異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

1-6 チカラのカタチ

誰かに名前を呼ばれた気がして朝日は目を覚ました。
「ん、ここは…?」
どうやら自分は倒れた後与えられた部屋のベットに寝かされたようだ。
「あ、朝日!目が覚めたみたいだね」
そんな声で顔を覗き込んできたのは、すぐ近くで先ほど見つけた日記を読んでいた勇二だ。どうやら与えられた部屋から駆けつけてきたのか、すぐそばには未希もいる。
「オレはどのくらい寝てたんだ?」
「一時間くらいかな」
(一時間、そんなに寝ていたのか。あそこの感覚じゃ十分くらいだったはずだが?)
「で、どうしたの?いきなり倒れるなんて、ビックリしたよ」
「あぁ、実は…」
このとき朝日は、二人に先ほどみた夢について話そうかと考えたが...
「いや、たぶん寝不足だな、もしくは貧血」
今この段階でこの話をすれば二人は心配をするだろう、だから今は黙っていることにした。
「大丈夫?体調には気を付けないと、朝日がいないとまともに動けないんだから」
勇二よ、いくら何でもその理由はないんじゃないか?という突っ込みはしない、しても煙に巻かれるからだ。
朝日は何となくズボンのポケットを布の上からさわる、そこには先ほどの結晶の感覚があった。
(この結晶は一体何なんだろうな、今考えても仕方ないが)
「で、どんなことが書いてあった?日記見たんだろう?」
朝日はベットから立ち上がりながら問う。
勇二は困った顔をしながら日記を朝日に手渡す。
「あ?って、なんだこれ?」
その日記は全て日本語で書かれていたが重要だと思われる情報が黒く塗り潰されていた。
勇者の名前や書かれていた内容のほぼ全てが、だ。
特に塗り残しがある様子はない。
「はぁ、二の足踏んだな。って、ん?待てよ…」
そこで朝日はある違和感を覚えた。
(誰が一体何のためにこんな事を?過去の勇者か?)
一瞬、そんな事を考えたがすぐにそれを否定するように首を振る朝日。
(いや、無いな。そんなことをする理由がない)
朝日がそんな事を考えていると勇二が思い出したようにポツリと呟く。
「あれ、そういえば女神様。僕たちにプレゼントをくれるとかって言ってなかったっけ?」
勇二がそう言った瞬間、二人は一瞬固まった。
しかし、そう時は経たずに異変は起きた。
「あれ?なんか光ってる!」
突然三人の胸元に光が現れたのだ。
しかしこの光は...
「この光、あの女神の光に似てるな」
そう、この光は女神が長杖を出した時の光とよく似ていた。
ピンポン玉程度の大きさだった光は時が経つに連れ大きくなり、今や野球ボール程の大きさとなっていた。
光はそこで成長を止め、明滅を繰り返している。
「えっと、これどうすればいいんだ?」
朝日が呟くが誰も答えない。
すると...
「おぉ、やっぱり!二人とも、光に手を当ててみて!」
声のしたほうを向くと、そこには銀色に輝く十字架の装飾の施された腕輪を手に持つ未希がいた。
「なんというか、たまに考えなしの行動って奇跡を起こすよな」とは朝日の感想だ。
「未希は腕輪で僕は…お守り?」
次に光の中に手を当てたのは勇二である。
勇二の手の上には神社などで見かけるような「守」と大きく書かれたお守りがあった。
「ふーん、お守りに腕輪ね、オレは何だろうな?」
最後に手を当てたのは朝日、光が収まりその手の中にあったのは、
「ん?これは、ペンダントか?」
朝日の手元に現れたのはロケットペンダントだった。
なんとなく中を開いてみてみると...
「ッ!ちっ、女神め粋な真似をしやがる」
中には一枚の写真が入っていた。
朝日は静かにロケットを閉じるとそれを大切そうに強く握った。
二人が怪訝な顔をしているが今は無視し、『妹の写真』が入ったそれを、もう一度強く握りなおした。

to be continued...

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品