魔界帰りの劣等能力者

たすろう

ランク試験結果と侵入者

 
 懇親パーティー会場に祐人は定位置ともいえる後方の端の方に所在無さそうにしている。
 そして……祐人は緊張していた。しかも、もはや極限状態。

「ああ……高校受験の発表の時ぐらいかな? こんなに緊張するのは……」

 ただ、高校受験の発表の時は茉莉が合否を郵送された書類で知るのは嫌だと言い、祐人は茉莉に吉林高校まで半ば強制的に連れて行かれた。
 祐人はその時わざわざ行かなくてもと思ったが、茉莉のお陰で一人で緊張しているという状況にならず、そこに茉莉がいたお陰で今よりはマシな心持ちでいられたのだった。
 それで祐人は誰かが横にいてくれるのは有難いなと内心、茉莉に感謝していた。

 まあ、今試験で一人なのは仕方がない。
 結果を聞いたら、その合否によって今後のことを考えようと思う。

(落ちていたら、一悟にも良いバイトがないか聞いてみよう。一悟は顔が広いから)

 祐人はそう考え、この試験会場では一人でも、家に帰れば数少ないが友人がいるということだけで心が落ち着いてきた。
 次々に新人受験者達が来場し、開催パーティーの時の様に縁者や有力家系の新人は従者を連れて賑わいだしている。

 そこに意気揚々と黄家の一団が入ってくる。今度の英雄はタキシード姿だ。
 その英雄は会場に入るとすぐに祐人に気付き、露骨に不愉快そうな顔をする。祐人にもその英雄が視界に入った。

(うわ、もう! また来たよ。この野郎は……そんなに嫌なら来なきゃいいのに)

「おい、低能力者。全く……まだいたのか。いいか、この懇親パーティーはな、ランク認定者のみ! を対象にしているんだよ。今回はたまたまランク認定発表が遅れているだけだ。つまらない期待を持つなよ? お前がいると能力者の品位が下がる。早く帰れ、貧乏人」

 そう言うといつもの高笑いをして行ってしまった。

「くう! 何て嫌な奴なんだ! 貧乏人で悪かったな! 貧乏なのは僕のせいじゃ……ない」

 そう言いながらも祐人は周りの人のフォーマルな服装をした受験者達を見てしまい、自分の着古したジーパンとシャツを見ると声が小さくなってしまう。
 祐人は……さらに端の端の方に移動した。

「まだ結果は出ていないんだ。ランクが取れていれば、仕事をして報酬を貰える。そうしたら僕だってお洒落出来る……はずだし」

「祐人さん」

「そういえば、今まで僕って身なりにまで気がまわっていなかった?」

「あのー、祐人さん?」

 黄金の髪を斜めに垂し、覗き込むようにしている整った目鼻立ちの顔が視界に突然現れて祐人は驚く。

「わー! マリオンさん! あ、ごめん! 何?」

「何でいつもこんなに端の方にいるんですか?」

「あー、ちょっ、ちょっとね。何となく居づらくて。こんな格好だし……」

「そんな事気にすることないですよ。その格好……似合っていますよ?」

「ああ、そう……かな? ありがとう。……うん?」

「何ですか?」

「いや、何と言うか……避けられていると思ってたから。ほら、僕と話すとアレが……」

 そう言いながら祐人の後方にいる英雄とその取り巻き達を親指で指した。

「いえ、違うんです! 私こそ、私と話したら迷惑が祐人さんに掛かると思って……。実際、もう迷惑を掛けてしまったし、それにちゃんとお礼も謝ることも中々出来てなくて」

「あはは、それこそ気にしなくて良かったのに。僕は昔からどうもああいう手合いに一方的に気に入られるみたいでさ」

 そう言って無邪気に笑う祐人を見て、マリオンはつられる様に笑ってしまう。
 端っこで目立ちはしないが周りから見ると微笑ましい光景。英雄の視界にその光景が入る。
 英雄の顔は苦虫を噛みつぶす様な表情になった。もう一度、低能力者(※祐人のこと)に己の身分を教えてやろうと歩き出す……が、そこに英雄の待ちわびた少女が入場してきた。
 四天寺家の従者である明良達を連れた瑞穂は誰かを探すように首を振っている。

 その瑞穂の態度を見てピンと来た英雄は身なりを正し、瑞穂に対し髪を掻き揚げながら近付いていく。
 そんな英雄に全く気付いていない瑞穂はマリオンと仲良さそうにしている祐人が目に入った。

「やあ、瑞穂さん。僕ならここにいます……よ? って、あれ?」

 瑞穂は面白く無さそうな顔をし、英雄の横を素通りして祐人のいる会場の端へ足早に向かう。
 英雄は髪を掻き揚げたまま立ち尽くし、通り過ぎたお目当ての少女に振り返った。

「堂杜祐人。ちょっといい?」

「え? あ! 四天寺さん!」

 祐人は昨日、瑞穂に壁に叩きつけられた記憶が甦り、一瞬引きつった顔で後退る。

「な、何よ……その態度は。ま、いいわ。あなたにプレゼントがあるから受け取りなさい。明良、連れて行って」

「えぇ、何ですか? プレゼントって。神前さん。これはどういう……あわわ」

 祐人は四天寺家の従者に左右から腕を取られ、連行されるように引っ張られる。

「祐人さん!」

「ああ、マリオンさん大丈夫です。瑞穂様はね、初日の喧嘩仲裁のお礼と昨日、投げ飛ばしてしまったお詫びがしたいんですよ。残念なぐらい不器用な方でしてね。こんな言い方しか出来ませんが分かってやって下さい」

「余計なことを言っていないで早く連れて行きなさい! パーティーが始まっちゃうわ!」

 顔を赤くして瑞穂が叫ぶと「はいはい」と言って明良とその従者は祐人を引きずるように連れて行く。その姿を瑞穂に完全に無視された英雄は恨み骨髄の視線を祐人に送った。

「プ、プレゼントだとぉぉ! 瑞穂さんが! あの低能力者にぃぃ!」

 瑞穂からのプレゼントというのにも驚きながらも祐人は心中で嘆く。

(あああ、余計な逆恨みが増幅していく……)

 祐人はプレゼントの意味も分からず四天寺家の従者達に引きずられて共に会場から消えて行った。それを心配そうにマリオンが見つめる。
 瑞穂はそのマリオンを不思議そうに、でもちょっと複雑な気持ちで見る。

「マリオン。あなたは変わっているわね。あなたみたいな優秀な人があんな情けなさそうな奴と仲良くして……」

「仲良くだなんて。祐人さんは何か話しやすくて。それに……迷惑を掛けてしまったのに、あの人はただ笑っていて……」

 マリオンは僅かに頬を染めて祐人達が消えていった会場の出口扉を見つめた。

「私、何となくですけど分かるんです。能力が、実力がではなくて……多分、あの人は強いんだと思います。私なんかよりもずっと……」

 瑞穂は、ふと英雄とのいざこざに仲裁に出てきた祐人やマリオンとジャンピエールの騒ぎの祐人、その後のホテルの通路での祐人とのやり取りが思い出される。

「へ、へぇー。私には分からないけどね。生意気だとは思うけど……」

 祐人達の帰還は意外と早く、懇親パーティーの開催時間直前に戻ってきた。

「ほら、堂杜君。こういうのは慣れですから。そうそう、堂々としていれば良いんです」

 明良に背中を軽く押されて祐人は会場に再入場する。
 遅れて入って来たというのもあるが、祐人は出席者達に注目された。

 理由は祐人のその出立ちである。今、祐人は黒のタキシードを身に付けていたのだ。
 それがまた意外にも良く似合っている。
 普段からは分かりづらいのだが、祐人は年齢に比べて意外と大人びた顔をしている。
 また黒の衣装を身に付けると髪の毛の色が軽く青みがかっているのが分かり、その地味で冴えない第一印象とのギャップも相まって人に強い印象を与えた。

「え? あれ、堂杜君?」

「うそ……格好良いかも。私、話しかけてこようかしら……」

 祐人は今までにない周りの反応に顔を紅潮させながら、会場の中央を避け、やはり元の定位置に行こうとする。その先にいる瑞穂もマリオンも時が止まったように祐人を見ていた。

「……四天寺さん、ありがとう。でもこんなに高価なものは申し訳なくて……」

 ハッとして瑞穂はいつもの調子を取り戻す。

「何を言っているの。それは、壁に……叩き……お詫び……なんだから! パーティーで一人だけ私服なのは可哀相でしょ? それにそれは買ったのではなくてホテルに頼んだ貸衣装よ。持ってないんでしょ? そういうの。だから、人のしゃ、謝罪は受け取るものよ!」

「うーん……まあ、確かに」

 瑞穂の言葉を受けて、祐人も段々嬉しくなってきた。実際、今まで自分だけ私服だった気恥ずかしさも今は無い。それも瑞穂のプレゼントのお蔭である。それで満面の笑みで謝意を示す。

「そうだね。四天寺さん、ありがとう! 有難く頂戴するよ!」

 瑞穂も祐人のあまりに素直な喜びように思わず微笑した。

「祐人さん! すごく似合っていますよ!」

「あは、ありがとう。マリオンさん」

 その姿をワナワナと震わせて見ていた英雄は、瑞穂に無視された分も含めて、すべて祐人への怒りに変換された。

「貧乏人がちょっと服装を替えたところで!」

 そして何よりも周りの注目を奪ったのが気に入らない。
 英雄は祐人達に向かい歩き出そうとするがお付きの従者に止められる。

「坊ちゃま、お気を静めてください。もうパーティーが始まるようですし……」

 試験前の瑞穂との揉め事もあったので、今回は従者達も英雄の動向には注意していた。

「ううう、分かっている! 差し出がましい真似をするな!」

 パーティー開始時間から数分だけ遅れて会場前方にある壇上に主催者である日紗枝が現れた。
 全員が話しを止め、前を向く。祐人も緊張した面持ちで前方に顔を向けた。

 “皆さん。試験ご苦労様でした。早速ではありますが、懇親パーティーを開催致します!”

 参加者が満面笑みの日紗枝に注目をしているが、皆、不審な表情をして静まり返っている。

 “ふふふ、皆さんの言いたいことは分かっています。試験結果が発表されていない……と言いたいのでしょう? 皆さん、覚えていますか? 試験開催のパーティーの際に私は言いました。最終日の懇親パーティーはランク取得者のみが参加するということを……”

 新人受験者は目を大きくする。

 ということは……。

 “ランク認定の発表が遅れて申し訳ありませんでした。今回の新人試験は我が機関にとって新人試験開始以来2回目の快挙となります。皆さん! おめでとうございます。この度はみごと全員がランク取得に成功しました!”

 会場は一斉に歓喜の嵐に包まれる。祐人も高校合格以来の喜びようだ。

「やった! やった! これで生活が楽になる!」

 瑞穂は冷めた反応、英雄は当たり前という反応ではあるが、其処彼処で喜びの握手や抱擁がされている。

 “はい! それでは今回の試験結果を一人ずつ発表しますので呼ばれた方は認定証を受け取りに前まで来て下さいね。各試験の詳細結果も前方のスクリーンに出しますので、そちらで確認してください。それでは! 成績上位者からお呼びしますね!”

 皆、その喜びも冷めやらぬ間に一人ずつ呼び出される。

 “えー、まずは四天寺瑞穂さん! ランクAの取得になります!”

 参加者から歓声があがる。機関所属のランク保持者の五十%以上はランクEとFに集中している。しかもランクAがこの新人試験では取得できる最高のランクになるのだ。
 過去、約50回の新人試験でのAランクの取得は僅か4人……。
 それがどれだけのことか、祐人以外の参加者には分かっていた。

 祐人は壇上に認定証を受け取りに行く瑞穂を見ながら一生懸命に拍手をする。同時に前方のスクリーンには試験結果が表示される。そこには、筆記九十六点A、体術A、基礎霊力A、法術・能力の完成度A、判断力・勘Cと表示されていた。

 “次にマリオン・ミア・シュリアンさん。ランク……Aの取得になります!”

 会場はさらに盛り上がる。
 一回の試験でAランク取得が二人とは!? と、こんなことは聞いたことがないと会場は騒然とした。
 マリオンは少々照れながら認定証を受け取りに前に行く。スクリーンに筆記九十点A、体術B、基礎霊力A、法術・能力の完成度A、判断力・勘Bと出ていた。

 “次に……黄英雄君。こちらも……ランクAの取得になります!”

 三人目のAランク取得に参加者は驚きを越えて声を失っている。
 英雄はそれを自分への畏怖と受け取り、肩で風を切りながら前へ歩き出す。スクリーンには筆記百点A、体術E、基礎霊力A、法術・能力の完成度A、判断力・勘Cと出ている。

「あいつ口だけじゃ無かったんだ……」

 祐人は英雄を見直した。そこに認定証を受け取ったマリオンが祐人のところに戻ってきた。

「マリオンさん! ランクAだなんてすごいよ! 周りの反応からも伝わってくるよ!」

「そ、そんな事無いです。これはあくまで試験の結果ですから……」

 瑞穂は認定証を受け取った後に大勢に囲まれて挨拶やら他家からの祝福を受けて忙しそうにしていた。その後も引き続きランク発表が進み、今回の新人試験が如何に快挙の年なのかが分かるものだった。

 ランクB取得者5人……一回の新人試験でランクB取得が三人以上なのは試験開始以来初。
 ランクC取得者29人……これも試験開始以来初。

 呼ばれていないのはついに祐人だけ。ちょっと緊張しながらもアナウンスを待つ。
 最後だから同期の中では最下位の成績ではある。だがそれは祐人にとって関係なかった。例えFランクでも仕事さえもらえれば充分な収入が貰える筈だ。
 仕事内容にもよるが、先日聞いた各ランクの大体の平均報酬は祐人にしてみれば非常に素晴らしいものだった。それだけにランク取得は非常に難しく、機関を知る能力者はランク取得を目指す理由にもなっている。

 祐人のランクが気になるのか会場も序々に静かになる。

 “それでは最後ね! 堂杜祐人君。ランク……Dの取得になります!”

 祐人は耳を疑った。ランクD? 祐人は感動した面持ちで前のステージに向かうのも忘れてしまう。
 マリオンが拍手をし出すと、皆からも拍手が出た。祐人は我に帰り、周りを見てしまう。そこに挨拶等が終わったのか、瑞穂が帰ってきて声を掛ける。

「ほら、呼ばれているわよ。早く行きなさい」

「祐人さん。おめでとう!」

「ありがとう!」

 祐人がそれは嬉しそうに認定証を受け取りに行く。今試験最下位ながらも心から喜んでいるその様が参加している全員に好印象を与えたのか、皆笑っている。
 祐人は照れながら進んで行くとそこには祐人の試験結果がスクリーンに表示されている。

 筆記三十二点(色々と考慮してギリギリF)、体術A(剣聖の査定考慮込み)、基礎霊力D(測定不能であったが協議の結果)、法術・能力の完成度D(多分に運も良かったと考えられるが協議の結果)、判断力・勘A(長時間の協議の結果)とされていた。

 どうやら皆の笑顔はこの表示によるものらしいことに気付き、祐人は途中から乾いた笑いに変わる。
 だが、実際は好印象の比重の方が多かったのだが……。

「はい、おめでとう。これが認定証よ。堂杜君。周りが優秀すぎてちょっと分かりづらいかもしれないけど、新人でランクDというのはとても凄いことなのよ。去年の最高取得ランクはCで二人だけ。そのうちの一人はあのオルレアン家の嫡男だったくらいなんだから……」

「あ、はい! ありがとうございます。え? オルレアン家の嫡男って……まさか、それってジャンピエールっていう人じゃ……」

「あら、その通りよ。知っていたの? 今回も僅かだけど視察と挨拶に来たけど……会った?」

「いえ! 知り合いじゃないです! 知り合いたくもないです!」

 顔を振りながら祐人は何となくジャンピエールの心の内が分かる様な気がした。本家の自分よりも優秀という分家のマリオンが気に入らなかったということであろうと推測する。

「あ、それとね、堂杜君。実はね、このランクDには特典もついているのよ?」

「え? 特典ですか? そんなのもあるんですか!?」

「ええ。実はね、偶然なんだけれどね。先程、調べたらランクDは現在、堂杜君だけなのよ」

「そ、それは……?」

「今、ランクDがたまたま不在なのよ。元々、何故かランクDの認定者って少なかったんだけど、最近、不正を働いてランクを剥奪された人や殉職した人が何故か偶然ランクDに多くてね。だから今、ランクDと言ったら堂杜君だけよ! 良かったわね、きっと目立つわよ!」

「あははは……(何か不吉なランクじゃないのか? このランク……)」

 何とも言えなかったが、ランク取得が嬉しいには変わりない。祐人は深々とお辞儀をして元の定位置に小躍りしそうになりながら戻る。

(やったー!   これで頑張って稼いで一悟にでも頼んで一緒に服でも買いに行きたい!   それで家も修復して学校帰りにクラスの皆んなと遊ぶ時間を作るんだ!)

 祐人はそんな未来図を夢見ていた。

 “それでは! これで結果発表は終了します。機関としてもAランカー三人、Bランカー5人と8人も上位ランクが出るという最高の新人試験となりました。どちらも一回の試験では初めての快挙です。また新人試験五十年の歴史ですべての新人のランク取得は今回で二回目、そして全員のランクがD以上というのも初めてです。皆さんはまさに! ゴールデンエイジと言って差し支えないでしょう! 今日は心ゆくまで盛り上がって下さいね!”

 祐人はウキウキした面持ちで、足取りも軽く、そのうちに様子を見て早めに帰ろうとか考える。


 ーーーーその時である。


 突然に祐人の背中に悪寒が走った。
 祐人は表情を変えて周りを見渡すが……別段変わりのないパーティー会場。

(この感じは先日の……)

 祐人は静かに歩きながらマリオンと瑞穂と明良のいる会場後方の端に向かった。

「祐人さん。どうかされたんですか?」

 さっきあんなに喜んでいた祐人の様子がおかしいと思ったマリオンが心配そうにしている。

「あ、いや……。マリオンさん。今、何か感じなかった?」

「え? いえ、何も……。何かありました?」

「いや、こう良くないものがいるような……」

 祐人の不審な言葉を聞き、瑞穂は顔を引き締め明良に目をやる。

「私は何も……」

 明良は首を振った。

「気のせいじゃないの? 明良はこう見えても四天寺家の探査、索敵のプロよ。その明良が何も感じていないって言うんだから……。しかも、ここにはこんなにも能力者がいるのよ?」

 祐人は表情を緩めないまま、目は周囲を素早く見渡す。
 つい最近どこかで感じたことのあるこの異質な空気。そこで祐人はハッと思い出す。

(こいつは……東屋で感じたものと一緒だ)

 祐人の感覚が最大限の警鐘を鳴らしていた。

(危険な奴だ……それに誰も気付かない。そういう存在なのか、能力なのか……)

 祐人は直感的に体術試験のときの剣聖とのやり取りを思い出す。
 祐人が発見した人外の死体、剣聖の言った古の種族……。
 ある考えが祐人の頭に浮かぶ。

 能力者としての勘は全く無いと判定されたが、この時の祐人は違った。
 祐人の氣質が変わり、スイッチを入れたように状況を読み出す。
 そして何よりも、この会場にいる全能力者達とは比べ物にならない程の戦闘経験が祐人の戦士としての判断力を研ぎ澄まさせていく。

 それは堂杜家の最大にして最悪の管理物件である魔來窟の向こうの世界で培われたものだ。
 祐人は堂杜家に生まれて、この世界を揺るがしかねないこの世界の大穴……魔來窟を見張り、もしもの時はこの世界の防波堤になる役目を負った。

 また、祐人は堂杜家の嫡男としてその役目のために、他の能力者達との交流も極力避けてきた。
 今いる人外達の故郷でもある向こう側の世界への通り道を知られないためだけにである。


 さらにもう一つ……。


 堂杜家のもう一つの重要な役割……。

 それは魔來窟を通って辿り着くもう一つの世界……。

 それはこちらの世界で認識されているものとは大きく異なってはいたが、一番近い言葉としては ――魔界―― と呼ばれている世界。

 その魔界と呼ばれるこの世と隣り合わせの異世界が安定を欠いたとき、堂杜家の人間は魔界に居住する人間達の興した国家と協力し、魔界の安定を取り戻すためにその強力な能力で干渉をすることも役目にしていた。
 祐人の父、遼一もこの役目に殉じている。それは祐人としても同様であった。

 本来の堂杜家は霊剣師としてだが……その才能の無い祐人は代わりに仙道の力を得た。
 祐人のその力は歴代の堂杜家当主達と比肩しても遜色の無いレベルにまで達し、周りを安堵させた。それは師でもあり三仙でもある孫韋をして天賦の才と言わしめたものである。

 そして……祐人の魔界での三年間の経験。

 語られることも無い、そこでの壮絶な戦闘経験が現在の祐人を形成している。
 今、その祐人が一つの可能性を導き出した。

(あの人外の死体は伝説の不死者……吸血鬼)

 心に余裕もなく、必死の思いで受験したランク試験に翻弄されたのもあるが、迂闊にもこの大事なはずの事を忘れていた自分を祐人は腹立たしく思う。
 いや、もしそうだとして、あの強力な人外である吸血鬼……が二体も倒されるとは?

 あのホテル外周の散歩道……祐人が感知したときにはまだ生存していたはずだ。
 だが、僅か数秒後、その祐人が現場に着いた時には既に殺られていた。

(……ではその不死者は何に殺された?)

 忙しく動く祐人の目が日紗枝に何か報告に来た機関所属の二人の職員に止まる。
 いや、引き寄せられた。

 機関職員の片方は日紗枝に忙しなく何かしらを伝えているが、祐人の目はその後ろに立っているもう一人の職員に集中する。
 よく見れば不思議とその顔の見えない職員はゆっくりと、そして静かにその顔を祐人の方に向けてくる。祐人の鋭い眼光とその職員の薄暗い視線がぶつかり合った。
 祐人は見逃さなかった。その職員の歪んだ口が僅かに動いたのを。
 声は聞えない……が、その唇の動きを正確に祐人は読み取った。

「お前は……先日の東屋での小僧か……」

 祐人は目を見開くと会場全体に轟く怒号を上げた。



「みんな! 逃げろーーーーーー!!」



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