県立図書館のお話
さて、三度登場のあの方がたです。
救急車から運び出された弟の傷だらけの様子に、立羽は息を飲んだ。
「揚羽‼」
蒼白になった立羽は駆け寄ろうとするが、後ろからぐいっと押さえられ、
「立羽……違う、お姉さん、急患です。お父さんと着いていてください」
幼馴染みの村上平和に、言い聞かせられる。
「でも、ピース‼」
「ピースなし!俺は先生や。そこで待っとき。はい、これは、エレインちゃん。壊すなよ?」
プチブライスのお人形を手渡す。
「あのね、あんたのその人形マニアやめなさいよ。普通ここまで凝る?えっ?」
不審そうな目をする。
「……良いんだよ。エレインちゃん、よろしくな。おっちゃんも安心して」
そう言い残し、寝台と共に治療室に入っていった。
「……お父さん……ご、ごめんなさい……」
「……お前が悪いんじゃない‼圭典や‼あいつの両親を呼べ‼」
「電話かけておいたわ。夏蜜ちゃんのことも聞いたら、しどろもどろだった。すぐに言い訳でも言いに来いって、借金や……本当はあいつ、揚羽を追い出して、家に婿に入るつもりだったみたいなの……その事も責めたわ……許せない‼弁護士にお願いしなきゃ‼」
「あぁ、それやったら、朔夜に頼んだわ」
「え?安部のおじさん?」
父の親友である。
ちなみに、結婚は父は遅かったので、同じ年に媛と言う末っ子、二つ上にイングランドの若い名優、ガウェイン・ルーサーウェインと結婚した紅と、清水家に婿養子に行った5才上の祐也、7才上にイングランドの同じく美貌の女優、ヴィヴィアン・マーキュリーと結婚した一平がいる。
安部家の兄弟と立羽は同年代だったので、時々家に来ては遊んだり、動物病院に遊びに行って犬の散歩にいったりしていた。
と、
「おい、立羽におじさん?久しぶりやなぁ」
小さい可愛い女の子を抱っこした大柄な平和とさほど背丈も変わらぬがっしりとした青年と、10才位のおっとりとした男の子と大きなお腹の美人の華奢な女性が、よちよちあるきの子供を間にはさんで歩いてくる。
その後ろには清潔感のある男が、媛と並んで歩く男と言い合いをしている。
「よぉ、久々におうたら白髪が増えたなぁ」
「黙れ‼アホシィが!」
「へぇ、昔は……」
「お黙り‼シィ。本気で絞めるけんな?これがほんとの標野や」
媛の一言に、
「媛はん。べっぴんはん。頼むわぁ……あては媛ほどつようないわ~。なぁ?祐也」
「媛?シィ兄さんに乱暴したらいけんで?芸術家やで?」
「かまんかまん」
「いけんなぁ……あ、いけんなぁ。病院で大騒ぎして。紋士郎おじさん、立羽久しぶりやなぁ……って、昨日事故があった言うて聞いたけん、来たんやけど、ここにおるんはどうしたんで?」
「祐也ぁ?立羽ちゃん、疲れとるみたいや。休ませな可哀想やわ。どこかないかなぁ?お久しぶりです。吉岡のおじさん、立羽ちゃん」
キラキラと地毛である明るい栗色の髪を編んだ妊婦は、ニッコリと笑う。
その可愛らしく優しい微笑みに、立羽は瞳を潤ませる。
「ほ、蛍姉さん、お久しぶりです……ほんとに……き、来ていただいて」
「かまんかまん。うちも四人目やもん。立羽ちゃんは赤ちゃん、元気でしょう?」
「……そ、それが……」
顔を覆う立羽に、媛が、
「たっちゃん‼泣きよっても仕方なかろ‼泣く間があったら、大事なもんを守らんといかん‼ほやけん、うちらは来たんやけん、味方やけん‼安心シィ‼」
「媛……だんだん」
「あ、嵯峨さん。うちの親友で幼馴染みの渡邊立羽です。立羽のお父さんの吉岡のおじさん……紋士郎さんです」
スーツ姿の30代の男がポケットから名刺を差し出す。
「初めまして。私は、大原嵯峨と申します。10年ほど前に祐也くんと知り合い、それからの縁となっております」
「嵯峨。あては?」
「シィは忘れたわ。サキと醍醐との縁はあってもな」
口を挟む男をいなす。
「すみません。ある程度の話は、図書館の方に伺うつもりです。そして、朝から申し訳なかったのですが、ほたる園の先生にお伺いしております。ですが……ここで、吉岡さんも血が……怪我でも?」
「それが……」
「おじさん。たっちゃんを連れて行くね?蛍ちゃんも、穐ちゃんも杏樹ちゃんも、結愛ちゃんも行こうね。シィは来い‼」
「あんなぁ?嫁はん。あてを家の犬と同じに扱わんといてくれへんかいな……ほんとに、尻に敷かれるってこれかいな」
ため息をつく。
「あぁ、吉岡のおいはん、こんにちは。立羽ちゃんもお久しゅう。標野どす」
媛の兄、祐也の一年先輩の醍醐の8才上の兄の一人、標野である。
媛とは14才上の夫である。
京都の老舗菓子舗『まつのお』の次期当主の紫野が双子の兄。
標野は、次男の為一緒に暖簾を守っても良かったが、父に願い出てのれんわけし、こちらの街に菓子舗を出した。
そして、媛と結婚したのだが、媛の兄弟は長兄と姉はイングランドに永住し、次兄は婿養子に入ってしまった為に、一応姓は本名の松尾のままだが、媛の実家に同居している。
申し訳ないなぁと思いつつ、忙しい義父の動物病院のスタッフに時々試作品のお菓子や、兄たちと伝統の季節の和菓子を出すために作って、差し入れる。
ちなみに、義父母は、飄々としているが実は家族思いの婿が、結婚の時にわざわざ媛の兄弟に電話を掛けて、実家に住んでも良いかと了承を得ていたことに、真面目で優しいと、良い婿を貰ったと喜んでいたりする。
「立羽ちゃん。あんなぁ?あてが作った今度の季節菓子なんやけど、食べてみてくれへんやろか?6月になるやろ?水無月。やけんなぁ」
「味見と言うよりも毒味よ?たっちゃん。延々と食べさせられるわよぉ?」
「でも、あたしは、和菓子と言うか京菓子好きよ。シィお兄さんとサキお兄さんに食べさせてもらったときは感動したもの。でも、シィお兄さんのお父様のお菓子は凄かったわ……」
「おとうはんにはまだまだ追い付けんわ。あても」
媛に手を握られながら、
「じゃぁ、祐也兄さん、蛍さん。おばあちゃんと瑠璃と夏蜜に……」
と歩き出した。
それを見送った嵯峨は、
「吉岡さん。追いかけないのですか?」
「……実は……一度、着替えと、勉強道具と明日の支度をするために、タクシーで戻った揚羽が……息子が、娘と離婚話が出て、その事をお願いしたと思いますが、娘婿の渡邊圭典が、私が仕事、娘と妻が、息子と入れ替わるために家を空けていた間に、合鍵を勝手に作り、家に侵入し、家財道具を引っ越し業者に持ち出させていたそうです」
「……は?え?そうですと言うのは……」
「息子のスマホです」
バッグの中から取り出した画面にひびのはいったスマホを見せる。
「LINEで、友人からメッセージが来ていた。警察呼ぶからと電話で揚羽に。妻が迎えに来て家に戻ると、圭典が運転するトラックにはねられそうになった人を庇って、自分がはねられて……利き手の左手の骨がこないになってました……」
自分の左手を見せ、骨が折れ突き出たと言うのと、歪んだといいたげに示す。
「……夏蜜もわるぅない、当然、立羽も揚羽も……わしらは温かい家族として暮らしたかったのに……何で、息子は来年受験。夏蜜は中学校に進学。これからがあるのに‼ばあちゃんの、わしらの家を……」
顔を背け、肩を揺らせる。
「何で、のぞんどったのは、普通に生活したかっただけや……何で‼」
「吉岡さん……」
嵯峨は、ハンカチを差し出し、ベンチに座る。
「今……揚羽くんは手術中ですか?」
「そうやと思います……。家のとなりに住む立羽の幼馴染みのボンが、主治医で……」
すいませんといいつつ、涙をぬぐう。
と、
「あ、のぉ……?すいません。圭典を迎えに来たんですが」
姿を見せたのは、普段着の圭典の兄の一人。
他には誰も来ていない。
紋士郎は、かっとなり、
「圭典は警察じゃ‼親になんも聞いとらんのか?家の揚羽をトラックでひいたんや!」
「えっ?……えぇぇ‼どういう事ですか?圭典がそんなこと‼親父もお袋も⁉」
「それにな、夏蜜は、この上におるわ‼その前はどこにおったか知っとるか?」
「夏蜜……」
青ざめる男に、嵯峨は立ちあがり名刺を差し出す。
「私は、弁護士の大原嵯峨と申します。昨日、旧姓にもうなると思いますが渡邊夏蜜ちゃんが事故に遭いました。それで、その場に居合わせ一緒に怪我をしたのが、吉岡さんの息子さんの揚羽くんです。それで軽傷だったのと受験勉強もあると、今日の朝自宅に戻ったら、渡邊圭典さんが奥さんの実家である揚羽くんの自宅に引っ越し業者がトラックを止めて、家財道具を一切合切詰め込んでいたそうです。問い詰めようとしたら、トラックで。渡邊圭典さん……いえ、奥さんの実家とは言え、他人の家のものを盗む、そしてその家の息子の揚羽くんをはねる……容疑者です。警察に行かれましたよ」
「そ、そんな‼吉岡さん‼娘さんの夫ですよ?圭典は‼警察なんて……」
必死に訴える。
紋士郎は冷たい目で、
「あんたは知らんのか?圭典は、毎週のように家に来ては、家のもんを勝手にとって帰っとたわ。それにな?金ももう何度も盗ってな?家が、警備会社に入っとんのは、圭典のお陰や‼それにな、立羽が貯めとった金を酒や遊びに費やして、立羽、何度もあんたんとこの親に言うたんやて、そうしたらなぁ?おかあはんは『良いじゃない。揚羽くんは大学に行ったら独立するんだし、家の圭典と実家に戻りなさいな』って言うたんやて。警備会社に電話もかけた‼証拠も隠しカメラで撮ったのを残しとる‼」
「……っ‼」
がくがくと震える男に、
「昨日、夏蜜の事を知った‼立羽は夏蜜と住みたいってずっと言うとったのに、嘘言うとったな。夏蜜にも、立羽のことを……あんたらも同罪や。嫁に、姪を騙して、わしの家を、家族を、なんやと思とんや‼大原さん‼訴えます‼圭典だけやのうて、あっちの家を‼それと立羽との離婚に、慰謝料を‼苦労して育った夏蜜にも‼もう許せん‼」
次々暴露される事実をレコーダーで録音して、書き込んでいた嵯峨はこんな最悪な男に騙された家族のために即動こうと考えていたのだった。
「揚羽‼」
蒼白になった立羽は駆け寄ろうとするが、後ろからぐいっと押さえられ、
「立羽……違う、お姉さん、急患です。お父さんと着いていてください」
幼馴染みの村上平和に、言い聞かせられる。
「でも、ピース‼」
「ピースなし!俺は先生や。そこで待っとき。はい、これは、エレインちゃん。壊すなよ?」
プチブライスのお人形を手渡す。
「あのね、あんたのその人形マニアやめなさいよ。普通ここまで凝る?えっ?」
不審そうな目をする。
「……良いんだよ。エレインちゃん、よろしくな。おっちゃんも安心して」
そう言い残し、寝台と共に治療室に入っていった。
「……お父さん……ご、ごめんなさい……」
「……お前が悪いんじゃない‼圭典や‼あいつの両親を呼べ‼」
「電話かけておいたわ。夏蜜ちゃんのことも聞いたら、しどろもどろだった。すぐに言い訳でも言いに来いって、借金や……本当はあいつ、揚羽を追い出して、家に婿に入るつもりだったみたいなの……その事も責めたわ……許せない‼弁護士にお願いしなきゃ‼」
「あぁ、それやったら、朔夜に頼んだわ」
「え?安部のおじさん?」
父の親友である。
ちなみに、結婚は父は遅かったので、同じ年に媛と言う末っ子、二つ上にイングランドの若い名優、ガウェイン・ルーサーウェインと結婚した紅と、清水家に婿養子に行った5才上の祐也、7才上にイングランドの同じく美貌の女優、ヴィヴィアン・マーキュリーと結婚した一平がいる。
安部家の兄弟と立羽は同年代だったので、時々家に来ては遊んだり、動物病院に遊びに行って犬の散歩にいったりしていた。
と、
「おい、立羽におじさん?久しぶりやなぁ」
小さい可愛い女の子を抱っこした大柄な平和とさほど背丈も変わらぬがっしりとした青年と、10才位のおっとりとした男の子と大きなお腹の美人の華奢な女性が、よちよちあるきの子供を間にはさんで歩いてくる。
その後ろには清潔感のある男が、媛と並んで歩く男と言い合いをしている。
「よぉ、久々におうたら白髪が増えたなぁ」
「黙れ‼アホシィが!」
「へぇ、昔は……」
「お黙り‼シィ。本気で絞めるけんな?これがほんとの標野や」
媛の一言に、
「媛はん。べっぴんはん。頼むわぁ……あては媛ほどつようないわ~。なぁ?祐也」
「媛?シィ兄さんに乱暴したらいけんで?芸術家やで?」
「かまんかまん」
「いけんなぁ……あ、いけんなぁ。病院で大騒ぎして。紋士郎おじさん、立羽久しぶりやなぁ……って、昨日事故があった言うて聞いたけん、来たんやけど、ここにおるんはどうしたんで?」
「祐也ぁ?立羽ちゃん、疲れとるみたいや。休ませな可哀想やわ。どこかないかなぁ?お久しぶりです。吉岡のおじさん、立羽ちゃん」
キラキラと地毛である明るい栗色の髪を編んだ妊婦は、ニッコリと笑う。
その可愛らしく優しい微笑みに、立羽は瞳を潤ませる。
「ほ、蛍姉さん、お久しぶりです……ほんとに……き、来ていただいて」
「かまんかまん。うちも四人目やもん。立羽ちゃんは赤ちゃん、元気でしょう?」
「……そ、それが……」
顔を覆う立羽に、媛が、
「たっちゃん‼泣きよっても仕方なかろ‼泣く間があったら、大事なもんを守らんといかん‼ほやけん、うちらは来たんやけん、味方やけん‼安心シィ‼」
「媛……だんだん」
「あ、嵯峨さん。うちの親友で幼馴染みの渡邊立羽です。立羽のお父さんの吉岡のおじさん……紋士郎さんです」
スーツ姿の30代の男がポケットから名刺を差し出す。
「初めまして。私は、大原嵯峨と申します。10年ほど前に祐也くんと知り合い、それからの縁となっております」
「嵯峨。あては?」
「シィは忘れたわ。サキと醍醐との縁はあってもな」
口を挟む男をいなす。
「すみません。ある程度の話は、図書館の方に伺うつもりです。そして、朝から申し訳なかったのですが、ほたる園の先生にお伺いしております。ですが……ここで、吉岡さんも血が……怪我でも?」
「それが……」
「おじさん。たっちゃんを連れて行くね?蛍ちゃんも、穐ちゃんも杏樹ちゃんも、結愛ちゃんも行こうね。シィは来い‼」
「あんなぁ?嫁はん。あてを家の犬と同じに扱わんといてくれへんかいな……ほんとに、尻に敷かれるってこれかいな」
ため息をつく。
「あぁ、吉岡のおいはん、こんにちは。立羽ちゃんもお久しゅう。標野どす」
媛の兄、祐也の一年先輩の醍醐の8才上の兄の一人、標野である。
媛とは14才上の夫である。
京都の老舗菓子舗『まつのお』の次期当主の紫野が双子の兄。
標野は、次男の為一緒に暖簾を守っても良かったが、父に願い出てのれんわけし、こちらの街に菓子舗を出した。
そして、媛と結婚したのだが、媛の兄弟は長兄と姉はイングランドに永住し、次兄は婿養子に入ってしまった為に、一応姓は本名の松尾のままだが、媛の実家に同居している。
申し訳ないなぁと思いつつ、忙しい義父の動物病院のスタッフに時々試作品のお菓子や、兄たちと伝統の季節の和菓子を出すために作って、差し入れる。
ちなみに、義父母は、飄々としているが実は家族思いの婿が、結婚の時にわざわざ媛の兄弟に電話を掛けて、実家に住んでも良いかと了承を得ていたことに、真面目で優しいと、良い婿を貰ったと喜んでいたりする。
「立羽ちゃん。あんなぁ?あてが作った今度の季節菓子なんやけど、食べてみてくれへんやろか?6月になるやろ?水無月。やけんなぁ」
「味見と言うよりも毒味よ?たっちゃん。延々と食べさせられるわよぉ?」
「でも、あたしは、和菓子と言うか京菓子好きよ。シィお兄さんとサキお兄さんに食べさせてもらったときは感動したもの。でも、シィお兄さんのお父様のお菓子は凄かったわ……」
「おとうはんにはまだまだ追い付けんわ。あても」
媛に手を握られながら、
「じゃぁ、祐也兄さん、蛍さん。おばあちゃんと瑠璃と夏蜜に……」
と歩き出した。
それを見送った嵯峨は、
「吉岡さん。追いかけないのですか?」
「……実は……一度、着替えと、勉強道具と明日の支度をするために、タクシーで戻った揚羽が……息子が、娘と離婚話が出て、その事をお願いしたと思いますが、娘婿の渡邊圭典が、私が仕事、娘と妻が、息子と入れ替わるために家を空けていた間に、合鍵を勝手に作り、家に侵入し、家財道具を引っ越し業者に持ち出させていたそうです」
「……は?え?そうですと言うのは……」
「息子のスマホです」
バッグの中から取り出した画面にひびのはいったスマホを見せる。
「LINEで、友人からメッセージが来ていた。警察呼ぶからと電話で揚羽に。妻が迎えに来て家に戻ると、圭典が運転するトラックにはねられそうになった人を庇って、自分がはねられて……利き手の左手の骨がこないになってました……」
自分の左手を見せ、骨が折れ突き出たと言うのと、歪んだといいたげに示す。
「……夏蜜もわるぅない、当然、立羽も揚羽も……わしらは温かい家族として暮らしたかったのに……何で、息子は来年受験。夏蜜は中学校に進学。これからがあるのに‼ばあちゃんの、わしらの家を……」
顔を背け、肩を揺らせる。
「何で、のぞんどったのは、普通に生活したかっただけや……何で‼」
「吉岡さん……」
嵯峨は、ハンカチを差し出し、ベンチに座る。
「今……揚羽くんは手術中ですか?」
「そうやと思います……。家のとなりに住む立羽の幼馴染みのボンが、主治医で……」
すいませんといいつつ、涙をぬぐう。
と、
「あ、のぉ……?すいません。圭典を迎えに来たんですが」
姿を見せたのは、普段着の圭典の兄の一人。
他には誰も来ていない。
紋士郎は、かっとなり、
「圭典は警察じゃ‼親になんも聞いとらんのか?家の揚羽をトラックでひいたんや!」
「えっ?……えぇぇ‼どういう事ですか?圭典がそんなこと‼親父もお袋も⁉」
「それにな、夏蜜は、この上におるわ‼その前はどこにおったか知っとるか?」
「夏蜜……」
青ざめる男に、嵯峨は立ちあがり名刺を差し出す。
「私は、弁護士の大原嵯峨と申します。昨日、旧姓にもうなると思いますが渡邊夏蜜ちゃんが事故に遭いました。それで、その場に居合わせ一緒に怪我をしたのが、吉岡さんの息子さんの揚羽くんです。それで軽傷だったのと受験勉強もあると、今日の朝自宅に戻ったら、渡邊圭典さんが奥さんの実家である揚羽くんの自宅に引っ越し業者がトラックを止めて、家財道具を一切合切詰め込んでいたそうです。問い詰めようとしたら、トラックで。渡邊圭典さん……いえ、奥さんの実家とは言え、他人の家のものを盗む、そしてその家の息子の揚羽くんをはねる……容疑者です。警察に行かれましたよ」
「そ、そんな‼吉岡さん‼娘さんの夫ですよ?圭典は‼警察なんて……」
必死に訴える。
紋士郎は冷たい目で、
「あんたは知らんのか?圭典は、毎週のように家に来ては、家のもんを勝手にとって帰っとたわ。それにな?金ももう何度も盗ってな?家が、警備会社に入っとんのは、圭典のお陰や‼それにな、立羽が貯めとった金を酒や遊びに費やして、立羽、何度もあんたんとこの親に言うたんやて、そうしたらなぁ?おかあはんは『良いじゃない。揚羽くんは大学に行ったら独立するんだし、家の圭典と実家に戻りなさいな』って言うたんやて。警備会社に電話もかけた‼証拠も隠しカメラで撮ったのを残しとる‼」
「……っ‼」
がくがくと震える男に、
「昨日、夏蜜の事を知った‼立羽は夏蜜と住みたいってずっと言うとったのに、嘘言うとったな。夏蜜にも、立羽のことを……あんたらも同罪や。嫁に、姪を騙して、わしの家を、家族を、なんやと思とんや‼大原さん‼訴えます‼圭典だけやのうて、あっちの家を‼それと立羽との離婚に、慰謝料を‼苦労して育った夏蜜にも‼もう許せん‼」
次々暴露される事実をレコーダーで録音して、書き込んでいた嵯峨はこんな最悪な男に騙された家族のために即動こうと考えていたのだった。
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