魔界帰りの劣等能力者

たすろう

ランク試験③

 
 祐人が新人試験の案内状に指定された時間のちょっと前に会場に到着すると、既に試験開催パーティーの準備は整っていた。
 会場の入り口の横にある受付ブースで事前に渡されたID番号を照合してもらい、順次中に入っていく。
 のだが……祐人は中に入るなり、完全に萎縮してしまった。

 というのも、世界中の新人能力者がこの試験に集まっており、人数的には関係者やその従者らしき人たちを合わせて優に百人以上はいる。
 そして、会場内にはたくさんのご馳走が、これでもかと並べられていた。そこは、祐人の目からは大人の社交場のようにすら見えた。
 また、祐人を一番萎縮させるのは、全員がパーティーに合わせてフォーマルな服装をしているのだ。さらに、受験者と思しき同世代の人達も随分と場馴れした印象を受ける。

 一方、祐人はというと……ジーパンとインナーに長袖シャツという高校生らしい格好。

「こ、これは場違いだ。恥ずかしすぎる。こんなだとは知らなかったよ。目立たないように試験を受けて、さっさと帰りたかったのに……」

 その目論見とは逆に、祐人は明らかに目立ってしまっていた。オドオドと会場の中に入り、祐人は入り口からすぐの端の方で所在無さそうに立つ。

「おい。何だ、お前は? そんな格好で……関係者か?」

 入場した途端声をかけられ、祐人は顔を向けると鮮やかなチャイナ服を着た少年が立っていた。その後ろには、その少年に比べると地味だが、同じくチャイナ服を着る屈強そうな大男が三人控えている。
 だが、祐人は同世代の少年を見てちょっとホッとしてしまう。

「ああ、受験者で堂杜って言います。君も受験者ですか? よろしく……」

 祐人は握手のつもりで右手をだす。

「受験者? ククク。よくそんな汚い格好で来られたな。お前、天然能力者か? まあ天然でも、どこの家系でもどうせ大したものでは無いだろうな。この黄英雄こうひでおの同時期の受験者としてせいぜい励めよ。あまり今年の受験者のレベルが低いと周りにも迷惑だからな」

 黄英雄と名乗った少年は、言いたいことだけ言うと嫌味な笑みを見せ、馬鹿にした態度で祐人に背を向けて行ってしまった。無表情な従者達もそれに従う。

「あ……」

 祐人は去った英雄の後ろ姿を見た後、行き場を無くした自分の右手を見つめる。
 そして、グッと握り締めた。

「や、嫌な奴ぅ! 普通、言うか? そういうこと!」

 祐人は一人憤慨し、入り口付近で悔しそうにしていると次第に会場が騒めきだした。
 何だ? と祐人が見上げると、たった今、入って来た一団に周囲の視線が集まっていることに気づく。祐人も好奇心でその視線の方向の一団を確認した。

「あ、あれは、さっきの……」

 それは先程、喫茶店の前で祐人を怒鳴ってきた少女の一団だった。入り口の側面から祐人はその少女を見ると、その横顔はいまだ不機嫌そうなままなのが分かる。

「おい……あれが四天寺してんじ家の次期当主筆頭格の瑞穂みずほ様だ」

「あれが……。随分前に少しだけ見たことはあったが……お美しくなられた」

「何でも……勝負して勝ったらお付き合いできるらしいぞ。どうだい勝負してみたら」

「アホ! それで死んだら意味が無いわい。今までに勝負した奴らの末路を知っているだろう? 全員病院送りだそうだ」

 自然とその四天寺家の周りに人垣ができて、色々と話声が祐人にも聞えてきた。

(四天寺家ってすごいんだ……)

 祐人の全く知らない情報が入ってくる。祐人は人垣の最後尾から、物珍しそうにその少女の凛々しい姿を眺めていると、その四天寺家の一団の前を遮るように出てくる者があった。

「やあ、瑞穂さん。お久しぶりです」

「久しぶりって……どなただったかしら? あなた」

(あ、あれは……さっきの嫌な奴!)

 えらく格好をつけて、人垣から出てきた英雄は瑞穂の返答に一瞬顔を歪める。

「グ! 黄英雄です。お忘れになりましたか?」

「ああ、黄家の……。御免なさい。私はね、興味のない人間の名前ってすぐに忘れる性質なの。でも貴方だけじゃないから気にしないでね。じゃあこれで」

「ま、待て! 僕が将来のあなたの夫でもそう言えますか?」

 英雄の横をすり抜けようとした瑞穂の肩がピクッと反応した。

「……どういうことかしら?」

「何でも貴方に勝負して勝てば婚約できるとか……。だとすれば、それは私を置いては誰もいないでしょう?」

「ふーん、私はそんなこと一度も言っていないし、ずいぶん話が飛躍しているけど、身の程知らずがいたものね。じゃあ特別にここで私には相応しくないと教えてあげるわ。二度とそのふざけた顔を私の前に出せないようにね」

「ふふ、ふざけた顔……。誰に向って言っている!」

「今、私の目の前にいるふざけた顔の持ち主によ。ほら、かかって来れば? そのふざけた顔にさらに恥を上塗りしなさい」

 元々、機嫌が良くなかった瑞穂はいつにも増して口が悪い。それは、機嫌を損ねた理由と同じ内容で英雄が話しかけてきたということも瑞穂の機嫌の悪さを助長した。
 その意味で英雄の話しかけ方は、間の悪いことこの上なかった。
 険悪極まりない瑞穂と英雄の会話に、一瞬にして会場も静まり返ってしまう。

(こ、怖~)

 祐人は相変わらず、外野の最後列からその様子を窺っていた。
 すると突然に会場の緊張が極度に高まる。
 強張った顔の英雄に霊力が集束し始めるのを参加者達は感じたのだ。
 しかもそれは莫大な量。祐人も驚き英雄に目を奪われる。
 だがそれだけではない。不敵に笑みを見せている瑞穂にも同等の力が集まりだす。そのため、この一瞬にして会場は二人を中心にパニック寸前にまでなってしまった。

(まずい! やりすぎだよ!)

 祐人がそう思うと同時に、顔色を変えた両者の後ろにいた各従者達は慌てて間に入ろうとする。

「まあまあ、そ、その……落ち着いて二人とも」

 ようやく仲裁が入った。周りの人垣からも早く止めてくれ、という空気が伝わってくる。
 しかし……周囲の予想と反し、二人の間にいるのは、明らかに場違いな服装の少年だった。

「何よ。あなた」

「貴様! さっきの!」

「ほ、ほら、これから試験を一緒に受ける仲じゃない? 喧嘩はしないほうが……」

 祐人は力なく微笑む。その姿はまさに虎と狼に挟まれる羊……。
 その明らかに役不足の仲裁者を挟み、半瞬だけ時が流れる。
 瑞穂は、怯えたような笑顔の仲裁者を眺めると嘆息し、自身の後ろ髪を払う。

「……何か冷めたわ。あなた! 勇気は認めるけど、次は死ぬかも知れないわよ。相手の力量と状況をもっと把握することね」

 不機嫌そうなままに、祐人をビシッと指を差して忠告する。

「チッ。貴様……身の程を弁えろよ。おい行くぞ!」

 英雄もここで周囲の様子に気が付き、流石にまずいと思ったのか、その場から離れようと従者に指示した。
 当事者二人が、距離を取るように去っていくのを見て、会場全体が安堵に包まれた。互いの従者達も冷や汗を拭い、若い主人達に従う。

 その場に残され、周囲からの好奇の目に晒された祐人は「ははは」と笑いながら申し訳無さそうに、早くも定位置となりつつある会場入り口付近の端の方へ戻った。
 四天寺家の従者である神前明良は端の方に向かう祐人に目をやる。

「あの少年は……確か、堂杜君だったけかな?」

「ご存知なのですか? いやはや、命知らずというか、まったく無知とは怖いですな。まあ、結果的には良かったですが」

「いや、君はあの少年がどこから出て来たか見ていたか?」

「え? いや、気づきませんでしたが……瑞穂様に集中していましたので。それが何か?」

「いや何でもない。私も気が付かなかったのでね……」



 その一幕を会場前方、ステージ脇のカーテン裏から見ている者がいた。
 その男は、ブラウンの髪をしっかりセットし、逞しい体にタキシードを身に着けている。

「ほう、あの少年、相手の気を逸らしたのか。しかも、あの体捌き……。まさかランク試験に仙道の使い手とはね。無理やり参加させられたが……これはとんだ僥倖だったかな?」

 そう呟き、笑みを溢した。


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