異界の勇者ー黒腕の魔剣使いー

心労の神狼

1-1 転生

ある国のある城のある執務室。
そこでは豪奢な衣服を身に着けた一人の初老の男が机に向き合い、書類の山と対峙していた。
一言も発することなくただ黙々と書類に目を通しているこの男。
その名はシュバルツ=クラウス=ノイド。
白髪交じりの金髪と同色の髭を長く伸ばした青い瞳の初老の男。
この城の主にして一国の王である。
国王たる彼の一日のほとんどは執務室での事務作業に費やされる。
時間が止まっているのではと錯覚するほど静かな執務室。

しかし、シンと静まり返り物音ひとつしない静謐な空間は、意外にもたった一人の乱入者によって呆気なく破られた。

「国王様!」

それは国王よりも少し年上の老人だった。

「……普段なら執務中だと咎めるところだが、急用のようだ。ルシフルよ、何があった?お前が取り乱すなど珍しい」

そう言って国王に視線を向けられている赤毛の老人はルシフル=マジェスタ。
国王の親友であるのと同時に国王の側近であり、国随一の魔導士であり、神官でもある男だ。

「は、はい。この処罰はいかようにも……」
「いや、よい。……それで、一体何があったというのだ?」
「お告げがありました……」
「は?」
「先程、三年前と同じように『女神様』からお告げがあったのです……!」

「世界を救う定めをもった勇者が現れる、と」

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「………転生した、のか?」

目前を覆い隠す眩い光が収まり、朝日達が目を開けた時、彼等が目にした光景は先程とは一転した一寸先も窺い知ることのできない真っ暗闇だった。

「うわっ!真っ暗だ!」
「目がまだチカチカしてる……って、うわぁ!?」
「ちょっと未希!?すごい音したけど大丈夫!?」
「ゴンって……今、ゴンって言った……」
「……お前ら、転生早々元気だな」

朝日は異世界に転生して早々、相も変わらず騒がしい二人に呆れ半分に小さくため息を吐いた。
記念すべき一発目のため息である。何の記念貨は知らないが…
灯りがなく、真っ暗な部屋の内情は確認できないが、二人の会話の内容から推測するに、どうやら未希がまたやらかしたようだ。

「ははは……まぁ、転生したといわれても、一瞬だったから実感がないしね」
「絶対たんこぶなってるよぉ……」
「異世界に来て最初の思い出がたんこぶ。お似合いじゃねぇか」
「……ねぇ、朝日?それどういう意味…?」

未希が何やら恨みがましい視線を向けてきている気がする、が朝日は勿論知らんぷりである。
そもそも暗闇でよく周囲が見えないので朝日の気のせいかもしれない。

「まぁまぁ……それよりここは?女神さまの言う通りなら僕たち異世界に来てるんだよね?」

朝日と未希をにこやかに宥めながら勇二は暗闇に目を凝らす。
どうやら勇二は朝日達よりも先に目がこの暗闇に慣れてきたようだ。

「ああ。暗くてよく見えねぇが、まさか変な場所に転移したのか?」

そんな会話をしているうちに朝日も暗闇にもだいぶ慣れ、部屋の全貌が見えてきた。
壁と床の材質は恐らくはすべてレンガ。
足元には大きな魔法陣のような不思議な模様。
その四方には柱、部屋の壁にはいくつものランプのようなものがかかっていた。
いかにもそれっぽい空間である。
明かりが一切入らず、空気がこもっていることから、おそらくここは地下であることが予想できる。

「なんというか、小説やらなんやらの『召喚の間』って感じだな」
「あー、わかる。これぞテンプレって感じだね」

いかにもファンタジー世界の鉄板ですと言わんばかりの部屋に少しだけテンションが上がる男性陣。
紅一点で唯一の女の子である未希は、勇二と朝日の会話の内容に一人、コテンと首を傾げていた。

「いやー、それにしても誰も来ないね。まさか気付かれてないとか?」

そう言って呑気に笑う勇二。
朝日は小さく「笑い事じゃねぇぞ」とツッコミを入れる。

「いや、だってさ。扉があるから出れるかなーって思ったけど、あきらかに整備不慮でしょあれ」

そう、勇二の言うとおりこの部屋には大きな扉がある。
しかし全く使われていないためか扉は錆び付いていた。
試しに三人で押してみたがビクともしなかった。

「転生して、まさかのまさかでこのままバッドエンドか?」

朝日に限っては割と本気の声音でそう言い出す始末。
すると…

「ん?外から何か聞こえない?足音みたいなの」
「足音?」

扉の向こう側から何やら音が聞こえ、それに勇二が反応したようだ。

「お、近い近い」

未希は扉に耳を当て聞き耳を立てている。

「って、扉の前で止まった?」

ふと、朝日はそこであることに気が付いた。

「なあ、勇二。確かその扉ってこっちから見たら押戸だったよな?」
「うん。そうだけど、それがどうした…………あ」

その言葉の意味に勇二も察しがついたのか、未希に声を掛ける、が。

「未希!危な―――」
「へ?」

当の未希はそんな間抜けな声を出しながら勇二のいる方へ振り返った。
そして、次の瞬間。
鉄製の扉が軋んだ音を立てながら開け放たれた。

「うわっ!?」

扉に全体重を預けていた未希はそのままオデコから倒れこんだ。
そして開いた扉の先にいたのは……

「…間違いありません、国王様。やはり、我らが女神のお告げは正しかったようです」

一人は落ちついた様子の神官風の老人。
もう一人は厳つい顔をした初老の男。
しかしその男の格好を見て三人は驚いた。
その男が身に着けていたのはゴテゴテした宝石や金で彩られた服とマント、長く伸びた髭、黄金に輝く王冠だったのだ。

「なんつーか、アレだな」

思わず朝日も頬を引きつらせる。

「「「いかにもって感じだな(ね)」」」

三人同時に、まるで示し合せたように同じことを言った。

「……まさか、私の代で二度もこのような事が起こるとは……」

初老の男は部屋の中に朝日達三人の存在を見つけるとフゥと小さくため息を吐いた。
そして……

「よくぞ来られた勇者達よ」

テンプレ通りのセリフを言い放った!!

to be continued...

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