異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー
3-24 進軍
「はぁ。さっさと諦めてくれれば楽だったのに…」
勇二は眼前の居住区方面より迫りくる敵を気だるげに睨みつけ、どこか呆れたように溜息をつく。
その視線の先には今回の騒動の元凶、テルダ・ケルロとその傭兵達が隊列を組んで進軍してきていた。
まぁ、先頭にいるテルダ・ケルロは脇腹を抑え苦悶の表情を浮かべながら、ではあるが...
「…肋骨を二、三本折ったはずなんだけどなぁ。思ったよりも肉厚だったか…っち」
それを見た勇二は苛立ちを隠そうともせずにそう吐き捨てる。
言葉遣いはいつもより荒く、その表情は険しいものであった。
勇二はなるべくあの男のことは考えないようにしよう、とまた一つ溜息をつく。
「はぁ…それじゃあ僕はあれをやっつけてくるから。未希は子供たちをお願いね?」
勇二はそう言って腰の鞘から剣を抜き放ち未希のほうを見る。
「お願いって…具体的にどうするの?」
未希は若干ジト目になりながら勇二に問いかける。
「うーん。そうだな…」
尋ねられた勇二は少し思案顔をする。
「それじゃ、子供達を地上に送り届けたら、ちょっとこっちを手伝いに来てくれる?流石にこの数は僕だけじゃキツイかもしれないから」
そう言って勇二が見るのは未だにこちらに近づき続けている傭兵の一団だ。
その数は目算で三十人以上はいる。
流石にここまでの数となれば勇二個人では捌ききれないという可能性を視野に入れての発言である。
「うん。分かったよ。なるべく早めに戻ってくるけど念の為、気を付けてね?」
「はいはい、分かってるよ。地上にはラックもいるけど、一応そっちも頼んだよ」
「それは分かったけど、はいは一回!」
「はぁ、お母さんじゃないんだからから…ほら、もう行った行った!」
「むぅ。仕方ないなー」
そんな勇二の言葉に未希は少しばかりか頬を膨らませながらも子供達のもとに向かう。
子供達を纏め上げ、地上へ続く階段へ誘導する未希の姿を見た勇二は一度肩をすくめ、その視線を自身の手に持つ長剣へと移す。
この剣はこの世界に勇者として召喚され、冒険者として活動し始めた時から使っているものだ。
この剣には毎晩寝る前や町や村を通るたびにメンテナンスは欠かさずに行ってきたのだが、最近めっきり切れ味が悪くなってきているのを勇二は感じていた。
刀身は研ぐたび薄くなり、グリップにはガタがきていた。
よく見れば剣の先は欠け、刃にはいくつか刃こぼれの跡が見受けられた。
おそらく限界が近いのであろう。
そんな愛剣を見て勇二は表情をまた少し険しいものにする。
「スペアの剣は持ってないし、あまり無茶はできないな…」
勇二はそうひとりごちると剣の刀身を労わるように優しく撫でる。
「もう少しの辛抱だ。よろしく頼むよ」
勇二は自身の剣に語り掛けるようにそう言うと未だに煩い金属音を立てている一団をキッ、と睨み付け突撃を開始した。
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「グッ…!?おのれ罪人が…よくも私をコケにしてくれよったな…!」
口の端に戸を滲ませてそう憤るテルダ・ケルロ。
勇二の蹴りが余程効いたのか、テルダは自身の両脇を抱えて歩く左右の傭兵がいなければ立ち上がることも困難な状態だった。
テルダは隊列を組んで歩く傭兵達の歩合を自身に合わせさせ、眼前の敵を見据える。
そこでは軽鎧を着込んだ少年は白いローブを着込んだ少女と一言二言、言葉を交わしていた。
見れば少女の方は話し終わった途端、自身の奴隷(商品)のもとに駆け寄り地上へ誘導し始めているではないか。
それを見たテルダは猛烈な怒りを覚えた。
それは店員のいる前で堂々と万引きをするようなものであり、プライドの高いテルダにとってはこの上ない屈辱だった。
しかし、その屈辱を覚えていることができたのも束の間。
自身のもとに軽鎧を着た少年が突撃してきたのだ。
テルダはそれを好機とばかりに口元を歪め傭兵達に進軍を命じた。
それが誤った選択だということを疑うこともせずに...
to be continued...
勇二は眼前の居住区方面より迫りくる敵を気だるげに睨みつけ、どこか呆れたように溜息をつく。
その視線の先には今回の騒動の元凶、テルダ・ケルロとその傭兵達が隊列を組んで進軍してきていた。
まぁ、先頭にいるテルダ・ケルロは脇腹を抑え苦悶の表情を浮かべながら、ではあるが...
「…肋骨を二、三本折ったはずなんだけどなぁ。思ったよりも肉厚だったか…っち」
それを見た勇二は苛立ちを隠そうともせずにそう吐き捨てる。
言葉遣いはいつもより荒く、その表情は険しいものであった。
勇二はなるべくあの男のことは考えないようにしよう、とまた一つ溜息をつく。
「はぁ…それじゃあ僕はあれをやっつけてくるから。未希は子供たちをお願いね?」
勇二はそう言って腰の鞘から剣を抜き放ち未希のほうを見る。
「お願いって…具体的にどうするの?」
未希は若干ジト目になりながら勇二に問いかける。
「うーん。そうだな…」
尋ねられた勇二は少し思案顔をする。
「それじゃ、子供達を地上に送り届けたら、ちょっとこっちを手伝いに来てくれる?流石にこの数は僕だけじゃキツイかもしれないから」
そう言って勇二が見るのは未だにこちらに近づき続けている傭兵の一団だ。
その数は目算で三十人以上はいる。
流石にここまでの数となれば勇二個人では捌ききれないという可能性を視野に入れての発言である。
「うん。分かったよ。なるべく早めに戻ってくるけど念の為、気を付けてね?」
「はいはい、分かってるよ。地上にはラックもいるけど、一応そっちも頼んだよ」
「それは分かったけど、はいは一回!」
「はぁ、お母さんじゃないんだからから…ほら、もう行った行った!」
「むぅ。仕方ないなー」
そんな勇二の言葉に未希は少しばかりか頬を膨らませながらも子供達のもとに向かう。
子供達を纏め上げ、地上へ続く階段へ誘導する未希の姿を見た勇二は一度肩をすくめ、その視線を自身の手に持つ長剣へと移す。
この剣はこの世界に勇者として召喚され、冒険者として活動し始めた時から使っているものだ。
この剣には毎晩寝る前や町や村を通るたびにメンテナンスは欠かさずに行ってきたのだが、最近めっきり切れ味が悪くなってきているのを勇二は感じていた。
刀身は研ぐたび薄くなり、グリップにはガタがきていた。
よく見れば剣の先は欠け、刃にはいくつか刃こぼれの跡が見受けられた。
おそらく限界が近いのであろう。
そんな愛剣を見て勇二は表情をまた少し険しいものにする。
「スペアの剣は持ってないし、あまり無茶はできないな…」
勇二はそうひとりごちると剣の刀身を労わるように優しく撫でる。
「もう少しの辛抱だ。よろしく頼むよ」
勇二は自身の剣に語り掛けるようにそう言うと未だに煩い金属音を立てている一団をキッ、と睨み付け突撃を開始した。
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「グッ…!?おのれ罪人が…よくも私をコケにしてくれよったな…!」
口の端に戸を滲ませてそう憤るテルダ・ケルロ。
勇二の蹴りが余程効いたのか、テルダは自身の両脇を抱えて歩く左右の傭兵がいなければ立ち上がることも困難な状態だった。
テルダは隊列を組んで歩く傭兵達の歩合を自身に合わせさせ、眼前の敵を見据える。
そこでは軽鎧を着込んだ少年は白いローブを着込んだ少女と一言二言、言葉を交わしていた。
見れば少女の方は話し終わった途端、自身の奴隷(商品)のもとに駆け寄り地上へ誘導し始めているではないか。
それを見たテルダは猛烈な怒りを覚えた。
それは店員のいる前で堂々と万引きをするようなものであり、プライドの高いテルダにとってはこの上ない屈辱だった。
しかし、その屈辱を覚えていることができたのも束の間。
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