魔界帰りの劣等能力者

たすろう

人外の自宅占拠④

 

 祐人は意識を取り戻す……が状況の確認が難しい。
 頭を振って、ボロボロの畳の上に敷かれた座布団から起きる。
 目を周囲に向けると、人外達が当初のように三列に並んで座り、こちらに集中していた。

「あれ?」

 祐人がキョトンとしていると、嬌子が出てきてニッコリ笑い、その後ろに隠れるようにしていた白を前に押し出した。
 白は俯きながら、力無く……こちらを見れない様子だ。

「お兄さん……ごめんなさい。私……つい」

 どうやら先程の、祐人をスリッパで弾き飛ばしたことを言っているらしい。
 意識がはっきりしてきて、祐人は不思議な感覚になる。
 というのも、彼らは、この家に引越しに来ようとした自分を追い出そうとしていたのだ。
 そうであれば、このまま外に放り投げてもよいし、下手をすれば、そのまま命を奪うということも可能だったはずだ。
 ところが、今、眼前には肩を落として、下を向いている白を隣で嬌子が労わる姿。サリーも心配そうに、白の肩に手を置いた。スーザンも僅かだが、心配そうにこちらをジーと見つめている。
 祐人にとってこれも意外だった。

 当初から見ている限り、全員、好き勝手にやっている感があった。実際、さっきの話し合いは、収拾がつかない程の荒れようだったのである。
 でも、白を心配そうに労わる、人外達のその姿は、まるで仲の良い姉妹のようだ。
 その様子に普通の人間であれば、ただでは済まない一撃を受けたにも拘らず、祐人はむしろ、自然に口が緩んでしまう。
 だが、それほどの衝撃を与えた自覚があったためか、白は体を小さくして正座をしていた。
 確かに、常人なら……まあ……即死だっただろうが……。

「白さん」

「はい……」

 白はしゅんとして、ちょっと涙ぐんでいる。

「……そんなに気にしないでね」

「え?」

 白は驚いたように顔を上げる。それと同時に、頭に白い三角の耳がぴょんと出てきた。
 祐人は(あれ? 耳が……何の化生だろう……)と思うが話し続ける。

「僕は全然、怒っていないから。それにあれは、白さんが驚いても仕方なかった……と思うし……。それに僕はこう見えても、意外と頑丈だから大丈夫!」

 そう言い、祐人は笑って見せた。
 白は、出てきた耳を慌てて押えながら聞いている。そして、軽く目を拭うと……ようやく白は笑顔を見せた。
 それを見て、祐人が嬉しそうに頷くと、そのやりとりに、嬌子もサリーも表情を穏やかにした。スーザンはジーと祐人を凝視している。
 そして、嬌子たちの背後にいる人外達は、一様に驚いたような、不思議なものを見るように、祐人を見つめていた。

「はい! というわけで、話を戻しましょ。だいぶ、遠回りしたけど、お兄さんはこの家に住みたい。私達は明け渡す気は無い。現状は、そういうことね!」

「遠回りしたのは、大半は嬌子さんの所為だと思うけど……」

「そこで!」

「スルーかい」

 だが、祐人もその嬌子の話のおかげで、現実に返った。
 ……まだ問題は、まったく解決していないのだ。

「そこで、お兄さん。提案だけど、私達と勝負をしない?」

「え、勝負?」

「そう。もうシンプルに、それで勝ったほうがこの家に住むってこと。……どうかしら?」

 突然の提案だが、祐人は冷静に考える。
 確かに、そもそも話し合いでは無理があったのだ。勝負でもゲームでもした方が、分かりやすくて良いのかも知れない。

(内容によるな……。もし、戦闘で勝負を決めるということでは、数的にこちらが不利だ。でも、どの道、このまま帰るわけにいかないし……)

「……勝負の内容は?」

 嬌子がニィと笑う。

「私達はね、揉め事があった場合、それを円滑に解決するための伝統的な勝負があるのよ。それはね……選定品持参競争!!」

 嬌子が元気良く言うと、

「「「「げーーーーーーーー!!」」」」

 周りの人外達が、揃って悲鳴にも似た声を上げた。

「せんていひんじさんきょうそう?」

「説明しましょう! それは、お互いが選定した物を、より早く持参して来た者が勝ちという勝負よ。あ、もちろん一対一でね。お互いに、十枚ずつの紙に好きな物の名前を書いて、それを箱の中に入れてお互いにその紙を一枚ずつ引くの。それで、そこに書いているものを相手よりも早く持ってくる、という単純なゲームよ。私達でやる場合は、距離的な範囲は限定しないのだけど、今回はこの清地せいじ市限定にするわ」

(そ、それって……ダイナミックな借り物競争みたいな……)

「もちろん、何を引くか分からないけど、自分でその半分は書くわけだから、あまり簡単な物を書いてもだめよ。相手が引いてしまうリスクを考えて書かなければね。自分に有利、かといって相手には簡単ではないものを書くのがコツね」

 祐人はどうするか悩む。血生臭くはないルールだ。受けてもいいかもしれない。しかし、公平性が問題だ。それが担保されない限りは受けられない。
 そんな祐人の考えを読んだように、嬌子は提案してくる。

「ふふふ。じゃあ特別に、その紙を引くのは、私達のものと、お兄さんのもの、両方とも、お兄さんでいいわよ。箱もお兄さんが用意したものでいいわ。これなら信用できるでしょう?」

 祐人は確かにそれなら……と考える。
 あとは探査能力のある相手を出してきて、それとなく勝つということぐらいが唯一のリスクになる。

「そちらに探査能力の持ち主がいた場合は、こちらが圧倒的に不利ですが……」

「そうね、でもそれも戦略によるんだけど……。じゃあ、今回はそういった能力を持つ者はださないわ。これは信用してもらうしかないけど、本当よ。私たちの誇りにかけて誓うわ」

 祐人は黙って聞いている。

「それと言い忘れたけど、基本的には能力の使用はオーケーよ。ただ、書く内容はあくまでも客観的に書いて欲しいの。これは極端な例だけど【二年前にA君が使っていた鉛筆】という風になると判定が難しいでしょう? この場合は【A君の鉛筆】ぐらいまでにして欲しいの。それと人の名前を書いてもいいけど、今回はこの街限定ということを加味してね。例えば【Bさんの好きな人】とか【C君のお婆ちゃん】と書いてもいいけど、その対象の人がこの街にいなかったらゲームとして成り立たないから」

(それは当然か。でも、それでも書かれる内容によっては、とりとめも無いことになるような気がするな……。うーん、しかし、考えても勝負を受けるしか……)

「本当にやるの?」

「俺は出たくないぞ」

「私だって嫌よ」

「というかこのルール、嬌子が酔っ払って決めたんだよね。いつから伝統になったんだよ……」

 等々と幾分か気になる点はあるが……。

「……分かりました。その勝負受けます。僕は他に行くところが無いですから。何としても、この家に住まなくちゃならないし」

 勝負を受けると聞いて嬌子は、やけに嬉しそうな顔をする。

「はい! 決まりね!   じゃあ、こちらからは誰が出る?」

 嬌子が仲間を見渡すと揃って皆、顔を背ける。
 それでも嬌子がニコニコしながら見渡していると……暫くして、意外にもあの無口なスーザンが静かに手を上げた。

「お? スーザンがやるのね。決まり! じゃあ、お兄さんは好きなものを十枚書いて。判定は私がするわ。あとスーザン、頼みがあるんだけど……内容は……」

 嬌子は二十枚の紙を出して、その内の十枚をこちらに渡すと、残りの十枚をスーザンに渡しつつ、何か内緒話をしている。
 なんか怪しいな……と思いつつも、祐人は紙に何を書くか思案した。



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