異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

2-22 牽制

「っし――!」
剣の使徒に向かい朝日は剣を縦に振り下ろす。
使徒は…
(避けないだと!?)
振り下ろした剣はそのまま使徒の鎧の肩口に命中する、が。
「おいおい、ずいぶん頑丈な鎧じゃねぇか。傷一つつかないなんてな」
そう言ってバックステップで後退する朝日。
使徒に動きはない。
(こっちの出方を観察している?こちらが出すモノ全て出し切るまで動かないつもりか)
「っち、ならお望み通り、開発したての魔法の実験台にしてやるっ!」
そう言って朝日は道具袋から羊皮紙を取り出す。羊皮紙にはもちろん魔法陣を書き込んである。
そして続けさまに右腕の腕輪、その嵌めてある全ての石に触れる。
「五色の弾丸よ、敵を討て!『フィフスバレット』!」
朝日の詠唱のもとに放たれたのは基本五属性の初級魔法、その混合魔法だ。
実は混合魔法の発動には膨大な量の魔力の他に、精密な魔力制御が必要になる。
相反する属性との均衡を保つためだ。
火属性と水属性などが分かりやすい例だろう。
詠唱というのは魔法の構築において魔力の制御に関わってくるものがある。
本来、魔法陣で魔法を扱うには必要ないを詠唱を必要としたのはそのためだ。
その発射された五色の魔弾は寸分狂わず剣の使徒に命中し再び砂埃を舞わせた。
「流石に、この魔法が直撃したんだ。少しは怯んでくれるだろう」
そう思い使徒のいるほうを見る。
「ふむ、なるほど。五属性の混合魔法か面白い事をする。中々に効いたよ、当たっていればな」
だが現実は非情だった。
砂埃が晴れ、そこにいたのは傷一つ無く立つ剣の使徒。
「っち、当たる直前で魔法を切り裂いたか……化け物が」
普通ならまずできないような芸当だ。
だが目の前のアレはそれをやってのけた。
改めて朝日は圧倒的な実力差を目の当たりにした。
(さて、そろそろ来るか?)
剣を構えなおす朝日。
しかし剣の使徒は別のものに興味を示したように朝日、その右腕を指さす。
「しかし貴様面白いものを付けているな?」
そこにあるのは五色の石がはまった腕輪。
王城で朝日がルシフルに特注で作ってもらった魔法の込められた道具、『魔法具』だ。
「ふっ、その腕輪にある魔法陣。それに刻まれているのは恐らく、魔力変換の魔法陣だな?」
「驚いた。それを見抜くか」
朝日はたった一度の魔法の発動を見ただけでこの腕輪のチカラを見抜いた剣の使徒に感心していた。
そうこの腕輪のチカラは魔力変換。
さらに言うと朝日の無属性の魔力を他の属性の魔力に変換することだ。
そして朝日が扱えないはずの基本五属性の魔法を扱えるのにもここに理由がある。
「それに、嵌め込んでるのは魔石だな。だが、あまり質はよくないな」
そう、それは腕輪にはめ込まれた魔石と呼ばれる石だった。
魔石とは各属性の魔力が地中で圧縮されたもので一昔前はとても貴重なものだった。(現在は人工的に作ることが可能になっている)
火属性は赤、水属性は青、風属性は緑、土属性は土色、雷属性は黄色の石で、質が良いものは色が半透明になるのだ。朝日の使っていた石はどれも辛うじて光を反射する程度のものだったが。
朝日はそうやって石の下に魔法陣を書き、魔法を発動していたのだ。
このことを二人に話した時盛大なブーイングを受けたことは記憶に新しい。
閑話休題。
朝日はその言葉にニヤリと笑う。
「ああ、その通りだ。だが、それが分かったところでどうした?手の内がばれてもまだ魔法は使えるんだ。積みじゃねぇ」
そう言ってまたもや魔法陣を取り出し剣を構える朝日。
しかし、剣の使徒はそれを見て肩をすくめる。
「いや、貴様は積みだ」
そう言って使徒は右腕を朝日に向けかざす。
「確か魔法名はこうだったな?『フィフスバレット』」
使徒の詠唱が完了する。
すると朝日のもとに先程自分が放った攻撃魔法が放たれた。
「んな!?オレの魔法を!?」
驚く朝日。それもそうだろう、なにせ編み出した自分でさえ魔法陣の補助と魔石がなければ発動できないのだ。
それを無詠唱で発動されれば動揺もするだろう。
「っこうなりゃしょうがねぇ!使いたくはなかったが奥の手だ!」
そう言って朝日は刻一刻と近づいてくる魔法に対し焦りを覚えながら魔法の詠唱を開始する。
朝日が新しく改良、開発した魔法である。
横に跳んで避けることも考えたがこのままでは間に合わない。
「我が体内に宿る魔力よ、この身を喰らい力を与えよ!」
心なしか詠唱も早口である。
(っち、反動が酷いからあまり使いたくは無いんだがな)
内心そんな言葉を溢しながら詠唱の最後の一言を唱える。
「限界を越えろ!『ハイ・ブースト』!」
朝日がそう発した瞬間、彼の周りに風が吹いた。
その中心には青白い魔力を身体中に纏わせた朝日がいた。
一見、以前の『ブースト』と同じように見えるが実際には朝日の身体能力は通常の『ブースト』の倍以上に上がっていた。
『ブースト』で上がった身体能力は通常時の一・五倍ほど。
対して朝日が開発した上位身体強化魔法『ハイ・ブースト』はその倍以上、通常時の四倍ほどだ。
しかし、この魔法にはいくつか欠点があるのだ。
第一に効果時間が短いのだ。
これに関しては開発段階から短期決戦用として開発したのでさして問題はない。
そして二つ目の問題点だが、これこそが今、朝日が最も懸念していることである。
それは反動だ。
身体強化魔法は体中の魔力を循環させ体中の器官を活性化させることで身体能力を飛躍的に上げることができる魔法だが、度が過ぎた強化を行えば反動が術者を襲うのだ。
『ブースト』の場合は少し体に倦怠感を覚える程度だが、朝日の『ハイ・ブースト』の場合、半日以上は全身筋肉痛でまともに動けなくなる。
と言うのも、先ほどの『エスケープホール』や『フィフスバレット』、『ハイ・ブースト』の開発は王城にいたときに行ったのだ。
元々はオリジナルの魔法が作れるかどうかの試みが功を成し実用段階までこぎつけた。
しかし、その試験段階で『ハイ・ブースト』を使ったところ身体能力は跳ね上がったが一日中筋肉痛で動けなくなったのだ。
現在こそ、それなりの改良がなされ反動が抑制されているとはいえ戦闘中に効果が切れれば死は免れない。
朝日にとってもこれは苦心の策だった。
「さて、それじゃあ行くぜ!」
そう言って朝日が駆けだした瞬間。
地面が爆ぜた。
使徒との距離およそ六メートル。
それを一瞬で詰めた朝日は斬りかかる、が。
「ふむ、確かに身体能力は格段に上がったが、それだけだ」
振り下ろした剣は掴まれ、そして...
いとも簡単に、折られた。
「この程度で終わりとは、失望したよ。勇者…」
この瞬間、朝日のほんの一握りの勝率は完全に崩れ去った。

to be continued...

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