異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

1-20 就寝と意地

勇二と未希が仲直りしたのを見届けた朝日は、そそくさとその場を後にし書庫に向かった。
月明かりに照らされる書庫は何とも神秘的な雰囲気がするものだ。
朝日は手にカンテラを持つと書庫の中を突き進み食事の前にいた棚の前に戻ってきた。
「お、剣術指南書か。勇二に見せたら喜びそうだな」
彼の足元には分厚い本が何冊か積まれていた。
これらは全て今日の扉の番をするときに読む本だ。
いくら国王に信頼してくれと言われてもこれは譲りたくなかったのだ。
「こっちは他種族の言語か…こいつも読んでみるか。女神の翻訳機能がどこまでの者か確認する必要があるからな」
彼はそんなことを言いながら本をさらに積み上げていく。
他にも彼の足元には魔物に関する書物や焼くそうな関する書物があった。
「どれどれ、ほかにめぼしい本はっと…ん?」
そんな中彼が見つけたのは表紙が日本語で書かれた本だった。
タイトルは...
「『あなたも今日から魔法使い!~初級編~』…どっかの安っぽい教材みたいだな」
しかし、恐らく先代たちが残した本である、邪険にもできまい。
(ここは先代たちの知識を生かさせてもらわねば、な)
そんなことを考え、その本と積み上げた本を抱え、朝日は書庫を後にした。
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「あ、朝日。やっと戻ってきた」
扉の前で彼を出迎えたのは勇二だ。
その表情はどこか晴れやかである。
「あ?未希はどうした?」
「寝てるよ?それはもうぐっすりと」
「…そうか、で仲直りはしたか?」
その朝日の言葉に勇二は少し苦笑する。
「ちゃんとしたよ、朝日の仕組んだとおりにね?」
「……何のことを言っているのかわからんな」
サッ、と目を逸らす朝日。
「はいはい、どうせ何言っても無駄なんでしょ?いいよ、そういうことにしてあげる」
勇二も朝日の頑固な性格を知っているためかとくには何も言ってこなかった。
「で、朝日その本は?」
「ん?あぁ、今夜のお楽しみだな」
その言葉に呆れた表情を見せる勇二。
そして...
「おい、勇二」
「なにかな朝日」
「…なぜ俺は首根っこをつかまれ部屋に連行されかけている」
「朝日に寝てもらうため」
「……別に俺は一徹くらいなら楽勝なんだが?」
「だーめ」
現在、朝日は勇二に首をつかまれ部屋に連行されかけていた。
されかけていた、というのは朝日が勇二との身長差を生かしてギリギリのところで反抗しているのだ。
「朝日、今日何時間寝た?」
「あ?朝の三十分だけだが?」
「はい連行決定」
「いやまて、別に今日の睡眠時間はいつもに比べれば長い方だぞ?」
その言葉を発した瞬間、朝日はやっちまった、という表情になった。
「ん?いつもより長いということは?」
勇二は一度、不思議そうに首をかしげると、一瞬で満面の笑みになった。
だがその笑みには有無を言わせぬ迫力があった。
「朝日?」
「ハイナンデショウ」
思わず気おされ敬語になる朝日。
「今日はちゃんと寝ようね?」
「………」
朝日は答えない。
答えてしまっては抵抗できなくなるからだ。
「今日は寝ようね?」
「ア、ハイワカリマシタ」
しかし、勇二には勝てなかった。
なんというか笑顔がむちゃくちゃ怖いのだ。
背後に般若を幻視するほどに。
「分かればよろしい、ほら部屋に入ろう?」
そういって先に部屋に入っていく勇二。
朝日はため息をつきながらそれに続く。
内心(どうやって勇二の目をかいくぐるかな)
などと考えながら。
こうして異世界ザナンに転生して二日目に夜も更けていくのだった。

to be continued...

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