異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-45 帰路

「また、貴様か…!また貴様は私の邪魔をするのかっ!大人しく殺されておけばいいものを!」
剣の使徒は地面に突き立てた大剣にしがみつき、その場に膝をつきながら朝日を下から睨み付けるように見上げて叫ぶようにそう言った。
「なぜ、なぜ私が敗れる…!?私は、私は魔王様の使徒だぞ!?まして、今回は全力で潰しにかかったというのに…!再び貴様に敗れるだと…?ふざけるなっ!」
そんな使徒に対して、朝日が向けたのは哀れみの視線。
愚かな、哀しいものを見るような、そんな視線だった。
「お前は結局、どこまでも俺たちを侮りすぎた。自分のチカラを過信しすぎた。それだけのことだよ。そんで、それがてめぇの敗因になった」
「なにを言っている…?」
「てめぇは慢心しすぎたって言ってんだよ。自分の力を過大評価し、俺たちの力を過小評価しすぎた。結果、現にお前は俺たちに負け、地面に膝をついている」
「ぐっ!」
「大方、人間風情に自分が負けるはずがないとか考えてたんだろ。少しは失敗から学べってんだよ」
朝日のその言葉に、何か思うものがあったのか黙り込む使徒。
「おい。そんなことはどうだっていい。それよか、お前に聞かなきゃいけねぇことがある」
「聞きたいことだと?」
「そうだ。何のためにてめぇを生かしたと思ってんだ。説教くれてやるためじゃねぇよ。っていうか、この問答自体意味はねぇだろ。魔王の使徒であるてめぇに聞きたいことと言ったら…」
当然、魔王のことだ。
「私には、話すことはない」
「オレには聞きたいことがある」
「そうではない。私に関しては貴様等にくれてやれる情報がないと言っておるのだ。」
「…へー?ずいぶん協力的じゃねぇか」
「私は敗北した。それはもう認める。敗者は勝者に従うのみ。どうにしろ、負けた以上私はもう長くないのだからな…」
「は?おいまて、まだトドメはさしてねぇぞ?」
「貴様がトドメをささなくとも…」

「私がトドメをさす、ということです」

「ッ!?」
いきなり背後から聞こえてきた声に朝日は思わずその場から飛び退いた。
その声の主は全身を黒い布で包み、顔の上半分を仮面で覆い隠した女だった。
その手には身の丈もある大きな弓が握られていた。
「遅かったな。弓の」
「敗者は口を慎みなさい。勝手な行動をして、勝ったならまだしも敗北し、勇者に協力しようとするなど身の程を知りなさい」
そう言って女、弓の使徒はおもむろに虚空から矢を取り出し、弓にあてがい弦を引くと至近距離から剣の使徒に狙いを定める。
「先に魔王様のもとにお行きなさい。じきに私達もそちらに行きます」
「ああ。精々気をつけることだな。今代の勇者たちは、強いぞ」
剣の使徒の言葉を弓の使徒は無言で聞き届けると弓の弦をつかんでいた指を放し、矢を穿つ。
その矢は迷うことなく剣の使徒の首筋に届き、一撃でその息の根を止めた。
「そん、な」
「ひどい…」
これは遠目で見ていた勇二達の感想だ。華夜は無言で朝日の身を案じている。
「てめぇ…仲間じゃねぇのかよ?」
「仲間?はて、何のことでしょう。私は魔王様の邪魔になるゴミを掃除したまでに過ぎません」
「なんだと?」
「おっと、そう怒らずに…今の私には貴方がたと敵対するつもりはありません」
弓の使徒はそういうと手に持っていた弓を虚空にしまい込み、降参の意を示すように両手を上げる。
「今回の件は、以前も申した通り剣の独断です。少なくとも魔王様の意志ではございません」
「それとこれとは関係ねぇ。なんで殺した?」
「ですから、私はごみを掃除しただけですよ。あ、死体の方はもう暫くしたら自然と消えるんでご安心を」
すると、次の瞬間そう言った弓の使徒の足元から霧が立ち込めてきた。
「では、私はこれで…再会を楽しみにしてますよ、七代目勇者」
「待ちやがれ!」
朝日の静止の声も聞かず、霧に隠れるようにしてその場から姿を消し去る弓の使徒。
その場には朝日と勇二、華夜と未希、そして剣の使徒の死体だけが残された。
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「ッチ…サクリファイス、剣の使徒の身体に魂はまだ残ってるか?」
≪はい、マスター。消えかけですが、残っています≫
「どこかに転送されているような様子は?」
≪少しばかりか≫
「アタリだな…」
朝日は右手の魔剣を今一度強く握りしめると剣の使徒の死体がある場所へ向かってゆく。
「さて、剣の使徒。悪いが、知りたいことが山ほどあるんだ。そのままじっとしていてくれよ?」
そう言って朝日は腰を低くして剣を突きを放つときのように中段に構える。
すると、剣を構えた朝日の右腕と魔剣から大量の『闇』があふれ出てきた。
その『闇』は少しずつ形を変えやがて竜の頭のような形となった。
「喰らえ!『サクリバイト』!」
その闇は朝日の声のもと、剣の使徒の身体に喰らいつくと数回の咀嚼の後に風船のように萎んでいき、霧散した。
「まずは一人、か」
朝日は呟くようにそういうと華夜と勇二達のいる方を向く。
見れば、勇二と未希は今起こったことに理解が追い付いていないという様子で口をポカンと開けている。
「勝った、の?」
「ああ。トドメはさし損ねたが、ひとまず勝った」
勇二が思わずといった感じで発した言葉に、朝日が頷き未希はその場で笑みを浮かべる。
「兄さん。お疲れさまでした」
「ただいま、華夜。二人を守ってくれてありがとうな?」
華夜が優しく朝日に微笑みかけると朝日はその華夜の頭を軽く撫でてやる。
一気に穏やかな雰囲気に包まれたその空間で勇二がいきなり大声を上げた。
「そうだっ、朝日!」
「なんだよ…?」
いきなり隣で大声を出した勇二に朝日は怪訝そうな顔をする。
勇二は一度、未希を視線を合わせると朝日の前に立つ。

「「お帰りなさい!」」

「…おう」
そんな言葉を受けた朝日は照れくさそうに頭を掻いた後、小さく呟くように返事をした。
「私達聞きたいこと、話したいことが沢山あるんだ!」
「ああ、そうだな。オレもいくつか話さなきゃいけないことがある」

「それじゃあ、とりあえず帰るか」


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