異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

4-10 雨の中のお茶会

「と、ざっくりと説明すると大体こんな感じだ」
朝日の主観の入り混じった『昔話』が終わり、朝日はそう言ってすっかり冷めてしまった紅茶に口を付ける。
茶葉がいいのか、淹れた人間の腕がいいのか、冷めた紅茶の香りは健在だった。
沈黙が部屋を支配する中、一番最初に口を開いたのは勇二だった。
「……なんというか、僕達もそれなりに奇想天外な旅をしてきたつもりだけど朝日も中々だね」
呆れ交じりにそう苦笑する勇二。
「仕方ねぇだろ?他に策がなかったんだ」
そう言って肩をすくめる朝日に勇二は苦笑の色をさらに深くする。
「仕方なくても、普通は飛竜ワイバーンと一騎討ちなんてやらないと思うんだけど?」
「ああ、オレもまさか一騎打ちすることになるとは思わなかった」
「そりゃそうだよ…」
はぁ、とため息をついて頭痛が来た時のように頭に手を当てる勇二。
「ホントに君は…華夜ちゃんのことになると脇目も振らずに突っ走るんだから」
「当たり前だろ。俺がこの数年間何をしてきたか知らないわけじゃあるまい」
「褒めてないんだけど?」
「それほどでも」
「だから褒めてないんだけど!?」
先程の張りつめた緊張感はどこへ行ったのか。
勇二と朝日のやり取りを皮切りに部屋の中の雰囲気が少しずつ和んでいく。
「ロック山脈は標高が低いところろ高いところまでの間で生息する魔物の強さが全く違うんだよ」
「へー?そんなに変わるものなの?」
「ああ。生息している魔物たちの種類もなかなかに豊富だったぞ」
「強い魔物とかはいた?」
「それほど強い固体はいなかったがユニーク個体なら数体遭遇したぞ」
「え、それホント!?羨ましいなー!」
「そうか?でも、まあ中々に興味深い場所ではあったがな」
「珍しい果物とかあった?」
「いや、特にこれと言って珍しいものはなかったな。ああ、でもあの山に成っていた果物は美味かったな」
「おお?」
「味と見た目はまんまリンゴなんだが、前世で食べた果物よりうまかった記憶があるぞ」
「おお!やっぱり鮮度が違うのかな?」
「あー、それはあり得るんじゃないか?」
勇二とは基本的に冒険先で遭遇した魔物の話、未希とは冒険先で見かけた珍しい花や食べ物の話をした。
華夜はそんな朝日のことを温かい眼差しで見つめている。
「皆さん、紅茶のお替りはいかがですか?」
「ん。いただこう」
「あ、僕も」
「私も―、っていうか手伝うよ!」
「ありがとうございます。それなら、未希さんにはお茶請けをお願い出来ますか?」
「モチロン!」
「ふふっ、それじゃあちょっと行ってきますね?兄さん」
華夜はそう言って立ち上がると、未希と一緒にぬるくなった紅茶の残りが入ったティーセットを持ってキッチンに歩いてゆく。
残った朝日と勇二はそんな二人を笑顔で見送り、外から漏れる雨音をBGMに先ほどの話の続きを始めたのだった。

to be continued...

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