異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

2-5 宿

「あー、ミスった」
それはギルドを抜け出し、しばらく街の中を見学していた朝日の声だった。
「どうしたの朝日?」
未希が訪ねると朝日は少し頭を抱えて立ち止まる。
「いや、ギルドでおすすめの宿でも聞こうと思ってたんだが……」
「あー、確かに。宿は必要だね」
本当は受付嬢から説明を受けたときに帰り際にでも聞こうと思っていたのだが...
「あのチンピラに絡まれなければ…はぁ」
「まぁまぁ、でもどうする?誰かに聞く?」
その言葉にいち早く反応したのは未希だ。
「お!聞き込み?いいね!」
そう言うが早いか未希は人ごみに駆け出して行った。
「あっ、未希!……行っちゃったね」
「いや、追いかけろよ」
残された二人はそんな会話をし、その後姿を半ば呆れながら追いかけていった。
-------------------------------------------------------------
「ほう、これがその宿か」
朝日は目の前にある木と石でできた、看板に「旅人の根城」と書かれた宿を見てそう呟く。
彼らはあの後、道行く人に宿の場所を聞いて回った。
その中で最も評判のいい宿がここだったのだ。
曰く、安いが部屋は清潔で冒険者なりたてのころにはよく世話になっただとか。
曰く、出てくる料理もなかなかのお味だとか。
曰く、店員の対応もとても親切なんだとか。
曰く、「オレ、この依頼が終わったら宿屋の看板娘に求婚するんだ」だとか。
最後のは少しおかしい気もするが中々に評判のいい宿だった。
「よし!早速入ろうよ!」
そう言って宿の中に入っていく未希。
朝日と勇二もそれに続く。
「いらっしゃい!旅人の根城へようこそ!」
宿に入るとカウンターの中から看板娘だろうか十代後半の少女が声を掛けてきた。
「お泊りですか?お食事ですか?」
どうやらこの宿では宿泊しなくても食事をいただけるようだ。
しかし、今の目的は宿だ。
「宿泊したいんですけど、部屋は空いてますか?」
勇二が問う。
すると少女は少し困った顔をする。
「宿泊ですね。でも今、部屋が大部屋一つしか空いてないんですけど、それでもよろしいですか?」
その言葉に三人は一度顔を置見合わせるとすぐに少女の方に向き直る。
「ええ、それで構いません。あ、あとついでに何かつまめるものはありますか?実はお昼まだ食べていなくて」
「分かりました、では奥に行くと食堂がありますのでそこでお待ちください。宿のお支払いは食後でよろしいですか?」
「はい、お願いします」
勇二の言葉を聞くと少女は奥に下がっていった。
三人はそのまま食堂に向かう。
するとそこでは何人かの客が食事をしているのがうかがえた。
その中には同業者と思われるものもチラホラいる。
「さすがは冒険者御用達の宿って感じか」
朝日がそう呟く。
「うん、確かに見た感じ一般の客よりも冒険者の方が多いね」
そんなことを話しながら三人は適当なところに腰を下ろす。
「ね、この後どうするの?」
座って早々未希が聞いてくる。
「うーん、できればこのまま町でも見物したいけど……」
「はっきり言って、特に必要なものもないし、行く必要はないだろ」
そう言ってテーブルに頬杖を突く朝日。
「またそんなこと言う。そんなんだからモテないんだよー」
「ほっとけ」
未希がからかってくるのを無視して道具袋アイテムストレージから羊皮紙を取り出す朝日。
「朝日それは?」
勇二が聞いてくる。
「攻撃魔法発動用の魔法陣だ。さっきの騒動で使っちまたから、その補充だ」
そういって朝日は同じく道具袋から取り出したペンを羊皮紙に走らせる。
「前から思ってたけど朝日って用意周到だよね。何気に女子力高くない?」
「お前たちが備えなさすぎなんだよ。あと女子力言うな」
そんなやり取りをしつつも朝日は魔法陣を完成させる。
「速くない?」
「しらん。前ルシフルに見せたっけ口開けっ放しにするほど驚いていたがな」
「お客様、軽食をご用意しました」
三人がそんな会話をしているとそこに先ほどの少女がやってきた。
その手にはお盆があり、その上の皿にはポテトサラダが置いてあった。
少女は持ってきた料理を朝日達のテーブルに置く。
「いくらだ?」
「宿泊費は大部屋ですので一日大銅貨八枚、料理込だと銀貨一枚と大銅貨三枚です。あ、今の料理の方はサービスです」
大体千三百円程、日本円に換算すると大分安い。
「っと、大銀貨一枚で一週間ほど頼む」
そういって朝日は袋の中から大銀貨を取り出し少女に手渡す。
少女はそれを受け取ると一度下がり戻ってくる。
「はい、おつりは大銅貨九枚となります」
朝日は少女から釣銭を受け取るとすぐに袋の中にしまった。
ちなみにこの三人の中で財布のひもを握っているのは朝日だったりする。
「ではこれがお部屋の鍵です。食堂の階段を上った先の突き当りの部屋です。もし宿を出ることがありましたらカウンターで鍵を預けてくださいね。あ、体を拭くお湯が必要な時はお申し付けください。銅貨七枚ですぐにお持ちします」
そういって少女は「119」と書かれた鍵を三人に渡すと一礼して持ち場に戻っていった。
三人はその様子をポテトサラダをつまみながらながめるのだった。
(にしてもこれ、結構いけるな)

to be continued...

「異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く