異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-29 倉庫へ

昼食を終え、外に出た勇二達は家の前に立っていた。
「それじゃ、お世話になりました」
勇二はそう言ってリースとシェリーに向かって軽く頭を下げる。隣に立っていた未希もハッとしたように頭を下げる。
「そんなに畏まらないでください。お世話になったのはこちらの方です」
リースは困ったような顔をしながらそう言う。
「ね?シェリー」
「うん!」
目の端に涙を溜めながらもシェリーは元気一杯に頷く。
未希は何も言わずにそんなシェリーの頭を優しく撫でる。
撫でられたシェリーの瞳からは大粒の涙が零れ落ちている。
たった一日で随分と懐かれていたようだ。
「ほら、シェリー?泣かないでお見送りするんでしょう?」
「うぅ…だってぇ…」
シェリーは目元が真っ赤に腫れた顔を伏せながらリースに抱き着く。
「シェリーがすみません。どうやらお二人の事を随分と気に入っていたようで…」
「いえ、お気になさらず。さて、そろそろ行こうか未希。これ以上いるとシェリーちゃんがますます辛くなってしまうからね」
「うん。そうだね。それじゃ、じゃあねシェリーちゃん。大きくなるんだよ?リースさんも、お元気で」
勇二と未希はそう言って家に背を向けて歩き出した。
すると...
「ゆうじおにいさん、みきおねえさん。たすけてくれて、ありがとううございました!またあそびにきてください!」
背後聞こえたシェリーの声に勇二と未希は笑顔で振り返る。
そこには必死に手を振るシェリーとそれを後ろから微笑ましそうに眺めるリースの姿があった。
「ははは、うん。分かった。また、いつか機会があったら遊びに来るよ」
「今度はラックも一緒にね」
そう言って微笑んだ二人の顔を見たシェリーは未だに涙を流しながらではあるが口元に笑顔を滲ませた。
そんなシェリーの表情を見た二人は、ほっと息をつき踵を返し再び歩き始めた。
背後で手を振り続けるシェリーの視線を感じながら。
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リース一家の家を出た後、勇二達が最初に立ち寄ったのは冒険者ギルドだ。
「ユージさん、ミキさん、冒険者ギルドにようこそ。本日はどういったご用件で?」
勇二達の対応をしているのは昨日の受付嬢だ。
「うん。今日は昨日拒否された素材の買取をしもらいたくて」
そういって勇二は『道具袋アイテムストレージ』の中から討伐部位の入った麻袋を取り出した。
元々、ギルドに立ち寄ったのは素材の買取のためであったのに昨日はその買取を拒否された上に面倒事(人助け)をしていたためにそれができなかったのだ。
「買取ですね。それで素材に関してなんですが量が量なので一度ギルドの裏手にある倉庫まで行っていただけますか」
「あ、はい。えっと、ギルドの裏ですね?」
「はい。それから、倉庫に行く前にこちらをお持ちになってください」
そう言って受付嬢から渡されたのは小さな木版だ。
「これは?」
「その木版はギルドや治安に対して大きな貢献をした人に与えられるものでして、その都度規模は違いますが、主に素材の買取金額や依頼の成功報酬などが上乗せされます」
「へぇー」
「倉庫で素材を買い取ってもらうときにそれを掲示してくださいね」
「これを使えるのは一回だけなんですか?」
「いえ、それでしたら全合計二回使えますよ?あ、そうでした。倉庫に行ったらもう一度この受付に来てください」
「は、はぁ…?」
「早くしないと倉庫にいるギルドマスターが待ちくたびれちゃいますよ?」
「…え?ギルドマスター!?」
「おっと、これ言っちゃいけないんでした。私が口を滑らせたこと、くれぐれも内緒でお願いしますね?」
受付嬢の「さぁさぁ、行った行った」という視線に押された二人は先ほど聞こえたギルドマスターと言う単語に戸惑いながら二人はギルド裏にある倉庫を目指すのだった。

to be continued...

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