魔界帰りの劣等能力者

たすろう

ランク試験 幸運と実力①

 
 この日、午後の部の試験は『法術・能力の完成度』となる。試験の中で最もアロケーションが高いこともあって、受験者が一番力の入る試験でもある。

 能力の完成度とは、それぞれの能力者が持つ固有の能力の精度の高さを測るものである。
 いくらパワーがあっても、操作性の悪い車は使えないのと同じことが能力にもいえる。
 逆にパワーが無くても、その操作性や持続時間、耐久力が高ければよい車ともいえる。

 そういったことを測る試験であり、この試験はさすがに一人の試験官では測れないので、ほぼ全員の試験官が参加した。
 また、受験者の能力は多種多様で、画一的な試験方法では対応できないために測りやすい状況と環境が用意され、多くの場合、模擬戦も行われる。
 祐人は昼食中に渡された、希望の試験会場を書く記入用紙に「どこでも可」をチェックし、測定方法のところには「模擬戦」をチェック。

(まあ、僕の場合、基本的にすべてが接近戦だからね)

 祐人は、試験開始十分前に体術試験と同じ広大な会場に来ると、他の受験者達の格好に目を奪われた。
 この試験では、皆それぞれの流儀に従った正装をしている。世界各国から様々な家系の新人が来ているということもあり、それはちょっとした民族博覧会だった。
 人によっては法具や魔具、そして武器のような物を持っており、どうやら能力を行使するのに必要なものらしいことが分かる。

 この試験には、能力の発現やその能力の最大限の活用のために必要なアイテム、契約した人外の持込みは全てオーケーになっている。
 アイテムによって能力が増す、それらも含めての能力測定になる。
 例えば、剣聖はその人自体、規格外の能力者だが、愛剣〔エクスカリバー〕を持つことでその戦闘力は数倍に跳ね上がる。測定はそれも含む、ということになる。

「ま~た、最後かぁ。これ、わざとじゃないの?」

 祐人は、自分の試験の順番を見て一人愚痴る。外の会場に行った者もいたが、祐人も含め、ほとんどの受験者がホテル内の大ホールで試験をすることになった。

「それにしても武器、アイテムまで使用オーケーってのは知らなかったな」

 一瞬、祐人は自分の両手を見つめる。その分厚い皮に覆われる手は、少年のものにしてはあまりに武骨で、明らかに剣を扱う者のものだった。

「いや、止めとこう。あまり晒すのは目立つだけだもんね……」



 そして、今、試験での肝……4つ目の試験である『法術・能力の完成度』が開始された。

 順次、受験者が事前に提出したアンケートに沿っての環境が用意され、己の能力を披露していく。
 祐人は数々の受験者の能力を目の当たりにして、食い入るように観察をする。中には、非常に珍しい固有伝承能力の者もいて祐人を驚かせた。
 トランス状態になり破魔の弓を扱う者や、色を使い感情を操る者、契約した人外と連携を組む者等々、と祐人も初めて見る能力も多かった。

 そして試験は終盤に至り、試験官達は極度に興奮していた。

「それにしても今年の新人達は凄いわ。このままだと、新人試験始まって以来の快挙になるわね。瑞穂ちゃんのことは分かっていたけど、黄英雄、マリオン・ミア・シュリアン……。あの歳でこの能力……本当に末恐ろしいわ」

 自身もランクSの卓越した能力者であり、能力者機関日本支部支部長の日紗枝も驚きを隠せず感嘆する。それほどこの三人は、今年の優秀な新人の中でも飛び抜けていたのだ。

 英雄は黄家に伝わる固有伝承能力【憑依される者】を操り、その年齢からは考えられない上級神霊〔ク・フォリン〕を呼び出すと己に憑依させて完璧にシンクロし、その力を振るった。
 マリオンはオルレアン家に伝わる〔ラファエルの法衣〕を身に纏い、試験用に召還された低級悪魔を五分で無傷のまま、九匹を倒すという結果をたたき出す。
 共にその能力の精度は熟練能力者に匹敵する程に高い。

 そして、特筆すべきは瑞穂だった。

 言わずと知れた精霊使い名門家系の彼女は、地水火風の四系統のうち、二系統の精霊を同時に、しかも実戦さながらにコントロールしたのだ。
 上級の精霊使いでも、通常は一系統ずつの行使に止まるのが常識である。
 多系統の同時行使……これは確認されている精霊使いの中でも数えるほどしかいない。
 しかも、それは世界中にある各精霊使い家系の当主クラスの者達ばかりだ。それをこの新人でしかない少女が使いこなす。

 これが四天寺家の宝、世界中の能力者が注目する次世代の精霊使い四天寺瑞穂である。



「では次で最後ですね。えー、堂杜祐人君、前に出て。堂杜君は……模擬戦を希望だね。それでは模擬戦用の相手を召喚致しますので準備をお願いします」

「あ、はい。分かりました」

 霊力測定の際の試験官だったイーラの双子の妹、ドーラが召喚態勢に入る。双子であるから当然かもしれないが、ドーラとイーラの見た目は、服装と髪の毛の色が黒と白いう以外に違いが分からない。
 そのドーラの周りが青白く光り、その前方の床に魔方陣が浮き出る。
 祐人はこの間に、戦闘準備のための仙氣を昇華し始めた。

(もう一段階……さらに上へ、もうさらに上……)

 他の受験生達も、その見たことの無い祐人の能力発現に注目する。
 祐人の放つ氣は昇華され、霊的な力を持つまでに高まる。その力は体術試験の時のものとも違うように感じられた。

 外からの見た感じでは、全く普段と変わらない祐人。
 しかし、皆、普段は頼り無さそうにしていたはずの祐人から、圧迫感というか強烈な存在感を覚える。
 体術試験の驚きから冷めやらない受験者たちは、祐人のその姿に惹きつけられていく。

 試験官たちも同様だった。
 日本支部の長であり、主催者でもる大峰日紗枝もこの少年に興味を持ち始める。

「あれは……一体。天然能力者って記載されていたわね。あれ……も突然変異のものなの……?」

 召喚態勢の整った試験官のドーラは、眼前にいるその祐人の姿を複雑な気持ちで見つめていた。そして、この試験前にした剣聖との会話を思い出す。



「えーーーー!! あの堂杜って子の模擬戦で、ランクBクラスの魔獣を召喚するって!? ちょっと剣聖!」

「ああ、頼むよ。5匹ぐらい? でいいかな?」

「5匹って! 新人が死んじゃいますよ! 何を考えてるんですか! 確かに体術能力には驚きましたけど、これは模擬戦って言っても、ほとんど実戦に近いんですよ!?」

「大丈夫だよ。最悪は戻せば良いし、間に合わなければ僕が介入するから。当代きっての召喚師の君なら5匹ぐらい軽くいけるだろう? 大丈夫! 責任は私が取るから」

 ドーラはチラッと剣聖を横目で見る。その視線に剣聖は笑顔で頷いた。

(もう! どうなっても知りませんからね!)

「はああっ! 暗き床より来たれ!   汝らその惨劇の目撃者とならん!   召喚サモン! マンティコラ!」

 ドーラの言い放った召喚する魔獣の名に、瑞穂やマリオンが目を剥く。

「え?」

 他の受験生や、試験官達も聞き間違いではないかと同様に目を丸くするが……眼前にその現実を視認することになった。

「マンティ……? マンティコラって? マンティコラ! そんな上級の魔物を!? え、まさか……二、三……五匹!?」

「ドーラ! 何てことを!」

 日紗枝が叫ぶ。現れたのは獅子の様な姿、顔は人と猿の中間で、百近い牙と巨大な蠍の尾を持つ異形の魔獣。そのマンティコラ五匹がホールに這い、一部は宙から祐人を睨む。
 魔獣の放つ禍々しさに、ホール内の受験生達が座る控え席から悲鳴が上がった。

「え? 何? そんなにやばいの?」

 祐人は皆の反応からどれほどの相手なのかと、祐人は氣の円を周囲に巡らす。
 祐人を中心に広がる、その氣の輪にそのマンティコラ数体が触れた。

(なるほどね。でも……いける!)

 冷静な受験者当人よりも、周囲が混乱し始める。主催者である日紗枝は咄嗟に前へ出た。

「堂杜君! そいつらの目を見ては駄目! 逃げて! ってあわ!」

 日紗枝は前に出るその瞬間、突然に後ろから腕を捕まれ、態勢を崩していまう。

「え!?   アル! 何をするの! ちょっ、このままじゃ、彼だけじゃなく新人達が!」

「いいから見てなさい」

 剣聖は前方に目を向ける。

「えっと……あのー! 試験開始でいいんですよね! 始めますよ!」

 祐人は大声で確認すると、あろうことか颯爽とマンティコラ五匹のど真ん中に飛び込んだ。
 瑞穂とマリオンは、素早く他の受験生達の前に守るように出て不測の事態に備えたが、祐人の暴挙とも取れる行動に、二人は思わず悲鳴に近い声で叫ぶ。

「馬鹿ーっ! 外側から回りこんで各個に相手をするのよ!」

「祐人さん! 駄目です!」

 五匹の魔獣は一斉に吼えながら、飛び込んで来た格好の獲物に猛然と襲い掛かった。
 あっという間に猛獣の餌場のように、五匹のマンティコラの巨体で祐人の姿が揉み消されてしまう。
 皆が、そのまさに惨劇ともとれる状況を目撃する。周囲にはマンティコラの口から出る臭気を伴った煙が撒き散らされて、視界が悪くなり、その生臭い匂いと惨状に吐き気を起こす者もいた。

「私のせいじゃないもん! 私のせいじゃないもん! 私のせいじゃないもん!」

 召喚したドーラ本人は涙目でしゃがみこみ、頭を抱えていた。

「な……何てことに。アル、何故、止めたの! ドーラ! 早く召喚解除を。救護班も呼んで!」

 顔面蒼白の日紗枝の指示を合図に、ピクンと頭を抱えているドーラの肩が反応した。

「早くドーラ! 聞いているの!?」

「え? えー! そ、それが……もう」

 剣聖の口が静かに緩む。
 周囲の煙が徐々に消えて、視界が開けていく。

 そこには……瀕死状態の五匹のマンティコラの中心に立つ、祐人の姿があった。
 予想した絵とは全く違うものが全員の目に入る。祐人は、一匹のマンティコラの額に与えていた掌打を外した。5匹のマンティコラ達はそれぞれに痙攣を起こし、息も絶え絶えにしている。
 まさか、あの瞬間にすべての魔獣をこの少年が倒したのかと全員が息を飲む。

 ところが、良く見ると……。
 祐人の倒したと思われるマンティコラ以外の4匹は、その巨体が複雑に絡み合っており、魔獣たちはそれぞれを互いに攻撃したようになっていた。
 ある一匹はその猛毒の蠍の尾を他の一匹の胸を刺し、ある一匹は他の一匹の頚動脈辺りを深く食いちぎっている。
 祐人を襲わんとし、揉み合った乱戦で勢い余って同士討ちをしてしまったようだった。
 さらに、祐人の倒したと思われるマンティコラも、祐人の攻撃ではないだろう重い傷が横腹に見られた。

 全員が言葉を失い……そして力が抜ける。一人、喜んでいた英雄は口をパクパクし、

「な、何て、運の……良い奴」

 皆も本気でそう思った。
 結果はどうであれ、祐人の無事を確認して日紗枝は心底胸を撫で下ろし、マリオンなどは祐人が無事であるのを見て、床に両膝を着いてしまった。
 その横にいた瑞穂はホッとすると同時に、額に青筋をたててワナワナと拳を作っている。
 祐人は周りの雰囲気に気付き、皆に近づきながら、少し心外そうにアピールする。

「あのー、一匹・・は僕の手で……倒したんですけど……」

 祐人のそのセリフの直後に、マリオンは近くからプチン! という音が聞えた

「え?」

 マリオンはその音の方向に振り向く。
 そこには……憤怒の女神ドゥルガーを思わせる瑞穂の姿が……。

「堂杜ぃぃー祐人ぉぉ! この馬っ鹿者がぁー! あなた死ぬ気なの? 敵の中央に自ら飛び込んで! 実力も無いくせにそんな戦法をとっていたら、命がいくつあっても足りないわよ! 今回のは奇跡的に運が良かった事にちゃんと気付きなさい!」

 祐人の胸ぐらを掴み、天に掲げながら瑞穂が顔を真っ赤にして叫ぶ。

「え? え? 何で怒ってるの? だ、だってほら、全部倒したでしょ?」

 祐人の緊張感の無いセリフを聞き……瑞穂の怒りは完全に閾値を越えてしまう。

「だっかっらぁぁ! それはぁ、運だぁぁ――!!」

「え? 何でなの!? うわーーー!! ゴボハ!」

 瑞穂はその霊力で強化された腕力で、祐人を背負い投げの要領で投げ飛ばした。祐人は高スピードで、空中を滑走してホテルの分厚い壁に叩きつけられ…………力尽きた。
 その中、剣聖は真剣な顔で検分するように瀕死の魔獣たちを確認している。

(そういうポイント……に飛び込んだのか。相手の知能が低いのを瞬間に看破しての行動とは……)

 この上なく真剣な顔の剣聖の肩に背後から重たい手が乗った。

  「ん?」と剣聖が驚く。

 そして……奈落のそこから這い出るような声が聞こえてくる。

「き、聞いたわよ……アル。これは、あなたの仕業みたいね……」

 慌てて振り向いた剣聖。そこには、日本支部の実力者でもある支部長の姿が……。
 さらに、その日紗枝の背後には大量の涙を流し、頭に出来た大きなをコブを抱えているドーラが見える。

「あ、いや、日紗枝! もちろん! いざとなったら、私が出るということで……」

「ア・ル、私がこの新人試験でどういう立場かは知っているわよねぇ。私はね、大事な新人達の身の安全を確保する義務があるの……よ?」

「あ……日紗枝、その笑顔は可愛いけど、とっても怖……ゲベフ!」

 腹に拳が入る。

「うぐぐぅ。ひ、日紗枝ちょっと……、え? 待ってぇぇー!!」

 続けて胸と腕を掴まれ、剣聖は祐人が叩きつけられた同じ壁に、その長身の体を軽々と投げ飛ばされた。
 激しい壁との衝突音……。そして剣聖は、逆さまに祐人の横にずり落ちる。
 その剣聖の視界に情けない顔で目を回し、失神している祐人が目に入った。

「少年……。私達は似た者同士……かも」

 力尽きた。

 気を失った祐人と剣聖を前にして、ゼーゼーと息をしている美女、美少女。
 その姿に……潜在的な恐怖が、そこにいる全員の心に植え付けられたのは言うまでもない。


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