異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

3-9 侵入!地下世界

「うわぁ…すごい」
勇二は階段を降りた先にあった目の前の光景に思わずそう溢した。
そこにあったのは先ほどまでいた地上とは全くの別世界。
小さなボロ小屋が大量に並び、天井は丸いドーム型に押し固められ、あたりを見渡せば複数の松明がその場を薄暗く照らしていた。
雰囲気だけ見ればスラム街などがイメージしやすいだろうか?
「成程。広さは大体街の半分以下。見たところによるとオークションの会場の他にもいくつか店が見受けられますね」
そう言ってラックが指さしたのはボロ小屋のような外観の店。
こんな地下にあるのだ。どのような店かは推して知るべし。
「さて、確か情報だと裏オークションの会場はここの中心だったはずです。行きましょう」
ラックがそう言って後ろに振り返ると勇二と未希は揃って頷く。
それを確認したラックは静かに前を向き地下世界の中心へと駆けだした。
-------------------------------------------------------------
「そう言えばラック」
地下の街を三人並んで駆けていると不意に勇二がラックのもとに寄ってきた。
「はい、なんでしょう?」
ラックは記憶の中の地図と今自分たちがいるであろう場所を思い浮かべながらそう返す。
「一応、念のために聞きたいんだけど…ラックってどのくらい強いの?」
対する勇二の質問はずいぶんと直球的なものであった。
勇二のそんな言葉にラックは思わず苦笑する。
「ユージさん。できるだけそういった直線的な物言いは直した方が良いですよ?他の冒険者だと反感を買ってしまう可能性があるので」
ラックはそう言うと先ほどの質問について考え込む。
「どのくらい強いか、と言われましても比較対象がないと例えずらいですね」
「うーん。じゃあ、あの魔物は?森のくまさ…フォレストベア」
「一瞬ものすごいコミカルな名前が聞こえた気がするのですが、フォレストベアですか…」
うーん、と走りながら目を瞑って唸るラック。
「魔法有りなら出会ってすぐに倒すことも容易ですが無しとなると…十分くらいですね」
ラックの発した言葉のもわず動揺する勇二。
「じゅ、十分?それって勿論パーティで行動した場合だよね?」
心なしか、若干声も震えている。
「いいえ?一応、私はパーティメンバーとの待ち合わせのためにここに来ましたがフォレストベアの討伐くらいなら私一人でできますけど?」
「…もしかしてラックって結構強い?異名もちだったりして」
「どうでしょう、同年代の中では強いほうなのでしょうか?あと異名は持っていますが絶対に教えませんよ?」
「ああ、やっぱり?ちなみに戦闘スタイルは?さっき魔法って聞こえたけど魔法併用型の前衛かな?」
そこに勇二が更に踏み込んだ質問をしようとしたところ...
「勇二。さすがにそれはマナー違反だよ。後で怒られても知らないよ」
勇二の暴走を止めに入ったのは未希だ。
「いや、でも情報の共有は「怒られるよ?」誠に申し訳ありませんでした!」
確かに、冒険者間での情報の共有は大切なことだ。
しかしそれも度が過ぎれば、例えば戦闘スタイルや個人が持つ有益な情報を聞き出そうとすることはマナー違反にあたり、冒険者の間でも暗黙の了解となっている。
「ゴメンね?勇二に悪気はないんだけど…」
未希が勇二を押しのけ、ラックと並走しながらそう謝罪する。
対するラックは困り顔だ。
「いえ、別に構いませんよ。場合によっては背中を合わせて戦うこともあるでしょうし」
「そうそう!別に個人的な興味とかそんなことは一切「勇二うるさい」ひどいっ!?」
ラックの言葉に反応し必死に弁解しようとするも失敗。哀れなり。
「ふふっ」
すると、そんな二人の掛け合いを見たラックが小さく笑みを溢す。
怪訝そうな顔をしてラックを見る二人。
「いえ、お二人とも、とても仲がいいのですね」
ラックはそう言って照れたように笑う。
「うん。私たち幼馴染だからねっ!」
未希もそう言ってラックにつられたように笑う。
「ホントはもう一人僕の親友もいたんだけど、まだ合流できてないんだよね」
勇二は若干苦笑気味だ。
「ほんと、今どこにいるんだろうね?」
「あっちから約束を破るなんてそうそうないよ。きっとどこかで面倒ごとに巻き込まれてるんじゃない?」
「私達みたいに?」
「そうそうって、あれ?もしかして僕達全員トラブル体質?」
そんなことを言って騒ぎ始めた二人をラックは目を細めながら少しだけ寂しそうな表情で遠目に眺めていた。

「ここが、『あの人』の居場所。『あの人』のいた場所…」

走りながらに呟かれたそんな言葉は、風と共にどこかへと消えていくのだった…

to be continued...

「異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く