異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

2-23 チカラの意味

ここは朝日が『エスケープホール』によって作り出した避難経路の中。
今、勇二と未希はリザーブンの街に向けその中を歩いていた。
「勇二!早くしないと土の中に閉じ込められちゃうよ!」
「あ、うん。そうだね」
未希が急かすように声を掛ける。
しかし勇二は曖昧な返事をする。
勇二はあの場に残してきた朝日の事が気がかりなのだ。
あの朝日のことだ、根拠なしにあそこに残ったりはしないだろう。
だが、あの時の朝日は何かを決意したような顔をしていた。
計算高い朝日のことだ。
自分が勝てなかった時のことを考慮し、勇二と未希だけでも生き残れるように時間を稼ごうとしていたのではないか、そう考えてしまうのだ。
あの時、自分は恐怖で一歩も動くことができなかった。
そこを朝日に助けられた。
思わず立ち止まり後ろを振り返る勇二。
そこには少しづつ閉じ始めた土壁があった。
「……これで、いいのかな」
ポツリと、小さな声で呟く勇二。
その声は後悔と自責の念で震えていた。
「勇二?」
勇二の先を歩いていた未希が振り返る。
「ねぇ、未希。僕達これでいいのかな?」
未希に問いかけるその声は消え入りそうなほどか細いものだった。
「……朝日なりの考えがあって僕達を逃がしてくれたって事は分かってる」
だけど、と勇二は続ける。
「もし、朝日がここでいなくなったら僕は…」
勇二は泣いていた。
自分の情けなさに、親友を失うかもしれないという損失感に。
「……勇二」
それを見た未希は勇二の方へと近づき、自分より幾分か背の高い勇二の頭を優しく撫でる。
「私もね、はっきり言ってどうしたらいいか分かんないの。だけどね?」
そういって未希は勇二の顔をのぞき込む。
今の彼女はこれまでに見た事がない程に真剣な表情をしている。
「私は勇二と朝日を信じるよ。だって私だけだったらこんな状況じゃなくてもどうしたらいいか分かんないもん」
そういって未希は、照れたように笑う。
「だから、勇二!」
「……なに?」

「勇二のやりたいようにやっていいと思う」

その言葉に勇二の中で時が止まった。
「やりたい、ように?」
「そう!勇二のやりたいことをやりたいように!
勇二はその言葉がゆっくりと自分の中に浸透していくのを感じ取っていた。
「むつかしいことを考えるのは朝日がやってくれるでしょ?だから私たちはいつも通り好き勝手やっちゃおうよ!」
そう言って勇二の手を取る未希。
そして...
「僕は、僕は!」
勇二はついに決意を固めた。
「僕は朝日を助けたい!逃げるだじゃダメなんだ!僕も戦う!」
そう言って未希の手を強く握る勇二。
「朝日に怒られたらその時は一緒に謝ろう?」
杖を取り出しながら未希がそう言う。
「ねぇ、未希」
「ん?」
「未希はそれでいいの?未希だけ逃げてもいいんだよ?」
すると勇二はこの世界に来てからずっと気になってたことを口にした。
一瞬驚いた顔をする未希。
「いいんだよ。私は勇二を『支える』ためにここにいるんだから」
だが未希は微笑みながらそれに答える。
すると...
「あれ?腕輪が光りだした!」
「ホントだ。僕のお守りも」
突然未希の腕輪と勇二のお守りが光り輝く。
そしてそのまま光は二人を包み込む。
そして光が収まったとき、そこにいたのは姿を変えた二人だった。
勇二は装備していた革の胸当てが銀色の軽鎧に変わり、剣や小盾も銀色に光り輝き。
未希は着こんでいたくすんだ白いローブが純白のものに変わり木製の杖も金属製の装飾のついたものに変わっていた。
「わぁお!凄いよ勇二!一瞬で姿が変わっちゃた!」
未希は興奮冷めやらぬ感じで飛び跳ねる。
「うん、そうだね。それに、なんだか力が湧いてくる。多分これが僕達に与えられたチカラなんだろうね」
勇二が苦笑しながらそう言うと突然地面が大きく揺れた。
「この感じ、朝日だね」
「…うん、じゃあ行こっか未希」
そう言って勇二は土の天井を見据え大きく飛び上がる。
未希も勇二に続き飛び上がる。
土の天井を突き破り二人は地上に飛び出した。
二人は一度目を見合わせると朝日のもとへと走り出した。

to be continued...

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