魔界帰りの劣等能力者

たすろう

仕事と仕事

 堂守祐人の住む清地せいじ市は今、プチ建設ラッシュだ。半年後には、駅に近い所からマンションが数棟完成予定である。
 清地市は都心からのベッドタウン的な位置づけで、また、そのベッドタウンの中でも端に位置していたことから、ベッドタウンではあるのだが、ちょっと駅を離れれば、のどかな田園風景が広がっている。
 だが、最近になって、清地駅にあった電車の広大な車庫場の移転に伴って、その空いたスペースに駅直結の郊外型商業モールの開発計画が発表された。
 すると、それからは少しずつ地価が上昇し、マーケットとして採算が取れると踏んだ大手不動産会社などが、大型マンションの建設を進め出したのが今のマンションのプチ建設ラッシュの経緯でもある。実際、マンションの売れ行きは良好とのことだ。
 日曜日、そのマンション建設現場で働く少年、堂杜祐人は何度とも知れず瓦礫を運びながら嘆いた。

「仕事が来ないな~。これじゃあ僕の生活が干上がっちゃうよ。やっぱり忘れられているんだろうなぁ」

 今、まさに労働の真っ最中のはずの祐人はそんなことを呟いた。

「折角、本当は行きたくもない世界能力者機関の試験まで受けてランクを取得したのに……」

 というのも、祐人の言う仕事はこういったアルバイトではない。
 祐人は今年、晴れて高校一年生になったばかり。だが、その生活は晴れ晴れとしたものとは程遠いものだった。何故ならば、祐人は高校生にして己れの生活費及び家賃を稼がなくてはならないのだ。

「坊主! それを運んだら昼休憩にしていいぞ!」

「分かりました! ありがとうございます!」

 現場監督にそう指示されて、祐人はきりの良いところで仕事を中断し、軍手を外すと自分の荷物から持参した手作りのサンドイッチと水筒をだした。
 今は6月で建築現場は他の場所よりも暑い。祐人は日光を避けて日陰になっている現場の端に腰を掛ける。

「はぁ~。このままじゃあ高校生活との両立にも支障をきたしてしまう。うちの学校は僕みたいな人種にも寛容だけど……」

 今年、祐人が入学した私立蓬莱院吉林高校は創立八十年を超える文武両道の名門校で知られている。
 知名度もあり、各方面に有名人を輩出したことから人気の高校で、全国から入学生が集まってくる。だが、学費もそれに合わせてかやや高い部類に属した。

 では何故、自身の生活費を己で賄わなければならない極貧の祐人がこの高校に入学できたかには理由があった。
 中学二年から三年にあがる春休みに母は亡くなり、父は堂杜家のもつ特殊事情でここ数年、家にはいない。
 それだけ聞くと、なるほどと思う人もいるだろう。だがそれが理由ではない。
 そもそも、祐人には両親が残してくれていた潤沢な貯金があり、以前から生活費の運用、管理を任されていた祐人はそれを堅実に使用してきたのだ。
 そのため本来は祐人の高校生活が金銭面で支障きたすことはあり得なかった。

 ところが、祐人が中学三年の初夏に大変なことが発覚する。
 この大事なお金を祖父である堂杜纏蔵が祐人の目を盗み、そのほとんどすべてを使い込んでいたことが明るみになったのである。
 祐人の祖父である纏蔵は有体に言えば、遊び人……と呼ぶにはあまりに生易しいと言えるほどの困った性格をしており、祐人の両親が家の貯金をまだ子供だった祐人に預けるということからもその一端が分かる。
 祐人はその纏蔵の家計使い込みのために、高校への進学自体が危ぶまれるという事態に陥ってしまった。
 その時、祐人は師でもあり祖父でもある纏蔵に烈火のごとく怒ったが起きたことは変えようがない。
 そのため当初は高校進学を諦めようともした。

 すると、諸悪の根源である祖父纏蔵の知人が吉林高校の校長兼理事長をしているということで、その知人の校長からの好意で入学試験さえ実力で通れば学費及びすべての学校資材や行事にかかわるお金を出世払いで構わないという条件をもらえたのだ。
 纏蔵はその性格からどちらかと言えばマイナス点しかない老人だが、その交友の広さから祐人も知らない幅広い人脈を持っていた。
 そのほとんどが夜の飲食店でつないだ怪しい人脈というのは真面目な祐人にとって何とも微妙だったが、高校は行きたいと考えていた祐人はその提案にすがるしか方法がなかった。

 しかし、中学三年当時の祐人には吉林高校に入学できる学力はなかった。そのため祐人は血のにじむような猛勉強をして、何とか入学にこぎつけた。
 そして、さらなる不運が祐人を襲った。
 堂杜家の金銭的な余裕の無さはそれだけに止まらなかったのだ。
 それは高校入学と同時に纏蔵が祐人を養うことも儘ならないと言い出したのだ。
 堂杜家は古流剣術の道場を纏蔵が細々と営んでいたが、確かに門下生は少なくその収入は非常に少ないものだった。
 それで祖父纏蔵の可愛い孫に向けて下した決断とは……。

「お主を養うお金がないから出て行って」

 というものだった。

「あのジジイ……家の金を使い込んだのは自分のくせに!」

 ニヤつく不愉快な纏蔵の顔が脳裏に浮かび、祐人は貴重なカロリー源であるサンドイッチを握りつぶす。
 もちろん祐人はこの横暴ともいえる提案に抵抗を試みたが、まだ未熟な少年でもある祐人は老獪な纏蔵にうまく言いくるめられてしまった。

「堂杜家の男は15歳で一人前」だの「儂の若いころはなぁ」だのと色々と言われたので祐人もすべては覚えていない。

 今になってよく考えれば体よく口減らしをされただけと分かり、祐人の額に血管が浮き上がる。
 家を追い出された祐人は途方に暮れたが、現在はこれも纏蔵の怪しい人脈から不動産屋の紹介を受け、格安の一軒家に自前で一人暮らしをしている。
 これを聞き、一軒家? と誰もが思うだろう。祐人もそうだった。
 引っ越しの際に初めて現地に赴いた祐人は纏蔵及び連絡もよこさない家主に何も聞かされていなかったので、その一軒家を見て驚愕した。
 そこには、ただの一軒家ではなく500坪はあろうかと言う庭に昔の旧家を思わせる築3桁はいっているかもしれない大きな木造平屋がそこにあったのだ。

 人の住めないボロボロの状態で……。

 祐人は呆然とし、纏蔵に非難の電話をするも不良老人の纏蔵がとりあう訳もなく……家主も不明のまま。
 無駄に大きい家の巨額な修復費など祐人に出せるはずもなく……
 社会的にも収入的にも無力な高校一年生の祐人は今、その広く荒れたままの庭に……

 テントで暮らしている。

「クッ! あの無駄な広さが憎い!」

 祐人は自身の自宅となった家を思い出し、吐き捨てるように嘆いた。
 修復できればそれは立派な家だろう。だがそれには高校生の祐人にとって莫大なお金が必要だ。ただでさえ自身の生活費を稼ぐのも大変なのだが、それでも祐人は何とか修復したいと考えていた。
 とにかくもう……テント暮らしは嫌なのだ。
 そのため、祐人はこの金銭的な苦境を乗り越えるため堂杜家の最大のタブーを自らの意志で犯した。

 それは世界能力者機関と接触し、新人試験を受け、ランクを取得することだった。
 堂杜家は世間には秘匿にしてきたが、異能を受け継ぐ能力者の家系である。祖父の纏蔵が言うには堂杜家は霊力を自在に操る最強の霊剣師(自称)なのだそうだ。
 祐人は最強の部分は全く信用していなかったが。

 更に言えば、実際、祐人にとって霊剣師というものは関係がなかった……。
 関係がないというのも祐人には堂杜家の後継として大きな問題があった。
 それは祐人の父である堂杜家の歴代でも最強とも言われ、初代堂杜の再来とまで言われた遼一の霊力と魔界随一の魔女と言われた母の魔力をその一身に引き継いでしまったのだ。

 それは能力者たちの常識ではあり得ないことである。
 何故ならば、霊力と魔力はその根源は違うとされ、その性質は水と油、光と闇。この二つの力が一つの個体に存在することはないと言われてきたのだ。
 事実、そういった能力者は確認されておらず、どの能力者も必ず霊力と魔力のどちらかのみをその身に宿している。

 また、霊力と魔力は共に反発しあう。そのため魔力と霊力が触れると非常に大きな爆発等の作用が起きるのだ。
 つまり、一つの個体にその双方の力を宿した場合、爆発して吹き飛んでしまうと推測されている。
 祐人を受胎した際に母親がすぐこれに気づき、魔力側を即座に封印しなければ、実際、祐人と母親はどうなっていたか分からない。

 そして、祐人が生まれて成長するにつれ、ある事実が発覚する。
 それは、祐人が強力且つ膨大な量の霊力を持ちながら、それを全く操ることが出来ないということだった。しかも、その霊力は本人の意志に関係なく、ただ漏れ出ているだけという状態。これは堂杜家史上起きたことのない珍事である。
 それは祐人の宿したもう一つの力である魔力を封印した副作用であろうと纏蔵は断じた。
 このような堂杜家史上最大の大事件にも関わらず、祖父の纏蔵が下した決断とは……

「別に他の力があればいいんじゃね?」

 というものだった……。
 それで纏蔵が何処からか連れてきた仙道の達人である孫韋ソンイを祐人の師として、祐人に仙道を学ばせることとした。
 こうして祐人は堂杜家直系の後継ぎとして物心つく前から霊剣師だけでなく、仙道の修得という非常に厳しい修行も課せられてきた。この修行は非常に過酷で祐人もこの歳で死にかけた回数は世界でも相当上位にあたると自負している。
 何の自慢にもならないが。

 だが、こうして祐人は霊剣師としては堂杜家歴代で最低の劣等能力者となり、更に堂杜家として例外中の例外の仙道使い……道士となった。こうした事情は堂杜家の中の事であり、世間には全く影響は与えない出来事だ。
 何故ならば堂杜家はその能力で退魔退霊の依頼を受け報酬をもらうということを大昔から放棄していた。また、それだけではなく堂杜家は能力者の家系であることを秘匿するために、能力者と言われる人間たちとは決して関わろうとしなかったのだ。

 祐人も子供のころからそうであったので別段疑問にも感じていなかった。祐人にしてみれば普通の生活で何の不満もなかったのだ。
 祐人が中学生になり、ようやく堂杜家の他の能力者たちと関わらないようにしていた理由を知ってからは根が真面目な祐人はより他人に怪しまれないように警戒するようになった。
 その理由とは堂杜家が秘密裏に管理している物件に起因する。

 それは、数か所存在し、それぞれが代々霊験師の家系である堂杜家の秘術で封印がほどこされている。そして、その一つ一つがどれも危険などという言葉では片付けられないものばかりであった。
 纏蔵が言うには「まあ、一つの物件で関東……いや国の一つは覚悟せねばいかんかもじゃ」との事だ。
 纏蔵が言うと胡散臭いが……。
 だが、それら超危険物件を管理するにも霊剣師としての技術が必要で、だからこそ祐人の状態は大事件だったわけだった。その後、封印術だけは祐人も苦労して何とか習得したため、何とか事なきを得ている。

 このような事情で堂杜家はこれら危険物件を人外や良からぬ考えを持つ者たちから守るために秘匿し、世間、特に他の能力者とは距離を置いてきたのだ。
 だが……。
 祐人はそのタブーを犯した。
 世界能力者機関のランク試験に参加したのだ。
 それは纏蔵の祐人が一人暮らしをする際の言葉が発端でもあった。珍しく生真面目な顔で纏蔵が祐人に言ったのだ。

「家を出るからには全ての選択権と責任はお前にあるということじゃ。それはあらゆる例外はない。すべて自己責任でやるが良いぞ。堂杜家に縛られることもない」

 祐人は不良老人の纏蔵の言葉ということもあり、聞き流してはいたが何故かその言葉が心に残った。いつもの纏蔵らしからぬ態度であったのも原因かもしれない。
 この纏蔵の言葉がきっかけにもなり、また実際に生活面で徹底的に追いつめられていたのも含め、祐人は難関と言われる世界能力者機関主催の新人ランク試験を受けることを決断し、ランクDを見事取得したのだ。
 もちろん、堂杜家の事は隠し、能力者の家系ではなく、突然変異で顕われた天然能力者として参加した。
 ランクDとは9段階あるランクの下から三番目に位置している。位置付けとしては下位ランクと言えるが祐人は満足している。

「天然能力者と偽ってまでランクを取得したんだし、機関の仕事は報酬がいいと聞いているから、依頼さえ来ればしっかりこなして生活費を稼ぐつもりなのに! って、ん?」

 自分に気合を入れて拳を固めていた祐人は、突然の違和感に眉を顰めた。
 すると、祐人の座っている前方に薄暗い空間が現れる。それは明らかに異質で、普通の人が見れば理解に苦しむものだろう。
 だが、祐人は驚かないどころか溜息をついた。

「また、僕のこの特異体質に引き寄せられちゃったか……。面倒だけど、親方たちに迷惑がかかったら大変だからな~」

 祐人は魔力を封じられた際の副作用で霊力が普段から漏れ出ているため、雑霊等によく襲われる。こういうことは珍しくもないことだった。
 祐人は面倒臭そうに立ち上がり己の臍下丹田に仙気を練りだすと、祐人の疲れた表情とは対照的にその仙気は瞬時に昇華され霊的な力を持つまでに至る。

 祐人は先の経緯から能力者としても珍しい仙道使いである。そして、本人には伝えられてないが師にして仙道の達人である孫韋から天賦の才と称されたものだ。
 祐人の眼前の霊気を含んだ薄暗い空間が萎みだす。が、それに比例してその霊気は圧縮されて異形の形をかたどり始めた。祐人は油断せず、それを見つめる。
 すると、その濃密になった霊気から現れたのは白い虎の姿をした三本足の人外であった。三本足というのは何故か前足の左脚部分が無かったのである。
 その怪異の出現と同時に辺りはその色合いを僅かにくすませる。それは次元がスライドした証拠だ。中位以上の人外が出現するときによくある現象である。
 祐人は表情を変えずにその人外の白虎を見据えると、祐人を中心に広がる仙氣の輪にその白虎が出す霊気が触れた。

「あれ? いつもの雑霊かと思ったけど、こいつ意外に手強いんじゃ? って、うわー!」

 突然、祐人に向かい虎の人外は高速で突進すると低空に跳躍し、祐人の胸を目がけて右前足の鋭い爪を突き出した。
 驚きつつも祐人は驚異的な反応で右脚を軸に体を回転させ、人外の白虎の攻撃を躱す。そして、その最小限の体捌きで躱すことで祐人に反撃の余裕ができた。
 それは……余裕と言っても、この堂杜祐人だからこその余裕である。

「ふん!」

 祐人は体を回転させ、躱しながら動きを止めず、流れるように白虎の背部に右の手刀を叩き込んだ。
 常人であれば、祐人がどのように動いたのかも視認できないであろう。
 低空且つ高速で滑走してきた白虎はその祐人の手刀の衝撃で真下に叩き落され、地面に激突し、辺り一帯に土埃を撒き散らすと動きが止まった。

「ふぅ」

 祐人は息を吐くと祐人の一撃で息絶え絶えになっている白虎を見下ろした。
 勝負は瞬く間に終わったが、内容は世界能力者機関でも高ランクホルダーと全く遜色はない。試験内容が祐人に厳しく、ランクはDしか貰えなかったが……。

「こいつは……もしかして土地神様じゃあないかな? 結界を構築して片脚も無く、この強さは……でもどうしてこんなに怒って襲って来たんだろう?」

 祐人はマンションを建築している敷地内を見渡した。そこであるものに目が行く。
 敷地の端に立派な大岩が転がっている。おそらくマンション建造の際に邪魔で業者が工機か何かで元ある場所からどかしたのだろう。
 そして、そのどかす際の衝撃か、その大岩の一部だったに違いない、そこそこ大きな岩の欠片が本体である大岩の横に無造作に転がっていた。
 祐人はその岩に近づき検分する。

「これだ……確かに僅かながら神気を感じる。昔は祭られていたんじゃないのかな? あいつはここから出てきたんだな。じゃあ欠けているところが、左脚か……」

 祐人はもう動けない白虎を振り返り確認する。白虎は祐人との戦いで力を失い、その存在も消えかかっているように見えた。
 このマンションの建築に入る以前、この広い敷地には大きな一軒家があった。祐人は結構な有力者の家だったと聞いたことがある。その庭にずっとあったのだろう。その地主がこの土地を売却して引っ越してしまった際にそのまま放置されたと祐人は想像した。

「この辺の守り神だったろうに……こりゃ怒るよ。しかも、神格も相当高かったんじゃないかな? きっとこの岩は地脈の節の上に置かれていたんだろうな」

 本来、土地の守り神をこのように何の手順もなく排除した場合、その周辺の住民や木々も含め、その恩恵を受けることはできない。下手をすれば祟り神になることだってある。
 これではマンションが出来てもここに住む住民やこの土地を売却した地主もその加護を失ってしまうだろう。

「ここに住んでいた地主が有力者にまでなったのも、この守り神の加護が無関係ではなかったろうにな……」

 力を失いかけている白虎がこちらを見つめている。
 祐人は白虎と目が合うと意を決した。

「よし、今のここは僕にとっても大事な働く場所だし、落ちこぼれ霊剣師兼仙道使いとしての領分でもあるよね」

 そう言うと祐人は大岩とその欠片の双方にそれぞれの手を当てた。すると、その高校一年生としては平均的な体から想像もできない力で、その二つを引き寄せ重ね合わせてしまう。

「特異体質のせいで真っ当な霊験師にはなれなかったけど、仙道を学んだのが役に立ったよ。この役にも立たない、ただ出ているだけの僕の霊力を使う!」

 祐人は大岩に己の霊力を吸わせるように両掌を大岩に当て、凄まじい量の仙氣を使い、地脈の筋をマンション基礎工事の下から自身のところまで引き寄せる。

「はああ!」

 祐人のいる地面に薄赤い川の流れのようなものが建築中のマンション下から引き寄せられてくるのが分かる。やがてそれは、祐人の真下に移動し、いや引き寄せられ、祐人が掴んでいる大岩が位置している地点に重なった。
 すると、大岩を中心に小さな光が放たれ、辺りはいつもの平然さを取り戻していく。そして……祐人がそれを成した直後、スライドした次元による結界も消えていった。

「ふう……これで大丈夫かな。あとはこれを弄らないようにと親方に伝えないと。うーん、でも何て伝えるかな?」

 そう考えながら祐人は白虎に顔を向けるとそこにはもう白虎はいなかった。

「あれ? いない?」

 祐人は心配そうな表情を浮かべると晩春の暖かい風に乗り、声が聞こえてきた。

 “……ありがとう”

 その優しげな女の子の声が聞こえてきて、祐人は微笑みそうになる。どうやら、この白虎のその神性は女の子だったらしい。
 神性まで持つ人外は性別はあまり関係なく、その人外の性分で男か女の姿をとる。だが、その声色に祐人は女の子を救ったような気分になり嬉しくなった。思わず祐人は微笑する。

 “でも……背中に手刀を加えたことは忘れないから!”

「うへ!? ちょっ、それはいきなり襲ってくるから……って、おーい! 助けたじゃない! ごめんなさい! お願い! 祟らないで! これ以上の不運は生きていくのに支障が!」

 祐人は血相を変えてあたふたし、必死に叫んでも返事はなかった……。

「おら! 小僧! 何一人で騒いでんだ! とっとと現場に戻りやがれ!」

 現場の親方の怒声に祐人は肩が上がる。

「えー! 大して休んでないのにー! 」

 世界能力者機関から仕事がくれば、もっと良い条件で報酬も貰えて、助けたつもりの土地神から逆恨みされる事もなかったと頭を抱える祐人。

「早く仕事をくれー!」

「くれてやってんだろ! 早くしろ!」

 その後、祐人は親方に大岩を動かさないで欲しいと伝えた。
 親方もマンションのディベロッパーも、元々、マンションの中庭のエクステリアに使えると考えていたので、今の場所に動かしたということから、大岩はそのままになることになった。


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