県立図書館のお話
揚羽が救急車で戻ってきました。
「どうしたの?お姉ちゃん」
瑠璃はきゃっきゃと遊んでいる。
落ちないようにと様子を見つつ、母に告げ行って貰ったものの連絡のない弟たちが気になり、立羽はスマホを見つめていた。
その中には家族3人の写真があった。
夫は瑠璃を抱くことは余りなかった。
今考えれば、お金のことや、良く酔っぱらっては帰ってきて、
「タクシー代を払っといて……」
等といい、財布を見ると入れておいたお金が空っぽで、喧嘩したことが多かった。
それに、週末には立羽の実家に行こうと言い張り、
「家族3人でいましょうよ。それに、そんなにうちの実家に帰っても、揚羽は受験なのよ?父さんも忙しいし、度々戻るのは遠慮して……」
「何でだよ⁉瑠璃を連れていったら喜ぶだろ⁉」
「だから、毎週はやめてって‼しかも、圭典、紫陽花町の家は私の実家なのに、少しは遠慮してよ‼ズカズカ入っていって、ソファに座って、母さんやおばあちゃんや揚羽にあれこれ命令しないでよ‼」
「お前の亭主なんだ、何が悪い‼」
「それなら、瑠璃の面倒も見てちょうだいよ‼それに毎日のように飲み歩いて‼私は仕事を休んでいるのよ‼家を建てようって貯金だってしてたじゃないの‼なのにその貯金を切り崩しているのよ?私は家を建てて、夏蜜ちゃんを引き取りたいの‼」
必死に訴える。
すると、険しい顔になり、
「夏蜜、夏蜜うるせぇ‼家なんて、お前の実家に住ませて貰ったら良いんだよ‼」
「あの家は竹原の家よ‼おばあちゃんの家‼将来はもしかしたら、揚羽の家になるの‼何で渡邊の人間が入り込むのよ‼それなら貴方の実家に入るのが普通じゃないの‼」
「何でだよ」
「何でって当たり前でしょ⁉もういいわ、お義母さんに電話するわ‼私の貯金をどれだけ使ったのよ‼」
言い返し、夫の前で夫の実家に電話を掛けたことは何回もあった。
義母は、
「あら、ごめんなさいね。圭典君は……」
「ご免なさいじゃないんです‼お義母さん。家を建てようって貯めているのに……」
「あら?立羽ちゃんの実家に住むんだって言っていたのよ?圭典君は」
「何でですか?私は渡邊の人間ですよ⁉私の実家にっておかしいじゃありませんか?」
「圭典君は立羽ちゃんの弟君の揚羽君が進学するだろうしって言ってたのよ、だから、婿には行ってもいいかなって」
その言葉に益々怒り狂ったことは言うまでもない。
いくら夫とは言え、自分の実家の内情を勝手に首を突っ込むなんて……。
それからは、ぎすぎすし始めていた。
でも、変わってほしかった……。
自分の実家のことをそんなに気にするなんて……もしかして、実家の財産を目当てだったのかと悲しくなった。
「……お姉ちゃん?救急車が来てるよ。今日もこの病院、夏蜜が来たみたいに一杯患者さん来るのかなぁ?」
はっとする。
この街では救急病院は、大型病院や中型とで一週間から10日の周期の救急病院カレンダーが組まれている。
連続ではあり得ないのだ。
と、スマホが鳴った。
見ると揚羽の名前である。
「もしもし?揚羽?」
「立羽。わしや。父さんや」
「お父さん?家にいるの?」
「いや、救急車でそっちにいきよる」
立羽の全身からぶわっと鳥肌がたつ。
「と、父さん……怪我……」
「いや、わしと母さんは大丈夫や。でも、揚羽が……圭典の運転しよったトラックにはねられて……」
「な、何ですって⁉」
ザァァっと血の気がひいた。
淡々とした、ちょっと冷静すぎじゃないのかと言う時もあるが、優しく賢く自慢の弟。
「揚羽……大丈夫?大丈夫よね⁉父さん?」
「大丈夫や。骨折と打撲傷とかがあるみたいやが……命に別状はない」
「本当……?」
少し休憩していた福実が戻ってくる。
「どうしたん?立羽」
「お、おばあちゃん……」
スマホを手渡し、その後、床に座り込み、顔を覆い泣きじゃくる。
「何で……私が、私がもっと、しっかりとしていれば……圭典が‼私の家をめちゃくちゃに‼夏蜜だけじゃなく揚羽にまで‼何で‼」
「お、お姉ちゃん……」
「ごめんなさい‼夏蜜……お姉ちゃん、お姉ちゃんが……」
「お姉ちゃん?」
不安そうな夏蜜に、電話を切った福実が、
「……立羽。しっかりせんかね‼あんたは瑠璃の母親で、揚羽と夏蜜の姉や‼ばあちゃんの孫やろがね‼泣きよる場合じゃない‼まだ小さい夏蜜と瑠璃を不安がらせたらいけん‼」
怒っていると言うよりも、叱咤激励と言いたげに肩を叩く。
「ほら、揚羽んとこにおいきや。涙は拭いて行くんで?」
「は、はい‼行ってきます。おばあちゃん、ありがとう。なっちゃん。心配かけてごめんね?揚羽の様子を見てくるから‼」
祖母に手渡されたタオルで顔を拭き、立ち上がると服の乱れをチェックして、早足で出ていった。
「……おばあちゃん。夏蜜のせい?」
ポツッと涙声で漏らすのを聞き取った福実が、
「何いよるんぞね。夏蜜がおるけん、立羽は……姉ちゃんは現実と立ち向かおうとたったんよ?」
「現実と……?」
福実は涙を拭いながら、顔を近づける。
「実はなぁ?立羽と、その旦那は仲が悪ぅなっとったんよ。立羽は結婚して夢があった。夏蜜を引き取って、瑠璃が生まれて4人で家を建てて、温かい家を作りたかったんよ。実家に頼らず自立してとおもとったのに、あの旦那は毎週家に来てはあれこれと口出ししてなぁ。揚羽が嫌がっとったわ。立羽は、自分の家にいるとか、家族で公園とか行こうっていいよったのに、自分の実家に入っていってあれこれ持ち出す旦那に不信感……この人は結婚する前に言っていたことを、全然叶えようとしてない。夏蜜と会わせてくれない。自分が子育てしているのに、遊び歩いて……どうして?ってなぁ」
「お、父さん……」
「夏蜜のお父さんは紋士郎やろ?紋士郎は、逆や。庭に家庭菜園があるけんなぁ。休みの日は、麦わら帽子にステテコに腹巻、タオルで出ていこうとするけんの。いけん‼言うて真澄さんが長袖にズボンに長靴着せて軍手つけて外に出しよるわ」
「お父さん……お母さん、いけんって……」
「紋士郎は肌が弱いんよ。日焼けすると火傷みたいになってしもて……それに、雑草の汁でかぶれて、いけんのよ。でも、好きやけんねぇ……止められんのよ」
クスクス笑う福実を見て、ニッコリと笑う。
「やけんね?そうそう。わらっといで。夏蜜は笑っとると本当にべっぴんはんや」
「お姉ちゃんも綺麗。お兄ちゃんはかっこいい‼」
「ばあちゃんの孫やけんなぁ。瑠璃もやなぁ」
夏蜜の傷のない頭を撫でて笑う。
「揚羽は無事や。夏蜜はいい子で立羽が帰ってくるのを待ちよろうな?」
「うん‼おばあちゃん」
宥めながら、福実は圭典の過去の所業を警察に提出しようと心に誓っていたのだった。
瑠璃はきゃっきゃと遊んでいる。
落ちないようにと様子を見つつ、母に告げ行って貰ったものの連絡のない弟たちが気になり、立羽はスマホを見つめていた。
その中には家族3人の写真があった。
夫は瑠璃を抱くことは余りなかった。
今考えれば、お金のことや、良く酔っぱらっては帰ってきて、
「タクシー代を払っといて……」
等といい、財布を見ると入れておいたお金が空っぽで、喧嘩したことが多かった。
それに、週末には立羽の実家に行こうと言い張り、
「家族3人でいましょうよ。それに、そんなにうちの実家に帰っても、揚羽は受験なのよ?父さんも忙しいし、度々戻るのは遠慮して……」
「何でだよ⁉瑠璃を連れていったら喜ぶだろ⁉」
「だから、毎週はやめてって‼しかも、圭典、紫陽花町の家は私の実家なのに、少しは遠慮してよ‼ズカズカ入っていって、ソファに座って、母さんやおばあちゃんや揚羽にあれこれ命令しないでよ‼」
「お前の亭主なんだ、何が悪い‼」
「それなら、瑠璃の面倒も見てちょうだいよ‼それに毎日のように飲み歩いて‼私は仕事を休んでいるのよ‼家を建てようって貯金だってしてたじゃないの‼なのにその貯金を切り崩しているのよ?私は家を建てて、夏蜜ちゃんを引き取りたいの‼」
必死に訴える。
すると、険しい顔になり、
「夏蜜、夏蜜うるせぇ‼家なんて、お前の実家に住ませて貰ったら良いんだよ‼」
「あの家は竹原の家よ‼おばあちゃんの家‼将来はもしかしたら、揚羽の家になるの‼何で渡邊の人間が入り込むのよ‼それなら貴方の実家に入るのが普通じゃないの‼」
「何でだよ」
「何でって当たり前でしょ⁉もういいわ、お義母さんに電話するわ‼私の貯金をどれだけ使ったのよ‼」
言い返し、夫の前で夫の実家に電話を掛けたことは何回もあった。
義母は、
「あら、ごめんなさいね。圭典君は……」
「ご免なさいじゃないんです‼お義母さん。家を建てようって貯めているのに……」
「あら?立羽ちゃんの実家に住むんだって言っていたのよ?圭典君は」
「何でですか?私は渡邊の人間ですよ⁉私の実家にっておかしいじゃありませんか?」
「圭典君は立羽ちゃんの弟君の揚羽君が進学するだろうしって言ってたのよ、だから、婿には行ってもいいかなって」
その言葉に益々怒り狂ったことは言うまでもない。
いくら夫とは言え、自分の実家の内情を勝手に首を突っ込むなんて……。
それからは、ぎすぎすし始めていた。
でも、変わってほしかった……。
自分の実家のことをそんなに気にするなんて……もしかして、実家の財産を目当てだったのかと悲しくなった。
「……お姉ちゃん?救急車が来てるよ。今日もこの病院、夏蜜が来たみたいに一杯患者さん来るのかなぁ?」
はっとする。
この街では救急病院は、大型病院や中型とで一週間から10日の周期の救急病院カレンダーが組まれている。
連続ではあり得ないのだ。
と、スマホが鳴った。
見ると揚羽の名前である。
「もしもし?揚羽?」
「立羽。わしや。父さんや」
「お父さん?家にいるの?」
「いや、救急車でそっちにいきよる」
立羽の全身からぶわっと鳥肌がたつ。
「と、父さん……怪我……」
「いや、わしと母さんは大丈夫や。でも、揚羽が……圭典の運転しよったトラックにはねられて……」
「な、何ですって⁉」
ザァァっと血の気がひいた。
淡々とした、ちょっと冷静すぎじゃないのかと言う時もあるが、優しく賢く自慢の弟。
「揚羽……大丈夫?大丈夫よね⁉父さん?」
「大丈夫や。骨折と打撲傷とかがあるみたいやが……命に別状はない」
「本当……?」
少し休憩していた福実が戻ってくる。
「どうしたん?立羽」
「お、おばあちゃん……」
スマホを手渡し、その後、床に座り込み、顔を覆い泣きじゃくる。
「何で……私が、私がもっと、しっかりとしていれば……圭典が‼私の家をめちゃくちゃに‼夏蜜だけじゃなく揚羽にまで‼何で‼」
「お、お姉ちゃん……」
「ごめんなさい‼夏蜜……お姉ちゃん、お姉ちゃんが……」
「お姉ちゃん?」
不安そうな夏蜜に、電話を切った福実が、
「……立羽。しっかりせんかね‼あんたは瑠璃の母親で、揚羽と夏蜜の姉や‼ばあちゃんの孫やろがね‼泣きよる場合じゃない‼まだ小さい夏蜜と瑠璃を不安がらせたらいけん‼」
怒っていると言うよりも、叱咤激励と言いたげに肩を叩く。
「ほら、揚羽んとこにおいきや。涙は拭いて行くんで?」
「は、はい‼行ってきます。おばあちゃん、ありがとう。なっちゃん。心配かけてごめんね?揚羽の様子を見てくるから‼」
祖母に手渡されたタオルで顔を拭き、立ち上がると服の乱れをチェックして、早足で出ていった。
「……おばあちゃん。夏蜜のせい?」
ポツッと涙声で漏らすのを聞き取った福実が、
「何いよるんぞね。夏蜜がおるけん、立羽は……姉ちゃんは現実と立ち向かおうとたったんよ?」
「現実と……?」
福実は涙を拭いながら、顔を近づける。
「実はなぁ?立羽と、その旦那は仲が悪ぅなっとったんよ。立羽は結婚して夢があった。夏蜜を引き取って、瑠璃が生まれて4人で家を建てて、温かい家を作りたかったんよ。実家に頼らず自立してとおもとったのに、あの旦那は毎週家に来てはあれこれと口出ししてなぁ。揚羽が嫌がっとったわ。立羽は、自分の家にいるとか、家族で公園とか行こうっていいよったのに、自分の実家に入っていってあれこれ持ち出す旦那に不信感……この人は結婚する前に言っていたことを、全然叶えようとしてない。夏蜜と会わせてくれない。自分が子育てしているのに、遊び歩いて……どうして?ってなぁ」
「お、父さん……」
「夏蜜のお父さんは紋士郎やろ?紋士郎は、逆や。庭に家庭菜園があるけんなぁ。休みの日は、麦わら帽子にステテコに腹巻、タオルで出ていこうとするけんの。いけん‼言うて真澄さんが長袖にズボンに長靴着せて軍手つけて外に出しよるわ」
「お父さん……お母さん、いけんって……」
「紋士郎は肌が弱いんよ。日焼けすると火傷みたいになってしもて……それに、雑草の汁でかぶれて、いけんのよ。でも、好きやけんねぇ……止められんのよ」
クスクス笑う福実を見て、ニッコリと笑う。
「やけんね?そうそう。わらっといで。夏蜜は笑っとると本当にべっぴんはんや」
「お姉ちゃんも綺麗。お兄ちゃんはかっこいい‼」
「ばあちゃんの孫やけんなぁ。瑠璃もやなぁ」
夏蜜の傷のない頭を撫でて笑う。
「揚羽は無事や。夏蜜はいい子で立羽が帰ってくるのを待ちよろうな?」
「うん‼おばあちゃん」
宥めながら、福実は圭典の過去の所業を警察に提出しようと心に誓っていたのだった。
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