５－２　叱責と準備

「で、お前ら何やってんの？」
腕組をしながら朝日が問う。
その声音には幾分かの呆れの色が窺える。
丁度時間が朝食時になった頃。
外で模擬戦をしていた勇二と華夜は玄関にて、玄関で仁王立ちをする朝日の前で正座をしていた。
その二人の姿は泥だらけになっていてボロボロだった。
模擬戦が終わり、各自部屋に戻り身体を拭きに行こうとしたところ、丁度リビングに向かっていた朝日と鉢合わせになり捕まったのだ。
「いやー、なんて言いますか…」
「模擬戦が思いのほか長引いて……」
「気づいたらガチ試合になっていた、と？」
「「はい……」」
目を逸らしながら答える二人に朝日は溜息を吐く。
「ひとこと言わせろ。バカだろお前ら、特に勇二」
「なんで僕！？」
名指しされた勇二は思わず反発する、が。
「どうせお前のことだ、何度も何度も再戦を申し込んだんだろ？」
「うっ！せ、正解です……」
「やっぱりな。見た感じ、お前らの実力は大体同じ程度。どっちが勝ってもおかしくねぇ。で、一回でも試合に負けた勇二が引き下がるわけがねぇ」
「お、お見事。流石朝日……」
見事な朝日の名推理に完敗とばかりに両手を上げて降参の意を示す勇二。
「なにが流石だ。ったく。再戦の申し込みを受けた華夜も華夜だぞ？」
次に朝日のお説教の標的になったのは華夜だった。
「えっと、その、思いのほか勇二さんがしつこ……手強くて」
華夜は途中で何かを言いかけたが何とか口に出さずに飲み込んだ。
「ちょっと華夜ちゃん！？今しつこいって言いかけなかった！？」
「いえ、そんなことは……」
「いや、今明らかに目逸らしたよね！？え、なに？僕ってそんなにしつこい？」
「ああ、かなり」
「朝日はシャラップ！」
「お前の方がうるさいわ。てか、お前らその格好で飯食うのかよ？」
「「あ……」」
失念していたとばかりに声をそろえる二人に朝日は思わず頭を抱えた。
「全く。ホントに何やってんだお前らは…」
「い、一応これから部屋に身体を拭きに行く予定だったんだよ？」
「そ、そうですよ！そこを兄さんに捕まったんです！」
「ほぅ？つまりそれはオレが悪いと言いたいんだな？」
「「滅相もありません！我々が悪うございました！」」
「わかればよろしい」
朝日の言葉にホッと息をつく二人。
「そうだな、華夜は未希に頼んで風呂場お湯でも入れてもらいなさい。勇二は……」
そこまで言った朝日は次の瞬間、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた。

「新しい魔法の実験台だ」
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「それで、結局朝日の新しい魔法ってどんな魔法だったの？」
所変わってリビング。
食卓に着いた四人は目の前の皿に盛りつけられた食事をとりながら雑談を繰り広げていた。
「うーん？なんて言えばいいんだろう。簡単に言えば洗濯機、かな」
「ああ、その認識で問題ないぞ。実際最初にイメージしたのがそれだからな」
「洗濯機かぁ。この世界にもそれっぽいのはあるんだけど、手回しなんだよねー」
「ああ。確かにありましたね。あれって女性に優しくない構造ですよね。この前なんて、街で洗濯代行屋なんてものを見つけましたもん」
「というか、それ発案したの絶対に先代の内の誰かだろ」
「魔法を使わない便利な道具、ってことなのかな？」
「なるほど。物を売るコンセプトとしては充分ですね」
勇二の的を得た発言に華夜が感心したように頷く。
「洗濯機の話題もいいが、連絡事項だ」
そんな穏やかな朝食の場で、朝日は手を打ち鳴らして他の三人の注目を集める。
「今日は雲行きが怪しくなる前に出発の予定だ。食事を摂り終わったら各自準備をして外に出ているように」
「部屋に忘れ物をしないようにしてくださいね？土の中に埋まってしまいますから」
「はーい。あ、でも朝日の体の調子は大丈夫なの？」
「ああ、大丈夫だ。快調って訳でもないが、余程の無理をしない限りは問題ねぇ」
「余程の無理、ねぇ？」
「なんだよ？」
「いいや。なんでも」
「ったく。なんなんだっての……まぁいい。それじゃあ集合は一時間後だ」
「あっ…に、兄さん」
そう言って立ち上がり自室へ向かう朝日に華夜が椅子から立ち上がり声を掛けた。
「どうした？」
「い、いえ。どこへ行かれるのかな、と」
「部屋だよ部屋。ちょっと中途半端なままの魔法の研究が残ってたからな、出発までには終わらせたいんだ」
「そ、そうですか。あまり危険なことはよしてくださいね？」
「なんだよ。今日は華夜まで心配性だな。大丈夫だ。そんな危険なことはしねぇよ、多分」
そういうが早いか朝日は自分の私室へ向けて歩き出す。
残された華夜は何とも言えない表情で再び椅子に座る。
「さ、それじゃあ僕達も食後のお茶を飲んだら、さっさと準備を整えちゃおうか」
「そうだね」
「そう、ですね」

to be continued...