異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

4-3 朝日の行方と再会

「さて、どこから話すべきだろうな…?」
朝日はそう言って頭をひねる。
「いや、どこって…自分でさっき要所だけ話すって…」
「ああ、いや。それ以前の部分に肝心な部分もあるからな。どうしたものかと」
「それは後で補足説明すればいいのでは?」
「…それもそうだな」
華夜のアドバイスを聞いた朝日は小さく頷くと一度、紅茶を飲んで喉を潤すと落ち着いた調子で話し始めた。

「お前らと別行動を開始してからいろいろあって、オレはロック山脈に行った」

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時は遡ること数ヶ月。
朝日と勇二達が別行動を開始してから三ヶ月ほど経った頃。
朝日は一人、山を登っていた。
それは王都を南下した所にあり、大陸の北から南までを縦断する山脈を築きあげロック山脈という名称で呼ばれていた。
勇二達と別れた後の三か月間、たった一つの目的の成就のため、朝日は旅を続けていた。
朝日は、このロック山脈にある『探し物』を探しに来ていた。
このロック山脈のどこかにある洞窟にいるはずの妹、華夜を探し出すために。
最初にその情報を得たのはリザーブの森で剣の使徒と戦い、使徒を『喰らった』時だ。
あの時はまだ完全に使徒の魂を『喰う』ことは叶わなかった為に断片的な情報しか得ることができなかったが、今は違う。
この三ヵ月間、朝日は必至で華夜の情報を集め続け、そしてついに彼女の行方を示す情報を見つけ出すことができたのだた。
その場所がここ、ロック山脈なのである。
「それにしてもなんて傾斜だ。霧も濃くなって視界も悪くなってきやがった…!」
そう言って一度その場で歩みを止め、あたりを見回す朝日。
山というのは上に登ればのぼるほど傾斜が急になり、足場も悪くなっていくもので標高が高くなれば気象にも変化が現れる。
しかも、今回は更に霧が立ち込め始めていた。
ロック山脈を登り始めてすでに四日たち、ある程度の気象の変化には順応したつもりでいたがどうやら今回は分が悪いようだ。
何せ、ただでさえ足場が悪いというのに霧のせいで視界がふさがれてしまうのだ。
朝日はこのままの登山は危険と判断し、あたりに野営のできそうな場所はないかと軽く視線を巡らせる。
幸いにもまだ霧はそれほど濃くはない、濃くはないがこのままではすぐに霧に包まれて身動きが取れなくなってしまうだろう。
動けるうちに行動をしておくべき、という朝日の判断基準に基づいた行動である。
「…ん?なんだ、あれ」
すると、あたりを見まわした朝日は不意に近くの山肌から不思議な違和感を感じ取った。
足元に注意を払いながら近づいてみると...
「ここだけ岩の色が違う…しかも少しだけ魔力を感じる。この岩からか?」
そんなことを呟きながら朝日は一か所だけ色の違う岩に手をあてる。
そこからは微力ながらも魔力が感じられた。
朝日は軽くノックするような感覚で軽く岩に拳をぶつける。
あまり力を込めなかったため、音自体は小さかったが岩の後ろからコーンコーン、と音が反響するのが聞こえてきた。
どうやら岩の向こう側は空洞になっているようだ。
過去にこの場所に来た冒険者の作った洞穴の残骸か、件の洞窟だろうか。
もし洞穴なのだとしたら、ここで一夜を明かし、安全な場所で霧が晴れるまで待つことができる。
もしここが洞窟であるのなら、朝日の悲願の達成まであと一歩ということになる。
「こいつは…壊してみるか」
朝日はこの一瞬のうちに高ぶった心を落ち着かせるように深呼吸をする。過度な期待はしない主義なのだ。
呼吸を整えた朝日はもう一度目の前の岩を見据えると手の平を岩に向け魔法の詠唱を開始した。
「無色の弾丸よ、無数の傷を刻め!『バレット・レイン』!」
朝日の詠唱により現れたのは数十を超える無数の弾丸。
無属性攻撃魔法『フォースバレット』を朝日流に改造、アレンジしたオリジナル魔法である。
放たれたそれは一斉に岩めがけて殺到し、あたり一面を砂ぼこりで包みこむ。
砂埃が晴れた先にあったのは先の見えない真っ暗な空洞、洞窟だった。

to be continued...

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