県立図書館のお話

ノベルバユーザー173744

夏蜜はうとうととしていますが、気配を感じました。

夏蜜なつみの骨折は一本は右腕の二の腕、ギリギリ肩の骨を砕かずにすんだ。
もう一本は左の肩甲骨、こちらはかなりの重症である。

本来なら仰向けか横向きがいいのだが、怪我が怪我だけに背中に打撲、頭は見えなかったが出血していて、女の子で可哀想だが毛を刈り傷を縫った。

背中の打ち身はかなりひどく、痛みも酷いだろうとの医師の言葉に、助けられなかった申し訳なさと自分のいたらなさに揚羽あげはは腹が立っていた。

運が良かったのは内臓に損傷がないこと。
実は人間の背中は危険なのである。
人間の前半身は腹部は危険ではあるが、胸を覆うのはあばら骨と言う鎧と言ってもいい。
しかし、背中には脊椎せきつい……背骨のみで、背骨に損傷が有ると、神経を圧迫して麻痺が起き事態はもっと悪化していた。
それに内臓にも影響があるのだ。

うつ伏せに寝かせ、ギプスに湿布、頭部の傷をおおったガーゼ、痛み止と眠りを促す睡眠導入の薬の入った点滴のチューブに、頭を打ったと言うことで、何かあってはいけないといくつもの機械に囲まれているのを見ると小さな手をつい握る。



今は診察室で治療を済ませてから出て、一応何か起こってはいけないため個室である。

診察室には書類や診断書を後日書いてもらえるように主治医と話し合いをする黒田、そして待合室ではシスターと紋士郎は夏蜜についての話し合いをしている。
そして、病室に運ばれていく夏蜜を見た立羽たてはは、

「夏蜜ちゃんの今必要なパジャマや下着に、入院グッズを揃えてくるわ‼可愛いものを選んでこなくては‼お母さんも来ると思うから、瑠璃るりをお願いね‼」

と出ていったのだった。



なぜかズキズキとチクチクとうとうとが交じった中で、夏蜜は嫌々と首を振ろうとして、全身を駆け回る痛みにうっすらと目を開けた。

「い、たい……」

小声で訴える少女の声に揚羽の耳に、

渡邊夏蜜わたなべなつみちゃんだね?」

と声が届く。
視線をたどると、ほたる園の高校生のお兄さん達と同じくらいの人……。

「な、夏蜜です。あの……何か……」
「動いちゃいけない。お兄さんは吉岡揚羽よしおかあげは。ここは病院。夏蜜ちゃんは図書館で大ケガをして、入院だよ」
「入院……入院費用‼園長先生に連絡してない‼どうしよう……どうしよう……パパが怒る……ママがいなくなったのは夏蜜のせいだって……また殴られる‼」

やっぱりやってたかと思いつつ、優しく、

「大丈夫。お兄ちゃんが夏蜜ちゃんのお父さんをぶん殴るから」
「でも、パパ、包丁振り回して……」
「大丈夫。夏蜜ちゃんのお父さんとお兄ちゃんは顔見知りで、知ってるから」
「パパの知り合い?」

ますます怯える夏蜜に、穏やかに微笑み、

「お兄ちゃんのお姉ちゃんが、実はね、夏蜜ちゃんのお父さんと結婚しているんだ」
「……‼」

愕然と……呆然と、悲しげに見つめる夏蜜に、言葉を足した。

「実は、お兄ちゃんのお姉ちゃんは夏蜜ちゃんの事を知ってる。そして……」
「会いたくないって……言ったんですよね?」
「違う‼お兄ちゃんのお姉ちゃんは、夏蜜ちゃんを引き取りたいと何度も君のお父さんに頼み、父……お兄ちゃんの両親も、『血は繋がっていなくても孫だ』と賛成していたんだ。お兄ちゃんの事は信じなくていい。ただ、それ以上に信じたらいけないのは夏蜜ちゃんのお父さん……嘘をついていたんだ」
「嘘……」

悲しげな瞳の夏蜜の手を、両手で握りしめる。

「お兄ちゃんにも、お兄ちゃんのお姉ちゃんにもお兄ちゃんの両親にも、こう言っていたんだ。『夏蜜は、前の妻の両親の元で育っています。今度、向こうの養女になるんです。向こうには向こうの生活があります。それを変えたら夏蜜が、向こうの両親が困るでしょう』と……」
「ママは……高校生の時に両親とお兄さんを事故で亡くして……小学校に入る前に乳ガンで……そうしたら……パパに、ほたる園に……」

俯く。

「……夏蜜、どうなるんだろう……。夏蜜、パパと住みたくない……会いたくない……会いたくないよ……嫌い。嫌い……嫌いぃぃ」

うわぁぁん……。

泣きじゃくり始めた夏蜜に、慌てて、

「大丈夫‼お兄ちゃんが絶対に夏蜜ちゃんを守ってあげるから。大丈夫。だから、まずはおやすみ。傍についててあげるからね?」
「本当?本当?」
「本当だよ。おやすみ。痛くないように、看護師さんにお願いするからね?」
「うん、うん……」

ナースコールをして、痛み止を頼み、手を握りしめる。

「おやすみ。夏蜜ちゃん」
「ありがとう……お兄ちゃん……ありがとう……お兄ちゃんの手温かい……ぬくぬく……」

ちなみに顔も床に強く打っており、鼻骨も骨折しており、ギプスもはめている。
鼻声ながら、呟く少女に、

「夏蜜ちゃんの手は柔らかいね」

と痛くない程度に握りしめたのだった。

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