異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー
4-6 朝日の行方と再会4
「『華夜』…」
小さく囁くように呟いた朝日の声がシンとした雰囲気に覆われた洞窟の中を木霊する。
朝日の見つめる水晶の柱。
その水晶の中では一人の少女が、まるで眠るようにその瞼を固く閉じていた。
歳は十代前半、長い黒髪が印象的な小柄な少女。
数年前を皮切りに見ることの叶わなくなったその穏やかな寝顔に、朝日は思わず取り留めなく流れる涙の事も忘れ見入っていた。
「やっと、やっと逢えた…これでオレは…」
朝日はうわごとでも口にするようにそう呟きながら水晶柱に縋りつくようにその場で膝を落とす。
「っ!?」
そして朝日の黒い右腕が水晶に触れた途端、朝日は言いようのない違和感を感じとった。
いや、この感覚には覚えがある。
もしかしたらこれは違和感というよりは既視感と言った方が正しいかもしれない。
この感覚を初めて体感したのはこの世界に来てから二日目の事。
特殊な魔道具を使って魔力量の計測と魔法適正を調べたときだ。
適性を調べるために使用したカーペット状の魔道具に触れたときに感じた身体からナニカが抜き取られるような感覚。
今感じ取った感覚に最も近いのがそれだ。
「今のは一体…?もう一回触れて見るか…」
興味半分でもう一度水晶柱に触れてみる朝日。
すると再び水晶が身体からチカラを吸い取るような、そんな感覚に襲われた。
「一体この感覚は何なんだ…?不思議と不快ではないが」
朝日はそう言って一度水晶から手を離すと怪訝そうな顔をして自身の手と水晶柱を見比べる。
すると、そんな朝日の脳内に声が響く。
≪僭越ながら、マスター≫
「どうした、サクリファイス」
それは朝日と契約した魔剣。
その意思であり本体、精霊でもある『魔剣サクリファイス』だった。
≪恐らくですが、その水晶体はマスターの魔力に反応、共鳴しているのではと推測されます≫
「共鳴だと?そりゃまたなんで?」
≪…この水晶体。身近なところで見覚えはありませんか?≫
サクリファイスのその言葉に朝日は一度記憶の中に探りを入れる。
その答えはサクリファイスの言う通り案外身近なところにあった。
「まさか…創造魔法か…?」
目を丸くし、朝日は魔法で作り上げた剣と水晶柱を見比べる。
確かに大きさに違いはあれどどことなく似通った点が見られるようだ。
よくよく観察してみれば目の前にある水晶柱からは決して少なくない魔力が認知できた。
普段ならこれだけの魔力、すぐに感じ取ることができただろうが『妹』を目の前にして気が動転していたのだろう、朝日にしては珍しい見落としだった。
「だが…創造魔法はオレと初代勇者にしか…って、まさかこの空間を作り上げたのが初代勇者ってことか…!?」
そこまで考えた朝日は自身の考えを否定するように首を横に振る。
「いや、ありえないな。初代は五百年以上前に死んだはずだ。もしそうだとしても華夜がここにいるのは明らかにおかしい。そうだろ?」
≪私には答えかねます≫
「…まて、サクリファイス。お前まさか何か知ってるのか?」
≪………≫
「だんまりか…まあいい。そんなことより、まずはこっちが先だ。サクリファイス、この水晶体をどうすれば華夜を外に出すことができる?」
≪…まず水晶に触れてください。そのあとは普段創造魔法を扱うときの感覚で水晶を変質させれば可能かと…≫
「わかった。やってみよう」
そう言って早速水晶柱に手の平を当て、魔力を注ぎ込む朝日。
朝日の魔力に触れたそれはゆっくりとその形を変化させてゆく。
「む?なかなか難しいが不可能ではない、な」
そんな独り言をつぶやきながらも作業の手を止めようとしない朝日。
しかし、朝日は作業に熱中するあまりその存在に気づくことはなかった。
≪…非情に申し訳ないのですが、マスター≫
「なんだ」
≪敵襲です≫
「は?」
そんな間抜けな声を出して振り向いた先いたのは竜だった。
手足を重石に繋がれ、とげの付いた首輪を装着した地を這う飛竜がそこにいた。
to be continued...
小さく囁くように呟いた朝日の声がシンとした雰囲気に覆われた洞窟の中を木霊する。
朝日の見つめる水晶の柱。
その水晶の中では一人の少女が、まるで眠るようにその瞼を固く閉じていた。
歳は十代前半、長い黒髪が印象的な小柄な少女。
数年前を皮切りに見ることの叶わなくなったその穏やかな寝顔に、朝日は思わず取り留めなく流れる涙の事も忘れ見入っていた。
「やっと、やっと逢えた…これでオレは…」
朝日はうわごとでも口にするようにそう呟きながら水晶柱に縋りつくようにその場で膝を落とす。
「っ!?」
そして朝日の黒い右腕が水晶に触れた途端、朝日は言いようのない違和感を感じとった。
いや、この感覚には覚えがある。
もしかしたらこれは違和感というよりは既視感と言った方が正しいかもしれない。
この感覚を初めて体感したのはこの世界に来てから二日目の事。
特殊な魔道具を使って魔力量の計測と魔法適正を調べたときだ。
適性を調べるために使用したカーペット状の魔道具に触れたときに感じた身体からナニカが抜き取られるような感覚。
今感じ取った感覚に最も近いのがそれだ。
「今のは一体…?もう一回触れて見るか…」
興味半分でもう一度水晶柱に触れてみる朝日。
すると再び水晶が身体からチカラを吸い取るような、そんな感覚に襲われた。
「一体この感覚は何なんだ…?不思議と不快ではないが」
朝日はそう言って一度水晶から手を離すと怪訝そうな顔をして自身の手と水晶柱を見比べる。
すると、そんな朝日の脳内に声が響く。
≪僭越ながら、マスター≫
「どうした、サクリファイス」
それは朝日と契約した魔剣。
その意思であり本体、精霊でもある『魔剣サクリファイス』だった。
≪恐らくですが、その水晶体はマスターの魔力に反応、共鳴しているのではと推測されます≫
「共鳴だと?そりゃまたなんで?」
≪…この水晶体。身近なところで見覚えはありませんか?≫
サクリファイスのその言葉に朝日は一度記憶の中に探りを入れる。
その答えはサクリファイスの言う通り案外身近なところにあった。
「まさか…創造魔法か…?」
目を丸くし、朝日は魔法で作り上げた剣と水晶柱を見比べる。
確かに大きさに違いはあれどどことなく似通った点が見られるようだ。
よくよく観察してみれば目の前にある水晶柱からは決して少なくない魔力が認知できた。
普段ならこれだけの魔力、すぐに感じ取ることができただろうが『妹』を目の前にして気が動転していたのだろう、朝日にしては珍しい見落としだった。
「だが…創造魔法はオレと初代勇者にしか…って、まさかこの空間を作り上げたのが初代勇者ってことか…!?」
そこまで考えた朝日は自身の考えを否定するように首を横に振る。
「いや、ありえないな。初代は五百年以上前に死んだはずだ。もしそうだとしても華夜がここにいるのは明らかにおかしい。そうだろ?」
≪私には答えかねます≫
「…まて、サクリファイス。お前まさか何か知ってるのか?」
≪………≫
「だんまりか…まあいい。そんなことより、まずはこっちが先だ。サクリファイス、この水晶体をどうすれば華夜を外に出すことができる?」
≪…まず水晶に触れてください。そのあとは普段創造魔法を扱うときの感覚で水晶を変質させれば可能かと…≫
「わかった。やってみよう」
そう言って早速水晶柱に手の平を当て、魔力を注ぎ込む朝日。
朝日の魔力に触れたそれはゆっくりとその形を変化させてゆく。
「む?なかなか難しいが不可能ではない、な」
そんな独り言をつぶやきながらも作業の手を止めようとしない朝日。
しかし、朝日は作業に熱中するあまりその存在に気づくことはなかった。
≪…非情に申し訳ないのですが、マスター≫
「なんだ」
≪敵襲です≫
「は?」
そんな間抜けな声を出して振り向いた先いたのは竜だった。
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