的のはずなのだ。

「つまり、相手の暗殺者には目的達成の期限が設けられているはず。普通、焦るのは敵のはずなのに、むしろ、時間をかけているように見える……ということですか」

 瑞穂は祐人の呑み込みの速さに改めて驚き、祐人の評価を一段上げた。

「そうよ。……あなたランクDの割に話が早いわね。まあ、戦闘能力とこれとは話が別だけど」

「え? あ、どうも……」

「瑞穂さん、ほら、祐人さんの判断力はAですから……」

「ああ、機関から送られてきた能力表? あんなの見たことないわ。どうすれば、あんな偏った能力になるのよ。確かに、近接戦闘の優れた能力者を希望したけど、あなた大丈夫? それに何か頼りないわ」

「あはは……頑張ります」

 瑞穂に、直球でそう言われ、祐人は気まずそうに答えた。その姿にマリオンが話題を変えようと気を使う。

「そ、そう言えば、祐人さん……って私達と同期なんですよね!」

「あ、はい。そうです」

 瑞穂は腕を組み、祐人を不審そうに見る。

「新人試験の時にいたって話だけど、あなたのこと、私もマリオンも全く記憶にないのよね。今、こうして会っても思い出せないし……。あなたが私達を知っているのは当然としても……まあ、あの試験で最下位のランクDだし、そういうことあるわよね、何か影が薄そうだし」

「ちょっ、瑞穂さん」

「ははは……そうですね。二人はランクAだったから、あはは……僕はランクDで影が薄いし(こちらが言う前に言われたよ……)」

 祐人の乾いた笑いに、マリオンは、ばつが悪そうにしている。

「まあ、いいわ。話を戻すけど……あなたも能力者の端くれなんだし分かっていると思うけど、今回の依頼は当然だけど実戦よ。気を抜けば命を落とす可能性もあるわ。ランクがDだからって相手は手加減してこないわよ」

 瑞穂の言葉に祐人もマリオンも顔を引き締めた。

「うん。分かってる」

 祐人が頷くと、瑞穂も頷く。

「いいわ。それでは今後の作戦について話すわ。簡単に言うと、あなたは……時間稼ぎをしてほしいの」

「時間稼ぎ?」

「そう。私の攻撃の準備が整うまでの……ね」

「ふむ……つまり……四天寺さんが大技を放つまで、四天寺さんに敵を近づけさせないようにすればいいと?」

「そういうことよ」

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