異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

2-21 使徒?

いきなり自分たちの目の前に現れた男に朝日たちは警戒を強める。
「ふん、なるほど。貴様らが今代の勇者達だな?」
発せられたその言葉に朝日達の表情が驚きに染まる。
「お前は何者だ。なぜ俺たちが勇者だと知っている」
朝日が半歩前に出て、睨みつけながら尋ねる。
対して男は余裕のある態度で驚愕の真実を明かした。
「なぜだと?そうだな、言うなれば…」

「私が魔王様の僕、使徒であるからだ」

「っな!?」
その発せられた言葉に朝日は思わず声をあげた。
魔王の使徒、そのフレーズは先代勇者達の日記や古い文書で目にした覚えがある。
使徒というのは全員で剣の使徒、盾の使徒、杖の使徒、弓の使徒の四人が存在している。
一人一人が一つの国の軍隊に匹敵しうる力を持つ者達、それが使徒だ。
使徒には謎が多く、未だに分かっているのは「使徒達が現れたその時は魔王が復活する予兆である」という情報のみだ。
「それで、その使徒が俺たちに何の用だ?見たところあんたは剣の使徒って感じだが」
朝日の発したその言葉には若干の焦りが混じっていた。
朝日のその焦りに気付いてか、剣の使徒は自身の肩に背負った片刃の大剣を一振りして地面に突き刺し、答える。
「なに、私の感がお前達はこれから確実に強くなると訴え掛けるのでな。魔王様の御手を煩わせないために摘みに来た」
次の瞬間、剣の使徒から発せられたのは凄まじい覇気と殺気。
それをすぐ近くで浴びた朝日達は思わず一歩後退る。
あの世界でならまず浴びる事の無い程の殺気。
思わず冷たい汗が背中を伝う。
朝日が横を見れば勇二も未希も完全に固まっている。
自分でさえ辛うじて動ける程度。
このままでは確実にこの場で殺される、朝日はそう直感する。
「ははっ、いいのかよ?勝手にそんなことして。魔王様の楽しみを奪って叱責を食らうんじゃないのか?」
そう軽口を叩きながら必死に策を巡らせる。
「いや、どうであろうな。叱責されることもあるだろうが、あの寛大な魔王様だ。きっと理解してくださる」
剣の使徒がそう返すと朝日は驚いたような顔をする。
「ほう?中々に優しいもんだな。世界滅亡を企む魔王とは思えないな」
そう言って再び軽口を叩く朝日。
はっきり言ってこの会話は策を考え出すための時間稼ぎだ。
恐らく、あちらもそれに気付いてワザと乗っているのだろう。
あちらにはこちらを瞬殺できるだけの力と余裕がある。
実力が違いすぎる。
その考えに至るのにさして時間は掛からなかった。
自分達が全力で掛かったとしても返り討ちにあって全滅するのは目に見えている。
ならば自分たちが出来る事と言えば...
「勇二!未希!逃げるぞ!」
そういって朝日は二人の首元を掴み、森に向け走り出した。
「ほう?逃げるか。力の差がある事を理解していたというわけだ」
そういって感心したように朝日達の方を見る剣の使徒。
そして、剣の使徒は朝日達の駆けた方に歩き出す。
その速さは決してゆっくりではない。
このままで直ぐに追いつかれるだろう。
朝日もはっきり言って逃げ切れるとは思っていない。
チラリと自分に腕を引っ張られながら走っている二人を見る。
その顔にあったのは、恐怖だった。
死を身近に感じたことによる恐怖心が二人の心の内を満たしているのだ。
朝日は内心舌打ちする。
このままではもし戦闘に至ったとしても二人は使い物にならない。
その結論に至った朝日は道具袋アイテムストレージから魔法陣の描かれた紙を取り出し立ち止まる。
一緒に走っていた二人も当然立ち止まり困惑したような表情で朝日の方を見る。
朝日は無言で勇二達の方を振り返る。
その表情は何かを決意したような、そんな顔だった。
「勇二!」
朝日は真剣な声音で勇二の名を呼ぶ。
「これからこいつを使って地中に逃げるために通路を作る。その通路の先に行けば街の近くに出る、そのまま街に入ったら大人しくしてろ」
そう言って朝日は手に持った紙を勇二たちの足元に置く。
「緊急用に作った魔法陣だから時間制限付きだ。早くしないと土の中で圧縮されちまうから気をつけろ」
しかしそこまで言ったところで二人はハッとしたように顔を上げる。
「朝日?」
未希はどこか不安そうな顔をする。
「ちょっと待って!もしかして朝日っ!?」
どうやら二人は朝日の思惑に気付いたようだ。
勇二が言葉の続きを言おうとした所で朝日はニヤリと笑いそれを視線で封じる。
「安心しろ。自己犠牲なんていうバカなことをするつもりはねぇよ。オレがそんなことするたまじゃねぇのは知ってんだろ?」
そう言いながら朝日は腕輪の土色の結晶に手を運ぶ。
「五体満足とはいかないだろうが、勝機はある。こいつは俺がどうにかする」
朝日は更に続ける。
「だから、どうにか逃げ延びろ」
そう言って朝日は何か言いたげな表情をしている勇二を無視し、土色の石に触れる。
「『エスケープホール』発動」
その瞬間、勇二達の足元に置いてあった魔法陣が光りそこに大きな穴を作る。
「え、ちょっと!?なにこれ!?聞いてないんだけどー!?」
「うびゃー!?助けて勇二―!?」
足場を失った二人は重力に従い、絶叫しながら落下していく。
ちなみにこの穴の高さは六メートルほどだ。あの二人だ。よっぽど変な姿勢で落ちなければ問題はないだろう。
二人の絶叫が聞こえなくなった頃、穴がゆっくりと閉じ始めた。
それと同時に後ろからガサッという音がした。
振り返ればそこには剣の使徒がいた。
「ふん、仲間を逃がし自分が囮か。自己犠牲など無駄なことを。どうせ皆これから死ぬというのに」
そう言って背負った剣を抜き構える使徒。
しかし朝日はその言葉を鼻で嗤い否定する。
「っは、自己犠牲?ふざけんな。誰がそんなバカみたいなことを」
そして朝日も同じく剣を構える。
「悪いが約束があるんでな、死なねぇよ!」
そう言って朝日は駆けだす。
死ぬつもりなど更々ない。
自分にはやらなければならない事が沢山あるのだ。
勇二達との約束もある。
それに妹を探さなければならない。
だから...
「お前だけはここで退ける!」

to be continued...

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