異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-17 行動開始

ラックがフォレストベアの変異種を倒したのと、ほぼ同時刻。
勇二と未希はオークション会場の裏手に侵入していた。
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「見つけたよ勇二。ほら、アレ」
「うん。見えてるよ。件のハーフエルフの娘もいるね」
柱から顔を半分ほど覗かせて通路の様子を窺う勇二。
その先には質のいい服を着た小太りな男とそれとは対照的にみすぼらしいボロ布を纏った数人の子ども達がいた。その子ども達は全員牢屋に入れられていた。
勇二の周りには意識を失った傭兵達が数人寝転がっている。
侵入したときに襲い掛かってきたので寝てもらったのだ。
「さて…それじゃどうするかな」
そう言って勇二は一度考え込む。
ここに侵入できたのはいい。
確かに、いくらか遠回りだった気もするが結果的には十分といえよう。
だが問題はここからだ。
どのようにして件の娘を助け出すか。
それが今現在勇二の抱えている問題である。
「朝日なら、もっと上手くやったんだろうけどね…」
勇二は少しだけ寂しそうな、悔しそうな顔をしながらそう言った。
どうしても、今のように自分が行き詰った時。不意に、ここにはいない親友の事が頭をよぎるのだ。
彼なら、朝日ならこんな回りくどい手を使わずともなんとかできたのではないか、と。
朝日と別行動を始めてそこそこの日が過ぎた。
その間に勇二と未希は幾人もの人を助けてきた。
例えば、この街に来る前に遭遇した盗賊団。
彼等は近隣の村やそこを通りかかる行商人の一行を襲い、富を奪っていた。
そんな状況に偶々遭遇した勇二達は即決で盗賊団の討伐に向かった。
しかし、その結果は喜ばしいものではなく、半数以下の盗賊を逃がしてしまった。
そんな結果になっても近隣の村の住民には感謝されたし、幸いなことに盗賊団も散り散りになった。
それでも、勇二は納得がいかなかったのだ。
勇二とて考えなしに突っ込んだわけではない。
勇二は自分なりに朝日の考えそうな策を考え、実行したつもりだ。
だから、もし本当の朝日ならと考えてしまうのだ。
そんなことを考えても仕方がないのは分かってはいるのだが...
「勇二っ!見て、太ったおじさんがどこかに行くよ!」
そんな考え事をしていた勇二は横から未希の声が聞こえたことでハッとしたように顔を上げる。
未希が指さす先では、丁度小太りな男が傭兵二人と一言二言交わしてどこかに行くところだった。
「どこに行くつもりだろう?」
「うん。それも気になるけど先に解決するのは彼女だ。この好機逃すべからず、だよ」
勇二はそう言って未希を伴い傭兵二人が守る牢屋に一歩ずつ近づいて行った。
そして傭兵達が自分の存在に気が付いたたところで一度立ち止まり剣を抜く。

「それじゃあ始めようか。人助け」

to be continued...

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