県立図書館のお話

ノベルバユーザー173744

翌朝、白熊先生がやってきたのでした。

朝、食事と共に入ってきた看護師に、寝ぼけながら、

「おはようございます……」
「大丈夫ですか?痛みが強くはないですか?」
「えと……肩が擦れて」

夏蜜なつみは苦痛を訴える。

「あぁ、あのひどい怪我ですものね。こら、研修医‼何してるの」
「は、はい‼」

でっかい巨体を小さくして、隠れているつもりだったらしい白衣の大男が出てくる。

「あれ?ピース兄さんじゃないですか」

柔道の猛者であり、怪我やメンタル面の弱さの為など様々な理由で辞めていく友人の為に、医師を目指した筈の8才年上の幼馴染みが、何故ここに?

「あ、あぁ、久しぶり……揚羽あげは。そのピースはやめてくれないか」
「あぁ、嫌なんですか?」
「違う‼動物園の白熊、ピースは可愛い女の子なんだ‼このむさい私と一緒にされたら、女の子のピースが可哀想だろう‼」

ピースこと村上平和むらかみひらかずは拳を固める。
揚羽は脱力する。

そうだった。
このいかつい幼馴染みは、外見に似合わず可愛いものが好きである。
家族と知人以外は隠しているが、何故かブライスと言う人形をカスタマイズする作家と言う副業も持っている変わった人間である。

ブライスと言う人形は、リカちゃん人形の胴体に、頭が大きなお人形である。
瞳が大きく、まばたきをする。
しかも、すごいのがカスタマイズ……基本の人形を購入すると、瞳を変えたり髪を変えたり、瞳にラメをいれたり、頬を削って唇にグロスを入れたり、まつ毛を人間用のつけまつげを貼り付ける事も多い。
そして、服も好きなゴスロリや、メイドさんや、着ぐるみ、オプションのミニチュア小物も、手作りしたりして販売する。
プチブライスと言う、小さめの子はお手頃な3000円ほどのお値段で売買されている。
ブライスは桁が違い、有名な作家がカスタマイズしたり、限定で未開封だとネットオークションでいい値段がするらしい。

ちなみに、彼も男であることを隠してネットで発表して、依頼を受けてチェンジするらしいが、かなり上級者レベルらしい。
特に、自分が特別にカスタマイズした大事な一体は、売ってくれと言われても断っているが、10万を軽く越えたらしい。

この繊細さを姉に見習わせたいと思うのは、無理だろうか……。

ちなみに平和と言う名前から『ピース』なのだが、夏蜜が行きたがっている動物園には同じく『ピース』と言う人工哺育で育てられたホッキョクグマがいる。

母親が育児放棄で死にかかっていた所を、飼育員さんに育てられた。
飼育員さんの家族にも家族として育てられたものの、ホッキョクグマはぬいぐるみではなく猛獣である。
成長して、両親の元に戻す為に努力をしたが、基本的にホッキョクグマは成長した子供とは別に生きていく動物である。
同じ動物園のアフリカゾウの家族のようには行かず、別の檻で生活するようになったものの、病を発症した。

『てんかん』である。

小さな体ならばまだましだが、あの大きな体で発作、体調も良くなったり悪くなったりして薬が欠かせない。
しかもその薬が高額で、県立動物園の為、寄付や募金で賄っているらしい。

「こら‼村上く……先生‼」
「あ、すみません‼」

大柄な青年は小さくなって前に出ると、膝をついて夏蜜を見る。

「初めまして。夏蜜ちゃん。先生は村上平和と言います。よろしくね?あ、怖くないよ?」
「おや、ピーちゃん。ここの病院やったんかね」

お湯を貰いに行っていた福実ふくみが声をかける。

「ば、ばあちゃん‼」
「先生‼」

看護師にたしなめられ、首をすくめた平和。

「すみません。あ、えーと、夏蜜ちゃん。先生は外科の先生なんだ。それにリハビリの勉強もしていてね?だから、頭の怪我とかはしばらく脳外科の先生と連携して様子を見るけれど、主治医として私……先生が見ることになりました。よろしくね?」
「わ、渡邊……えっと、竹原夏蜜たけはらなつみです。よろしくお願いいたします……っ‼」

動いて激痛に言葉を失う夏蜜に、慌てて、

「大丈夫だよ?はい。落ち着いて。無理はダメだよ。先生は夏蜜ちゃんが痛いのは辛いからね?はい。後で診察するつもりで、まずは挨拶に来たんだよ。ごめんね?ビックリさせて。先生はこの体で怖がられたらと思って、前もって挨拶に来たんだ」
「夏蜜ちゃん。このピーちゃんは、実家が家の隣や。立羽たてはがガキ大将で、ピーちゃんはよう泣いて『ばあちゃん‼たっちゃんが‼』って」
「ばあちゃん‼それは、それだけはやめてや‼」
「揚羽が、兄ちゃんっていいよるけん、大丈夫や」

夏蜜は、福実と揚羽と平和を見ると、ニコッと笑う。

「お兄ちゃん先生。夏蜜です。先生嬉しいです」
「良かった。肩が擦れて痛いって言っていたけれど、今から診ておこうか。余り痛みが続くと赤くなるかもしれないからね。で、後で、別の部分と、昨日の診断を確認したいからね?もう一回来るね?」
「はい」



診て貰うと、

「この包帯の巻き方は、怪我の為とは思うけれど、肌には良くない。圧迫して痛みとかゆみを起こす。包帯を変えて。巻き方を変える」

平和が指示し、手渡された包帯で巻き直す。

「これは、いいかい?スポーツ選手や、良く動く小中学生までが、ある程度痛みを押さえつつ動けるようにする巻き方だ。痛がるようなら方法を変えるけれど……夏蜜ちゃん痛くない程度で動けるかな?」

夏蜜は恐る恐る動かすと、

「痛くない……?」
「それは良かった。じゃぁ、これで、まずは朝食をとって、それから後でもう一度診察するからね?」
「はい‼」
「じゃぁね?ばあちゃんと揚羽。夏蜜ちゃんをよろしくね」

平和は看護師たちと出ていった。

「優しいお兄ちゃん先生」
「ピース先輩は、うん。普通にしてたら大丈夫だよ」



揚羽は妙な褒め方をするのだった。

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