魔界帰りの劣等能力者

たすろう

ランク試験 幸運と実力②

 
 試験三日目。場所はホテル内の会議室。

 今、新人試験の試験官達はテーブルを囲い、資料とスクリーンを見ながら全員悩ましげに溜息をついた。

「やはり問題なのはこの少年ですねぇ……」

 今は最終日の午後、試験官達が一同に介している。
 すでに新人試験はすべての工程を終了してランク認定のための最終調整に入っていた。
 本当はそんなに難しい作業ではない。採点事態は科目毎に行なっているので九割の受験者については既に認定ランクが決まっている。
 調整とはランク毎の狭間にある受験者をどのランクに落ち着けるかというものである。
 ただそれも終了した、一人を残して……。

「堂杜祐人。今日の午前中の『判断力・勘』の試験を見ても……イーラのイリュージョンによる環境変化に対する適応力、判断力は驚異的。ですが霊力、魔力に頼る勘はからっきし駄目。こんな受験者……いや、能力者は初めてです」

「今回の新人試験の結果は歴史的快挙の年なのは間違いないんでけどねぇ」



 能力者は一般人に比べて勘が鋭いといわれている。
 それは、霊力や魔力による世界への認識が一般人と比べて広いからと考えられている。
 いわゆる第六感とも言う。普通の人は古来、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚と、つまり五感を使い状況判断を行うと言われている。
 現在では学問的に言うと人には五感以上あると言われているが、機関では古来のものを引用している。 

 能力者はこの第六感が強いため、この試験はその第六感を測ることも目的の一つにしている試験でもある。
 例えば、能力者は二つの箱を用意して、どちらにボールが入っているかというような簡単な実験をすると、9割以上の正解率を出す。他に第六感で有名なところでは虫の知らせ等の例がある。
 これは異形の人外や超常現象に相対する能力者にとっては、この第六感は非常に有用になってくる。
 何故ならば、能力者が受ける仕事は一般人から見ればすべて不測の事態なのだ。目に見えるものだけで判断しづらいことも多い。
 だが、この『判断力・勘』の試験の採点方法は最終的に最適な判断をするかどうかを見ているので、この勘が悪くても判断が良ければ、採点としては高得点になるというものだった。

 祐人の場合、この第六感を測ると、能力者の平均値を大きく下回り一般人と変わりが無いという結果を出してしまう。ところが、実際に試験として判断力を測ると驚異的な正解率を示す。
 偶然ではないか? と、祐人に限り異例の試験のやり直しが行われた。

「何で僕だけ? ずるいよ! さっきの成績はどうなるの! うまくいったのに!」

 と祐人は渋ったが、試験官も内心はその通りだなと思いつつも、試験のやり直しを指示した。
 再びイーラがイリュージョンを発動させて、罠が多数設置されている迷宮を作り出す。
 そこをいち早く脱出するという試験なのだが、そのやり直した試験でも祐人はこれ以上無い結果を出した。
 罠を容易に見破り、囮にも引っ掛からずに脱出口を見つけてしまう。
 そのクリア時間も他の受験者に比べて圧倒的に早かった。
 試験官達のしばしの沈黙が続く。

「ああ、一応確認のため……。堂杜祐人の試験結果ですが、筆記試験は三十二点と落第点だが内容は吟味の必要あり。体術は文句なしのAランク、というよりそれ以上の可能性あり。基礎霊力はそのまま判定すればAということですが……本人には使えないという可能性あるとのことなので測定外。能力の完成度は、模擬戦の結果から言えばAランクですが……実力によるものなのかは分からず。判断力・勘は、まあ結果から言えばAですかねぇ」

「しかし、模擬戦では幸運があったとはいえ一匹のBランククラスの魔獣を自分で倒している。霊力による勘がからきしでも、それは最終的な決断をする際に能力者特有の判断材料になるという考えであることだから……。結果として、判断力が優れていれば霊力による勘が悪くても大きな問題ではない……はず」

 全員頭が痛いという感じで下や上を向く。

 今日来ている試験官達は非常に忙しい身である。
 この会議が終われば、祝賀パーティーには参加せず自国に帰る者がほとんどだ。今回、この新人試験のために、無理やりスケジュールに組み込んだ者が多い。
 そのため、最終段階でこんなに時間が取られるのは予想外であり、皆、次の仕事がおしているため、少々イライラしてきている。
 そこに髪の色が白髪、黒髪と違うが同じ顔しているドーラとイーラが同時に声だす。

「ああ! もう訳わかんない! こんな奴、初めてぇ!」

「もう、いいんじゃないんですか? ランク外で。ただの体術馬鹿だったという所で落ち着けましょうよ」

 試験官全員が主催者に目をやる。
 日紗枝は今まで議論を静観してきたが意見が出し尽くしたと判断して口を開いた。

「イーラにドーラ、そういうわけにもいかないでしょう。確かに試験結果からはこの少年のランク認定はすんなりと……というのは難しいわ。ただ、彼は結果を出しているわけだし。逆に考えてみて。どんな理由であれ、彼はBランククラスの魔獣とやり合える能力を有している。その彼がWIO認定外の能力者として動かれたとしたら……」

「「う! それは確かにややこしい」」

「彼はまだ若いし、これからの成長は充分にありえる。であれば機関からある程度のコントロールが効く方がいいわ。データには彼はどうやら能力者の家系ではなく天然能力者のようだし……能力者機関の天然能力者の保護、育成の理念にも適う。それに……」

「それに?」

「これは……私見だけど。この試験内容では彼を測れなかった可能性もある……。まあ、人間性にも問題は無いことだし、ここは私が主催者権限で結論を出します。それでいい?」

 全員が頷く。そもそも確固とした答えは皆持っていない。それにあの少年をランク外にするには惜しい気持ちも確かにあった。

 終始黙っていた剣聖は日紗枝を見つめながら小さく笑う。

「天然能力者……か」

 会議が終わり、後はランク発表のみとなった新人試験にちょっと肩の荷が下りた日紗枝は一旦、ホテルの自室に向かう。その横には剣聖アルフレッド・アークライトもいた。

「日紗枝。それでは私はここで失礼するよ。呼んでくれてありがとう、非常に楽しかった」

「よく言うわよ。最初は嫌がっていたくせに……。それにちゃんと仕事しないといい加減、機関からも見放されるわよ。行方不明とまで言われていたんだから」

 剣聖は苦笑いをする。それに対し日紗枝は真剣な顔で剣聖を見る。

「アル……あなたはあの子について何か知っているの? 当初からのあなたのあの子へのご執心は普通じゃなかったわ」

 剣聖は黙って表情を変えない。剣聖はかつての恋人を見つめ、日紗枝もその目を見つめ返す。

「仙道……」

「え?」

「あの少年は仙道の使い手の可能性がある」

「まさか!」

「いや、分からない。道士にしては不自然なところが多い。実際、霊力も持っている。そんな道士は聞いたことがないし、間違いの可能性も高い。そもそも、仙道の者たちは機関にまったく関わりを持たないし興味もない連中だしね」

「そんな……。でも……それならこんな試験では測れないのも頷ける」

「日紗枝。彼をしっかり見ていて欲しい。間違いの可能性も高い。聞いているものと違いすぎる。天然能力者というのもそういう意味では頷ける話だ。だが、もし道士ならば……彼は貴重なサンプルだ。同じ能力者でありながら謎の多い道士を知るのに彼は非常に重要だ」

「……分かったわ。ただ……それであの少年を特別な扱いはしないわ。まだ、不確定なことだし何よりも彼は新人試験に誠実だったわ。そんな子をサンプル扱いすることはできないわ」

「そうだな。それでいい」

 大きく笑顔で剣聖が頷く。その二人の後ろから小走りで能力者機関の職員が報告にくる。

「剣聖。空港までの車が用意出来ました」

「……分かった。すぐに行く」

 剣聖はそれ以上何も言わずに職員の後に付いていく。
 一瞬、日紗枝は声を上げようとしたが、声を掛けることが出来なかった……。

 そして、日紗枝は剣聖の後ろ姿を見つめ自分の腹部を大事そうに手で摩った。


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