県立図書館のお話

ノベルバユーザー173744

揚羽は痛みよりも心配でした。

「父さん……姉貴に夏蜜なつみは、大丈夫かな……」

止血に簡単な傷を治療してもらいつつ、呟く。
ハラハラと様子を見守っていた紋士郎もんしろうは呆れる。

揚羽あげは。お前、怪我の様子もわからんのやぞ?」
「俺は多分動けるし、夏蜜よりも軽いと思う。それより、姉貴が泣いてないかなと思って」

紋士郎はため息をつく。

立羽も揚羽も兄弟仲がいい。



紋士郎は兄姉兄の下の末っ子であり、実家では筋肉族の兄貴達が殴りあいのケンカ三昧に、姉は立羽程口は達者ではないが、かなりの強者で、

「うるっさいのよ‼このボケどもがぁぁ‼」

と、父が嘆いたほどの怪力乱神である。
その為、逆におっとりとと言うかのんびりと育った。

少し離れたところで育ったが、お墓に両親と兄弟とお盆前やお彼岸前に掃除とお参りをし、その帰りに必ず竹原たけはらのお屋敷に挨拶に行った。

大きなお屋敷に一人ポツンと座って微笑んでいる大叔母が、何故か寂しそうで……。

「おばちゃん‼こんにちは‼」

と、いつもはもじもじとするものの、かけていった。

「お墓参りかい?よう来たなぁ」
「うん‼ちゃんと『のんのんさん』に手を合わせてきたけんな。おばちゃん‼やけん、ここの『のんのんさん』にも手を合わせにきたけんな。一緒に手合わそうや」

『のんのんさん』は方言で、お寺の仏像や、お地蔵さん、お墓に眠られている仏さま、ご先祖、仏壇のお位牌すべてである。

親や祖父母が、子供と手を合わせ、

「『のんのんさん』に、来たけんな、言うてお言いな」

と言って、

「『のんのんさん』……」

と手を合わせるのを子供は見て育つ。
最近は、こう言う優しい言葉は無くなっていく。



しかし、紋士郎は高校を卒業し、料理人の修行にはいる前に、両親と兄弟と共に福実ふくみのところに行った。
その時に、父から竹原の家の養子にと言う話を聞き、兄たちを見て、

「兄貴達と姉ちゃんは、おばちゃんと反り合わんわ。と言うか、おばちゃんが参るわ。それに、俺は財産は要らんけど、ここでおばちゃんと住むんもえぇなぁ……」

と、即座に、

「かまんで?俺……おばちゃんとのんのんさん守ろうわい。お墓参りにも行きやすいし、でも、おばちゃん、俺でかまんの?」

自分は大叔母が大好きだが、聞いてみたかった。
申し訳なさそうに眉を下げ、首をかしげ、

「紋士郎も、かまんのかね?おばちゃんの世話せないかんので?」
「それくらいかまんかまん。まぁ、父さん、母さん、兄貴達と縁が切れる訳じゃないけん、おばちゃんも俺の家族や」

それからは二人で、それからは結婚し、立羽と揚羽が生まれて5人家族で過ごしてきた。
幸せに暮らしてきた。
それを壊したのは、圭典けいすけ……家族も、孫の瑠璃も、そして昨日、引き取ることになった夏蜜も、悲しませた、苦しませたのは、婿とも呼びたくはないあの男である。

「立羽も参るような娘やない。それに、ばあちゃんもおる。かまんかまん」
「あぁ、そうやった……でも!父さん‼あいつ‼家の中、荒らしてた‼陸也くにやおじさんの遺品も……大丈夫やろか?」
「‼……真澄ますみが何とかしてくれるやろ」
「そうやなぁ……いててっ‼」

思い出したのか声をあげる。

「どうしたんぞ?」
「利き手の左手が痛いんよ。手の平と指も……ゲッ!」

左手をゆるゆる持ち上げた息子の指を見て絶句する。

「なっ?救急隊員さん‼息子の手が‼変形して骨が突き出とります‼」
「えっ?」

駆け寄ってきた救急隊員は、なるべく痛まないように確認し、

「右手はどうですか?」
「そう言えば……なんか、ジワジワ……」
「レントゲンですね。ヒビかもしれません」
「な、何てこった‼図書館の本が読めんが~‼せっかく、5冊続けて借りれたのに‼それとかわいい妹の夏蜜に……」

息子の叫びに、紋士郎は低い声で、

「おい、一応受験生やないんか?お前は」
「あ、受験勉強出来んな……」
「気持ちがこもってないわ‼まぁ、えぇわ。受験より娘の夏蜜の方が優先や」

親子のずれた会話に救急隊員も心配するが、後日、吉岡揚羽よしおかあげはと言う少年は、県内でも有数の進学校の上位クラスの生徒だと分かったのだった。

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