異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-19 エスケープ

「で、勇二?一体ここからどうするの?」
勇二達は今オークション会場の舞台裏の外にいた。
すぐ近くにある会場は歓声と熱気に包まれていた。
「うん。その前に未希、もう一回見て。この魔法陣に見覚えはない?」
そう言って勇二は再び未希に先ほど開いて見せた本のページをもう一度見せる。
「うーん?わかんないけどそう言う風に聞くってことは私も見たことがあるってことだよね?」
「うん。まあそうなんだけど…」
やはりというか、未希は魔法陣を見ただけでは思い出すことができなかったようだ。それ以前に覚えているかどうかも怪しいが。
「ほら、リザーブの街付近の森で襲われたときに朝日が僕達が逃がすために使った…」
勇二はそう言ってヒントを与える。
周りには子供達がいるため、「使徒に襲われた」という言葉を伏せてだが。
「んんー?あっ!思い出した!落とし穴のやつだ!」
「いや、うん。落とし穴じゃなくて脱出用の魔法だけどね…」
勇二はそう言って苦笑しながらその魔法陣の書かれたページを本からキレイにちぎる。
「この魔法はね。かなり特殊な魔法で、術者のいる場所とその術者の魔力の痕跡を辿り、付近でその反応が一場強い,濃い所までの地面に穴を掘って脱出経路とする魔法なんだ」
勇二は地面にちぎったページを置きながら未希に魔法の説明をする。
「ここに来るとき、魔法で爆風を起こして飛んで来たよね?」
「うん。怖かった…」
幹はそう言って肩を震わせしみじみと頷く。
「それでね?ここから魔法爆発の起爆地点まで地面に通路を作ってそこまで移動する。…ってマズイ!大事なこと忘れてた!」
勇二は途中まで説明したところで自分の立てた作戦の欠点に気が付いた。
「ラックのことすっかり忘れてた…」
そう、それはここに来る時に一緒に行動を共にした仲間。白黒モノクロ少女ことラックのことである。
勇二達は二手に別れるときにその場で合流の約束をていたのだ。
別に起爆地点の地面から出た後に合流するのでもいいのだが、いかせんそれなりに距離がある。
それにこちらには十数名の子供達がいるのだ。迂闊な行動はとれない。
「うーん。困ったなぁ」
勇二は額に手を当て、どうしたものかとその場で考え込む。
「困りましたねぇ…」
すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。
「……あれ?」
思わず耳を疑う勇二。幻聴だろうか?
「どうかしましたか?ユウジさん」
また聞こえてきた。しかし、勇二は背後を振り返らない。振り返ったら負けだといわれているような気がした。
「ラック?」
ダメもとで話しかけてみる。幻聴であれば返事は返ってこないはずだ。
「はい。ラックですが?」
返事がきた。もうダメかもしれない。
「……なんでいるの」
勇二はそう言って大きくため息をつきながら後ろを振り返る。
そこには肩を負傷している以外は特に別れた後から変化のないラックがいた。
「何でと言われましても…お二人のお戻りが遅いから見に来たんですよ」
「見に来たって…傭兵たちはどうなったの?」
「数人単位で私達を探し回ってますね。山狩りみたいでした」
あっけからんと言い切ったラックに勇二は思わず呆れながら諦めたように首を振る。。
「はぁ、もういいや。僕達の方は無事救出したよ。他にもいろいろくっついてきたけど。特に被害も出してない」
「なるほど。流石です」
「それで、ここから脱出しようとしたところで、ラックと合流するのが困難だってことに気づいたんだけど…」
「都合のいいことに私が来た、と」
「そーゆーこと。さて、未希!」
「ふぇ?」
勇二はラックに状況の説明をし終えると子供たちと戯れていた未希に声を掛ける。
「さっきも説明したけど、この魔法は術者の魔力に反応する。本当ならこの魔法は僕が使いたいところなんだけど、残念ながら僕はここに来てからさっきの戦闘でしか魔法を使っていない」
そこで、と勇二は一度言葉を区切って説明を続ける。
「未希がこの魔法を起動させてほしいんだ」
「私が?」
コテン、と首を傾げ不思議そうな顔をする未希。
「そうだよ。だって僕たちがここに来るときに起こした爆発の原因の一つは未希の『ストーム』じゃないか」
ちなみにもう一つはラックの魔石による爆発だ。
「だから、あの場所までの地下通路を作ってほしいんだ」
「でも、私ほかにも結構魔法使ったよ?」
「大丈夫。未希ならある程度はコントロールできるはずだから」
「え、でも…」
「いいからいいから。あ、はい。僕の腕輪。それがないと魔法が発動できないからね」
そう言って勇二は腕輪の留め金を外し未希に手渡す。
「うぅ…やっぱりやらなきゃダメ?」
「ほら、早くしないと…」
そこまで言いかけた時、会場のほうから大きなどよめきが起こった。
「…気づかれたみたいだね」
勇二がそう言うと、先程まで未希と戯れ、笑顔を浮かべていたシェリーを中心とした子供たちの表情に不安げな影が落ちる。
「…勇二。キーワードは?」
それを見た未希は一瞬で思考を切り替え、表情を引き締め勇二に魔法発動に必要なトリガーを聞き出す。
「やる気になったみたいだね。キーワードは『エスケープホール』だよ」
「分かった…」
そう言って未希は手に持つ長杖を地面においてある魔法陣に突き立てキーワードを口にする。

「『エスケープホール』発動」

次の瞬間、彼女の杖の石突の真下から地面が窪み始め、徐々にその存在を大きくしていく。
気が付いた時には、それは勇二達がいた一帯をクレーターのような大きさまで大きく窪ませ、さらにはその天を覆うように天井ができていた。
「これは想像以上だね…」
そう言って呆れたような声を上げた勇二の視線の先にはトンネルがあった。
「っと、いけない。ほら、みんな行くよ!早くしないとこの通路が閉じて地面の中でペチャンコになるよ!」
目の前で起きたトンデモ現象に驚いている一同に勇二は声を掛けて忠告する。
その声にラックはハッとしたように意識を取り戻し、周囲の子供達を慌てて正気に戻す。
勇二はそんな様子を横目で見ながら真っ暗なトンネルの先に目をやる。
「さ、それじゃあ行こうか。このトンネルを抜ければあとは地上に出るだけだ」
先の見えないトンネルにどこか不安を感じつつも勇二はそう言って声を張り上げるのだった。

to be continued...

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