異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-15 変異種1

「さて、それにしても倒しましょうか」
そう言ってラックは目の前にいる標敵に目を細める。
彼女の前にいるのはランクCの魔物、フォレストベア。
しかも、ただのフォレストベアではない。
変異種だ。
魔物というのは体内に持つ魔力で身体を強化しているということ以外は基本的に普通の動物と変わったところはない。
そのため、基本的に魔物は雌雄の交わりによって誕生する。一部例外もいるにはいるが。
そして番をなした魔物が子をなした時、極稀に特殊な個体が生まれることがある。
その個体は親の魔物に比べると体の色が異なり、成長すれば親の倍近くの体躯にもなるという。
さらに言うと魔力も格段に大きく、魔物によっては魔法を扱えるようになるものもいる。
ただ、やはりそれだけの魔物となると強さは普通の個体の比ではなく、ランクは最低でも一つ上のものになる。
「これは、少し面倒くさそうですね···」
ラックは先程の勇二との会話で、フォレストベアを討伐するのに十分もかからないと言ったことを思い出し、苦笑した。
どうにも目の前の熊は普通の個体よりも少しばかりか手こずりそうだ。
ラックはそんなことを考えながら懐に手を入れる。
(四つ···ですか。なんとかなるといいのですが···)
ラックはそこにある魔石の数を掌で数えながらもう一度、眼前の敵を注視する。
すると、一瞬だけフォレストベアの黒い瞳と目が合った。
そして、次の瞬間フォレストベアは両足で立ち上がり爪で切りかかって来た。
「っ!」
それを素早く察知したラックは後ろに飛んでそれを避ける。
ラックの避けたその攻撃は勢いを緩めることなく、その場に植えてあった木をへし折った。
それを見たラックは軽く冷や汗を流す。
先ほどの引っ掻き攻撃ら動きこそ単調だったがその速度は恐ろしいものだった。
ラックの華奢な身体では一撃食らうだけで全身の骨が砕けることだろう。
それを改めて認識し直したラックは腰の鞘に収めていた二本の短剣を引き抜き右の手に持つほうを逆手で、左の手に持つ方を順手で構える。
「っーーー!」
ラックは小さく息を吐くと、辺りに生える木に紛れるように走り出した。
「グルぅゥ!?」
フォレストベアは困惑の声をあげながら辺りを見回しラックの姿を探す。
すると···
「こちらです」
フォレストベアのすぐ後ろから声がした。
次の瞬間、ラックはフォレストベアの背に飛びつき首筋に短剣を突き立てた。
しかし、その短剣は先端が肉に刺さったばかりでそこから先には進まない。
「やはり、思ったよりも硬いですね···」
ラックは誰に言うでもなくそう呟くと、腰のベルトのポーチから何かが包まれた布を取り出した。
ラックはそのままその布を、いつの間にか取り出していた紐でフォレストベアの首に刺さった短剣に括りつけた。
その間にもフォレストベアは抵抗を続けていたのだが、そこは必死に背中にしがみつく。
作業が終わったラックはフォレストベアの背を蹴るようにして飛び降り、距離を取る。
「とっておきです。どうぞ」

「『起爆』」

to be continued...

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